岸田内閣の「青木率」は、時事通信の7月の調査においても、依然として50%を上回っています。内閣支持率は落ちたものの、自民党に対する政党支持率は、意外なほどに底堅いからです。ただ、なぜ内閣支持率が低下したのかに関する「本当の理由」に、既存メディアが頑なに触れようとしないのは不思議です。そして、自民党(と立憲民主党)にとっての本当のリスクは、立憲民主党からの大量移籍とボーダー選挙区での大量当選というシナリオでしょう。
目次
支持率調査≒藪医者の健康診断
当ウェブサイトで不定期に取り上げる話題のひとつが、内閣支持率や政党支持率です。当ウェブサイトでこれを取り上げる理由は、著者自身、支持率調査を「藪医者による健康診断」のようなものだと考えているからです。
健康診断には、血圧、血糖値、眼圧、骨密度など、さまざまな「数字」が出てきますが、それらの「数字」をもとに、最終的に体の状態を判断するのは医師です。ですが、医師によっては数値の解釈を誤ったり、血圧などの測定を誤ったりすることもあるようですし、その人のその日の体調によっても数字は動いたりします。
したがって、内閣支持率や政党支持率などをもとに、「支持率は危険水域」などとする記事が出ても、そうした記事を鵜呑みに信じるべきではありません。
こうしたなかで、先般の『「維新>立憲民主」逆転は定着か』などでも取り上げたとおり、主要メディア(読売新聞、朝日新聞、共同通信、時事通信、産経・FNN、日経・テレ東など)の世論調査では、一様に、内閣支持率が下落し、不支持率が上昇するという現象が観測されました。
まずは立憲民主党が最大野党の地位から転落するのかどうか――。少し古い話題で恐縮ですが、読売新聞社が先週実施した世論調査では、立憲民主党と日本維新の会を巡り、「自民党に対抗する野党として主導権を握るべきか」と尋ねたところ、維新が40%となり、立民の26%を14ポイントも上回ったというのです。また、「次の衆院選での比例代表の投票先」についても、自民38%、維新13%、立民9%で、やはり逆転が生じています。この逆転は定着したのでしょうか。内閣支持率は下落:不支持率と逆転『内閣支持率は軒並み低下したが…政権は危機... 「維新>立憲民主」逆転は定着か - 新宿会計士の政治経済評論 |
これを再掲しておくと、図表の通りです。
図表 内閣支持率(2023年6月)
メディアと調査日 | 支持率(前回比) | 不支持率(前回比) |
時事通信(6/9~12) | 35.1%(▲3.1) | 35.0%(+3.2) |
朝日新聞(6/17~18) | 42.0%(▲4.0) | 46.0%(+4.0) |
産経・FNN(6/17~18) | 46.1%(▲4.3) | 49.2%(+4.7) |
共同通信(6/17~18) | 40.8%(▲6.2) | 41.6%(+5.7) |
日経・テレ東(6/23~25) | 39.0%(▲8.0) | 51.0%(+7.0) |
読売新聞(6/23~25) | 41.0%(▲15.0) | 44.0%(+11.0) |
(【出所】各社報道を参考に著者作成)
たしかにどの調査で見ても、支持率は前月比でマイナスとなり、不支持率は前月比でプラスに転じています。また、ここに列挙した6つの調査に関していえば、時事通信のものを除けば、いずれも不支持率が支持率を上回っています。
これが、健康診断でいう「数字」のようなものでしょう。
頑なに「本当の理由」に触れようとしないメディア
ただ、これらの数字、メディアによっては調査結果をそのまま集計するのではなく、年齢補正を加えてみたり、性別補正を加えてみたり、あるいは極端な話、その編集者の「カン」によって数字をいじっていたりすることもあるようだ、といった情報を耳にすることもあります。
こうした「操作疑惑」に関しては、個人的に真偽は確認できておらず、この数字自体がインチキであるという可能性は否定できませんが、とりあえずこの数字をそのまま信頼するのだとしたら、岸田文雄・現首相にとっては非常に厳しい状況にあることは間違いありません。
もっとも、メディアのこの低支持率に対する説明には、首をかしげることもあります。
多くのメディアは、岸田内閣に対する支持率下落の要因を「マイナンバーカード問題」や、5月末ごろに発覚した「首相長男官邸忘年会事件」などに求めているようですが、少なくともヤフコメやツイッターなどで目に付く「LGBTゴリ押し」、「増税ゴリ押し」、「対韓譲歩ゴリ押し」などを挙げているメディアはほとんどありません。
これこそ、藪医者の藪医者たるゆえんでしょう。
いや、新聞、テレビなどのオールドメディアを「藪医者」にたとえること自体が大変に失礼だということを承知のうえで、あえてメディアを「藪医者」と称しているわけです(全国の藪医者の皆さまには、オールドメディアなどにたとえてしまったことをお詫びしたいと思います)。
時事通信の記事も…「青木率」は50%を依然として超過
こうしたなかで、今月も、こんな記事が目に付きました。
危険水域目前、与党に危機感 支持率続落、マイナ問題が影響―時事世論調査
―――2023年07月14日07時08分付 時事通信より
時事通信は13日に公表した世論調査(『内閣支持、続落30.8% 不支持が3カ月ぶり上回る―時事世論調査』参照)で、内閣支持率が30.8%で不支持率の39.3%を下回ったことを受け、「危険水域」とされる「2割台の目前まで下落した」と指摘。
「2ヵ月連続の下落で、マイナンバーカードを巡るトラブルが背景にあるとみられる」、などと述べています(「増税・LGBT・韓国」の3点セットについては頑なに触れようとしないのは謎といわざるを得ませんが…)。
ただ、「支持率2割台」が「危険水域」という表現には、問題があります。これはおそらくは時事通信の主観的な決めつけではないでしょうか。というのも、時事通信の場合、他メディアと比べ、内閣支持率、不支持率は、やや低めに出る傾向が確認できるからです。
たとえば、改めて先ほどの図表を確認しておくと、6月時点の支持率は35.1%、不支持率は35.0%であり、他メディアは日経・テレ東のものを除き、いずれも支持率、不支持率ともに40%台です。つまり、「支持でも不支持でもない」という割合が、時事通信の調査だと他メディアと比べて高い、ということでもあります。
これに加えて俗に「青木率」と呼ばれる割合があります。これは、内閣支持率と政党支持率を合計し、50%を割り込まなければ、政権はまだ大丈夫だ、などとするものです。
これを今回の時事通信の調査に当てはめてみると、「青木率」は54.4%です。というのも、7月の政党支持率は自民党が23.6%だったからです(ちなみに前月と比べて、自民党に対する支持率は、むしろ1.2ポイント上昇しています)。辛うじてまだ50%ポイントを上回っています。
また、先ほども述べたとおり、時事通信以外の各メディアの調査では、少なくとも6月時点においては、内閣支持率は(日経・テレ東のものを除いて)40%台をキープしています。「青木率」の観点から、岸田内閣が「危機的状況にある」と考えるのは、まだ少し早いでしょう。
原因分析を誤れば対策を誤る
それに、政党支持率だけで見ると、自民党以外に代替し得る政党が見つからないのが実情です。
たとえば時事通信の7月の調査では、政党支持率は自民党が23.6%(前月比+1.2ポイント)でトップであり、最大野党であるはずの立憲民主党は3.2%(前月比+0.1ポイント)と、7倍(!)以上の差がついています。
少なくとも現在の情勢「だけ」で判断するならば、今すぐ選挙をしたとしても自民党が政権を失うほどに大敗を喫する可能性は非常に低く、岸田内閣が「危険水域」といわれても、あまりピンとこない人も多いのかもしれません。
もっとも、先ほども述べたとおり、時事通信の記事に大きな問題があるとしたら、内閣支持率が低下しているであろう「本当の原因」を頑なに述べないところにあります(※ただし、この点については、時事通信に限ったものではありませんが…)。
時事通信によると「自民中堅」は支持率の下落要因として「マイナカードと一体化した『マイナ保険証』の不具合を挙げる」、などとしつつ、「現状では支持率が反転する要素がない」とする党重鎮の発言を取り上げているのですが、どうして「LGBT、財務省、韓国」を挙げないのかが疑問でなりません。
藪医者の健康診断があてにならないのは、その「原因分析」ができていないからだ、という側面もありますが、原因分析を誤れば、対策を誤るのは当たり前のことでしょう。
大量移籍・大量当選シナリオ
そして、そのカギは、やはり日本維新の会の動向にあります。
じつは、時事通信の調査によれば、野党第2党である日本維新の会は政党支持率で5.2%(前月比+0.7ポイント)であり、政党支持率「だけ」で見たら、すでに立憲民主党を恒常的に追い抜き、最大野党となりつつあります。
先日の『小選挙区と比例代表の票差に着目:数字で見る選挙協力』などでも指摘したとおり、2021年の選挙結果「だけ」で判断すれば、次回衆院選で維新が立民を追い抜くかどうかは微妙な状況ではありますが、これはあくまでも「2021年の選挙結果を参考にしたら」、という話です。
あくまでも一般論ですが、「選挙互助会」というものは、上昇気流に乗れば他党から乗り換え候補者を集めることができます。そしてこれは私見ですが、立憲民主党が「左の選挙互助会」なのだとしたら、日本維新の会は「右の選挙互助会」のようなものといえるかもしれません。
このように考えていくと、維新が「ボーダー選挙区」での候補者擁立に力を入れ、とくに「ボーダー選挙区」で立憲民主党の候補者が維新に移籍する動きが相次いでいけば、選挙結果は容易にひっくり返ります。
以前の『選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」』でも指摘したとおり、小選挙区における第2位の候補者との得票差が2万票以下の「ボーダー選挙区」は、自民党が58議席、立憲民主党が41議席です。
しかも、東京では自民党は公明党との選挙協力がうまく行かないなど、選挙区によっては自民党が苦戦を強いられることは確実であり、情勢次第では自民党が現有勢力のうち40~60議席を失い、単独過半数割れという大敗を喫する、という可能性も現実味を帯びてくるのです。
(※余談ですが、この「立憲民主党から日本維新の会への大量移籍と大量当選」というシナリオが実現する場合は、立憲民主党も当然、最大野党の地位を喪失するでしょうし、場合によっては政党自体が雲散霧消して消滅し、極左の少数政党でも出来上がるという可能性もあるでしょう。)
いずれにせよ、岸田現首相の直前の「宏池会首相」だった宮澤喜一が自民党政権を終焉に導いたことを思い起こしておくならば、「宏池会政権禍」は自民党を再び悪夢に陥れる、という可能性には、十分な注意も必要かもしれません。
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詳しい方がいれば教えてください。自民党総裁(今回は岸田総理)の自民党党内の求心力を示すものは、ありませんか。
蛇足ですが、青木率は経験則なので、今回は外れる可能性も、あるのではないでしょうか。
詳しくないのですが、考えるとしたら
自民党の方には、岸田さんは「居心地がいい」のが求心力?
すでに自民党が「ゆでガエル状態」で身動きが取れなくなってたり。
夜の会合が忙しく、ネットはやらずに情報収集は新聞・テレビでしょうか。自民党支持者との間のズレは気づきません。
いざとなったら岸田を替えればと思ってたら自民が惨敗??
薮医者にお詫びする会計士様ワロタwww
青木率自体が薮医者診断に基づく数値なのでどうでしょうね。
とっくに下回っている可能性も、無きにしも非ず。
「右の選挙互助会」とは、自民党の事ではないでしょうか。
ただ、自民党にもかつて河野洋平氏のような方がおられましたので、
あくまでも「比較的右寄り」というだけかもしれませんが。
内閣支持率が低下して不支持層に逆転を許しているのに、大手メディアが「無駄弾」(ムダダマ)ばかり撃つホントの理由は、ここに集う皆様には釈迦に説法ですが、「本当の原因を頑なに述べてはいけない」「絶対に見せてはならぬ真実」だからです。
マイナ保険証や最高裁判決、首相長男の失態を大きく取り上げることによって、深い森の向こう側を見せたくない。
「マイナカードに対する不信感」そんなものどうでもいいんです!それより「LGBT、増税至上主義の財務省、外国人に弱い外務省の不穏な動き、韓国への宥和工作」を挙げないのはオカシイでしょう。
明るい眩しいばかりの光を放つLEDでも無ければ、深夜の部屋で薄っすら点る行燈でも無い岸田氏は、もともと球(タマ)が付いて無いのです。何の計画も深慮も無い方に、何を期待してもムダ。点かない球は早く換えないと、進路を間違えますヨ〜。
そしてメディアへの韓国ぶっ込みが順調に増えている。嫌ですねえ。
青木率は「保守」対「革新」時代の経験則ではないかと思います。
岩盤保守層+浮動票の時代が終わり、岩盤保守層の浮動票化時代がこれから始まるのではないかと感じています。
次の衆議院選挙は、保守票の奪い合いと、「革新」政党の衰退が顕著になりそうというかそうなることを期待しています。
むしろ時事通信が支持率低下はマイナンバーに違いないと確信した根拠が知りたいところですね。
質問の仕方しだいで理由など簡単に分かりそうな気もしますが。なんとなくとか、賛成、反対といった支持率なら内閣支持率など意味をなさないような気もしますが。
>頑なに「本当の理由」に触れようとしないメディア
そりゃLGBTで公金チューチューしたい寄生虫の「お零れ」に与りたいからでしょう。
表向き支持率の低下の理由にマイナカードを強調しているのも犯罪者の片棒を担ぎたくてたまらないからでしょう。
記事を読んで奈良1区が該当すると思いました。立憲の馬渕氏はいま比例復活ですが、維新に入れば自民党現職の小林氏に次は勝てると私は見ています。
このような選挙区が全国にどの位あるんでしょうね。ただ維新はかつて江田憲治が入って分裂した苦い経験があるので、他党のベテラン議員を受け入れるのに慎重であるように見受けられます。
私は大阪府枚方市在住で奈良1区は隣です。
維新に入るべき立憲の大物は、代表である泉氏だと思います。泉氏は国民民主党にいた時期がありますし、彼の選挙区京都3区は維新が強い所です。
維新は、立憲民主党の議員は受け入れてはいけないと思っていましたが、馬淵氏や泉氏は維新の方が向いているかもしれませんね。私は、両氏ともに立憲民主党の議員である事に違和感を感じていましたし、両氏は江田氏よりも協調性がありそうです。
ただベテラン議員には、移籍後も数年は無役で黙っていて貰わないと、運営は大変難しくなりそうです。
当然ながら【内閣支持率>自民+公明】なので、野党支持層や政党支持なし層にも(是々非々で?)岸田内閣を支持している者がいるし、自民・公明支持層には岸田内閣を支持しない者がいる可能性もある。
ところで、
>「LGBTゴリ押し」、「増税ゴリ押し」、「対韓譲歩ゴリ押し」
で自民党の岩盤支持層なるものの自民党離れが起きてるらしいが、自民党支持率はわずかながら上昇。自民党離れした岩盤支持層のみなさんは一体どこに行ったんでしょうね(笑)。
〇時事通信7月の世論調査(7/7~10実施)
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内閣支持率 30.8%(-4.3%)
自民 23.6%(+1.2%)
維新 5.2%(+0.7%)
公明 3.6%(+1.0%)
立憲 3.2%(+0.1%)
※括弧内は対前月比(6/9~12実施)
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