ついに「域外適用」の事例が出てきたようです。産経によると香港当局は香港の学生の身柄を拘束し、パスポートを没収したそうです。なんでも日本留学中だった約2年前にSNSに投稿した内容が問題視されたとのことですが、香港の国外で行われた行動が処罰されたということは、日本人であっても中国に批判的な言動をとった場合、香港に渡航した瞬間、身柄を拘束される可能性が出てきた、ということでもあります。
産経「日本での言動を問題視し、香港人留学生を逮捕」
産経ニュースに昨日、こんな記事が掲載されていました。
<特報>香港当局、日本での言動を問題視 国家安全維持法違反で香港人留学生を逮捕
―――2023/4/19 20:10付 産経ニュースより
産経によると、日本の大学に留学している香港出身の女子学生が3月上旬、身分証明書を更新するために一時香港に戻ったところ、治安当局に逮捕されたというのです。
逮捕容疑は香港国家安全維持法(国安法)違反で、日本留学中の約2年前、フェイスブックに香港の学生デモを支援するスローガンを転載した際、「香港独立は唯一の道」という文言を香港当局が問題視したとみられる、などとしています。
ちなみにこの学生はすでに釈放されていて、5月以降に起訴されるかどうかが決まるそうですが、その一方でパスポートを没収され、日本に戻ることもできなくなっているのだそうです。
「言論の自由」という香港の長所が、またひとつ損なわれた格好です。
このあたり、かつて香港は中国共産党の統治下に入っても、1997年7月からカウントして50年間は高度な自治が維持される、といった期待がありました。しかし、香港返還からまだ30年が経過していませんが、もはや「一国家二制度」は形骸化し始めているといえます。
本質は「域外適用」
ただ、それ以上に深刻なのが、「域外適用」という問題点です。産経によると台湾在住の香港の人権派弁護士である桑普(そう・ふ)は、次のように述べたそうです。
「民主活動家ではなく、外国に住む普通の大学生が、軽い気持ちでSNSに転載した内容を理由に逮捕されたことは海外の香港人に大きな衝撃を与えた」。
つまり、「どこにいても中国当局に監視されている」、「外国での言動も厳罰に処される」、という点において、「中国を批判する人が激減する」という効果が期待される、というのです。
今回逮捕されたのは香港人でしたが、当然、香港人以外の外国人に対しても、同様に罰せられる可能性が出てきた、ということでもあります。
当然、日本国内で日本人向けにツイッターやフェイスブック、ブログサイトなど持っている日本人も、香港に渡航した際に身柄を拘束されるかもしれません。ということは、ビジネスマンも今後はうかつに香港に渡航することができなくなる、ということです。
マネー回収の動きはジワリ広まるが…
このあたり、以前の『マネー面から見た「日本が関係を深める国・薄める国」』でも指摘したとおり、「マネーの面」からは、日港関係は徐々に関係が希薄化しています。
数字で見る「オフショア金融センター・香港の凋落」「マネーから垣間見える日本と外国とのつながり」を調べていくと、非常に興味深い結果が浮かび上がってきます。そのなかでも隠れたテーマは、「香港との関係の終焉」ではないでしょうか。国際与信統計の最新データに基づけば、邦銀の香港に対する与信がますます減っていることが明らかになりました。想像するに、国家安全法の施行は英中共同声明に反し、香港の法的地位の安定性に疑義を抱かせるには十分だったのではないでしょうか。国際与信統計とは?『国際与信統計』の「日本集計... マネー面から見た「日本が関係を深める国・薄める国」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
該当するグラフを再掲しておくと、こんな具合です(図表)。
図表1 香港に対する与信(最終リスクベース)
図表2 シンガポールに対する与信(最終リスクベース)
図表3 香港vsシンガポール
(【出所】いずれも日銀『国際与信統計の日本集計分』(2022年12月末分)データを参考に著者作成)
もちろん、香港は旧英国統治時代から、先進的な金融法制に加え、会社法上の制約が少なく税率も低いなどの伝統があり、また、英語が通用し、法治が貫徹しているなどの伝統があるため、ただちにすべての金融機関が香港から撤退するという話ではありません。
ただ、こうした香港の法制に中国共産党式の全体主義的な言論統制法制が加わることで、香港の活力は低下し、金融拠点機能は間違いなく低下するでしょう。
また、日本企業もリスク管理を強化するならば、可能な限り早期に、香港拠点を縮小することが望ましいといえます。大事な従業員を香港で拘束されたりしないためにも、是非とも企業経営者の皆さま、コンプラ担当部署の皆さまには前向きな対応をお願いしたいと思う次第です。
View Comments (9)
マカオも中国領ですから、このタイミングで世界的に観光客に人気があるらしい日本に「カジノを含むIR」が整備されてしまうのは中共もイヤでしょうねェ
アレ? そこいら中にあるパチンコパチスロ屋やら公営ギャンブルについてはスルーするくせにヤタラ「カジノを含むIR」を造ることに反対しているヒトタチってもしや…
もしやでなく、そうなんだと思います。
そこら中にパチンコやスロットがあるのに、やたら厳しいですからね。
そもそも民間の賭けを禁じているのも公営ギャンブルを守るためでしょう。
第三次世界大戦を後世の歴史家が取り扱う際に、ステップがひとつ進んだ出来事として語られるのかなぁと。
もう、中国は中国である事から降りられないでしょうし。
今でも罪状不明なまま当局に日本人が拘束される事態が発生していることを鑑みれば他人事ではない話ですね。
中華企業の通信機器やアプリ、ECから抜かれた情報が何に紐づけされて、いつまでどこまで追跡されるか。そして得た情報を何に利用するか。
今は日本人でも中共を批判していれば中共の息の掛かった国・地域に行けば拘束されるかもしれないという程度ですが(それでもとんでもないことですが)、いずれは日本にある秘密警察が突然あなたのドアをノックして……
おっと、誰かきたようだ...
この件に関連して中国は諸外国に警察機構を設置するなど国外居住者への統制を推しはかろうとしています。これを放置しては国家維持できない、すなわち共産党政権解体を現実的なリスクとして認識しているということなんでしょう。もっともAIIB、一対一路、南沙諸島領有と拡大路線を打ち出したあたりで現状維持では内部崩壊の危機感はあったんだと推察します。
ロシアは石油等地下資源を自給できますが、中国は一部輸入国です。以前オーストラリアと一悶着あった際に石炭輸入禁止で締め上げようとしたはずが国内電力不足でしぶしぶ関係改善した始末。ですが真っ当な判断なら戦争なんて始めないという常識をロシアがぶち壊したばかり。
近い将来、確実に歴史の転換を迎えますね。金の延べ棒でも買っておけばいいんだっけ・・・?
素朴な感想ですけど、(実際に実行できるとは思いませんが)中国の法的には、日本にいる日本人を、中国が国家安全法違反で、(秘密裏に)引き渡しを要求してくることが可能ではないでしょうか。もっとも、逮捕するのが日本の警察か、中国警察の出先機関になるかは分かりませんが。
引きこもり中年様
(差し出がましくも申し上げます。)
中国警察の出先機関が、秘密裡に、日本国内で逮捕監禁することになると推測します。
法務省の出している犯罪白書の令和4年版の第2編 第6章 第2節 2に「逃亡犯罪人の引渡し」という項目があり、概略の解説が載っています。
https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/69/nfm/n69_2_2_6_2_2.html
日本が犯罪人引渡条約を結んでいるのは、米国と韓国の2か国だけで、その2か国からの引渡し請求には、日本国は応ずる義務があります。
その他の国からの請求には、日本国政府が任意で応ずることができますが、そのための法律「逃亡犯罪人引渡法」があります。
その第2条で、引渡しが禁止される条件が載っています。その中に、引渡し請求の対象者が日本国民であるとき、引渡し請求の理由となっている「犯罪」が日本国法では犯罪ではないとき等が載っています。
そうなると、中国警察の出先機関が、秘密裡に、日本国内で逮捕監禁することになると推測します。
アステラス製薬社員を、難癖を付け逮捕監禁するような国ですから驚きはしませんが、岸田さん、外務省はどのような対応をしたのでしょうか?
自由、民主主義、法の支配、人権を上位価値に置く国として何かやったのかな?
単なる田舎の口利きを政治、太鼓持ちを外交と勘違いしていなければ良いのですが。
中国本土、香港、マカオを外務省 海外安全ホームページで
危険レベル2:
日本人の常識では理解できない理由により、当局により突然逮捕監禁されることがあります。不要不急の渡航は控えてください。
ぐらい出さないものか。