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パチンコ業界に見る「衰退産業の転進事例3パターン」

パチンコ・パチスロ店の減少が相次ぐなかで、パチンコメーカーも廃業を決断したようです。こうしたなか、パチンコ・パチスロ店の「転進」パターンを眺めていると、隣接業界への転身(たとえばパチンコ屋をやめてカラオケ店に衣替えする、など)、不動産の活用、余力のあるうちに廃業、といったパターンがあるようです(もちろん倒産という事例もありますが)。冷静に考えてみると、これは他業界、とりわけ新聞や雑誌業界などに対しても参考になる事例ではないでしょうか。

新宿東口のパチスロ店がカラオケ店に!

パチンコ・パチスロ屋が、どんどんと廃業しているらしい」――。

こんな話題を耳にすることが増えました。

たとえば、東京都内在住の方なども、都心部を歩いていると、「そういえばここは昔、パチンコ・パチスロ店だったはずなのに…」、などと気づくケースは多いのではないでしょうか。

たとえば、JR新宿駅の東南口広場に立つと、かつて大きな「パチスロ」の店がありました。駅前の一等地にデンと構えていたその店舗は、しかし、いつの間にかカラオケ店に衣替えしていたのです。

これに関しては『パチマガ(パチンコ攻略マガジン)』と『スロマガ(スロット攻略マガジン)』の「電子版」である『パチマガスロマガFREE』というウェブサイトに、約1年前、こんな記事が掲載されていました。

【グリンピース新宿本店 閉店の真実】ホール店長インタビュー

―――2022.01.24付 『パチマガスロマガFREE』より

これによると同店舗が閉店したのは2022年1月31日のことであり、同店の店長によれば、閉店に至った理由は規制が厳しくなり、旧機種を完全撤去せざるを得なくなったことに加え、コロナ禍のダメージから回復できなかったことが決定打となったのだそうです。

(※なお、パチンコ・パチスロ専門サイトらしく、記事の中身はパチンコ・パチスロ業界の用語もたくさん出て来るのですが、それらについては当ウェブサイトで紹介するのは控えておきます。)

また、この記事執筆時点において同店は同じ東京の繁華街である池袋では営業を続けていたのですが、別のウェブサイトによると、同店を運営していた会社はその池袋店についても2023年1月29日をもって閉店し、運営会社はパチンコ業界から完全に撤退したのだそうです。

2022年は全国で780店が撤退

こうした事例は、おそらくは氷山の一角でしょう。

実際、「全日本遊技事業協同組合連合会」(全日遊連)のウェブサイトに掲載されている『組合加盟店舗の実態調査結果』によれば、2008年1月時点で12,503店だったパチンコ・パチスロの営業店舗数は、2021年12月には7,637店に減少しました。

つまり、この15年間で4,866店舗減少した計算であり、これを減少率に直せば約40%です。

さらに、最新のデータ(なぜか「全日遊連」のウェブサイトには見当たりません)を複数のパチンコ関連サイトから検索すると、2022年12月末時点の営業店舗数は6,857店舗で、2008年1月と比べれば5,646店舗減少しました。減少率は約45%です。

そして、パチンコ・パチスロ店は十数年単位で徐々に減っていっているのですが、その減り方がここ数年、大きくなっています。前年比の店舗数の現象数は、2019年が351店舗、20年が584店舗、21年が665店舗、22年が780店舗と、徐々に店舗の減り方が加速しているのです。

もちろん、コロナ禍などの特殊要因や規制の厳格化などの影響もあったのでしょうし、1年で800店舗前後も減るという状況が今後も続くというものなのかどうかはよくわかりません。

しかし、仮に2022年の「年間780店舗」というペースでパチンコ・パチスロ店の減少が続けば、あと8.79年でパチンコ・パチスロ店の数はゼロになる計算です。

パチンコメーカー「西陣」が廃業を決断=スポニチ

こうしたなかで、パチンコメーカーの「西陣」が廃業を決断したとする話題を発見しました。

パチンコメーカーの西陣が廃業「ぎりぎりまで事業継続に向けて検討」も…約70年の歴史に幕

―――2023/03/01 18:01付 Yahoo!ニュースより【Sponichi Annex配信】

スポニチによると、廃業することになった「西陣」は1951年の創業で、「パチンコ市場の縮小、新型コロナ感染拡大」と「厳しい経営環境」でギリギリまで事業継続を検討したものの、「市場環境は今後さらに厳しくなる状況にあり、事業を終了し廃業するしかないと決断」した、などとあります。

(※余談ですが、今回廃業するのは「西陣」や「東京西陣販売」「西陣販売」であるらしく、同社から独立した「株式会社西陣アーキテクト」「有限会社九州西陣販売」などについてはこれまで同様に事業を継続する、などとも記載されています。)

この点、残念ながら、当ウェブサイトの著者自身はパチンコ、パチスロを嗜まないので、「西陣」の廃業のインパクトがいかほどのものなのかについて「実感」はわかないのですが、『Yahoo!ニュース』の読者コメント欄から判断する限りは、相当にファンが多い「名機」を生み出していたメーカーであるようです。

考えてみれば、パチンコ屋が全国的に廃業・倒産し続けるなかで、パチンコメーカーも徐々に市場から撤退せざるを得ないのも当然のことかもしれません。

実際、当ウェブサイトでに以前、「まんなっか」様という読者の方から寄稿していただいたパチンコ業界に関する話題のなかで、「規制の強化による店舗数の激減」が予言されていたことを思い出します。

新聞・雑誌業界にもそのまま当てはまる?

もっとも、このパチンコ業界の動向を見ていて参考になるのは、「まだ余裕があるうちに撤退する」という決断をすることができるかどうか、という視点でしょう。

じつは、冒頭で紹介した「新宿の大型パチスロ店がカラオケ店に衣替えした」という事例、調べていくと、どうやら当該パチスロ店とカラオケ店は同一の企業グループが運営しているものです。パチンコとカラオケは「健全性」という観点からはまったく別物ですが、「娯楽」という観点からは隣接業態でもあります。

このように考えていくと、パチンコ業界の事例は、衰退産業における「転進」を考えるうえでも、役に立ちそうです。もちろん「倒産」というパターンもあるのですが、それだけではありません。業界が衰退するとわかっている以上、「倒産」を回避しつつ転進を図る手法を探らねばなりません。

これには大きく分けて①隣接する業態への転換(パチンコ・パチスロ店→カラオケ店)、②不動産などの既存資産の有効活用、③余力が残っているうちに廃業、といったところでしょうか。

実際、「このままのペースで縮小すれば、計算上、あと13.98年後に業界が完全に消滅する」という事例があるとしたら、それは新聞業界でしょう(『「炭鉱のカナリヤ」?今度は毎日が東海で夕刊を休刊へ』等参照)。

紙媒体の新聞が毎年200万部減少するなど、新聞業界の苦境が続く中、しわ寄せは夕刊に来ていることは間違いありません。こうしたなか、今度は毎日新聞が東海三県での夕刊発行を休止するようです。「炭鉱のカナリヤ」ではありませんが、夕刊の廃止が相次ぐかどうかについては注目に値する論点のひとつであることは間違いないでしょう。紙媒体の新聞の「受難」が続いています。年初の『数字で見る新聞業界の現状と未来』でも取り上げたとおり、日本新聞協会が発表するデータによれば、新聞の部数は減少の一途をたどっており、2000年に5371...
「炭鉱のカナリヤ」?今度は毎日が東海で夕刊を休刊へ - 新宿会計士の政治経済評論

もちろん、この13.98年というのは計算上のことであり、新聞業界の努力次第ではその年数をもう少し延ばすこともできるかもしれませんが、基本的には焼け石に水です。

したがって、たとえば新聞社も、「①思い切って紙の新聞の発行を取りやめ、ウェブサイトに特化する」、「②過去に儲かっているときに建てた不動産物件を第三者に貸し出すことで儲ける」、「③まだ余裕があるうちに廃業する」、といった選択肢が残っているのかもしれません。

あるいは①の亜流として、「新聞紙を印刷する技術を転用し、トイレットペーパーを印刷する」、「何も印刷していない新聞紙を、『生活用品』として販売する」、といったビジネス(?)もあり得るのかもしれません。

情報誌もウェブ化へ

さて、冒頭で取り上げた『パチマガスロマガFREE』というウェブサイトも、ある意味では非常に興味深い業態転換を行っているようです。

同ウェブサイトによると、サイト名に冠された『パチマガ』『スロマガ』は、「もともとは攻略情報雑誌」だったのだそうですが、「2つの雑誌を合体させ、さらに時代のニーズに合わせてすべてウェブ上で楽しめるように」との目的で2021年2月に誕生したサイトだそうです。

以前、『数字で見る「雑誌業界」・概況編』や『数字で見る「雑誌業界」:217誌の増減率ランキング』で、雑誌業界について、一般社団法人日本雑誌協会」の『印刷証明付部数』のサイトから部数の推移を追いかける、という試みをしたことがあります。

データ自体は不完全なものであり、満足が行く分析ができたわけではありませんが、雑誌業界もクロスワードパズルなどの一部ジャンルのものを除けば、軒並み部数が大きく減少していることが確認できました。

その意味では、経営者的な立場からは、「衰退産業における転進」という視点から眺めてみると面白い業界は、意外とたくさんあるのかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • おはようございます。個人的には本ブログで紹介されていた週刊朝日の廃刊と同様、「祝」と思える出来事です。
    パチンコといえば、岩屋元防衛大臣のことを思い出します。昔、とんでもない奴じゃあるまいかと思って調べたところ、パチンコチェーンストア協会員(政治分野アドバイザー)で、なるほどなふむふむと思ったものです。
    最近はLGBTにご執心のようですね。やることなすことあちら系そのものですね。

    • 西陣倒産と同じ記事で、
      パチンコ機種メーカー享楽産業200億以上の収入減とありました、
      確かここの社長の奥さんは元女優の伊藤◯咲さん、
      去年、
      某トーク番組に出演した時は驚きましたが、
      もしかして旦那の会社経営を助けるため
      ひそかに女優復帰を狙ってる?。

  • そもそも論ですが、(別にパチンコ業界とは限りませんが)隣接業界に転換を図るにしても、必ず成功するとは限りません。そのため、リスクを取りたくないので、(転換する)カラオケ業界の問題点を指摘することで、カラオケに変わることに反対するパチンコ業界の人がでてくるでしょう。(なにやら、カラオケ業界に転換して成功した例か、失敗した例かのどちらかが、異常に報道されるようになりそうです)
    蛇足ですが、野党議員で、子供時代の親のパチンコ狂いを引き合いに、カジノ構想を批判していた人がいましたが、この議員はパチンコ業界が衰退業界になったことを喜んでいるのでしょうか。

  • ギャンブルを一切しないのでパチンコそのものには思い入れはないのだけど
    二輪で旅をしていた頃よくお花を摘みに寄らせてもらったなあと思い出した。

  • 廃業する西陣さんは、老舗でしっかりした台を制作するメーカーです(パチンコもスロットも、ゲームでいうところの客を馬鹿にしてんのか、っていうクソゲーに相当するモノを世に出すことも多いのですが、割合堅実なクオリティ)。
    社員もどこの業界へ転じても困らないと思います。
    優秀な人材には、よりクリエイティブで日本社会のウェルビーイングに結びつく仕事をされてほしいですね。
    先細るユーザへ供給過多のメーカー、店舗が減っていくのは自然の成り行きで、日本にとっても悪いことではないと思います。

  • パチンコ店に限らず「看板の付替えもままならぬ」とはなりたくないものですね。
    そういえば子供の頃、近所に『パ』の字が欠落した不思議な看板がありました。

    私:何のおみせ?
    母:知らん・・。

  • 少し話はずれますが、パチンコ・パチスロ業界
    ホールの方は隣国と関係のある黒い部分は
    噂ではなく実際にそうなのですが
    マシンメーカーは歴とした日本企業が殆どで
    元々ゲーム業界との関わりが強いんですよね。
    セガは元々はジュークボックスや
    スロットマシンの輸入から始まりましたし
    日本で元祖のスロットマシンもタイトーからでした。
    中小ゲームメーカーで、特に映像制作も請け負っている
    メーカーの受け皿にもなっていたりして
    結構ゲーム業界を救っていたりします。

    このノウハウと業界の関係は、この先パチンコ業界と
    共に消滅するのはあまりにも勿体無いので
    是非別の形として残るようにして欲しいと思っています。

  • パチンコって年金ジジババがやっているイメージ
    クズ団塊が消えていくといろいろきれいになるな

  • 私が居住する市では、かつて駅前に最大で8軒ものパチンコ屋が存在していました。街の規模からすると異常に多いとすら言える数ですが、現在残っているのは2軒だけです。潰れたホールの跡地は、カラオケ屋、ドラッグストア、携帯電話ショップなどに変わっています。残った2軒は比較的大きなホールですが、見る限り大盛況とは言い難いようで、はたして何時までもつことやら。

    かつては私もそこそこパチ&スロを嗜んでました。新宿グリンピースにも時々行ってましたし、西陣の台にもずいぶんお世話になりました。残念とも言い難いのですが、やはり少々の寂しさは感じてしまいますね。
    なお、マカオのカジノに行くと、並んでいるスロットマシンのうち、結構な割合がアルゼ製だったりします。パチスロメーカーは技術力を生かし、海外進出も図っているようです。今のところ、アルゼ以外のメーカーの台を見たことはありませんが、ほかのメーカーもきっと検討はしているでしょう。もっとも、昔の山佐の台のような、技術を要するような機種は難しいでしょうけれども。

  • マスコミは他業界の構造改革などは色々報じてきたけれど、改革せず旧態依然なのは自分たちだったということですね。

  • パチンコ業界と異なり、新聞・雑誌関連が他の業態に
    転身できるのは非常に難しいような?
    パチンコ業界を始め、転身できる所は未だ資金がある所だけです。
    無い所は転身を考える余裕すらありません。
    (売上減→資金繰りピンチ)
    新規事業を始めるには、企業の業態の周辺
    業務又は関連する事業以外では、殆ど失敗しています。
    新聞・雑誌業界は、資金は無いが他国から
    資金を受ける事が十分可能なので。現在と同様に
    反社会運動の拠点になる事だけはできます。

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