来日中のAIIBの筆頭副総裁が時事通信のインタビューに応じ、「日本との協力は極めて重要だ」などとして、気候変動対策をはじめとする協調融資などを含め、AIIBと日本の協力強化に意欲を示したのだそうです。ただ、言い換えれば、AIIBがインフラ金融の根幹部分ではADBとの協調融資によらざるを得ず、単独融資案件はADBがあまり手を出していない「気候変動対策関連」に偏っている、ということでもあります。
目次
AIIBの2022年12月末の現状
中国が主導する国際開発銀行である「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)の融資実行状況などについては、つい先日の『順調にADBの下請機関と化しつつあるAIIBの現状』でも紹介したとおり、融資自体は順調に伸びているものの、アジア開発銀行(ADB)などとの協調融資も多いというのが実情です。
コロナ禍の影響もあったのでしょうか、ようやく、AIIBの融資残高が増え始めました。2022年12月末時点における本業融資額は222億ドルで、また、昨日時点における承認済みプロジェクトは206件、これらの融資がすべて実行に移された場合の融資総額は約400億ドル、といったところでしょう。ただ、ADBの1372億ドルという金額と比べればまだまだ融資額は小さく、また、現実のAIIBの融資案件を眺めてみると、事実上、ADBの下請けのような存在でもあります。AIIBのファクト中国が主導するAIIBの現状当ウェブサイトでずい... 順調にADBの下請機関と化しつつあるAIIBの現状 - 新宿会計士の政治経済評論 |
詳しくは上記記事にて紹介したとおりですが、概要だけ振り返っておきましょう。
いちおう、AIIBに出資国として参加している国自体は非常に多く、G7諸国に関しては日米を除く5ヵ国が、G20に関しては15ヵ国が、それぞれ参加しています(このうち南アフリカ共和国は出資を履行していませんが、参加自体はコミットしています)。
また、財務諸表を眺めると、本業融資と思しき項目(償却原価法が適用される金銭債権や債券)の金額も順調に伸びており、2022年12月末時点において222億ドルと、1000億ドル弱の出資総額に対し20%を超えました。
さらには、(コロナ関連の「特需」に助けられるかたちではあったにせよ)プロジェクト自体の承認実績も順調に積み上がっており、「コロナ特需」が剥落した2022年においても件数にして44件、金額にして70億ドル近くに達しています。
ADBと比較すると雲泥の差
もっとも、AIIBが「ライバル」とみるADBの場合、毎年の案件承認件数は300~400件に達しています。ADBの “Projects & Tenders” のページでステータスが “Approved” “Active” “Closed” となっているものの合計を数えてみると、2020年は417件、21年は304件、22年は312件でした。
ADBのプロジェクト承認件数
- 2020年…417件
- 2021年…304件
- 2022年…312件
- 2023年…34件
(【出所】ADB “Projects & Tenders” ページを2023/04/26に閲覧。 “Proposed” を除外)
※なお、2023年の承認件数が34件と少ない理由は、ページを閲覧したのが現時点だからです。
これに対しAIIBの “Our Projects” のページでステータスが “Approved” となっている案件の数を数えてみると、案件数は増えたとはいえ、依然としてADBに大きく水をあけられていることがわかります。
AIIBのプロジェクト承認件数(カッコ内はADBとの協調融資案件)
- 2020年…42件(14件)
- 2021年…49件(*9件)
- 2022年…44件(*9件)
- 2023年…12件(*3件)
(【出所】)AIIB “Our Projects” ページを2023/04/26に閲覧)
バスに乗り遅れたけれどもまったく問題なかった日本
この点、かつては日本がAIIBに参加しないことを巡り、それを舌鋒鋭く批判した人もいました。
いわく、「日本がAIIBに参加しない合理性はない」。
いわく、「日本はAIIBという『バス』に乗り遅れるな」。
いわく、「日本がAIIBに参加しなければ、日本企業はアジアのインフラ金融の世界で『除け者』になってしまう」。
しかし、AIIBが2015年12月に発足・始動してから、すでに7年以上が経過したわけですが、現実に日本がアジアのインフラ金融の世界で「除け者」になっているという事実はありません。むしろAIIBの方が、特に初期は、ADBの協調融資により助けられていたという方が現実に近いでしょう。
もちろん、「コロナ特需」もあり、あるいはアジア全体の資金不足という状況を受けたADBとの協調案件などもあり、AIIBは一見すると融資を順調に積み上げ続けているのですが、案件承認件数自体で見たらADBの足元にも及びません。
さらには、AIIBが「中国の『一帯一路』金融を支える金融機関になる」、「人民元の国際化を後押しする機関となる」、といった見通しを述べる人もいましたが、現実にはそのようになっていないのです(ちなみに人民元建ての融資実績は「ゼロ件」です)。
日本はバスに乗り遅れたものの、べつに何も問題になっていない、ということでもあります。
AIIB筆頭副総裁、「日本との協力」に意欲
こうしたなかで、ついにこんな話題が出てきたようです。
AIIB、対日協力に意欲 気候変動対策を重視―筆頭副総裁インタビュー
―――2023年04月25日07時08分付 時事通信より
時事通信によると、来日中のルトガー・シュークネヒトAIIB筆頭副総裁は24日、都内で時事通信のインタビューに応じ、「日本の協力は極めて重要だ」などとしたうえで、「気候変動対策をはじめ、日本が関わるインフラ開発事業への協調融資などに期待を表明した」のだそうです。
意訳すれば、「まだバスに間に合うよ」、でしょうか?
記事によるとシュークネヒト氏は、AIIBが世銀やADBと同等の「ESG(環境・社会・ガバナンス)基準」を設けたうえで200件以上の投融資案件に取り組んだ実績をもとに、「協調融資が増えており、他の機関もAIIBを信用している」などと主張。
そのうえで、ADBや国際協力機構(JICA)とともにAIIBが融資団に加わっているラオスの大規模風力発電所建設事業を具体例に挙げたうえで、「地政学を巡る困難な環境の中で『懸け橋』が必要だ」、「日本は国際開発金融機関の一員としてのAIIBの努力をサポートしてほしい」と述べたのだとか。
もうバスは出発したものだと思っていたのですが、ノロノロ運転で日本の協力を欲している、とういことでしょうか。
気候変動融資に特化せざるを得ないAIIB
ちなみに記事によると、AIIBは2025年までに年間承認案件の半分を気候変動対策関連にするという目標を掲げ、それを3年前倒しで達成したのだそうですが、言い換えれば、これも交通や電力、水道などの「マトモな融資案件」にAIIBが食い込んでいない証拠でもあります。
実際、ADBの融資案件には気候変動なども含まれている一方で、交通、エネルギー、産業、水力などの伝統的なインフラ金融案件が大変に多く、こうしたインフラ金融案件から、むしろAIIBが除け者にされている証拠でもあります。
むしろこのように考えていくと、ADBとAIIBの「棲み分け」はできているわけですから、このままAIIBはAIIBで好きなように事業を展開すればよいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
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素朴な疑問ですけど、AIIB筆頭副総裁としては、日本の来て、(日本の)時事通信のインタビューを受けた以上、例えリップサービスでも、日本の重要性を強調するのが普通ではないでしょうか。
>もうバスは出発したものだと思っていたのですが、ノロノロ運転で日本の協力を欲している、とういことでしょうか。
アイーブ(AIIB)のバスは利用者が少なくて路線廃止が検討されているのでは?
アイーブ = 亜EVとも書けるので、やはり中国製のEVバスということで発火炎上しているのかもですね。
AIIBバスは運転手が不在なのではないでしょうか?
自前のバスが順調に運行できている日米としてはわざわざ他所の(しかも胡散臭い)バスを運転してあげる理由は無いように思えます。
AIIBとSDGsならお似合いじゃないですかね。しらんけど。
筆頭副総裁はドイツ財務官僚OBだったようですね。
あまりまとまった情報がなく、よくわかんないんですが前はOECDの役員やってたみたいですね。
2,3年前のAIIB総裁のインタビュー記事では行員のノウハウ不足を認めて、ADBや世銀との協調融資などでノウハウ獲得をするんで世界のために協力よろしくね、みたいな半分殊勝な物言いでした。
ただ、そんな中国が力を得たときに掌を返す姿はすでに見ていますんで。力の信奉者。
あらまぁ~ (^^);
鳩ぽっぽさんや俵の爺さんがさんざん
「バスに乗り遅れるな!」?と
ポン引き活動に熱心だったAIIBなのに
乗り遅れるどころか出発早々エンコしそうで
車の後ろから君の力で押してくれ的な
お願いされてもねえ(笑)
相手国の港や土地を担保で奪取狙いの
中国の一帯一路高利貸も
焦げ付きだした解消策で
日本に金ださせAIIBに無担保肩代わりさせれば
さらに貸込ウッシッシ計画だったと
今では見透かされています。
うまく日本騙せて出資させてたら
ひょっとして今頃
鳩ぽっぽさんが筆頭副理事で
元民主党のみなさんが日本を叩き出されても
天下り先確保を思い絵が得てお見えになったんだろうなあ
と推察します。
何故この時期にAIIBの筆頭副総裁は日本に来たのでしょうかね。
日本には構わずに、China主体でどんどん進めて頂ければ良いのに、と思ってしまいます。
バスの燃料に不安でもあるのでしょうか。
あ、最後に、事後報告で申し訳ありませんが、過去の記事を引用させて頂きました。m(_ _)m
nekodama 様
当ウェブサイトに掲載した図表等に関しては、出所さえ明示していただければ、引用も転載も一切自由です。
また、ご自身のブログをお持ちの場合、是非とも当ウェブサイトを宣伝の場にご利用くださると幸いです。
引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。
AIIBは実績222億ドル。多いのか少ないのかよく分からん数字ですね。
まだAIIBバスは停車中、日本が乗るまで停車中(爆笑)。日本が乗ったら、行きがかり上、仕方なく乗った客は下りるんじゃないだろうネ!AIIBはそんなもんよ。自前で案件取れず、ADBに寄って来る。マシな案件が取れないんだろう。気候変動とかよりも、もっとマトモな案件取って来い!
AIIB循環バスを運転してきたルトガー・シュークネヒトAIIB筆頭副総裁はドイツのエコノミストなのですね。チャイナべったりのドイツらしい。
AIIBバスのスペック
運転手:不在(日本)
エンジン:非搭載(米国)
燃料:わずか(拠出金)
ブレーキ:完備(C国の拒否権)
*牽引されねば動けない。
AIIBのお金は途上国政府関係者への賄賂と、中国人関係者のお財布に使われていそう。そのうち破綻しそう。なんかそんな時に日本が参加して、尻拭いさせられそう。英利議員と河野議員が動き出しそう。