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韓国KBS受信料「分離徴収」を頑なに報じないNHK

正直、韓国に学ぶことは滅多にあることではないかもしれませんが、こと「公共放送」問題に関していえば、韓国の事例は本当に参考になります。これまで電気代と一括徴収されていたKBSの受信料を、電気代と分離徴収する流れが出て来ているそうですが、これに関して掘り下げていくと、やはり日本のNHKが自由・民主主義の手続から大きく逸脱しているという点に注目せざるを得ないでしょう。

韓国KBSの受信料分離徴収

ウェブ評論サイト『JBプレス』に先日、こんな記事が出ていました。

韓国の公共放送、KBSは生き残れるのか/電気料金と一括徴収していた30年の歴史に幕

―――2023.7.12付 JBプレス

全部で6000文字を超える長文記事で、読みごたえは抜群です。

ウェブページ上だとじつに9ページに分割されており、読み進めていて少々イラっと来る(笑)人も多いかもしれませんが、それでも韓国社会とマスメディア論の双方に関心を持っている人にとってみれば、それなりに興味深く読める記事でしょう。

この点、山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士の場合、正直、韓国社会のことに大した関心はないためでしょうか、この記事について、これまで当ウェブサイトで取り上げることはしませんでした。外国が自分の国の「公共放送」をどう改革しようが、それはその国の勝手だからです。

ただ、本稿では「とある事情」があって、この記事の一部分を抜粋して取り上げておこうと思います。

その「一部分」とは、韓国の公共放送であるKBSの仕組みに関する部分です。

記事によると、KBSは1994年以降、これまで約30年にわたって、受信料を電気料金と一括で徴収していたのだそうですが、これに対し韓国政府は今月11日の国務会議(※閣議に相当)で、受信料の徴収方式を変更するための放送法施行令の改定を決定したのだとか。

公共放送・日韓の大きな違い

このKBSの受信料、「テレビ受信機を持っている場合には、見ようが見まいが支払う必要がある」という意味では、どうやら日本と同様です。

ただ、KBSにはNHKとの違いがいくつかあります。

そのひとつが、今回のテーマでもある徴収方式で、毎月2,500ウォン(1円=9ウォンで換算したら278円ほどでしょうか)が、「これまでは電気料金と一括で徴収」されていたのだそうです(※記事によると、この非常に安い受信料は「1981年にカラーテレビ放送が始まったとき」からそのままなのだとか)。

いずれにせよ、こうした受信料の徴収方式もあり、KBS受信料の徴収率はじつに99.9%に達しているのだそうです(※余談ですが、昨年6月28日付の読売新聞報道によれば、NHK受信料の「支払率」は全国平均が78.9%だったのだそうです)。

しかし、今回の改定に伴い、これまで通りの一括徴収を選ぶこともできるものの、基本的には「KBS受信料相当分を除いた金額を韓国電力に支払えば良い」ということです(※もっとも、アパートなどの管理事務所が管理費として電気代を徴収している場合などのように、現場で混乱も予想されるのだとか)。

普通に考えたら、「見ようが見まいが支払わなければならない」という受信料を、積極的に支払おうとする人が多数派を占めるようには思えません。

ただ、記事を読み進めていくと、どうも事情はそこまで単純ではないようです。

そもそも2022年におけるKBSの総収入は1兆5305億ウォンで、このうち受信料収入は6935億ウォンで45%なのだそうであり、また、一括徴収が終了すれば受信料の徴収コストが増えるため、記事では「経営への打撃は計り知れない」、とは記載されています。

ただ、この時点でNHK問題に詳しい人は、疑問に感じるかもしれません。NHKと比べ、そもそも収入に占める受信料の割合が低いからです。ちなみにNHKの2023年3月期決算における事業収入は6965億円で、このうち6725億円が受信料でした。すなわち、NHKに関しては収入の約97%が受信料です。

記事では、一括徴収方式の終了でKBSの受信料収入は「5分の1になる」との見方が示されていますが、そもそも受信料収入が全体の収入の45%に過ぎないことを考えておくと、受信料収入が激減したとしても、その影響は、NHKと比べて少ないといえそうです。

公共・国営の商業放送

ではなぜ、受信料収入の割合が45%でもやって行けるのか――。

そのヒントが、こんな記述です。

地上波放送としてKBSは、商業広告(コマーシャル)がない『KBS1』とありの『KBS2』を持っている」。

これは、1980年代の初め、当時の全斗煥(ぜん・とかん)政権が強行した「言論統廃合」と関連しています。

当時高視聴率を誇っていた民間放送「東洋放送(TBC)」をサムスングループから取り上げ、KBSに吸収させたものが、現在の「KBS2」なのだそうです。

また、韓国にはKBSとは別に、政府系メディアもあるそうです。それが「MBC」や「YTN」だそうです。

記事によるとMBCはもともと民間放送でしたが、朴正煕(ぼく・せいき)が発足する過程で「没収」され、現在でも韓国政府機関である「韓国文化振興会」が70%、朴正煕が設立した財団を前身とする奨学財団が30%の株式を握るという「不自然な支配構造」が続いている、などとしています。

このように、韓国では「朴正熙、全斗煥という2人の元大統領時代、ずいぶん昔にかなり異例の形で実行した点がそのままになっている」という問題点がある、としていますが、それだけではありません。

YTNは国営ではありませんが、もともとは国策通信社である「聯合ニュース」の放送部門として始まり、その後の経営難を救済するために聯合ニュースから切り離し、当時は公企業だった韓国電力と韓国たばこ人参公社に加え、競馬を運営開催する特殊法人「韓国馬事会」に出資させ、それが「そのまま続いている」そうです。

いまも韓国電力の子会社が21.87%、KT&Gの子会社が19.95%、韓国馬事会が9.52%を出資している。合わせて過半数の株式を3社が握っている」。

非常に興味深い限りです。

韓国にはKBS2、MBC、YTNのように、公共的な放送でありながら、あるいは半ば国営でありながら、商業放送を行っているという事例があるからです。

正直、このKBS問題は、韓国社会に関する事柄のなかで、「本当に参考になる」、「日本人にとって勉強になる」と思える、数少ない事例なのかもしれません。

KBS問題を頑なに取り上げないNHK

さて、以上を踏まえて本稿の「本題」です。

KBS改革に関する話題をNHKが「まったく報じていない」理由に関連し、NHKと比べKBSの受信料が安すぎることに加え、受信料強化を図っているNHKにとっては受信料忌避を助長しかねない問題を報じることに逃げ腰にならざるを得ないことにある、とする指摘が出てきました。

報じたのはウェブ評論サイト『現代ビジネス』です。

韓国KBS「受信料問題」をNHKがまったく報じないの…関係者が語る「驚愕の理由」

―――2023/07/15 09:03付 Yahoo!ニュースより【現代ビジネス配信】

記事によると、KBSの受信料を電気代と分離して徴収するという話題を巡って、韓国社会で連日激論が続いているにも関わらず、「日本ではまったくといって良いほど報じられておらず」、「とりわけNHKの地上ニュースは(この問題を)黙殺している」、としています。

その理由について、「NHK関係者」が「声を潜め」て、次のように話したのだそうです。

じつは上層部からこの問題についての報道を控えるよう、指示が出されているのです。理由は様々に考えられます。もし韓国でKBSの受信料が分離徴収されるようになれば、受信料を払わなくなる視聴者が激増するでしょう。受信料の徴収強化を図っているNHKとしては、受信料忌避を助長しかねないこの問題を報じることに逃げ腰になるのも仕方ありません」。

「さもありなん」、といった感想を持つ人も多いでしょう。

これに加え、先ほども指摘したとおり、KBSの受信料が日本円換算で月額約280円と、NHKの月額1275円と比べて安価であるというのは、そもそもKBSの経営は受信料収入以外にも商業放送の収入で支えられている、といった事情もありそうです。

NHKのダウンサイジングは?

ただ、受信料水準に注目が集まるのは、NHKとしては本意ではないことは間違いないでしょう。

現に韓国KBSは280円の受信料で運営されているのですから、日本でもNHKをダウンサイジングし、部分的に民営化を行ったうえで、韓国KBS1に倣い、「公共放送」機能は必要最小限に抑えることで受信料を現在よりも大幅に抑えるべし、といった議論が出て来る可能性もあるからです。

これについて週刊現代は、「KBSになぜこの問題を報じないのかを問い合わせた」のだそうです(このくだり、文脈に照らすと、「KBSに」ではなく「NHKに」の誤りではないか、という気がします)が、これに対し「広報局」が書面で次のように回答したそうです。

ニュースや番組でお伝えする内容は、自主的な編集判断に基づいて、その都度、総合的に判断しています」。

このあたり、NHKが頑なにKBS受信料問題を報じない理由は、単純にそれにニューズ・バリューがないとNHK自身が判断しているからなのかもしれませんし、週刊現代がいうような「何らかの事情」ががあるからなのかもしれません(後者の可能性の方が高そうですが)。

社会的コンセンサスは取り辛い

ただ、「公共放送」の定義を巡っては、やはり、社会的なコンセンサスは取り辛い部分でしょう。何が「公共性」なのかという範囲は時代とともに変わり得るからです。

この点、NHKに対して寄せられているさまざまな批判に対し、現在のNHKは「我々は公共放送でござい」のヒトコトで済まそうとしているのですが、ここまで社会のネット化が進んでしまったことを踏まえれば、少なくとも「公共放送」のヒトコトで納得する国民が多数を占めるとも思えません。

先日の『ポスト設置しただけで「新聞契約結べ」≒NHK受信料』でも指摘したとおり、現在のNHK受信料制度とは、究極的には「新聞を受け入れることができるポストを設置しただけで強制的に新聞社と購読契約を結ばなければならない」と述べているようなものだからです。

NHKネット事業批判も…どこか歯切れが悪い新聞協会仮に――あくまでも「仮に」、ですが――、あなたのご自宅にポストが設置されていることを理由に、国が法律で「ポストを設置したすべての家庭は少なくとも1社以上の新聞社と購読契約を結ばなければならない」と義務付けたら、どうなるでしょうか?たいていの人は、「ふざけるな」と思うでしょう。現在のNHKがやっているのは、じつはこれとまったく同じことでもあります。こうしたなか、新聞協会がNHKのネット事業に対して牽制したそうですが、やはりどこか歯切れが悪いようで…。...
ポスト設置しただけで「新聞契約結べ」≒NHK受信料 - 新宿会計士の政治経済評論

いずれにせよ、ますます深化するこのネット社会において、NHKの矛盾を巡る議論は、拡大することはあれ、収束することはありません。

1.3兆円もの金融資産を抱え、少なく見積もっても職員ひとりあたり1550万円以上という異常な水準の人件費が計上されているNHK(『カネ持ちNHK、1人あたり人件費は1550万円以上』等参照)は、まさに、その自由・民主主義のルールから著しく逸脱した組織です。

NHKが保有する金融資産の額は1.3兆円を突破。相変わらず、職員1人あたりの人件費水準は1550万円を超過。これがNHKの現状です。果たしてこんな組織、日本に必要なのか――。NHKの経営実態については、なぜか新聞、テレビはほとんど報じませんが、NHKが公表した財務諸表、連結財務諸表などをじっくり読みこんでいけば、いろいろとツッコミどころだらけでもあります。NHKの金融資産の額は1.3兆円を突破NHKは28日までに、『経営に関する情報』のページで、2023年3月期の連結財務諸表・単体財務諸表などを公表しました。...
カネ持ちNHK、1人あたり人件費は1550万円以上 - 新宿会計士の政治経済評論

やはりNHK利権の行く末は「ハードランディング」以外にないように思えるのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • >ニュースや番組でお伝えする内容は、自主的な編集判断に基づいて、その都度、総合的に判断しています

    「ニュースや番組でお伝えする内容は、志位的な編集判断に基づいて、その都度、総合的に判断しています」の間違いじゃないですかね?(´・ω・`)?

    • >>志位的

      恣意的、ですか?
      志位的であれば、それはそれで意味深いです。

  • >NHKのダウンサイジングは?

    スクランブル化できてる衛星放送はともかくとして、地上波・ラジオ(AM/FM)は各一波で十分だと思います。(必要十分な機能かつ月額500円は実現可能なはずです)

    理想としては、国営化して受信料ゼロ。そのうえで「公務員の国籍条項」の順守なんですけどね。

  • >NHKのダウンサイジングは?

    地上波放送を全部止めて衛星放送に一本化するのはどうでしょうか。

    • 賛成。

      少なくとも各地方局の電波発出部門はいらなくなる。

      民放がこれやったら地方の民放系列テレビ局は軒並み倒産するのかな。

    • 以下事実認識の一部として
      ・新聞 TV のビジネスモデルは壊れており回復不能である
      ・地域性は閉鎖性と同義である
      ・事業(なんであれ)のネット化により商圏がフラットになる効能効率を追求すべきである
      スタートラインはこんなところでしょうか。人口減は社会運営効率の向上追求のチャーンス。あ、銀行業の存続とも関係してそうな。

    • 多チャンネル化が可能なケーブルテレビは渡辺恒夫に潰された。
      同じく多チャンネル化が可能な衛星デジタル化も、電波利権に巣くう既存のテレビ局にとって存亡の危機に直結します。
      しかし地上波利権をぶち壊す衛星デジタルの技術を確立させたのがNHKという所は皮肉ですね。

  • NHKはよく「公共放送」という言葉を使いますが、
    同じく公共の言葉を冠している交通機関はインフラを支えるのに、利用していない地域住民から受信料みたいなものを直接徴収してないです。

    公共性と一律徴収の受信料には何も関係性がなく、
    かつ交通機関がなくなると地域住民は困りますが、
    NHKがなくなっても何も困らないです。

    いい加減、公共放送の言い訳をやめて欲しいものです。

  • KBSの受信料が200~300円と安いのも、関心の薄さと関係があるのでしょう。NHK受信料もその程度なら今ほど社会から嫌われなかったと思います。強欲なんですよ。

    しかし、韓国のメディアの歴史もすごいですね。政府の命令で新聞廃刊やら放送会社の没収やら。日本では考えられない。今の韓国でもさすがにできないでしょうが。
    そんな歴史を見てきた人々が、大統領になれば勝者総取りでなんでもできると認識していたとしたら、大統領選挙の勢力争いが熾烈になるのも不思議じゃないとも思います。

    LGBT法案のように、議論を封じて強引に法案成立をさせるなどの手続きの軽視は、社会の不安定化を招く原因にもなるかもですね。
    まあちょっと、話があさっての方向ですが。

  • NHK視聴料金の徴収方の是非はともかく、TVを持っているところから半ば強制的に取るにしてはそもそも高すぎます。 全番組を見ることも、見ることができることも無いことを考えれば月額数百円が限度だと思います。番組を利用したテキストの販売その他でも儲けていますから。
    この問題を取り上げる国会議員が少ないそうですが、政官癒着で取り上げないなら議員を選挙で選ぶ意味を壊しています。

  • 案外、NHKが「世界最後に残るマスゴミ」になるかも知れませんね。
    他の国々ではオンライン化に成功して規模を縮小するか、もしくは最初から偏向している事を
    隠しもせず「マス」ではない弱小企業であり続ける事を善しとしている模様。

    そして悔しい事に「世界最後まで持つならそれで勝利♪」と割り切っていそうなんですよね……
    NHK職員の稼ぎっぷりだと、いざとなったら海外に逃げる事も可能でしょうし。