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ICC逮捕状のプーチン、BRICSサミットから逃亡

やっぱり逃げたようです。国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪容疑で逮捕状を発行されているロシア大統領のウラジミル・プーチンが、8月に南アフリカで開催されるBRICSサミットに参加しないことで「双方が合意した(と南アフリカ大統領府が発表した)」、などとする報道が出ています。南アフリカはICC加盟国ですので、法的にはプーチンが一歩、自国に足を踏み入れた瞬間、逮捕する義務がありました。この面倒を、双方は避けたようですが…。

プーチンは戦争犯罪容疑者

以前の『プーチン逮捕問題、来月のBRICS会合で再び浮上か』では、ロシアの大統領でもあるウラジミル・プーチンを巡って、南アフリカで逮捕される可能性がある、とする話題を取り上げました。

ウラジミル・プーチンは南アフリカで逮捕されるのか――。来月、「BRICS」サミットが南アフリカで開かれるそうですが、その南アフリカは国際刑事裁判所(ICC)加盟国でもあります。そうなると、プーチンが南アフリカに入国した瞬間、逮捕されるのか、という話題も出ているようですが、これに関し同国のラマポーザ大統領は明言を避けたようです。はたしていつまで逃げ切れるのでしょうか。ICCとウラジミル・プーチンウクライナ戦争は、無法な外国侵略を禁じた国際法に抵触するという意味で、ロシアによる壮大な国際法違反とい...
プーチン逮捕問題、来月のBRICS会合で再び浮上か - 新宿会計士の政治経済評論

じつは、国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、プーチンに対する逮捕状を発行したのです。

Situation in Ukraine: ICC judges issue arrest warrants against Vladimir Vladimirovich Putin and Maria Alekseyevna Lvova-Belova

―――2023/03/17付 ICCウェブサイトより

ICCによると、プーチンはウクライナの占領地域から児童をロシア国内に不法に連行したなどとして、「ローマ規程」第8条第2項第a号(vii)、第b号(viii)違反などが問われています。

南アフリカはICC加盟国

こうしたなか、今年8月には南アフリカで「BRICSサミット」が開催される予定ですが、しかし、それと同時に南アフリカはICC加盟国でもあります(図表)。

図表 ICC加盟国

(【出所】ICCウェブサイト “Current under- and non-represented countries” )

外務省『国際刑事裁判所(ICC)』によるとICC参加国は2023年4月時点で123ヵ国であり、米国、中国、ロシア、インドなどは含まれていませんが、ブラジルと南アフリカはしっかりと含まれています。

したがって、「法的には」、プーチンが一歩、南アフリカの領土に足を踏み入れた瞬間、南アフリカ当局はプーチンの身柄を拘束し、ICCに送致する義務があるはずです(実際に南アフリカ当局がそれをやるかどうかは別として)。

したがって、プーチンとしては、南アフリカを信頼して覚悟を決めてBRICSサミットに参加するか、それとも逮捕のリスクを徹底して避けるために、BRICSサミットへの参加を見送るか、そのどちらを選ぶのかが気になるところだ――、というのが先日の議論でした。

「双方の合意により」プーチンは不参加

これに、「続報」が出て来たようです。

複数のメディアの報道によると、結局、プーチンはBRICSサミットへの参加を見送ることにしたそうです。

Putin will not attend BRICS summit in South Africa, as ICC arrest warrant overshadows key talks

―――2023/07/19 10:59付 CNNより

Putin to miss BRICS summit by mutual agreement, South Africa says

―――2023/07/19付 ALJAZEERAより

これらのメディアの報道によれば、南アフリカ大統領府は「双方の合意により」プーチンが今回の会合に出席せず、代わりにセルゲイ・ラブロフ外相が訪問するのだそうです。また、ハイレベル協議にはプーチンはモスクワから遠隔で参加する、などともしています。

なかなかに、興味深い話です。

今後、プーチンが訪問できる外国は、ロシアの友好国であるだけでなく、「ICCに加盟していない」などの条件を満たしていなければならなくなるのかもしれません。そんな国、かなり限られてきます。

ICC容疑者が堂々と中国を訪問した事例もある

なお、そんなプーチンであっても、中国ならば、問題なく訪問することが可能かもしれません。

中国は2015年9月、天安門広場で「抗日戦勝利70周年記念式典」を開催したのですが、その当時、ICCから逮捕状が発行されていた、当時のスーダンのオマル・アル=バシール大統領(※2019年4月にクーデターで失脚)らも堂々と天安門に登ってパレードを観覧しました。

ちなみにこの「天安門パレード」にはプーチンに加え、当時のカザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領(2019年3月に退任)、ウズベキスタンのイスラム・カリモフ大統領(2016年9月死去)、さらには朴槿恵(ぼく・きんけい)韓国大統領や潘基文(はん・きぶん)国連事務総長も参加しました。

とくに潘基文氏に関しては、国連事務総長としての地位にありながら、ICCから逮捕状が発行されている「容疑者」と同席したことは、国連の権威を失墜させる軽率な行為でもありました。

また、朴槿恵氏に関しては、米国の同盟国でありながら、西側諸国の首脳として唯一、この天安門式典に参加したこと、中国が主導する国際開発銀行である「AIIB」に参加を決めたことなどに関し、米国から強い不興を買った人物でもあります。

いずれにせよ、この「抗日戦勝利70周年記念式典」自体は、「中国ならばICCから逮捕状を請求されていても問題なく訪問できる」という事実を示したという点において、重要な式典だったといえるのかもしれません。

ツッコミどころ満載のコメント

なお、この件に関して、少しだけ補足です。以前の記事に、こんな趣旨の読者コメントがついていました。

会計士さん、ちゃんと情報をチェックされていますか(大本営発表ではなく)。

BRICSのうち、中国とインドはロシアと蜜月関係にあります。

ブラジルは、先のG7でゼレンスキーに首脳会談をすっぽかされましたし、ブラジルの加盟しているCELAC(ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体)は、今月17日に予定されているEUとの共同会議へのゼレンスキーの参加を拒否しました。

南アフリカは、他のアフリカ6ヵ国と共同でウクライナ紛争の和平仲介を提案しましたが、ウクライナに拒否されています。G20でも、西側諸国は反ロシアですが、BRICSやCELACの加盟国、サウジ、トルコなどは、むしろ親ロシアです。

大本営発表やマスゴミ以外の情報にも耳を傾けてください。

いろいろとツッコミどころがあるコメントです。

当ウェブサイトで、「世界が反ロシアで一枚岩になっている」と記載した記憶はありませんし、インドがロシア制裁に参加していないことなど、当ウェブサイトでもすでに何度も指摘しているとおりです。このコメント、いったい何が言いたいのかよくわかりません。

それに、「大本営発表」「マスゴミ」とは、いったい何なのでしょうか?

当ウェブサイトでは(本稿も含め)西側諸国のメディアの報道を引用することもありますが、それ以外にも可能な限り一次ソースを参照することにしており、また、メディアにしてもできるだけ多くのもの(たとえばロシアのタス通信や、上記でも引用した『アルジャジーラ』など)を参考にしているつもりです。

ロシアの苦境を議論している際、その根拠としてロシアのメディアの報道を引用していることの、いったいなにが「大本営発表」なのでしょうか?

なんだかよくわかりません。

今回は乗り切れたが…

ただし、今回はBRICS会合の問題を「不参加」で乗り切りましたが、G20議長国は今年12月1日にブラジルに引き継がれ、その翌年は南アフリカです。ブラジルも南アフリカもICC加盟国です。そして、いずれ再び英国や米国、日本といった西側諸国でも開かれるでしょう。

このように考えていくと、いつまでもプーチンが逃げ続けられるかは微妙であり、いずれロシアはG20から脱退を余儀なくされるのかもしれません(いや、そのまえにプーチンが失脚するのかもしれませんが)。

また、ウクライナ戦争において、ウクライナの勝利がなかなか見通せないことは事実ですが、それでも占領地からのロシアの全面撤退が必要であることは言うまでもありません。もしもロシアが1ミリでも領土を獲得することがあれば、中国、北朝鮮などほかの3つの無法国家が同じことを始めるかもしれないからです。

その意味で、ロシアによるウクライナ侵略やプーチンの末路などに関しても、客観的に確認できる情報源を中心としつつ、引き続き緊密に追いかけていくべき話題であることは間違いないといえるのです。

新宿会計士:

View Comments (10)

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    中國:「新ICCを設立して、そこに南アフリカも参加してもらおう」
    蛇足ですが、南アフリカもロシア式大統領制にすれば、プーチン大統領も南アフリカに入国できるのでしょうか。(プーチン大統領と習近平国家主席が、南アフリカの名誉大統領になったりして)

  • 国際刑事裁判所(ICC)がこんないいかげんな組織だと知って全く落胆した。イラクを破壊したアメリカのブッシュもと大統領なんか、逮捕状も出てないというのに、片手落ちというか、不平等そのもの。一方、ロシアのウクライナ進行には、それなりの理由が存在してる。

    • そもそも管轄権が及ばないケースについて逮捕状が出るはずもないんですが。

      国際刑事裁判所に関するローマ規程において、ICCが扱うとされる4つのコアクライムの内、侵略犯罪を除いた他の3つについては、犯罪行為地国か被疑者国籍国のどちらか一方が規程当事国である場合、もしくは規程非当事国がICCの管轄権を受諾する旨を宣言した場合、ICCは管轄権を及ぼすことができます。
      ロシア・ウクライナ関係で言えば、ウクライナがICCの管轄権を受諾する旨の宣言を行っているため、ICCの管轄権が及ぶわけです。

      ローマ規程は国際法の大原則である合意原則に囚われない管轄権を認めており、非常に画期的な内容と言えますが、当然その射程にも限界はあって、上で見た通り、犯罪行為地国と被疑者国籍国の双方が規程非当事国の場合、ICCの管轄権は及びません。
      ちなみに、アメリカ・イラクはともに規程非当事国です。

      無くても何ら不思議ではない逮捕状の不存在を理由に、いい加減だの片手落ちだのと非難されては、さすがにICCもやり切れないでしょう。

    •  此処にもロシアンラバーもといスレイブが湧いてくるとは。

       >ロシアのウクライナ進行には、それなりの理由が存在してる

       誤記位ちゃんとチェックしてよ、と突っ込みたくなりますが「それなりの理由」ってなんですか?クリミアだけでは飽き足らずにウクライナ本土への領土的野心を露骨に表し、社会インフラや住宅地への無差別攻撃、占領地での戦争犯罪、果ては穀物を人質にしての要求を受け入れろとの恫喝外交。「それなりの理由」でこんな蛮行が擁護できるとでも?
       ああ、NATO云々と言う誇大妄想は理由にもなりませんので悪しからず。

  • 国際刑事裁判所(ICC)がこんないいかげんな組織だと知って全く落胆した。イラクを破壊したアメリカのブッシュもと大統領なんか、逮捕状も出てないというのに、片手落ちというか、不平等そのもの。一方、ロシアのウクライナ進行には、それなりの理由が存在してる。

  • ロシアと南アフリカの落としどころとしてはこんな所ですかね?
    プーチン逮捕で事態が急変する様な事はなくなったのが、良い事なのか悪い事なのか。

    今のロシア、プーチンを失ったらどうなるんだろう。降伏するのか、内戦に突入するのか、
    ヤケクソになって核を撃ちまくるのか……

    • 「プーチンを失う」一歩手前の「プーチンがいよいよ崖っぷちに立ったら」の方が色々と良くない想像が捗りますね。
      崖っぷちに追い込んでも何かを考えたり苦し紛れに何かを実行する暇を与えないように、瞬時にスパっと刈り取るのが理想ですね。同じことは北の黒電話やキンペーにも言えますが。

  • ICCがどうのこうのと議論する以前に、真面目に国際条約を守る国は少ないという事ですね。国連の事務総長と安保理常任理事国の最高権力者が揃っていながら、指名手配犯と和やかに会談するなど、噴飯ものです。国際条約破りの常習犯で常に日本を挑発している中韓と、何事も無いように話しをする日本の政官財も、似たようなものです。最近でこそ米国のデカップリングで財界は距離を持ち出したけど、いつまた資金や技術を献上しやしないかと心配です。