「ASEAN+3」の通貨のなかで、国際送金の世界で存在感を持っているのは日本円であり、続いて人民元、香港ドル、シンガポールドル、タイバーツ、マレーシア・リンギットです。これら以外の通貨が国際送金の世界に顔を出すことはほとんどありません。こうしたなか、インドネシアと韓国は1997年のアジア通貨危機でIMFによる金融支援を受けた国という共通点を持っていますが、よりによってその両国がお互いの通貨での取引を推進する覚書を取り交わしたようです。「お好きにどうぞ」、としか言えませんが…。
目次
人民元決済「着実に増える」記事に含まれた事実誤認
先日の『「人民元の国際取引が着実に増える」記事に事実誤認も』、後から読み返すと、記事タイトルが少し不適切だったかもしれません。
ロイターによると、ロシア、ブラジル、アルゼンチンなど一部の国・地域において、中国の通貨である人民元の決済比率が徐々に上がっているのだそうです。ただ、この記事自体にはいちぶ事実誤認もありますし、また、中国が国内金融・資本市場を対外開放していないという事情もあるため、人民元決済自体が順調に拡大していくとは言い難いのが実情でしょう。RMBトラッカーで見る「足踏みする人民元」国際的な送金システムを運営しているSWIFTがほぼ毎月公表しているレポート『RMBトラッカー』に基づけば、中国の通貨・人民元の... 「人民元の国際取引が着実に増える」記事に事実誤認も - 新宿会計士の政治経済評論 |
このタイトルだと、「人民元の国際取引は着実に増えているものの、そのことを指摘した記事に一部、事実誤認もある」、というニュアンスで伝わりかねないからです。
当ウェブサイトの指摘は、もちろん、そんな内容ではありません。「『人民元の国際取引が着実に増えている』と主張する記事に、事実誤認がある」、というものです。
問題の記事は、つぎのものです。
焦点:着実に増える人民元の国際決済取引、ドル以外の貿易体制に道
―――2023年4月28日16:59付 ロイターより
記事では「中国人民元はゆっくりではあるが着実に国際決済取引における利用が増加している」としつつ、「これが米ドルに対抗する貿易システムの土台になる可能性がある、というのが専門家の見立てだ」、などと指摘されています。
現実に人民元決済が顕著に広まっているという傾向は認められない
ただ、SWIFTが公表する『RMBトラッカー』を含め、現実にいくつかの統計データなどを確認する限り、人民元の国際決済取引における利用が増加しているという顕著な傾向は認められません。
それに、『通貨論と統計データで見る「ペトロ人民元の非現実性」』でも議論したとおり、そもそも人民元を含めたBRIC通貨には、オフショア債券市場もデリバティブ市場もろくに育ってもいません。
またぞろ、「ペトロ人民元」、「ペトロルーブル」に関する報道が目に付くようになりました。ロイターによると対ロシア経済制裁を逃れるためにロシアのエネルギー企業が価格上限を超えた部分を米ドルではなく「その他の通貨で」決済するように求めている、などとする「金融筋」の情報がその根拠のひとつであるようですが、米ドル以外の通貨での取引が増えるにしても、その通貨として人民元やルーブルが選ばれるとも思えません。そもそもの通貨の使い勝手自体が悪すぎるからです。人民元のSDR入りから早くも7年だが…当ウェブサイトの... 通貨論と統計データで見る「ペトロ人民元の非現実性」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
また、『BRICS「ドルを捨て去り共通通貨」構想の非現実性』などでも取り上げましたが、人民元決済に精力的に取り組んでいる(あるいは中国との共通通貨構想を立てている)国の通貨は、そもそも国際金融市場において存在感がないものばかりでもあります。
今度はBRICS諸国による「デ・ドラリゼーション」、すなわち「米ドルやユーロを捨てて共通通貨を採用する」という与太話が出てきたようです。当たり前の話ですが、ある通貨が国際的に信頼され、通用するためには、通貨の使い勝手が良いことと、通貨制度をきちんと運用してきた実績が必要です。信頼は一朝一夕に生まれません。BRICS共通通貨は「やる前から失敗することがわかっている」という代物ですが、果たして、どうなることでしょうか。G20という謎の存在G20参加国は経済規模も発展段階もてんでバラバラ当ウェブサ... BRICS「ドルを捨て去り共通通貨」構想の非現実性 - 新宿会計士の政治経済評論 |
さらには、ロイターの記事では『RMBトラッカー』上の「トレード・ファイナンス」のデータをもとに、こんなことを言ってのけています。
「一方、国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、世界の貿易決済で人民元のシェアは今年2月が4.5%と2年前の1.3%から増えたが、依然としてドルが84%を占める」。
このくだり、おそらくは事実誤認です。
SWIFTの『RMBトラッカー』上で「ドル84%」、「人民元4.5%」となっているのは、「貿易決済」ではなく、「トレード・ファイナンス」、すなわち主に中小企業に対する貿易金融の話だからです。メディアが事実誤認を堂々と掲載するのはいかがなものかと思います。
人民元決済が広まるとしたら「貧すれば鈍す」の国
もっとも、「人民元が米ドルに代替する国際的な基軸通貨となる」とする主張を掲載しているのは、ロイターだけではありません。
先日の『「米ドルはすでに瓦解しはじめている」=中国メディア』でも紹介しましたが、とくに中国のメディアなどは、この手の言説が大好きです(※ちなみに中国メディアが引用しているデータに誤りがあるというオチもついています)。
「米ドルの地位が揺らいでいる」、とする記事は枚挙にいとまがないのですが、そのなかでもとくに強烈なのは、客観的事実に反する内容などをズラズラと並べて、「ドルはすでに瓦解し始めている」などと主張する、中国メディアの記事でしょう。同記事には、例の「BRICS共通通貨」などという寝言も出て来るようです。ただ、敢えて「瓦解」という言葉を使うなら、「瓦解する」のは米ドルではなく人民元ではないかという気もするのですが、いかがでしょうか。通貨のファクトRMBトラッカーでは米ドル、ユーロなどが圧倒的シェア中国... 「米ドルはすでに瓦解しはじめている」=中国メディア - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、正直に申し上げて、人民元決済がこれ以上増えていくという可能性は、あまり高くありません。中国の金融・資本市場は閉鎖的であり、国際送金の世界では人民元で代金を受け取っても、その人民元でそのまま投資活動ができるわけではないからです。
もちろん、トルコやアルゼンチン、ロシアなどのように、「貧すれば鈍す」とばかりに、人民元の使用がなし崩し的に広まっていく(かもしれない)国もいくつか存在することは間違いありません。
とくにロシアの場合はウクライナ戦争により、主力銀行がSWIFTNetから除外されるなど、国際的には大きな金融制裁を喰らっており、国際貿易における決済代金としては、米ドル、ユーロ、日本円などの西側諸国通貨ではなく、人民元のような通貨に手を出さざるを得ないのです。
逆にいえば、この手の「特殊な事情」でもない限り、人民元決済が広まる可能性は高くないのです。
ASEAN+3ではローカル通貨決済推進で合意
さて、あまり報じられていませんが、鈴木俊一財相と植田和夫日銀総裁は2日、韓国・仁川(じんせん)で開かれたASEAN+3財相・中央銀行総裁会議に出席。同会議ではこんなステートメントが採択されました。
第26回ASEAN+3 財務大臣・中央銀行総裁会議 共同ステートメント(仮訳)【PDFファイル】
―――2023/05/02付 財務省HPより
このなかに、『チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)の継続的な課題』と題して、こんな記述が含まれています。
会議は、自発性及び需要の原則の下、自国通貨及び他国の現地通貨(第三国通貨)によるCMIM の流動性支援の供与を可能とする運用ガイドライン改訂の採択を歓迎する。今後、会議は、代理に対し、AMROの協力を得て、現地通貨の活用の残りの手続きについての議論を継続することを指示する。
CMIMとは「チェンマイ・イニシアティブのマルチ化協定」、つまり日中韓・ASEAN各国が参加する多国間の通貨スワップ協定のことであり、また、AMROはASEAN+3地域におけるマクロ経済と金融の安定確保に貢献することを目的とした地域マクロ経済監視機関「マクロ経済リサーチ・オフィス」のことです。
このステートメントでは、ASEAN+3において、地域通貨の決済を増やそうという宣言が謳われているわけですが、正直、現状では「笛吹けど踊らず」、が実情に近いと思います。
SWIFTランキングに登場するASEAN+3通貨は6つだけ
以前の『G20に「相応しくない」アルゼンチン、韓国、インド』や『BRICS「ドルを捨て去り共通通貨」構想の非現実性』などで繰り返し指摘してきたとおり、通貨の世界では「国際的に通用する通貨」とそうでない通貨が存在しています。
今度はBRICS諸国による「デ・ドラリゼーション」、すなわち「米ドルやユーロを捨てて共通通貨を採用する」という与太話が出てきたようです。当たり前の話ですが、ある通貨が国際的に信頼され、通用するためには、通貨の使い勝手が良いことと、通貨制度をきちんと運用してきた実績が必要です。信頼は一朝一夕に生まれません。BRICS共通通貨は「やる前から失敗することがわかっている」という代物ですが、果たして、どうなることでしょうか。G20という謎の存在G20参加国は経済規模も発展段階もてんでバラバラ当ウェブサ... BRICS「ドルを捨て去り共通通貨」構想の非現実性 - 新宿会計士の政治経済評論 |
実際、RMBトラッカーを眺めてみても、過去の統計を分析する限り、「ASEAN+3」通貨の中で、国際決済通貨ランキングに登場したことがあるのは日本円、人民元、香港ドル、シンガポールドル、タイバーツ、マレーシアリンギットの6通貨に限定されます(図表1、図表2)。
図表1 SWIFTの国際決済通貨ランキングに登場したことがある通貨(ユーロ圏込み)
(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』の2012年8月以降のデータをもとに著者作成)
図表2 SWIFTの国際決済通貨ランキングに登場したことがある通貨(ユーロ圏除外)
(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』の2012年8月以降のデータをもとに著者作成)
ASEAN+3にはG20構成国が4ヵ国含まれていますが(日本、中国、韓国、インドネシア)、このうち韓国ウォンとインドネシアルピアは、過去にただの1度もSWIFTランキングに登場したことがないのです。
尼韓両国が相互決済推進へ
こうしたなかで、このASEAN+3ステートメントに関連し、韓国銀行が興味深い報道発表を行っていました。
[報道資料]韓国銀行、インドネシア中央銀行と両国間ウォンルピア化直取引促進のためのMOU締結【※韓国語】
―――2023.5.2付 韓国銀行HPより
韓国銀行によると、インドネシア中央銀行と韓国銀行は2日、尼韓両国間でのウォン・ルピア直接取引推進促進のための覚書(MOU)を締結。
「両国の経常及び直接投資取引の際、民間銀行がウォン・ルピア貨物取引を通じて決済できるように条件を設ける」ことで、「ローカル通貨の使用促進を通じて企業の取引コストを削減し、為替リスクを緩和し、もって両国間貿易を促進する」、などとしています。
インドネシアと韓国といえば、『韓国大統領は訪米で米韓通貨スワップ締結要請するのか』などでも紹介したとおり、通貨スワップを通じた金融協力を約束している国同士です。
二国間通貨スワップ全体の3分の2が中国との人民元スワップまたしても、韓国ウォンの為替相場がウォン安に向かい始めているのでしょうか。こうしたなか、韓国では「韓日通貨スワップ待望論」と並んで、「韓米通貨スワップ待望論」なども出ています。ただ、日韓通貨スワップについては日本にとって「百害あって一利なし」ですし、米国が少なくとも韓国との為替スワップに応じる可能性はあれど、通貨スワップに応じる可能性は極めて低いと考えて良いでしょう。通貨スワップと為替スワップの違い国際金融協力の世界でいう「通貨スワップ... 韓国大統領は訪米で米韓通貨スワップ締結要請するのか - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、1997年のアジア通貨危機に際しては国際通貨基金(IMF)の支援を受けるなど、どちらの国も正直、通貨ポジションは脆弱です。「よりによってその両国が覚書を取り交わしたのか」、という印象を抱く人も多いでしょう。
なにより、金融・通貨取引の世界において、インドネシアと韓国はいずれもほとんど存在感がありませんが、そんな国同士が通貨取引を促進したところで、実益があるものなのかは疑問です。
いままでこれができなかったとは…
ちなみに韓国銀行の報道資料によると、両国通貨で貿易代金を決済する際の「ウォン・ルピア貨間直接取引による貿易代金決済時の資金フロー」なる図表が掲載されています(図表3、ちなみにこれはインドネシアの輸入業者がウォンで決済する場合の例だそうです)。
図表3 貿易代金決済時の資金フロー
(【出所】韓国銀行)
図表に出て来るのは韓国語ばかりですが、要するに、両国の民間銀行同士がお互いの通貨で直接送金できるようにしようという構想であり、極めて単純な国際送金そのもので、逆に「これが今までできなかった」という方が不思議です。
また、両国ともに資本規制が強い国であるため、実際にこの手の決済が広まるかどうかはよくわかりません。やはり国際送金の世界では、ドル、ユーロ、円、ポンドなどの国際通貨が強みを持っているからです。
いずれにせよ、両国通貨の直接決済については「お好きにどうぞ」、くらいしか言い様がありませんが、この話題に「続報」があるのかどうかについては、とりあえずあまり期待しないで待ってみたいと思う次第です。
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近日中に、再度金融危機・破綻が起る事を想定
貿易代金を決済したい時、米ドル枯渇している
状況で米ドルを少しでも確保する手段として
インドネシア・南国間の貿易
決済手段としての米ドルを確保する
必要性が無くなると思います。
但し、相手国の資金を相手国との間の
貿易決済手段として、資金を寝かせるのは
もったいないような気がします。
どちらにせよ、新しい手形決済手段だとしか
思えません。
>両国通貨で貿易代金を決済する際の「ウォン・ルピア貨間直接取引による貿易代金決済時の資金フロー」
仰られるように「笛吹けど鳴らず!」になると思います。
両国の輸出入規模が年間90億ドル程度で均衡してるのを受けての措置なのでしょうが、輸出業者的には受け入れがたいものです。
現金決済ならまだしも、ローカル通貨建てでは「手形決済時までの価値の保存」が担保されなくなるのですものね。
この記事は普通に読むと、「ふ~ん」くらいなもので読み流しますが、
カズさん、ちょろんぼさん、の言われる通りのことを感じます。
1.それほど、米ドルに困っているの?
2.両国の輸出業者が困る
この措置の発表は、両国への信頼感の低下に繋がるというか、そんなに困っているの?という現実を見せることになるような気がします。
カズさんの言われる
>>>「手形決済時までの価値の保存」が担保されなくなる
これは、政府が保証してくれるのでしょうか?
ちょろんぼさんの言われる
>>>相手国の資金を相手国との間の貿易決済手段として、資金を寝かせるのはもったいないような気がします。
これは、通貨の信頼性に基づく基本的な機能である融通性を無視したものだということを言っておられるのだと思います。
つまり、今日貰ったお金は、直ぐにでも他の支払いに使える、というお金の現実を無視したものではないでしょうか?
両国に、短期に生じるであろう通貨保有のアンバランスを吸収できる余裕があればいいのかもしれませんが。
やはり、どこか現実離れした机上の空思考のような印象もあります。
第三者にはどうでもいいことですが、今後どうなるかには少し興味があります。
スレ違いだと思いますが速報としてあえて投稿させてください。
首相、韓国でおわび継承表明へ 徴用工解決策後押し、首脳再会談
https://news.yahoo.co.jp/articles/41dcb272c80bdcc55f234a017be77c8679cb6746/comments
この人はバカと言われるが何かの病気なのではないか。
ベルさん
読者雑談専用記事通常版 2023/05/02(火)
へ、コメントを入れられた方がいいかもしれません。
多くの人が、共有できると思います。
見落としていました。
ご指摘ありがとうございます。
はい、病気です
早く売国奴の岸田を引き摺り下ろしましょう
こんな日本国民にバカにするようなことするなら、自民党も維新に脅かされて当たり前だわ
インドネシアは米ドルで相場の立っている原油、LNGの代金をルピーでもらいたいのかな?
”MOU”ですからねェ、Memorandum Of Understanding、訳では「覚書」としますが、
多くの場合、その実態はドラえもんの世界だな。
「こんなコトいいな できたらいいな あんなゆめ こんなゆめ いっぱいあるけど」
Understanding≠理解、発言それ自体を認識したが、その内容に賛意が示されたものではなく、その後の展開や効力を約していません。いつでも、どこでも、ポシャる可能性が大ですから。
そんなこと出来るのかねぇ。
相互に信頼しないと、外国通貨の備蓄なんて出来ないのですが。
自分勝手をやっている国の通貨なんて、怖くて持てないのよね。
乱暴に言えば、
「基軸通貨ドルに挑戦すると、叩き潰される」
共産党中国とバチバチ小競り合い
サダムフセイン攻め落とし
欧州がユーロで結束
このあたりは、通貨戦争という串を通すと腑に落ちる感じ。
韓国もインドネシアも、空気読めない国だから、虎の尻尾を踏んでみたらいいんじゃないですかね。
面白そうなので注目いたしますよ。
インドネシアと韓国の貿易ってどれくらいの規模なんだろう?って事で、調べてみました。
インドネシアと韓国との包括的経済連携協定、発効へ@JETRO
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/09/903590b380b9f1d1.html
>2021年の両国間の貿易額は、約184億700万ドルで、このうちインドネシアからの輸出が89億8,000万ドル、韓国からの輸入が94億2,700万ドルと、対韓国では貿易赤字となっている。インドネシアは、韓国へ石炭や電気機器・部品、鉱石、鉄鋼などを輸出し、韓国からは電子機器・部品や一般機械などを輸入している。
ちなみに、対日貿易では日本からインドネシアが133億ドル、インドネシアから日本が195億ドルで、黒字貿易。
https://www.jetro.go.jp/world/asia/idn/basic_01.html
首都移転が始まるので色々お金が落ちるでしょうけど、安全さを軽視する傾向が強い韓国企業による工事が増えると建築物などの崩壊リスクが社会全体で高まるのでしょうね。