韓国国債などのWGBIへの組入が見送られました。これについて韓国メディアによれば、「韓国国債が(WGBIに)採用されれば、海外投資家の資金が(韓国の)国債市場に流れ込み、韓国国債の信頼度が高まる効果がある」、「新たに669億3000万ドルの資金が国債市場に流入する」などとの見込みもあったのだそうですが、それでも韓国ウォンが国際的なハード・カレンシーではないという事実を踏まえれば、ある意味ではWGBI組入見送りは順当な判断ではないかと思う次第です。
FTSEラッセルのWGBIはハード・カレンシー国が中心
FTSEラッセルという会社があります。
これはロンドン証券取引所グループ(LSEG)の情報サービス部門を担っている会社であり、「世界の債券市場のパフォーマンス測定」を目的として、さまざまなインデックスを提供しています。そのインデックスのなかでももっとも有名なもののひとつが、「WGBI」です(発音は「ウィグビー」、でしょうか?)。
このWGBIについて、FTSEラッセルは「広範囲にわたる世界のソブリン債市場へのエクスポージャーを提供するインデックス」で、「固定利付き、現地通貨建ての投資適格ソブリン債のパフォーマンスを測定」するものであると説明しています。
ちなみに現時点でWGBIに組み込まれている国は、日本、米国など24か国です。
豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、中国、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、マレーシア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、シンガポール、スペイン、スウェーデン、英国、米国
(【出所】FTSE Russel, “Constituents & Weights” のWGBIの組入銘柄に関するPDFファイルより著者作成)
インデックスとパッシブ投資
これらの国を見てわかるのは、基本的にWGBI採用国の通貨は、いわゆる「ハード・カレンシー」である、という点でしょう(中国、イスラエル、マレーシア、ポーランド、メキシコなどについては「ハード・カレンシー」とは言い難い一方、典型的なハード・カレンシー国であるスイスが含まれていないのは、少し気になる点ではありますが)。
そして、WGBIに組み込まれた場合、その国の国債は買われる(=金利が下がる)という傾向がある点も見逃せません。その理由は、「パッシブ」と呼ばれるマネー・フローが生じるからです。
運用の世界における「パッシブ」(passive)ないし「パッシブ運用」とは、何らかのインデックスに連動するような運用を行うことであり、年金や投信の「パッシブ・ファンド」が有名です(これに対しインデックス以上の成果を上げることを目的としたファンドを「アクティブ」と呼ぶこともあります)。
WGBIに連動させるような運用を行っているファンドは世界中に数多く存在しますので、もしもこのWGBIに組み込まれたら、その国の国債はある程度買われ、その国の金利が低下する方向に動くであろうことが予想されるのです。パッシブのマネーフローがその国に流入するからです。
こうしたなかで、WGBIに組み込まれるためには、基本的にはそれなりの流動性があることに加え、外国人投資家がその国の国債を買い入れるうえでの金融規制が少ないことが必要であるはずです(※そのわりに中国国債がWGBIに組み込まれているのは謎と言わざるを得ませんが…)。
韓国国債のWGBI組入見送り
これに関連し、ロイターや韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に、興味深い話題が出ていました。
South Korea bonds not yet added to WGBI in FTSE Russell index review
―――2023年3月31日6:51付 ロイターより
韓国国債の世界指数組み入れが見送り 引き続き観察対象
―――2023.03.31 09:41付 聯合ニュース日本語版より
これらのメディアによると、FTSEラッセルは現地時間30日、引き続き韓国国債をWGBIの観察対象にすると発表したのだそうです。ちなみに「観察対象にする」というのは、今年3月のタイミングで組入を見送る、という意味です。
実際、FTSEラッセルは2021年にスイス国債を、昨年9月に韓国国債を、それぞれWGBI組入の観察対象に加えていますが、どちらも今回の3月末での組入は実現しませんでした。
これについて聯合ニュースによると、韓国政府は韓国国債のWGBI組入を目指し、昨年の税制改正で非居住者や外国法人を対象にした利子・譲渡所得の非課税措置を盛り込み、さらには外為市場の開放度を高める改革案も発表した、としています。
結局どうなるのか?
このうち外為市場改革については『建国来70年ぶり外為改革、失敗なら通貨危機も=韓国』でも触れたとおりですので、本稿では詳しく触れません。
韓国はGDPで世界10位圏入りをうかがう「経済大国」のわりには、1948年の建国以来、外国の銀行等にウォン外為市場への参加を認めてこなかったという、非常に遅れた国でもあります。その韓国が外為市場規制を部分的に撤廃するのだそうですが、これが吉と出るか、凶と出るかについては、金融評論的には興味深い現象です。通貨の機能世界の通貨の数はよくわからない「世界には通貨がいくつあるのか」。著者自身がかつて試算したところ、だいたい165~170ほどではないか、という結論に落ち着きました。通貨の数がハッキリしない理由はい... 建国来70年ぶり外為改革、失敗なら通貨危機も=韓国 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、「利子・譲渡所得の非課税措置」のくだりには、正直、驚きます。もちろん、「今までそれをやっていなかったのか」、という意味でです。ちなみに聯合ニュースによると、FTSEラッセルは韓国国債について、「組入要件を備えるまでまだしばらく見守る必要があると判断したようだ」、などと評しています。
聯合ニュースは名目GDP世界上位10ヵ国のうち、「組み込まれていないのは韓国とインドだけ」と述べているのですが、これは『G20に「相応しくない」アルゼンチン、韓国、インド』でも触れたとおり、正直、両国の国債がWGBIに組み込まれない理由については合理的に説明がつくのではないでしょうか。
アルゼンチンや韓国、インドなどが「金融面で」G20構成国にふさわしいのかどうか。著者自身、いわゆる「G20」はすでに枠組として形骸化していると判断している人間のひとりですが、もともとG20自体が「金融・財政に関する協議体」からスタートしていたという事情を踏まえると、国際送金市場やオフショア債券市場などであまりにも存在感がない国がG20に存在していて良いのかどうか、疑問です。なぜペトロ人民元は非現実的なのか「通貨の使い勝手」を判断するヒントのひとつが、オフショア債券市場の規模にある、とする話題... G20に「相応しくない」アルゼンチン、韓国、インド - 新宿会計士の政治経済評論 |
もちろん、現実にWGBIには中国、イスラエル、マレーシア、ポーランド、メキシコなどの銘柄が組み入れられていますので、韓国が組み入れられる可能性はゼロではありません。
ただ、SWIFTの決済シェアランキングに、G20諸国のうち、インド、インドネシア、韓国、ブラジル、アルゼンチンの各国はただの1度も登場したことがなく、パッシブファンドのマネージャーとしては、WGBIに流動性が低い銘柄が組み込まれると、困惑するのではないでしょうか。
FTSEラッセルが通貨の通用度を踏まえてちゃんと判断すれば、韓国国債のWGBI組入は時期尚早という判断となる可能性が高い気がする次第です(もっとも、中国を組み込んでいる時点で、このあたりの判断は怪しいという気もしますが…)。
View Comments (2)
iDeCoで「ほったらかし投資術」をやろうと思います。
もちろんインデックスですが、「世界株(韓国と中国を除く)」がないんだよな~~~~。
「WGBI」?初めて聞きます。勉強になります。
中身すっからかんでも豪華絢爛な装飾を施して見栄を張る手法が十八番なのを考えると、良い箔付けだっただろうからとても残念がってるでしょうね。