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週刊朝日が5月末で「休刊」へ:新聞業界の今後を示唆

雑誌『週刊朝日』が6月9日号をもって「休刊」になるのだそうです。同誌の発行部数は2006年3月期には33.1万部でしたが、2022年3月期には8.6万部と、17年間で約4分の1に減少してしまったのです。ただ、同誌の休刊は、新聞業界全体の動向を予言しているように思えてなりません。早ければ数年後にも、紙媒体の新聞の休刊ラッシュが生じる可能性は十分にあるからです。

2023/01/19 14:15追記

図表1が誤っていましたので差し替えています。

朝日新聞の部数推移(朝刊、夕刊)

過去17年分の朝日新聞部数推移とその落ち込みの分析』では、株式会社朝日新聞社の過去17年分の有価証券報告書データを使用し、朝日新聞の部数についての分析を実施してみました。

先日、朝日新聞の部数が400万部を割り込んだとする報道を話題に取り上げたのですが、その後、とある読者の方から株式会社朝日新聞社の2006年度(=2007年3月期)以降の有報データをメールで送っていただきました。有難く使わせていただき、朝日新聞の部数の推移についてもう少し詳細なデータを紹介するとともに、ちょっとした「シミュレーション」も実施してみたいと思います。朝日新聞の部数データ先日の『朝日新聞400万部割れも経営は安泰か:その一方で…』では、株式会社朝日新聞社の有価証券報告書をもとに、朝日新聞の部数の推移...
過去17年分の朝日新聞部数推移とその落ち込みの分析 - 新宿会計士の政治経済評論

改めて、その概要を示しておくと、図表1のとおりです。

図表1 朝日新聞の部数推移(朝刊、夕刊)

(【出所】株式会社朝日新聞社・有価証券報告書より著者作成)

著者自身が保持しているデータの中で最も古い2006年3月期だと、朝刊は800万部を超え、夕刊も400万部近くに達していましたが、最も新しい2022年3月期の部数は、朝刊が455.7万部、夕刊が134.2万部です。この17年間で朝刊が半分近く減り、夕刊に至っては3分の2が失われた計算です。

朝日新聞・2006年3月→22年3月の部数変化
  • 朝刊:813.2万部→455.7万部(43.96%減)
  • 夕刊:373.2万部→134.2万部(64.04%減)
  • 合計:1186.4万部→589.9万部(50.28%減)

(【出所】株式会社朝日新聞社・有価証券報告書より著者作成)

新聞部数の急減は業界全体の流れ

ではなぜ、朝日新聞の部数はここまで急減しているのでしょうか。

これについてはいくつかの仮説が考えられるのですが、そのひとつはおそらく、2014年に朝日新聞社がいわゆる「慰安婦関連報道」と「福島第一原発報道」を巡って、「誤報」を認めたことにあります。

じっさい、先ほどの図表1のグラフで見てもわかるとおり、15年3月期の部数は14年3月期と比べ、明らかに不連続な落ち込みを示していますが、このことは朝日新聞の報道に失望し、「朝日新聞を」解約した人が多かった可能性を示唆するものです。

ただ、「慰安婦」「原発」関連報道だけでは、やはりこの部数の落ち込みは説明が難しいように思えます。

そこで、一般社団法人日本新聞協会が公表している『新聞の発行部数と世帯数の推移』というデータを加工し、朝刊部数(=セット部数+朝刊単独部数)、夕刊部数(=セット部数+夕刊単独部数)を計算してグラフ化してみると、興味深いことがわかります(図表2)。

図表2 新聞発行部数(朝刊+夕刊)

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』データを著者が加工の上作成)

日本新聞協会のデータは10月基準、先ほどの朝日新聞のデータは3月基準であり、両者は半年のズレがありますので、この点には注意してください。また、日本新聞協会のデータの起点は2000年であり、年数にもズレがあります。

新聞の衰退は時代の必然

それはともかくとして、同じ2006年と2022年を比較してみると、新聞業界全体で朝刊が5000万部あまりから3000万部あまりへと約40%減少し、夕刊は1800万部あまりから640万部少々へと約3分の1に減少しているのですが、これは朝日新聞の単体の動きとあまり大きく変わりません。

新聞全体:2006年10月→22年10月の部数の変化
  • 朝刊:5083.7万部→3032.9万部(40.34%減)
  • 夕刊:1826.3万部→644.6万部(64.70%減)
  • 合計:6910.0万部→3677.5万部(46.78%減)

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』データを著者が加工の上作成)

このように考えていくと、新聞の部数の減少はなにも朝日新聞に限った話ではなく、新聞業界の共通の現象と見るのが正解です。

新聞の部数が激減している理由にはさまざまなものが考えられますが、多くの人が思いつくであろう理由は、スマートフォンなどの急速な普及にあります。

新聞「紙」そのものに対する社会的ニーズが減ってきていることにあります。情報も古く、重くてかさばるうえにインクが手につく紙媒体の新聞ではなく、軽くて小さく、常に最新の情報が入ってくるスマートフォンが好まれるのは、当たり前のことです。

ただ、著者自身の見解ですが、新聞の部数が減っている理由は、それだけではありません。

クオリティの低い専門記事、ダブル・スタンダード(たとえば『円安なら「悪い円安」だが円高なら「悪い円高」=日経』など)、誤報を垂れ流しても滅多に訂正しない傲慢さ、新聞、テレビを中心とするオールドメディアが情報を独占していた時代ならば隠しおおせたであろう、異様に多い業界の不祥事――。

ちょっとしたネタです。日経新聞さんにとって、円安は「悪い円安」であり、円高は「悪い円高」なのだそうですよ。いったいどうすれば良いというのでしょう。悪い円安著者自身にとっての昨年の「マイブーム」は、「悪い円安」でした。米FRBによる旺盛な利上げの影響もあってか、円が米ドルに対し30年来の安値水準に沈むなか、「円安によって輸入品物価が押し上げられ、庶民の生活は苦しくなる」といった論調が、いくつかのメディアでさかんに唱えられていたのです。これについては当ウェブサイトでしばしば申し上げている通り、円安...
円安なら「悪い円安」だが円高なら「悪い円高」=日経 - 新宿会計士の政治経済評論

おそらく、新聞の部数の減少「時代の必然」でしょう。

実際、いくつかの調査で見ても、新聞を購読している人は高齢者に極端に偏っているようですが、このことは新聞購読者が若返っていないことを示唆しています。

インターネットを使いこなす高齢者も増えてきていることなどを踏まえれば、早ければ5年以内にも、「全国津々浦々の新聞販売店が戸別に配達する」という現在のような新聞業界のシステム自体が崩壊する可能性は十分にあると思います。

今度は週刊朝日が「休刊」

ただ、苦境にあるのは、新聞だけではありません。雑誌や書籍を含めた紙媒体全体が、同じような状況にあるようなのです。

公益社団法人全国出版協会「出版科学研究所」が公表している『総書店数・総売り場面積』によると、1999年に22,296店だった日本の書店数は、2020年には11,024店へと、およそ半数に減ってしまっています。

そういえば著者「新宿会計士」自身も、コロナ禍以降は書籍刊行、紙媒体の雑誌原稿のオファーがパッタリとなくなり、そのかわりにウェブ媒体での原稿執筆依頼が増えています(※ただし、一部の業界紙は頑張って紙媒体の発行を維持しているようですが…)。

こうしたなか、朝日新聞関連でいえば、19日にはこんな記事がありました。

週刊朝日、6月9日号で休刊

―――2023年1月19日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版

朝日新聞によると、株式会社朝日新聞社の子会社である「株式会社朝日新聞出版」が発行する『週刊朝日』が、5月最終週に発売の6月9日号をもって休刊することになったのだそうです。

これについて、先ほども引用した株式会社朝日新聞社の過年度有報のデータをもとに、週刊朝日の部数を確認してみると、確かに見事に「右肩下がり」であることが判明します(図表3)。

図表3 週刊朝日の部数

(【出所】株式会社朝日新聞社・過年度有価証券報告書データをもとに著者作成)

2006年3月期から22年3月期までの増減でいえば、33.1万部から8.6万部へと、じつに74.02%も減少した計算です。とくに週刊朝日はこのところ毎年のように、1~2万部ずつ減少しており、理屈の上ではあと5年もすれば部数はゼロになる計算でした。

昨年3月末時点において、部数自体はまだゼロにはなっていませんが、このままだと廃刊も時間の問題だったのです。

今後はウェブ特化?それとも…

ちなみに朝日新聞出版側は、「週刊誌市場が縮小するなか、今後はウェブのニュースサイト『AERA dot.』や書籍部門に、より一層注力していく判断をしました」と述べているそうですが、この判断は同社に留まるものとも思えません。

ごく近い将来、新聞業界においても、紙媒体の新聞の発行を取りやめるという決断をせざるを得なくなる社が複数出現することは、ほぼ間違いないというのが著者自身の見立てです。

最大手の朝日新聞ですら部数減に苦しんでいるなかで、(自称)「経済紙」としての地位を(曲がりなりにも)確立している日経新聞社、経営体力がある朝日新聞社や読売新聞社などを別とすれば、規模が小さい新聞は経営体力的に紙媒体の発行を続けられるとも思えないのです。

このうち、ローカル紙(中日、東京、神奈川、北海道、京都などの新聞や沖縄タイムス、琉球新報など)は、まだ「特殊な需要」があるのかもしれませんが、一般全国紙(朝日、読売、産経、毎日など)の場合は、もしかすると紙媒体の廃止を決断する社が出てくるかもしれません。

個人的には、他紙があまり取り上げないような独自記事を多く配信している産経新聞社あたりが、戦略的に紙媒体の発行を取りやめ、ウェブに特化したメディアとして生き残る可能性は高いとみているのですが、それだけではありません。

もしかすると、新聞の休刊(廃刊)ラッシュが発生し、休(廃)刊を通り越して廃業(というか倒産)する社も出てくるのではないでしょうか。

いずれにせよ、週刊朝日という新聞社の名を冠したメディアが「休刊」に至るというのは、新聞業界の未来を占ううえで、じつに象徴的な出来事に思えてならないのです。

新宿会計士:

View Comments (29)

  • 週刊朝日が休刊になるということは、週刊朝日編集長というポストがなくなることも意味します。そこを、社内で、どう処理(?)したのか、個人的に興味があります。

    • すみません。追加です。
      (別に週刊朝日に限りませんが)雑誌の休刊ということは、社内的には、「いずれ、復活することもあり得る」ということになっているのでしょうか。

      • 今回の週刊朝日の場合に限らず,日本において商業的に定期刊行されて来た雑誌の刊行を(将来の刊行再開へのプランについて多少なりの見通しが全くなく,つまり)事実上は完全に打ち切るしかないと判断したという実態を正しく反映した言葉を使って「廃刊」と呼ぶことはほぼなく,ほぼ例外なく「休刊」と称しています.(率直に言って,私個人としては,一般大衆向けの定期刊行商業誌(漫画雑誌も含め)の定期刊行ストップの発表は,物心ついてから現在までに何十件と見聞きしましたが,その発表において「休刊」でなく「廃刊」と出版側が称したケースは1例も思い出せません)

        個人的には,この実態と乖離した言葉の誤用は,言霊信仰を実質上の国教としている日本ならではの現象だと考えます.

        • 失礼,補足です.

          以下は証拠は全くなく単なる私の推測に過ぎませんが,「アウシュビッツでのユダヤ人虐殺はなかった」という記事で世界中のユダヤ人ネットワークを敵に回した結果,廃刊に追い込まれたマルコポーロ誌の場合は上の拙論の例外かも知れません.

          同誌を刊行していた出版社が「弊社の雑誌全てへの広告ボイコット運動を行われると弊社は確実に倒産してしまいます.それだけはやらないで下さい,ごめんなさい,ごめんなさい,どうか許して下さい」という心からの謝罪と恭順の意を猛抗議して来た(そして雑誌の広告主である多数の日本の大企業に対してユダヤ人ネットワークの総意として当該出版社の定期刊行物への広告出稿を控えろと圧力を掛けようとする動きに出た)ユダヤ側に示すために,マルコポーロ誌の刊行打ち切りの発表では「休刊」でなく正しく「廃刊」という言葉を使った可能性があると推測します.

        • 廃刊でなく休刊とするのは、雑誌コードと呼ばれる(今は少し名前が変わっていたかも)流通用のIDが枯渇しており、
          廃刊とするとコードの返上が発生するので、既得権として保持するために休刊とするのだと認識しています。(出版社が倒産等で消滅する場合を除く)
          まぁ雑誌というマーケットが瀕死状態なので、今後は廃刊が相次ぐかも知れません。

      • 雑誌の事実上の廃刊を休刊と称するのは、聞いた話で信憑性は少ないのですがつぎのように説明されていました。
        日本の雑誌には雑誌コードという5桁の数字が各雑誌に割り当てられていますが、10万とおりしかないため、新規に取得することが難しいためだそうです。
        休刊なら手元においておけますが、休刊とすると返上となるため。
        //

        • 年金受給者様,みったぁ様

          雑誌コードの件,御教示有難うございました.

          ただ,「雑誌コードが枯渇しそうなので確保しておきたいから廃刊でなく休刊扱いとして発表する」という「休刊」扱いの説明は,バブル時代のように新しい雑誌がどんどん刊行されて未割当ての雑誌コードがどんどん減少し続けていた時代ならば理解できますが,昨今のように凄い勢いで次々に雑誌の刊行が打ち切られている時代では,各出版社が正直に「廃刊」として発表し雑誌コードを返上すれば雑誌コードの枯渇の心配は全く無くなる筈です.(しかも,これだけ各出版社で休刊という名で雑誌の廃刊が続き新しい雑誌の刊行が稀で実際にコードを返上していないのであれば,各出版社が保有する空き雑誌コードのストックは相当な数になっている筈です)

          ですので,少なくとも現代において雑誌の廃刊を「休刊」として発表する理由は雑誌コードの枯渇ではなく,他に理由があると推量する次第です.

          (また逆に,未だ雑誌がさほど多くなく5桁つまり10万個の雑誌コードには十分過ぎるほど余裕があった時代でも,雑誌の廃刊は「廃刊」でなく「休刊」という言葉で発表していたことも,雑誌コードの枯渇では説明できません)

          ですので,日本国民の経済的余裕の増大で人々の関心が急激に多様化したことの反映として次々に新しい雑誌が誕生して雑誌コードの枯渇が心配された景気の良かった時代だけでなく,ドラマ・バラエティといったテレビ番組でも音楽でも日本国民の大半が知っており「国民的」と称されるものが当たり前の如く存在していた日本社会が多様性に乏し(いということは,即ち雑誌を読んでいた人々の関心や興味が未だ多様性に乏し)く従って雑誌に関しても現代のように多様性がなくて雑誌コードに十分過ぎるほどの余裕があった1970年代という大昔から,逆に雑誌の廃刊が続き再び雑誌コードの空きがどんどん積み上がり続けている現在に至るまで,雑誌の廃刊時には,廃刊される雑誌の編集スタッフの未練を汲み取っての言霊として「休刊」と発表し続けているのではないか?と,私は推測(それとも邪推かな?)する次第です.

    • 🐈じゃん 様

      誤りです。差し替えます。ご指摘大変ありがとうございました。

  • 山藤章二と夏目房之介は、何年もすぎたバックナンバーをいま読んでも、ウププと笑える価値あるコンテンツでしたね。

    • CRUSHさま
      ということは、100%前と同じ復刻版を出しても、山藤章二と夏目房之介を読みたくて売れるということでしょうか。(若き日を思い出したい高齢者が、買うかもしれません)

  • 図表3のほぼ単調減少のグラフ、ちょっと見入ってしまいました。
    グラフの上から下まで空間なく埋まるグラフは、だいたい縦軸の下が足切りになってるんですが(オールドメディアに多い)、これは切ってないんですよね。
    直線的な減少ということは、前年比減少率は加速しているという・・・私が社員だったら痺れます。

    >今後はウェブのニュースサイト『AERA dot.』や書籍部門に、より一層注力していく
    がんばってね。(棒)

  • 朝日ジャーナルが消え、今度は週刊朝日が消え、いよいよ本丸も風前の灯火。

    朝日新聞は、もはや不動産業でしか生き残る手立てはなさそうですね。
    朝日エステートと看板書き替えた方がよさそうです。んぷぷっ!

    羽織ゴロの末路や哀れ、としかいいようがないです。

  • 昨年2月で自称8.6万部?という事は、週刊朝日は実売半分以下として、3万部ぐらいかな?本当に売れないんでしょう。6月に休刊という事は、
    ①そのタイミングで出稿スポンサーが大量に脱落した。または既にタダ広告がある。
    ②新規開拓のスポンサーが見つからない(値下げしても契約して貰えない)。
    ③1年で一番売れる(私見)「大学合格者高校別発表号」を私大から順次6本ぐらい刊行し、従業員の退職金の原資にしたい。
    ーーーでは無いかと(笑)。ちなみにあゝいう大学合格者発表号を出してるのは、同じく死亡間近のサンデー毎日です。でも内容はというと、両雑誌とも韓流オシだらけです。

    朝日新聞系列の出版は小難しいことを書いてるかつての左傾雑誌「朝日ジャーナル」、「AERA」(まだあるのでしょうか?)などがありましたが、読者も高齢化と活字を追うのが辛くなって、辞めていってます。どうか朝日新聞社さん毎日新聞社さん、一刻も早くくたばって戴く事を祈願してます。

  • 最近はオタク層を取り込もうとして、
    人気アニメなどを表紙に
    延命を図っていた週間朝日、
    いつもイライラして
    コンビニの本棚を見ていましたが、
    そうですか、
    休刊ですか、

    昔から、
    多数の雑誌の最期を看取ってきましたが、
    こんなにも忌み子扱いされて消える本も
    そうそう見当たりませんね、

    では、
    最後に一言、

    こんなに嬉しいことはない✨✨✨✨。

  • まだ大学生だった宮崎美子を表紙に載せたのは週間朝日だったような。当時、親父が購買していたのでおぼろげながら覚えています。
    週刊誌も新聞紙も団塊世代と運命を共にしていると思います。
    それにしても、このグラフ。普通この手のグラフは等比数列的な減少となる気がするのですが、こいつは等差数列。興味深いデータです。

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