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菅総理の「口の重さ」自体が「再登板」の意欲の証拠か

いまから2週間前に公開されたインターネット番組に、菅義偉総理大臣が出演しました。その内容自体もさることながら、興味深いのは菅総理の「話す速度」と「表情」です。これに関し、ネット番組の司会者である長谷川幸洋氏が産経新聞の元政治部長である石橋文登氏に発言を振ったところ、非常に腑に落ちる説明がありました。

菅総理が出演した2週間前のネット番組

少し古い話題ですが、菅義偉総理大臣が先日、YouTubeチャンネル『長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル』に出演しました。

ちょうど2週間前の2月1日に公開されて以来、現時点で約40万回視聴されているのですが、その内容はじつに濃厚です。動画自体はほぼ1時間ですが、長谷川幸洋氏の司会が優れているからなのか、菅総理を含めたコメンテーター陣からさまざまな話が出てくるなど、本当に「興味深い」と思える動画ではないでしょうか。

この点、具体的な内容については、本稿では特にコメントしません。

菅総理がこのチャンネルに出演した事実やそこで話した内容については、すでにいくつかのニューズサイトでも報じられているほか、当ウェブサイトでも『菅総理の派閥批判自体が「宏池会政権」に対する牽制に』などでも取り上げているとおりであり、正直、特段の目新しいものはありません。

菅義偉総理の「岸田批判」が波紋を広げている、などと時事通信が報じています。現在のところ、菅総理が「岸田おろし」と「自派閥立ち上げ」、「再登板」などを仕掛けようとしているようには見えませんが、菅総理が沈黙を破って発言したことで、岸田文雄首相や宏池会関係者が浮足立っているというのは興味深いところです。菅総理の岸田批判は単なる苦言だが…先日の『「派閥の長」辞めない岸田首相を週刊誌で批判=菅総理』などでも取り上げた、「岸田文雄首相が宏池会(岸田派)の会長ポストにとどまっていることなどを菅義偉総理が批判...
菅総理の派閥批判自体が「宏池会政権」に対する牽制に - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、それ以上に興味深いのは、菅総理の「発言の仕方」、「速度」、あるいは「表情」です。

少し動画を視聴していただければわかりますが、菅総理の発言は、ずいぶんとゆっくりしており、慎重です。あくまでも著者自身の印象ですが、「言葉をじっくり選びながら話をしている」、という表現が適切でしょうか。菅総理自身、体調が悪いのかと心配してしまいそうになりますが、それにしては声に張りがあります。

また、菅総理の表情にも、あまり笑顔が見られません。長谷川氏や髙橋洋一氏らが話を振ると、笑顔を見せることもあるのですが、「目」は笑っていないのです。

なんだか非常に気になるところです。

石橋文登氏の説明が腑に落ちる

ただ、この菅総理の発言の「速度」や「声の張り」、「表情」などの不自然さについては、上記動画の「続編」を視聴すると、なんとなくその答えが見えてくるかもしれません。

産経新聞の元政治部長でもあるジャーナリストの石橋文登氏は、菅総理の表情の読み取り辛さなどに関しては「基本的には寡黙な方だ(からだ)」などとしつつも、菅総理を巡ってこんな趣旨のことを指摘します。

『文芸春秋』の「派閥発言」があれだけの波紋を広げてしまうなど、自身の発言の影響力が非常に大きいことに気づいている」。

個人的には、石橋氏のこの説明が最も腑に落ちます。

たしかに菅総理が慎重に言葉を選び、ゆっくりと話しているのは、自身の発言力・影響力が依然として大きいことを理解しているからなのかもしれません。

数字の上では「菅再登板」は現実的

このあたり、以前から当ウェブサイトで紹介しているとおり、自民党内の現時点の派閥は、所属議員数では安倍派がトップであり、岸田派は二階派と並ぶ第4派閥に過ぎません。

自民党の派閥勢力図(5大派閥)
  • 第1位:安倍派…97人(衆59+参38)
  • 第2位:茂木派…54人(衆33+参21)
  • 第3位:麻生派…53人(衆37+参16)
  • 第4位:岸田派…43人(衆33+参10)
  • 第4位:二階派…43人(衆34+参9)
  • その他…88人(衆64+参24)
  • 合計…378人(衆260+参118)

(【出所】著者調べ。なお、所属議員数は2023/01/17時点の自民党ウェブサイトによる)

これに対し、派閥に属していない議員のなかには、菅総理に近いとされる勢力が30人前後いるとされます。

具体的には衆議院の「ガネーシャの会」15人、参議院の「菅義偉を支える参議院議員の会」など8~10人に加え、森山派7人(衆6+参1)ですが、もしこの勢力が合流したうえで二階派を束ねることがあれば、一挙に70人を超える勢力になるかもしれません。

もちろん、現時点においては、これは机上の空論のようなものでもありますが、それでも菅総理のことですから、おそらくは自身の影響力が及ぶ範囲を、常に探っているのではないでしょうか。

安倍晋三総理を失った安倍派において、今すぐに岸田文雄・現首相に代替し得る後継者が見当たらないこと、前回の自民党総裁選で岸田現首相に挑戦して善戦した高市早苗氏が自民党内で再び支持されるかどうかわからないことを踏まえれば、やはり後継者は菅総理くらいしかいないのかもしれません。

「完全なご隠居モードならもうちょっとしゃべりますよ(笑)」

これについては動画の15:18以降の数分間を視聴していただくと、長谷川氏に話を振られた石橋氏が滔々と解説しているのが参考になります。

石橋氏は「岸田さんを降ろしたいと思うなら、安倍派、菅派などを糾合して勝てる候補は、客観的に見て菅さんしかいない」、と述べているのです(ちなみに石橋氏によると、萩生田氏の場合は「本人にやる気がない」のに加え、安倍派内の西村康稔氏などが納得しない、などの事情もあるのだとか)。

実際に数字のうえでも「安倍派+菅派」の2派閥で自民党の半数近くを占めますし、最近存在感がない茂木派あたりが「岸田降ろし+菅擁立」に加担すれば、ほぼ間違いなく政権交代は生じるでしょう。

これに関し、石橋氏は動画でこんなことを述べます(動画の17:17~)。

完全な『ご隠居』モードだったら、もうちょっとしゃべりますよ(笑)」。

長谷川氏は「あれだけ口が重いというのは、やはり意識しているという…」と応じると、これに石橋氏は「予算審議中に下手なことを言い出して一気に動き出しても困る」としつつ、それでも統一地方選の結果次第では菅総理が「動く」可能性に言及しているのです。

実際、これらの動画が公開されてから2週間ほど経過しましたが、いちおう現時点において菅総理は沈黙を守っています。

しかし、岸田首相が何か強く批判されるようなチョンボ(たとえば不用意な増税発言、外交における無用な対韓譲歩など)をしでかし、統一地方選にも影響を与えるようなことがあれば、「5月のサミット花道論」が実現する可能性も十分にあるでしょう。

「菅総理再登板」が実現したとして、それが日本にとって吉と出るか凶と出るかはわかりません。

しかし、少なくとも安倍総理亡きいま、安倍総理が目指した憲法改正、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)実現、デフレ脱却の意志を引き継げる人物が少ないことも事実であり、その観点からは、日本にはあまり選択肢は多くないことは間違いないと思えるのです。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • 河野太郎さんを総理にするくらいなら、という事ですか。地方選の見通しが芳しくないのですかね?

  • 菅総理のいいところ・岸田さんの悪いところは、周囲の話を聞かない・よく聞くことだと思っています。完全に対照的です。

    菅総理の携帯料金引き下げなんかまさにそうでしたね。総理になられてからの周囲で携帯料金を引き下げてくれなんていう人は1人もいなかったと思います。総理大臣に近寄る人たちなんて何らかの権益を持っている人だけなのですから、誰の利益にもならない、個人がちょっと楽になるだけの政策なんて出てこない。

    岸田さんはまるで逆。そういう周囲の声を聞いてしまう。少数の権益に日本が引きずられてしまう。

    早いところ菅総理に再登板して欲しいです。ただ、1つ大問題。菅総理再登板の折には安倍総理と同じく長期政権が予想されます。まあ、誰の目にも明らかなので、それを阻止せんとする抵抗力はものすごく大きいでしょうね。岸田さんが首相になれたのとは大違い。

  • 菅さんは、確かに優れた功績を残しましたが、それも安倍総理という絶対的看板があったからだと思います。 

    寡黙とか口が重い人は、現在ではそもそも国のリーダーになる資格がないと思いますが・・・。 安倍総理の場合、その国家感や立ち位置に感銘し協力した多分野のサポーターがいたと記憶しています。
    菅さんの場合意味、間口が広かったと想像していますが、寡黙な大物には擦り寄って来る人は限定的ですし、この辺が危険なのです。 

  • 対韓外交、統一地方選、増税などが岸田首相の運命の分かれ道ですね。
    役人に操られているのではないかと感じさせる岸田首相の対して、多くの自民党支持者はストレスを感じているのではないでしょうか?
    時期総理の有力候補者としては、河野、萩生田、茂木さんなどが有力候補でしょうが、安倍さんの政治を引き継ぐのは今のところ菅さんが一番安心感があります。
    菅さんも、岸田宏池会政権の危うさを感じていて、自分が出なければこのままでは内政、外交ともにまずいと思っているのかもしれません。
    それが菅さんに発言を慎重にさせている原因かもしれませんね。