「国債発行は失礼だから増税で」。こんな主張が出てきたようです。産経ニュースによると、自民党の猪口邦子・元少子化担当相は14日、「命をかけて国を守る人を税金で支えるというメッセージを出すのが政治の仕事」などとしたうえで、「自衛隊を税金で支えず、国債で支えるとは失礼に過ぎる」と述べたそうです。財政学にマナーが必要だとは、初めて知りました(笑)。
岸田首相の「国民の責任」発言
岸田文雄首相は先週、防衛費の財源を1兆円程度の増税で賄う方針を表明しました。しかし、この唐突な「岸田増税」に対し、日本国民はおろか、党内、あるいは閣内からも批判の火の手が上がっています。
こうしたなか、昨日の『無責任な岸田首相「防衛費は国民が責任もって負担を」』では、岸田文雄首相の「国民の責任」発言を紹介しました。
やることをやらずに増税というのもおかしな話ですが、岸田首相はあくまでも増税を押し切るつもりなのでしょうか。岸田首相は昨日、「責任ある財源が必要」として、増税に理解を求めたそうです。安易な増税に逃げている時点で、ご自身が「責任ある態度」を取っているとは言い難いなかで、なかなかに戸惑う発言です。その一方で、高市早苗氏は昨日、「総理の真意がわからない」などとする自身の発言を巡って「罷免されるなら仕方がない」との見解を示したそうです。財務省のロジックの誤り:税収弾性値は1.1ではない!防衛費増額のための... 無責任な岸田首相「防衛費は国民が責任もって負担を」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
報道によると、この発言は13日の自民党役員会でなされたもので、防衛費の増額を巡っては「責任ある財源を考えるべき」としたうえで、「いまを生きる国民が自らの責任としてしっかり重みを背負って対応すべきもの」、などと述べたものだそうです。
想像するに、この「国民の責任」云々の発言は、予想外の反発にひるんだ岸田首相が苦し紛れに捻り出した「ロジック」(?)のようなものかもしれませんが、それと同時に「国民が自らの責任として」云々の言い草は、「増税の前にやるべきことがある」という疑問に答えたものではありません。
「国民の責任」を「我々の責任」に微修正?
これに関連し、「続報」が出てきたようです。
首相、「国民の責任」発言を修正 防衛増税、自民幹部が紹介
―――2022/12/14 19:52付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】
共同通信によると、岸田首相の「国民が自らの責任」云々とするくだりについては、自民党のウェブサイト上、「今を生きる我々の責任」に修正したと報じています。
これについて、事実確認をするために自民党のウェブサイトを眺めてみると、たしかに「国民」ではなく「我々」となっています。
役員会・役員連絡会後 茂木幹事長記者会見
―――2022/12/13付 自民党HPより
自民党によると、茂木敏充幹事長は会見で、次のように発言したそうです。
「一方、今、議論しているのは、新たな脅威に対し、ミサイル、戦闘機等の防衛能力を抜本強化し、日本人の暮らしと命を守り続けるという話。責任ある財源を考えるべきであり、今を生きる我々が、自らの責任として、しっかりその重みを背負って対応すべきものである。自らの暮らしを守り、国を守るという国民一人一人の主体的な意識こそが何より大切なことは、ウクライナの粘り強さが示している。このことも十分念頭に置いて議論を進めていただきたい。役員の皆さんのご協力を改めてお願いする。こうしたお話がありました」。
このあたり、共同通信の報道が事実なのかどうかについては、私たち一般人には確認のしようがありません。
岸田首相が最初から「国民が」ではなく「我々が」と発言していた可能性もあるからであり、その意味では、共同通信の「岸田首相が発言を修正した」とする報道自体が正しいのかどうかについては、鵜呑みに信頼すべきではありません。
もっとも、「責任ある財源を考えよ」という岸田首相の発言自体が無責任であるという点については、まったく変わりません。そもそも国防は現在だけでなく、未来の日本国民に対しても多大な恩恵をもたらすものですので、これを現在生きる私たちだけが負担すべきものなのかどうか、という議論は当然にあり得るからです。
また、この岸田首相の発言自体、「なぜ増税で賄われる金額が(増額される防衛費のうちの)1兆円なのか」、「今年は3兆円も税収が上振れていることとどう整合性をつけるのか」、といった一般国民の疑問について、何も答えていないものですし、経済安全保障担当大臣の高市早苗氏や経済産業大臣である西村康稔氏らを排除した場でそれを表明したという点も、疑問点として残ったままです。
国債発行もマナーの時代に(笑)
こうしたなかで、さらに奇妙な発言を発見しました。
自民・猪口氏 防衛増税に賛意「国債は失礼に過ぎる」
―――2022/12/14 17:58付 産経ニュースより
産経によると、自民党の猪口邦子・元少子化担当相は14日、党本部で記者団に対し、防衛費財源の一部を増税で賄う方針に賛意を示したうえで、次のように述べたのだそうです。
「命をかけて国を守る人を税金で支えるというメッセージを出すのが政治の仕事だ。<中略>自衛隊を税金で支えず、国債で(支える)とは失礼に過ぎると思う」。
財政学もついにマナーの時代になったのでしょうか(笑)。
このような認識の人物が閣僚を務めたというのも強烈ですが、失礼ながら政治家でいらっしゃるなら、最低限の財政学を学ばれた方がよろしいのではないでしょうか?
いちおうマジメにツッコミを入れておくならば、使途を限定した税金などでもない限り、おカネに色はありませんので、その支出が法人税により納められた税金に対応したものなのか、所得税なのか、消費税なのか、国債なのかについては関係ありません。
むしろ「増税により防衛費を賄う」という方針を示すことで、国民の間で増税と関連付けて、自衛隊に対する反発が生じるようであれば、そちらの方が自衛隊に対して失礼というものでしょう。
いずれにせよ、「国債は失礼だから増税で」、というロジックはあまりにも斬新過ぎると思うのですが、いかがでしょうか。
View Comments (28)
猪口先生、斬新な発想のご開陳に、目からうろこです。
小生は先生ほどの学歴もなく、
ただの法学士(政治学)です。
向学のため、是非とも財政学と政治学の融合させた、
思想体系をものす事を期待いたします。
いつ頃のご出版になりましょうや。
「初めから国債でやるといえば、この国は防衛を本気でやろうとしていないと思われかねない」と結ばれているので(誰から?)、こちらが主旨(少なくとも建前上)なのだとは思いますが、これ国債を悪いモノ、あるいは手段として劣るモノと認識していないとちょっと出てこない発想なのかなぁと思います。ちょうど「戦争前に国債がうんたら」という論が出たところですし、気にしたのでしょうか。
素人考えで恐縮ですが、税で賄おうが国債で賄おうが、敵国も同盟国もあまり気にしないと思います。敵味方どちらも気にするとしたら「不足が出る場合」だけでしょう。
なるべく好意的に捉えて、正式・安定的に運営すべきだという提言であるならば、そもそも違憲状態などと議論されている状態を改正せずに運用し続けていることこそが、自衛隊・国防に対し失礼に過ぎます。
国防が重要視され、軍人が尊敬されて、日本国が堂々と平和貢献することは確かに理想なのですが。
はぁ…
タイムマシンがあったならば過去の自分を殴りに行きたい…
>命をかけて国を守る人を税金で支えるというメッセージを出すのが政治の仕事だ。
ここのとこみると、自衛隊員の給料を上げるとか、そういう話をしてるのかな?って思えるのです♪
ひとり30万円くらいかな?
・・・・・・冗談はおいといて、なんかとっても無責任な発言に聞こえるのです♪
国をどうやって守るのか?そのための制度をどのようにするのか?費用はどうやって捻出するのか?
どれも国民の代表たる国会議員が一生懸命に考えて答えを出していく問題だと思うのです♪
政治家の役割はそういった議論を丁寧に積み上げることだと思うのです♪
真意はともかくとして、あたしには「国防は自分じゃない誰かが頑張ってくれれば良いんだ」みたいな、どこか他人事として捉えているように感じたのです♪
彼が欲しいのは、税制に効くチカラ。
彼に必要なのは、they sayを聞くチカラ。
喫緊に用途を特定した財源が必要なのであれば、防衛債の発行で賄えばいいと思います。
非常事態ではないのですから、手順(インフォームドコンセント)が大切だと思います。
*『聞く力』は何処の彼方に・・。
勘違いしないでください。
ちゃんと財務官僚の言うことだけを素直に聞く力があります。
コメント失礼します。
高橋洋一氏の著作だったか?「財務省は金本位制(金の保有量しかお金を刷れない)を理想としている」と呼んだ記憶が有ります。
金本位制なら外債(外国からの借金)か増税か進入と獲得(紛争)位しか手段が有りませんが、主様が別の記事でも指摘している様に、税収が増えても税率増と新税追加を求め続けるのは、日本国が金本位制で有ると日本人に誤認させたい目論見も有るのではと疑ってます。
知識も歴史も力なので、マクロ経済や国際法(強制法ではない。欧州の慣習や合意。やくざの仁義みたいなもので、守った方が得なら守れば良い)について多くの日本人が学んでくれる事を願います。
プロセスは知りませんが、結果だけを眺めてると金本位制で思考行動してると言われたとしても、その通りですよね。
一つの仮説ですが、人事交流で
「中央政府」と
「地方自治体」
とを行き来することで財務担当官たちの頭の中が切り替えできてないのかもしれませんね。
地方自治体は入と出を合わせないとダメだけど、中央は違う(はず)。
なんだけど相談や指導してるうちに行政としての首尾一貫性を保持したくなる役人魂が発動して、
「国政が地方自治の規範とならねば!」
「示しがつかん!」
「入っただけしか使えないのは当然」
みたいな壮大な集団勘違いに突入しとるのでは?
返信失礼します。
>CRUSH様
財務省内の気風は私には解りませんが、大蔵省の頃はまだ日本国の生存と発展に貢献する意思は有りましたね。1ドル360円での高度経済成長、所得倍増を邪魔しませんでしたし。
田中角栄に負けてインフレが過熱してもバラマキし続けた結果、政治屋、政治家、日本人への憎悪が形成され、後続に受け継がれているのかも知れません。ノーパンしゃぶしゃぶとかで責められ、名前変えられたのも悔しかったのでしょう。
財務省が会計を特別と一般に分け、中央の入出を1円単位で合わせる事を尊ぶ(単年度予算万歳!)内は、私達日本人への不利益は続くでしょう。
財務省主計局、内閣法制局、検察は3大カルト(前提が変わっても結論が変えられない、異端と異論が許せない)官僚としてもっと警戒されても良いと思ってます。
結局は事務屋、実働部隊にちゃんと命令出来ない無能な指揮官が悪いんですけどね。つまり政治家と私達。「愚民が蔓延れば政府は厳しい対応をする」
日本人は賢くなれる素養も環境も有るけど、無関心故に反日に愚弄され搾取され続ける。私も含めて勉強が足りんのですよ。
猪口議員の発言は意味不明ですね。
なぜ自衛隊員に失礼なのか、私には全く理解できません。
現状のほうが余程失礼な状態なのではないでしょうか?
企業が設備投資をする場合、設備は社債など長期の借り入れや場合によっては増資、人件費や設備の維持費、減価償却費など固定費の増加は利益の増加を図ることによって賄うことを計画するのが一般的かと思います。
いきなり増税で設備投資を行うというのは、値上げで資金を捻出しようとしているようなものです。
売り上げが減ったら再度値上げをするつもりなのでしょうか?
>いきなり増税で設備投資を行うというのは、値上げで資金を捻出しようとしているようなものです。
>売り上げが減ったら再度値上げをするつもりなのでしょうか?
正鵠を得た素晴らしい例えです。
増税の話題を出してしまっただけでも大きな失点。
多分、岸田さん本人は分かっていないと思います。
やっぱり財務省の課長レベル。
ピンハネではなくて自分で働いて居れば判ることなんですがね。
こんなんでは、新しい資本主義なんて掛け声だけと化けの皮が剥がれてしまった。
岸田さんには
"It's the economy, stupid!"
を送りたい。
財務省の課長レベルでもこれくらいの理屈は分かっていると思います。
でも、省益優先の組織の風土が真っ当な意見を封じ込めているのでしょうね。
ここは政治家の出番だと思いますが。
ただ、「軽い神輿」の方に組織の勝手な政策を抑え込むことができるとは到底思えません。
日本に最早国士は居ないのでしょうか?
私は、思い込みの強い方は必ずしも歓迎しませんが、今は毒を持って毒を制すという局面ではないかと思います。
企業が社債で資金を調達して設備投資を行い、その後、目論見が狂った場合は企業が消滅するから影響は限定される。
政府の場合は、目論見が狂ったとしても消滅しない(あるいはできない)から債務を増やすことに慎重になる。
>国債発行は失礼だから増税で
自衛隊員の意見を聞いてみたい。
猪口先生とかが妙なことを言いだしたり、「国民の責任」は間違いで正しくは「我々の責任」だとか官房長官が言い訳してみたり、増税論議が盛大に揉め散らかしてますけど、これって、岸田総理が碌な根回しも党内意見集約もしないままに、増税しますありきで先走っちゃった結果であることは一目瞭然ですよね。
なんでこんな行き当たりばったりみたいなことをやってるのか、理解に苦しみます。少なくとも、岸田総理が何とか自分の力で防衛費の捻出にめどをつけなければと真剣に自分の頭で考えているのならば、どこを切り崩そうとか、誰を味方に付けようとか、いろいろ策を巡らすもんじゃないかと思うのですが、そんな様子が全く見受けられません。それでいて、増税の旗は頑なに降ろそうとしないで、ただただ突っ走ろうとしています。
自分が昨日もコメントしましたが、おそらく岸田総理は、自分自身に防衛費の捻出手法に関する確たるポリシーはなく、そもそもどうすればいいのかについてのアイディアもないので、財務省に対応を一任して良きに計らってもらった結果として、財務省が描いた絵のとおりに動くしかなくなってるんだと思います。
この件で岸田総理が増税増税と突っ張れば突っ張るほど、岸田総理の意思と能力のなさが露わになってしまうという、何とも皮肉な結果を招くような気がしております。
道徳を持ち出して、自己の主張を正当化する好例ですね。
そもそもそんな道徳は存在しないのですが。