自民党の「大物(?)前職議員」の長男である河村建一氏が東京6区で維新から出馬することに関連し、FNNプライムオンラインに「自民党の漂流族」を維新が狙っている、などとする記事が掲載されていました。河村氏自身が次回選挙で当選できるのかどうかは微妙ですが、ただ、「漂流族」というネーミング自体は興味深いところです。
目次
維新旋風でも自民が政権を失う可能性は低い
先日の『数字で予測する衆院選:大量移籍で維新躍進が可能に?』などを含め、当ウェブサイトではこれまで何度となく報告してきたとおり、早ければ次回衆院選で、立憲民主党と日本維新の会の勢力が逆転する可能性が出てきました。
これまで当ウェブサイトでは、特定の政党が票を失い、他の政党に票が移っていた場合、選挙結果がどう変わったか、に関するシミュレーションを実施してきました。そのなかで、「維新が前回並みの立候補者数だったとして、最大野党になるためには、自民、立民両党からそれぞれ何票ずつ取って来なければならないか」を計算すると、その答えは2~3万票という、やや非現実的にも見える数値が出てきます。ただ、維新躍進のためにもう少し手っ取り早いアプローチもあります。それが立憲民主党の現職議員や候補者の3分の1程度が維新に移籍... 数字で予測する衆院選:大量移籍で維新躍進が可能に? - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、「そんなシナリオは非現実的だ」、「前回の惜敗率で見て、維新は多くの選挙区で、まったく当選圏内に入っていない」、などと指摘する人もいますが、それはまったくそのとおりです。
そもそも、日本の衆議院議員総選挙では、小選挙区と比例代表の並立制を採用しており、とくに小選挙区に多くの議席が配分されているため、死票が大変多くなるという性質があるからです(比例代表には、死票があまりに多く出過ぎるという小選挙区の弊害を部分的に緩和する効果はありますが…)。
そして、小選挙区では「地盤」がものをいいます。候補者にとっては、世間で自身の所属政党に対する逆風が吹いたとしても、自身がその選挙区でしっかり支持を固めてさえいれば、当選する可能性が高いのです。
よって、多少「維新旋風」が吹いたとしても、現状で考えて自民党が政権を失うまでに惨敗を喫する可能性は高くありません。現実的なシナリオで考えれば、「維新と立民の逆転が生じるかどうか」、といったところが関の山でしょう。
過去2回の例外の特徴は「無党派1000万票」
もっとも、過去には「大きな風」によって圧勝したという事例が2回ほどあります。それが、2005年の「郵政解散」と、2009年の「政権交代」です。ここで2005年以降、過去6回分の総選挙に関し、自民党の小選挙区での得票数と獲得議席数を確認しておきましょう(図表1)。
図表1 自民党の小選挙区での得票数と獲得議席数
実施年 | 小選挙区の得票 | 小選挙区の議席 |
2005年 | 68,066,292票中32,518,390票(47.77%) | 300議席中219議席(73.00%) |
2009年 | 70,581,680票中27,301,982票(38.68%) | 300議席中64議席(21.33%) |
2012年 | 59,626,568票中25,643,309票(43.01%) | 300議席中237議席(79.00%) |
2014年 | 52,939,790票中25,461,449票(48.10%) | 295議席中222議席(75.25%) |
2017年 | 55,422,193票中26,500,777票(47.82%) | 289議席中215議席(74.39%) |
2021年 | 57,457,033票中27,626,235票(48.08%) | 289議席中187議席(64.71%) |
(【出所】総務省が公表する過去の選挙データなどをもとに著者作成)
2005年に関しては郵政解散で自民が圧勝し、2009年に関しては逆に自民党が惨敗し、民主党が圧勝して政権交代が発生しました。これは、無党派が1000万票ほど、全体の票数を押し上げたことにあります。
自民党の得票数は大して変わっていない
2005年に関しては自民党が小選挙区で得た票数は全体の47.77%に過ぎず、それでも全300議席中219議席(つまり全体の73%)を占めました。一方、2009年に関しては自民党は全他の4割弱に当たる2730万票を獲得したのに、得た議席は64議席(つまり全体の20%少々)に留まったのです。
ただし、自民党が得ている「票数」に注目すると、見え方が変わってきます。「小泉郵政解散」で自民党が圧勝した2005年の3252万票を例外として、どの選挙でも自民党が得ている票数は2500~2700万票台で、あまり変化がありません。
2005年と2009年において、明確に異なっているのは、「投票総数」でしょう。2005年以降の選挙に限定していえば、投票総数は05年と09年を除き、いずれも6000万票を割り込んでいます。
衆院選・小選挙区における総票数
- 2005年…68,066,292票
- 2009年…70,581,680票
- 2012年…59,626,568票
- 2014年…52,939,790票
- 2017年…55,422,193票
- 2021年…57,457,033票
(【出所】総務省が公表する過去の選挙データなどをもとに著者作成)
2005年は「郵政解散」、2009年は「政権交代」、などと大手メディアが華々しく銘打ったためでしょうか、投票総数が水膨れしていることがうかがえます。普段、滅多に選挙に行かないような人たちが1000万人ほど選挙に出かければ、その1000万人が選挙結果を変えてしまう、というわけです。
たとえば①日本維新の会に追い風が吹き、②その維新が全国で十分な数の候補を立て、③2012年以降の4回の衆院選で投票に参加しなかったような人たちが1000万人ほど出現して一斉に維新候補者に票を投じる――といった事態が生じれば、一挙に政権交代が実現してしまうかもしれません。
むしろ「ボーダー」が維新にとっては狙い目
さて、こうした「維新圧勝・政権交代」などのシナリオが実現する可能性については、個人的にはさほど高くないと考えています。
もちろん、「岩盤保守層」を中心に、現在の岸田文雄首相に対する不満が高まっていることは間違いないのですが、そうした「岩盤保守層の不満」が無党派層1000万人を突き動かす、などと考えるのは、少し議論が飛躍し過ぎているともいえます。
ただし、現実的にあり得るシナリオのひとつが、自民、立民の「ボーダー選挙区」において維新が積極的に候補者を立てる、あるいは自民や立民の候補者が維新に「大量移籍」する、といったものであり、この場合、前回は「ボーダー」で落選した候補者が、「維新効果」で当選する、という可能性が考えられます。
現実に2021年の小選挙区において、2位以下の候補者との得票差が2万票未満で辛うじて当選できた議員は、自民党が58人、立憲民主党が41人であり、逆に2万票以内の差で落選した候補者は、自民党が53人、立憲民主党が57人でした(図表2)。
図表2 ボーダー選挙区
政党 | 2万票差で勝利 | 2万票差で敗北 | 合計 |
自民党 | 58人 | 53人 | 111人 |
立憲民主党 | 41人 | 57人 | 98人 |
合計 | 99人 | 110人 | ― |
(【出所】総務省『令和3年10月31日執行 衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』をもとに著者作成)
このボーダー選挙区に「刺客」として維新が候補者を立てる、あるいは「前回は自民/立民に所属して選挙に負けた」という候補者が維新に移籍する、といったかたちで、100前後の小選挙区で維新が「挑戦する」ということは、十分にあり得るものだ――。
FNN「自民漂流族に狙い」
こんなことを当ウェブサイトで以前から予言していたところ、ちょうどFNNプライムオンラインに興味深い記事が出ていました。
維新が食う自民党の“漂流族” 河村建夫元官房長官の長男を衆院選で擁立へ 地盤失い“異例の出馬”
―――2023年7月19日 17:30付 FNNプライムオンラインより
「自民の漂流族」とは、なかなかに面白いネーミングです。
FNNが取り上げているのは、例の河村建夫氏の長男・建一氏の話題です。これについては当ウェブサイトでも『維新躍進の一方、玉木代表は「LGBTで保守層離れ」』あたりをふくめ、しばしば取り上げてきたとおり、「維新の人材公募」のひとつの事例でもあります。
政党支持率で維新・立民の逆転現象が定着する傾向を見せています。こうしたなか、国民民主党の玉木雄一郎代表は18日、岸田文雄内閣や自民党の支持率低迷の背景について、「LGBT法の影響でいわゆる『岩盤保守層』が離れた」という可能性に言及しました。これは新鮮な、しかし重要な指摘です。なぜなら主要政党幹部や主要メディアは、「LGBT/韓国/増税」の「3点セット」にほとんど言及してこなかったからです。岸田内閣「3点セット」最近の内閣支持率の低迷については、「メディアによる世論調査自体が不正確である」とする... 維新躍進の一方、玉木代表は「LGBTで保守層離れ」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
正直、河村建一氏が政治家として何を訴えかけているのか、いまひとつ見えない点ではありますが、FNNの報道によれば、河村氏を含め、自民党は「現職議員が多いゆえに空白の選挙区も少ない」ため、自民党から出馬できないという、いわゆる「漂流族」がたくさんいるというのです。
河村氏が東京6区で出馬するに至った経緯についてはリンク先記事に書かれているとおりですが、その東京6区は、前回の選挙では立憲民主党候補者が110,169票で、自民党候補者の105,186票に対し、わずか4,983票で辛勝したという、典型的な「ボーダー選挙区」です。
ちなみに同じ6区では維新の候補も出馬していたのですが、59,490票しか獲得できずに敗退しています。
ここに「自民党大物(?)前職」の長男が「落下傘」的に維新から出馬して、前回の維新の59,490票からどれだけ積み増せるのか(あるいは減らすのか)は今ひとつ見えてきませんが、それでもFNNが指摘する通り、「次の衆院選では、大きな注目を浴びる選挙区となる」可能性は十分にあります。
ただ、個人的には、老婆心ながら、維新にとっては「自民党から出馬できない人」ではなく、やはり「立憲民主党所属で前回、ボーダーで涙を呑んだ人」を中心にヘッド・ハンティングする方が効率的ではないか、という気もするのですが、このあたりについても状況を見守る価値はありそうです。
View Comments (13)
維新が第一野党になる確率の方がもはや、自民が票数を増やす確率より高そうですな
安倍さんがいない今、自民に入れる理由はない
自民は干上がらせた方が、高市さんや小野田さんの登板に繋がるだろうね
改憲・安保容認だった希望の党から、相反する立憲に落ち着いた「節操のない漂流族」の30名ほども狙い目ですね。
維新には政権交代や野党第一党としての期待はないですが、大阪、兵庫、あわよくば東京で公明党の議席を奪って、自公連立を根底から揺さぶり、あわよくば崩壊させるような影響力を期待してます。
自公が割れたら、国交利権でスキャンダル出てこないかな
>「立憲民主党所属で前回、ボーダーで涙を呑んだ人」を中心にヘッド・ハンティング
あの有名な標語もありますし,これは痛し痒しかなあと・・・
「立憲民主党所属で前回、ボーダーで涙を呑んだ人を日本維新の会に鞍替えして立候補させる」。なるほど、前回落ちた」という意味では、「あ〜アノ人ネ!」と多少なりともネームバリューはあるでしょう。
しかし、河村健一氏は無理(爆笑)。2回も自民党比例区から立候補して落ちてるもん(^^)。もう一度言います。比例区ですよ!(爆笑)つまり、親の因果が〜というヤツです。自民党出身でも立憲民主党でもいいが、「身辺がクリーンで行儀の良い人」を立候補者にして欲しいですね。そんなんおらん?
自民党はもう終わりだわ
昨日のBSプライムニュース、小野寺さんが出演されてました。
台湾有事における日本の対応を検討したシミュレーションについて語っていました。
自民党議員の過半数が小野寺さんのような品格知性を備えた方々であればいいのに…。と無い物ねだりを考えてしまいました。
光陰矢のごとし、です。小野寺さん老いて気力体力が衰えない内に要職に就いていただきたいです。
維新さんね…
党創設期と同じくあまりに玉石混淆なんだもん…
自民党川村氏の2回選挙落ちた息子とか…
今年に入ってからも「日本は犬肉喰うな!」一人デモをやってた御仁もいましたし。
私は自民党のトップでもある内閣総理大臣をすげ替える事が出来るのは自民党でしかないと思ってますし、一票しか投票権無いからその時々の雰囲気で無駄にしたくないとしか…
コイツは嫌! って投票なら新興政党や既存野党にも興味無いわけではないんですけどね。
橋下氏や鈴木氏の言う通りにしてたら、今頃ウクライナにはロシア傀儡政権があり製鉄・IT産業(ウクライナはあの地域有数の先進技術を持っていた)を掌握したロシアが更に西侵考えて準備中だし、我が意を得たりで中華人民共和国が台湾侵攻していて日本も戦争に巻き込まれていたかも。
目先のとりあえず謝っちゃお土下座は死者増やすんじゃないかな?
根本的な部分で賛同しかねる。
沖縄県知事が北京行っただけで中華人民共和国があそこまで吹き上がって琉球琉球言い出してるのを見ると、一言や一動作が後世に禍根を残す弊害の怖さみにしみます。
嗚呼せめて一度でも「この人なら!」に投票したい神奈川県民でした。
なんかこのテーマが気になって色んなサイト見てきました。
理由も解決策も書かずコメントが
「もう自民党には投票しない」
「維新一択」
のコピペだらけでした。
これ昔経験したことあるわ…
悪夢の社民党政権・民主党政権のデジャブだわ。
社会現象の踊狂運動
私は岸田政権が嫌いです。
ですが全く得体の知れないやたら立候補者水増しの群れに国政やって欲しいとは思えません。
先ず経済がまたぶっ壊れます。
経済には経験と長期展望が不可欠です。
思いつきやカジノでどうにかなるもんでなし、カジノと観光立国の祖国なんてまっぴらです。
岸田氏にNO=他の党にやらせてみよう♪ ではありませんからね。
学習しましょう。
自民党内で変な動きは破壊するべきです。
時間の猶予が必要なら菅義偉→高市かな?
まぁ鉄板の自民党支持者ではないのですがリアリストなもんで。
夢想やなんかで経済を支配する政治やられてたまるか! です。
知らないばかより手の内わかるばかです。
そうやって自民の議席を伸ばした結果が現総裁の増長なんで、今回は自民に入れないでいいかなーと思います。むしろ少し反省して
維新、河村2世、NO!なら評価上がったかも。各地の地方議員が起こすトラブルが低レベルなのも、どういう基準で公認しているのやら?それよりも、こんな人材しか選挙に出ないなんて、維新の問題以上に、日本人が劣化しているのか?心配の種は尽きず!