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NHKネット業務に関する自民党提案の「本当の意味」

NHKの利権拡大の動きが逆にNHKの利権を瓦解に追い込むのか――。以前からしばしば取り上げている「NHKネット視聴」に関し、産経ニュースが22日、自民党の提言案について報じています。これについてはネット上で自民党に対する批判も出ているのですが、これには若干の誤解があります。むしろ、NHK受信料の性格を変える可能性を通じ、NHK利権を瓦解させる可能性があるのです。

自民党もNHKネット業務で提言

産経ニュースに22日、こんな記事が出ていました。

NHKネット視聴に負担を 放送法改正で本来業務に 自民提言案

―――2023/8/22 17:52付 産経ニュースより

産経によると、スマホの普及などを踏まえた公共放送の在り方に関する自民党の提言の全容が22日、明らかになったのだそうです。具体的には、ネット配信をNHKの「本来業務」とするよう法改正したうえで、「テレビがなくてもスマホで視聴したい人」から「受信料に相当する費用負担を求めるべき」、としています。

記事ではまた、NHKのネット配信を巡っては、総務省の有識者会議が「同時・見逃し配信」を放送と同じ本来業務とする方向で大筋一致した、などとも記載されており、いわば、自民党としての提言は「これを追認する形」だとしています。

これはあくまで「スマホでNHKを見る」という話

これに関しては、「X(旧・ツイッター)」上では批判が相次いでいるようです。

「自民党がついにNHKの軍門に下った」、といった批判に加え、自民党を「エッフェル党(※)」と呼び、口汚く罵るようなツイートも見受けられるのです。

(※「エッフェル党」とはパリのエッフェル塔【英】 la tour Eiffel と、エッフェル塔前で妙なポーズを取った自民党議員を掛け合わせた揶揄表現のことでしょう。)

【参考】エッフェル塔前で妙なポーズを取っている自民党議員ら

ただ、これに関しては少々待っていただきたいと思います。

当ウェブサイトを以前からご愛読いただいている皆さまであれば、先月の『NHKネット進出が受信料利権崩壊の引き金になる理由』でも指摘したとおり、これはあくまでも「スマホでNHKを見たい」という人の話です。

NHKのネット進出が議論されています。想像するに、NHKは将来的に、放送とネットの同時配信を実現させるなど、放送とネットを融合し、総合的なコンテンツビジネスを展開しようと考えているのかもしれません。ただ、この議論を発展させていくと、NHK自身を崩壊させることにつながりかねません。NHKや総務官僚らは、これまで受信料制度を「公共放送を支える特殊な負担金だ」と騙って来たからです。NHKがコンテンツビジネスを展開すれば、受信料が放送の対価であると認めることを避けて通れないでしょう。NHK受信料NH...
NHKネット進出が受信料利権崩壊の引き金になる理由 - 新宿会計士の政治経済評論

NHKの契約締結義務に関しては、基本的に次の4種類のパターンがあるはずです。

  • ①NHKが映る設備を設置した・NHKの番組を視聴したい
  • ②NHKが映る設備を設置した・NHKの番組を視聴したくない
  • ③NHKが映る設備を設置せず・NHKの番組を視聴したい
  • ④NHKが映る設備を設置せず・NHKの番組を視聴したくない

現在の受信料問題の源泉は②の類型から生じる

現在、NHKの受信料を支払わなければならない人は、上記①と②です。

想像するに、NHK問題の不満の99%は、上記②のパターンに起因します。NHKが映る設備を設置したら、NHKの番組を視聴しているかどうかとは無関係に、NHKに対し「受信料」という名目の、事実上の税金を支払わなければならないからです。

もちろん、世の中には奇特な人もいますので、「NHKに高額の上納金を払いたくてたまらない」という人は、そのようにすればよいでしょう。ただ、さすがに「NHKの番組を視聴していないのに受信料を払え」というロジックは、経済合理性に照らして、さすがに無理があります。

日本ではすでに裁判所の判例等で、この「NHKに上納金を支払わなければならない」という仕組みが無理やり正当化されていますが、NHKが1兆円を超える金融資産を蓄え込み、職員1人あたり1550万円を超える非常識に高額な人件費を計上していることは、どう考えても正当化できるものではありません。

ただ、NHKや総務省は、これについて、「受信料は放送の対価ではなく、NHKを支えるための特殊な負担金」、などと騙っています。

だからこそ、②の類型に当てはまっている人も、本人の意思に反して無理やり受信料を払わなければならないこととされているのです。

NHK受信料は事実上のコンテンツの対価

ただ、それでもNHK受信料は実質的に見て、「NHKの番組の対価である」と考えた方が自然です。現実にNHKが受信料で番組を作っているからです。

この「NHK受信料は番組の対価である」とする考え方からすれば、上記③の類型――、すなわち「テレビなどを持っているわけではないけれども、是非ともNHKの番組を視聴したい」という人――にとっては、NHKの番組を視聴することを認める代わりにその対価の負担を求める、というのはごく自然な発想です。

今回の自民党の提言は、まさにこの③の類型の人を相手にしたものです(なお、現状では「ネットがつながればNHK受信料」という、④のような考え方ではないようです)。

そして、このことは、NHKの「特殊な負担金」理論に、じつは大きな穴を開けることにもつながります。

NHKと総務省が上記②の類型の人に対し、受信料負担を強要する根拠(あるいは放送法第64条第1項を正当化する根拠)は、あくまでも受信料が「放送の対価」ではなく、「特殊な負担金」だからである、という点にあるからです。

このロジック通りなら、③の類型の人からカネを取ることはできません。

なぜなら、スマートフォンなどでNHKの番組を視聴している人は、あくまでもネットというインフラを使用しているだけであり、放送インフラそのものを使用していないからです。

だからこそ、③の類型の人からカネを取るためには「NHKが製作したコンテンツの対価」という名目が必要であり、いちどそのような類型のフィーが創設されてしまうと、今度は「番組の対価でもないくせにカネを徴収する」という受信料の矛盾が浮き上がってきてしまうのです。

利権の3大法則と受信料

これは非常に悩ましいところでしょう。当ウェブサイトで常々指摘している、「利権の3大法則」の論点とつながって来るからです。

この「利権の3大法則」とは、「①利権というものは、得てして理不尽なものであり、②それを外から壊すのが難しい」、という特徴があるものの、その利権が「おいしすぎる」と、「③いずれ利権を保有している者の怠惰や強欲が行き過ぎることで、あっけなく崩壊する」、というものです。

  • 利権の第1法則…利権とは、得てして理不尽なものである。
  • 利権の第2法則…利権とは、外から壊すのが難しいものである。
  • 利権の第3法則…利権は保有者の怠惰や強欲で自壊する。

NHKの受信料制度がこの第1法則、第2法則の特徴をいずれも満たしていることは明らかですが、案外見落とされている視点は、第3法則でしょう。NHKや総務省が受信料制度の拡大を狙えば、それだけ既存の受信料制度の、粗雑なガラス細工のような脆さが浮き彫りになっていくからです。

いわば、「NHKがぶっ壊れる」、といったところでしょうか。

今回の自民党の提言が、NHKの「特殊負担金理論」の矛盾を浮き彫りにすることを狙ったものであるとすれば、自民党もなかなかに狡猾です(もっとも、自民党内にそこまでの深い考えはなさそうですが…)。

いずれにせよ、今回の「スマホ受信料制度」が長い目で見てNHKの利権拡大につながるかどうかは微妙でしょう。

新宿会計士:

View Comments (37)

  • 専売公社が民営化になり各所の敷地が売却された。郵便局も民営化されむかしの親方日の丸は潰えたか。国鉄はJRと改称され4分割だっけな、民営化された。NTTも民営化され、厳しい運営を強いられている。で、NHKはいつ民営化されるのよ。過日オレはやくざのみかじめ料とかわらない税金だ!と書き込んだが、立花孝志のN党には見事に裏切られた。投票はしなかったけどな。だけど現状NHKへの国民の不満は充分伝わった。NHK解体は是非実行してもらいたい

  • >(なお、現状では「ネットがつながればNHK受信料」という、④のような考え方ではないようです)。

    そうだろうとは思いましたが、「NHKのアプリをインストール可能なスマホ・PC等の情報機器を設置した者は、特殊負担金を上納せねばならない。」という話でないという確信が持ててません。

    • そんな事したら、通信の自由の原則・言論表現の自由の侵犯になって、大問題になります。それこそ、外国からNHKによる通信独裁国家と言われます。さらに、日本から外国人が居なくなります。彼らは、自分の納得しないものには金払わないでしょう。
      日本は、情報鎖国にされてしまいます。(自分でするんじゃなくて、されちゃうんです。謂わゆる、居ないものとされちゃうんです。)
      世界に赤っ恥です。

      スマホもPCも、電波受信器ではなく、通信機器なんです。通信機器に見たくも無いコンテンツが視聴可能だからと、無条件に課金したらどうなりますか?
      通信の自由及び、言論表現の自由の侵害の可能性がありませんか?
      そもそも、ワンセグ受信の裁判でも、弁護士が明晰な人物なら負けるものでは無かったはずです。

      • 対韓譲歩の事例を見れば分かる通り、現政権は合理的な判断に基づき意思決定を行っておりません。
        スマホ所持で受信料徴収もあり得ると思います。

    • NHKはもっと上を目指していて、上記どちらでもなく、

      「(放送受信設備の有無とか、ネット接続の有無とかに関係なく)全世帯から特殊負担金を徴収する。」

      という考えがあるみたいですねぇ。

      スターリンクとか直接契約されたら、外国のプロバイダーに契約者情報を提供させねばならなくなって都合悪いので、その様な面倒がない徴収方式を選ぶのでは?

      スマホだって、IP電話でしか通話しないのなら、SIM無し利用(スターリンクとWi-Fi)が可能だから、国内の通信事業者との契約は必須ではない。

      • NHKが何を目指していようが、放送と通信は歴然として違う分野です。

        Hは何んの略?

        なんにせよ、NHKが何を言おうが、国にとっても国民にとってももやは全く必要のない存在が何を企もうが、全く無駄だということです。
        もがけばもがく程、自分の存在がこの世界では全く不要なものだと証明するだけです。
        これが、アメリカのように金儲けを狙う弁護士がウヨウヨいれば、今のNHKがやろうとしていることなんて、格好のターゲットです。
        一兆円位の賠償金をとって終わり。NHKは分割して売却されて、その売却額で賠償金を払うことになるでしょう。
        誰に払うか?それは、原告団に加わった人達に対してです。
        しかも、勝てると踏んだ訴訟には、原告になっても負担なし、です。

        • NHK = 「日本包装協会」の略ですね。 
          真相をオブラートに包むのが生業です。

          • うまいですね~。
            そして、その包装が破れつつあり、正業が危うくなりつつある、という状況ですね。
            それで、悪足搔きしている。

          • イヤイヤ、こうじゃ!
            NHK=【日本破壊狂教団】
            の略ジャロ!

            日本を破壊しようとする連中に、与しているから

        • ちょっくら放送法を読んできました。
          第2条 この法律及びこの法律に基づく命令の規定の解釈に関しては、次の定義に従うものとする。
          一 「放送」とは、公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。)の送信(他人の電気通信設備(同条第2号に規定する電気通信設備をいう。以下同じ。)を用いて行われるものを含む。)をいう。
          電気通信事業法
          第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
          一 電気通信 有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう。
          つまり放送は通信である。

          • この辺りが、面白い所です。こういうことがあるから、やり手弁護士の出番が必要なのですね。
            ここで、深く突っ込むつもりはありませんが、こういう時は、文章の読み方の「視点の持ち方の経験」が出てきます。
            これ以上は、書きません。
            取り合えず、引用された文章をよく読んでみてください、何回も。
            一つヒントは、放送とは、英語で何と言いますか?
            しかも、漢字も良く見てみれば、答えが出ていますよね。

  • よし増税だ。
    これがお役人で有り岸田の考え。
    繋がれば全て払え。
    となることを考えているのは明らか。
    岸田のうちにやってしまえ。とどの役人も思っているはず。
    それにしても野党はだらしない。NHK受信料について発信が何も無い。
    守られている内は何も言えないか。

  • はたしてそうでしょうか?
    NHKは
    テレビは特殊な負担金
    ネットは視聴の対価
    と論理的におかしくても、平然と二本立てでゴリゴリ押し押しすると思います。
    国民の力でこやつらを潰すしかありませんね。
    まずはエッフェル党から始めよ?(著作権無断使用ならゴメンナサイ)

  •  スマホメーカーさんへ。
     NHKが「スマホへの」放送を本来業務としたいそうです。今度から発売するスマホを、スマホではなくインテリジェントホンとかマルチファンクショナルホンとかの名前で別のものですよと言って売れば、市場独占できますよ。
     もしこれで大成功したあかつきには、その機種に農産物の広告を強制表示してください。

  • 綱紀グズグズ、正義の戦士ユルパンマン
    仏頂面で台本ボー読みして曰く

    少子化の最も有効な対策は
    国民を恒常的に貧窮状態に置くことであ~る
    オペラ鑑賞したりディズニーランドで遊興する余裕がある者は
    満ち足りた生活を満喫してしまい
    子育てなど考えないのであ~る
    唯一の楽しみがセ〇〇〇しかないように国家が援助してやれば
    ごく自然に子だくさんの状況が齎されるのであ~る
    従って政府としてはあらゆる機会を通じて
    国民負担を増大させるべきなのであ~る

  • NHKがネット事業はじめて儲かったら受信料低減、ってなら100兆歩譲って分からなくもないような雰囲気が漂う感じっぽい可能性が微レ存ですが

    受信料を原資にして商売して儲かったら自分たちのものってあり得ないですね
    アマゾンプライムにNHKの有料コンテンツがある時点でムカつきます

    NHKはテレビから出て来るな

  • >ネット配信をNHKの「本来業務」とするよう法改正したうえで、「テレビがなくてもスマホで視聴したい人」から「受信料に相当する費用負担を求めるべき」

    → これからテレビを見ない・設置しない人が増えることを見込んで、今や必ず国民が持っているスマホからメシの種を確保したいという、焦りにも似た打算が伺えます。でも必ず国会で通ると思います。(NHKさん、ご安心ください。)

    財務官僚がNHKの会長に天下りましたね。官、政に、常に美味しいエサを与えることを忘れないNHKは、手慣れたものですね。それと立花のサル芝居。NHKとグルになっているとしか思えない。国から政治資金をもらえるようになった立花は、さぞNHKに感謝しているでしょう。バカな有権者がいる限り、立花はこのパフォーマンスを続けるでしょう。もちろんNHKを潰すはずがない。

    >利権の第3法則…利権は保有者の怠惰や強欲で自壊する。
    → そうなんでしょうが、地球滅亡の三日前に世界が平和になる・・と似た感じが・・。

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