岸田文雄首相の訪米は、総合的に見ればそこそこの成功だったと考えて良いと思います。ただ、日米共同宣言を眺めてみると、やはり前任者である菅義偉総理大臣の時代の成果をそのまま継承し、発展させているような内容のものが多く、岸田首相の独自色に基づく成果と断言するのはいささか早計です。こうしたなか、「あの」官房副長官のとある姿が、ネット上でちょっとした話題となったようです。
前任者路線の継承
週末には岸田文雄首相が就任後初めて米国を訪問し、ホワイトハウスで日米首脳会談を行いました。
外務省ウェブサイト『総理大臣の外国訪問一覧』によると、岸田首相は就任以来、「核兵器不拡散条約運用検討会議」や国連総会参加のために訪米したことはありましたが、正式にホワイトハウスを訪れたのは初めてのことです。
日本にとって最も重要な同盟国である米国を訪れるのがここまで遅れた理由はよくわかりません。「コロナ禍のため」というのも、あまり理由の説明になっているようにも思えないからです(事実、前任者である菅義偉総理大臣は、わずか384日の在任期間で2回も訪米しています)。
このあたり、一部のうわさに基づけば、バイデン氏(というか米国政府)は岸田首相、さらには岸田政権関係者を強く警戒しているのではないかとの情報もあるようですが(警戒されているのは、とくに外相あたりでしょうか?)、真偽は不詳です。
この点、日米共同声明(『【資料】日米共同声明「逐語訳」』等参照)を見ると、一見すると非常に力強いコメントが並びます。
たとえばジョー・バイデン大統領が尖閣諸島にも安保条約第5条が適用されると明言したこと、拉致事件解決にコミットしたこともそうですが、それだけではありません。中国とロシアをはっきりと名指ししたこと、台湾海峡の防衛にもコミットしたことは、その一例です。
しかし、2年近く前の『台湾防衛にコミットした日本:日米同盟は経済同盟に!』あたりでも触れたとおり、中国を名指ししての批判や台湾海峡への言及は、すでに菅総理の訪米のときにも出ていた話であり、新しい点はありません。
日米首脳会談が英米メディアでも大きく取り上げられる時代に日本時間の土曜日早朝に実施された日米首脳会談の最大の成果は、とにかく「中国を名指しした」ことと「台湾海峡」を明示したことでしょう。しかし、それだけではありません。日米同盟はいまや「軍事同盟」であるだけでなく、「経済・産業同盟」に発展しつつあるのです。日米豪印、日米ASEANといった「多国間連携」への道も見えてきました。日米首脳会談概要ホワイトハウストップページに大きく掲載米国時間の4月16日(金)夕方、つまり日本時間の17日(土)早朝に実施... 台湾防衛にコミットした日本:日米同盟は経済同盟に! - 新宿会計士の政治経済評論 |
菅総理の時代になかった「新たな論点」といえば、ロシアに対する非難声明があります。しかし、ロシアによるウクライナ侵略が発生したのは、菅総理が辞任し、岸田首相が就任して以降の国際情勢の変化であり、これはある意味で当たり前のことでしょう。
さらには「CoReパートナーシップ」も菅総理とバイデン大統領の時代に合意されたものであるため、あまり新味はありません。岸田首相自身、「やるべきこと」をきちんとやっていることは間違いないにせよ、やはり前任者が敷いた路線に乗っかり、訪問先で勝手に成果が降ってきたようなものなのかもしれません。
日韓関係「改善」圧力は確認できない
余談ですが、『韓国大統領をG7に呼ぶ意味を巡る鈴置論考の注意喚起』では、韓国観察者の鈴置高史氏が「日韓関係を改善しないと米国に怒られる」と主張する人たちが出て来ると警告した、とする話題を取り上げましたが、結論からいえば鈴置氏の見立てが大正解でしょう。
今回の鈴置論考に「関係者」は顔を真っ赤にして激怒か「日本が韓国に譲歩する」式の「自称元徴用工問題解決策」を画策しているであろう者たちが読むと、顔を真っ赤にして怒りそうな記事が出てきました。韓国観察者である鈴置高史氏が、「『韓国大統領をG7サミットに招待しないと、米国に怒られる』と言い出す人が出そう」だと警告したのです。そして、私たち日本国民が知っておかねばならないのは、日本がちょっとやそっと韓国に「譲歩」したところで、韓国を動かすことはできない、ということでしょう。岸田首相や岸田政権は怪しい... 韓国大統領をG7に呼ぶ意味を巡る鈴置論考の注意喚起 - 新宿会計士の政治経済評論 |
韓国については日米豪印クアッド、ASEANアウトルックのあとに、3番目にサラッと触れられただけであり、米国としても韓国との協力関係については、バラク・オバマ政権末期ごろと比べれば、その重要性に対する認識は薄らいでいるのでしょう。
2015年12月の日韓慰安婦合意は、当時副大統領だったバイデン氏が後押ししていたことが有名ですが、少なくとも自称元徴用工問題を巡る「後押し」が米国からなされている形跡はありません。
いずれにせよ、自称元徴用工問題で「韓国に譲歩しなければ米国に怒られる」という可能性は高くないというのが、現時点における著者なりの評価です。
両手をポッケに突っ込む姿を撮影されてしまった官房副長官
さて、日米首脳会談の直後に行われた記者会見では、木原誠二・官房副長官の「とある行動」が話題になったようです。
動画自体の投稿者は「朝日新聞官邸クラブ」の公式ツイッター・アカウントです。
岸田首相が話し始めた冒頭から8秒目くらいまでの間、後ろで木原副長官がポッケに両手を突っ込んでいるシーンが映っていますが、「ふんぞり返っている」として、ツイッター上で複数のアカウントから批判を受けているようです。
なかには、「岸田(首相)は俺の言いなり」と断言した、などとする噂話(※真偽不詳)と絡めて、「さすが岸田(氏)をコントロールしている人間は偉そうだな」、などとするツイートも見られます。
本件について、当ウェブサイトとしてはたかが10秒前後の立ち居振る舞いをもって、「木原(氏)は偉そうな人間だ」、「木原(氏)は官房副長官に不適な人間だ」、などと断定することは控えたいとは思いますが、ただ、要人にもなると、ちょっとした立ち居振る舞いが大きな話題となる可能性があることも事実です。
その意味では、カメラが入っている前でポッケに両手を突っ込むという姿を撮影されてしまったこと自体、木原氏にとってはミスだったといえるのかもしれません。
いずれにせよ、今回の岸田首相の5ヵ国訪問、やはり安倍、菅両総理が敷いた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」路線の継承という意味では、やや心もとないところではあるにせよ、そこそこの成果はあったことについては素直に歓迎して良いでしょう。
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岸田氏自身による独自外交部分はないでしょう。ロシアや中国に対する包囲網を西側が協調して行う必然性から,形として,このような協調性を見せつけるための外交が自然発生的に必用になっっているわけっです。その中で,経済問題のような対立を表面化するのは不都合なので,意志の一致を見せつける部分だけの会談になったのでしょう。
それから,徴用工問題へのアメリカからへの圧力というのは,韓国のほうに強くかかっているのですよ。アメリカさんの意図は「韓国には俺から圧力をかけるから,適当なところで許してやってくれ」という感じのものでしょう。
韓国メディアは大騒ぎです。岸田総理の欧米外遊の最後を飾る日米首脳会談はかなり大きく韓国でも報じられており、「ヨーロッパでも日本の防衛力強化が歓迎されてしまった」「彼らも中国による脅威があることを認識している」「アメリカはかつてないほどに日本との同盟強化を行っている」といったところ。
この結果は要するに防衛原則改定した岸田政権のおかげであり、安倍麻生管からの受け継ぎだとしても方針転換や変節をしなかったからです。
つまり方向性を維持はしていて、石破や野田聖子、野党の面々とは真逆であるわけです。岸田首相の独自性なんて、ハナから期待するから拘ってしまう。良いじゃないですか安倍首相の方向性を堅持してくれるだけで御の字ですよ。あんな林みたいなのを飼わなきゃいけない党内情勢の割には良くやってますよ。
何より、韓国が狼狽してるなら素晴らしい成果と言えましょう?w
相変わらず岸田首相は「なんか遅い感じはあるし、色々不安な点はあるけれど、
とりあえずやるべき事は一応やっているし、致命的なミスは別にない」と言う印象ですね。
私の彼の評価はずーーっとこれで固定されちゃっています。
もしかしたら「のらりくらり」「昼行燈のフリ」が上手い曲者なのかも?と
思う事も時々あるのですが……これはさすがに過大評価かなあ……?
プー「他人の命と思えば安いもんだ」
キチ「他人の金と思えば安いもんだ」
ちょっとした細かいことに気をつけないと言うか普段の姿勢が素直に出てしまったと言うか、いずれにせよ政府要人としての根本的な資質に問題がある?と思われても仕方ありませんね。ところでこの人物、巷では『ひとでなし』とか噂されているようですが、なんとなくフッフッフですね。岸田総理はこの人物に操られているのかどうか?わかりませんが、韓国の戦時出稼ぎ労働者詐欺問題の解決に日本の一貫した立場を貫くことが出来るか?が2度騙された愚か者は2度あることは3度あるどころか何度でも騙され続けるのか?のリトマス試験紙になるんじゃないでしょうか?
日米首脳会談についての感想は雑談部屋で書いちゃったので、ここでは繰り返しません。また、日米首脳会談後に行われた岸田総理のSAISでの講演についても、素人様がURLを貼ってくれましたので、そちらも参考になると思います。
また、岸田総理が前任者たちが敷いた道の上を歩いているというのは全くその通りですが、それがまるで問題点であるかのように言われるのはちょっと理解に苦しみます。独自性がない? 「独自性」なんぞ打ち出したら、「安倍路線からの逸脱」だと言って、ここぞとばかりに叩くんでしょうに。前任者たちが敷いた路線を維持継承し、三文書改訂や防衛費増額という形でさらに発展させているという点は、素直に評価すべきことと思います。
その上で岸田総理に注文を付けるとすれば、SAISでの講演で外交と防衛とのバランスについて触れていましたが、その観点から言えば、強力な情報機関の設立を検討願いたいということと、与国との協力を強化するためにもスパイ防止法の制定を検討願いたいということです。改憲にまで踏み込めればなお良いですが、現行憲法の枠内でもできることはまだまだあります。
そこまで実現出来たら、岸田総理も歴史に名を残す大宰相と呼べるようになるのでしょうが、ちょっと難しいかなぁ。まずは、今回の訪米で示された「決意」を具体化するところからですね。
余談:
バイデン大統領とのツーショットで、岸田総理は国内では見たことないようないい笑顔を見せていました。政治家が喜怒哀楽を見せすぎるのもどうかと思いますが、もう少し国内でもあのような笑顔を見せる場面があってもいいんじゃないかなとは思います。
>岸田総理が前任者たちが敷いた道の上を歩いているというのは全くその通りですが、それがまるで問題点であるかのように言われるのはちょっと理解に苦しみます。
誰がそんなことを…
大筋同意ですが
>総合的に見ればそこそこの成功だった。
ここは大成功と言って良いと思います。
・G7と歩調を合わせた対ロ制裁(クリミア侵攻時の安倍さんと比較しても)
・安保3文書改訂と防衛費のGDP比2%化
は明らかに国際情勢を的確に捉え、判断した岸田さんの功績です。
ただ、2%を恒久的に維持する(金額も)経済力(国力)をどう発展させるか注目。
後は、強化した防衛力を抑止力としてうまく使えるか 米国の駒となるだけか、官僚も含めて真の外交力が試される。
木原さんについては ”育ちが出た” という事でしょう。
(麻生-)安倍-菅-路線を継続することこそが岸田総理に求めていた事なので、本件のような成果は個人的には満点です。これは岸田氏の資質を皮肉ったりするものではなく、誰が後継であっても同様に。こうならなかったかもしれないと強く懸念される候補も居たわけですし。
であれば尚更、本質的には重要ではない部分でケチをつけられないのが望ましいですが……まぁ同時期に「女性保護活動家と"連帯"している党で性犯罪防止を訴えていた議員がガッツリ性犯罪」だの「反安倍だけで当選した議員が辞職」だの本質的にアカンのが並んでいると、食堂の給仕係がポケットに手を突っ込んでいたくらいまいっか……となってしまいます。これはこれで良くないですね。
前者はただの犯罪なので捨て置いて、後者は「お腹が痛くて辞職」だの「体調に不安なものが立候補などするな」などと息巻いていた方々がどう擁護するか注視しています。これらを報道せずに"ポケット"だけ書き立ててたら笑うなぁ。
(別に岸田総理に限った話ではありませんが)何をしても前任者と比べられて批判される、または(前任者が最悪の場合に限られますが)褒められるということでしょうか。
蛇足ですが、「もし,今、安倍元総理が再々登板していたら、もっとうまくいっていた」と、実際には決してあり得ない仮定をする人も、でてくるでしょう。なにしろ、菅義偉(前)総理なら、今後、再登板することも可能ですし、その場合、どこまで上手くいくかは誰にも分かりませんから。
アメリカの立場としては、今後中国と対峙していくためには日本の協力が不可欠です。
今回の日米共同声明は、アメリカの現状認識に基づく今後の対日政策を表明したものであり、それに日本が同意したという感じではないかという気がします。
アメリカがFOIPを重視していることは大変喜ばしいのですが、岸田首相がイエスマンに見えてしまうところが気がかりです。
おチン○○のポジションが悪かったのかと思いましたが、そうでは無いようですね。
ただ10秒ほどで直ぐに本人も気づいて修正してますので真相はよく分かりません。
2006年12月の盧武鉉大統領のポケットに手を入れての演説を思い出しました。