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自称元徴用工解決策は「1~2に絞られた」=韓国高官

またしても韓国側から、日韓諸懸案を巡って奇妙な発言が出てきました。自称元徴用工問題を巡っては「日韓の実務協議で解決策は1つから2つに絞られた」うえ、「強制動員と日本軍『慰安婦』問題、輸出規制、GSOMIAなど韓日懸案はすべてつながっている」としたうえで、自称元徴用工問題の解決を端緒にこれらの諸懸案の「一括妥結」を図る、というのです。

自称元徴用工の解決策「1つか2つに絞られた」

韓国メディア『ハンギョレ新聞』、『中央日報』(いずれも日本語版)は今朝、自称元徴用工問題を巡り、韓国大統領室関係者が「日韓の実務協議で解決策は1つから2つに絞られた」と述べた、と報じました。

大統領室「強制動員解決策、韓日実務協議で一つから二つに絞られた」

―――2022-11-17 06:55付 ハンギョレ新聞日本語版より

韓国大統領室「里程標立てた…韓日徴用問題解決策1~2案に絞られる」

―――2022.11.17 06:59付 中央日報日本語版より

2つの記事のうち、内容が短いのはハンギョレ新聞の方です。

ハンギョレ新聞によると、金聖翰(きん・せいかん)国家安保室長は16日、龍山(りゅうざん)の大統領室で開かれた「東南アジア歴史決算ブリーフィング」の場で、「両国の最大懸案である強制動員賠償問題」(※原文ママ)を巡って、次のような認識を示したそうです。

「(日韓首脳は13日の首脳会談で)両国間の懸案を解決するための明確な意思を確認し、現在進めている両国間交渉に強い推進力を注入した」。

ちなみに中央日報の方の記事によれば、金聖翰氏は11日から16日までの6日間にわたる尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領の東南アジア歴訪に随行したそうですが、この発言は帰国当日、米韓、日米韓、日韓、中間首脳会談の成果を順に挙げたなかのひとつでしょう。

韓国大統領室高官「韓日懸案はすべてつながっている」

これについて言いたいことは多々あるのですが、ひとまず脇に置き、記事の続きを読んでいきましょう。

ハンギョレ新聞の方の記載によると、「韓国大統領室の高官」も記者団に対し、「強制動員賠償問題」の解決策に関する両首脳の話し合いで「隔たりがかなり埋められたから、早く解消できる案を模索し、問題の早期決着を図ろうというムードだった」と主張。

さらには「強制動員と日本軍『慰安婦』問題、輸出規制、GSOMIAなど韓日懸案はすべてつながっている」とし、「一括妥結を強調した」うえで、日韓ともに「ゴルディアスの結び目(誰も解決することができないと思われるような難題)」を「徴用(動員)問題から解いていこうという共感がある」、などと述べたそうです。

いろいろとツッコミどころが多々ありすぎて困ります。

たとえば自称元徴用工問題を巡って、韓国紙は「強制動員」(ハンギョレ新聞)ないしは「強制徴用」(中央日報)などの用語を使っていますが、これらはいずれも大きな誤りであり、そもそも自称元徴用工らが「強制動員」ないし「強制徴用」された物的証拠は存在しません。

というよりも、自称元徴用工問題自体、「韓国が『強制動員』ないし『強制徴用』というウソに基づき、日本の名誉を傷つけ、2018年の賠償判決で国際法に違反して日本企業に不当な損害を与えようとしているもの」と定義づけることができます。

したがって、ハンギョレ新聞が「強制動員」、中央日報が「強制徴用」といった用語を使うこと自体、すでに日本に対する立派な名誉棄損行為なのです。

諸懸案は「韓国側が」ひとつずつ丁寧に解決しなければならないもの

これに加えて「強制動員、慰安婦、輸出規制、GSOMIAなどの懸案はすべてつながっている」とする認識も明確な誤りです。なぜなら、日韓諸懸案はすべて韓国がひとつずつ丁寧に解きほぐさなければならない問題ばかりだからです。

たとえば自称元慰安婦問題も、「ウソや捏造に基づいて日本の名誉を傷つけ、日本に不当な損害を与えた」という意味では韓国による犯罪的な行為ですが、これ自体、一種の政治決着として2015年12月の慰安婦合意で問題が「最終的かつ不可逆的に」解決しており、この約束を勝手に破ったのは韓国です。

また、韓国メディアが「輸出規制」と呼ぶ、2019年7月に日本政府が講じた対韓輸出管理の厳格化・適正化措置も、その原因を作ったのは韓国です。「日韓間の信頼関係が著しく損なわれ」、「輸出管理を巡り不適切な事案が発生した」からです。

この対韓輸出管理適正化措置を自称元徴用工問題と勝手に関連付けたのは韓国政府ですし、また、これに対する報復措置としてGSOMIA(秘密軍事情報保護協定)を勝手に破棄すると宣言したのも韓国政府です。

さらにいえば、「韓国側が解決しなければならない懸案」は、ほかにも数多く残っています。竹島不法占拠問題もさることながら、旭日旗騒動、あるいは2018年12月に韓国海軍駆逐艦「広開土大王」が発生させた火器管制(FC)レーダー照射事件もその典型例でしょう。

日韓諸懸案は、韓国自身がこれらひとつひとつを丁寧に解きほぐし、「ウソをつかず誠実に」、「国際法や条約、国際合意に従って」解決していかなければならないのであって、間違っても尹錫悦氏のいう「グランドバーゲン」方式で解決できるものではありません。

その時点で、この大統領室高官とやらの発言は、正直、てんでお話にならない代物なのです。

岸田首相の発言は後退している

ただ、岸田首相の発言が最近、徐々に後退しているのは、たしかに気がかりです。

当ウェブサイトのコメント欄には最近、特定のコメント主から、「岸田文雄首相の日韓諸懸案に対するスタンスは何ら変わっていない」などと強弁する、ファクトもロジックも無視したコメントがしつこく寄せられていたことがあります(※ただし、当該コメントは別の点で著しく不適切なものであったため、現在は削除しています)。

しかし、『徴用工問題「両国の協議で」早期解決を図る=首脳会談』などでも指摘したとおり、日本政府の側も岸田首相に交代して以降、安倍晋三総理、あるいは菅義偉総理の時代と比べて、日韓諸懸案を巡る発言が徐々に後退していることは事実です。

韓国の「包摂的FOIP」に同意してしまった岸田首相もともと存在しない自称元徴用工問題を両国が「早期解決に向けて協議する」というのも変な話ですが、それだけではありません。故・安倍晋三総理大臣の最大の遺産のひとつが「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」ですが、外務省が昨日発表した日韓首脳会談や日米首脳会談に関する内容を読んでいくと、ついに岸田首相によるFOIPの改変が始まったのかと不安に思わざるを得ない材料が出てきました。日韓首脳会談昨日は、久しぶりに驚きました。外務省のウェブサイトによると...
徴用工問題「両国の協議で」早期解決を図る=首脳会談 - 新宿会計士の政治経済評論

これについてもう少し補足しておくならば、菅総理と岸田首相の発言を比べれば良いでしょう。菅総理は日韓関係を健全化するためのきかっけについては「韓国が作らなければならない」とする姿勢で一貫していました(『菅総理「日韓関係健全化のきっかけ要求」の本当の意味』等参照)。

昨日の『韓国高官「度量の広い宣言を」/公示送達小出しの狙い』などでも紹介したのが、朴智元(ぼく・ちげん)韓国国家情報院長が来日中である、とする話題です。朴智元氏は昨日、首相官邸に菅義偉総理を訪ね、意見交換をしたのだそうですが、これについて、いくつかの報道を見て気付いた点があります。それは…。朴智元氏の来日と菅総理の表敬訪問訪日中の朴智元(ぼく・ちげん)韓国国家情報院長は8日、二階俊博・自民党幹事長に対し、「韓日関係の葛藤を解くために、韓日両国首脳が度量の広い宣言を発するべきだ」と提案したらしい...
菅総理「日韓関係健全化のきっかけ要求」の本当の意味 - 新宿会計士の政治経済評論

実際、菅総理は2020年10月26日、第203回国会の所信表明演説で、日韓関係についてはこう述べています。

韓国は、極めて重要な隣国です。健全な日韓関係に戻すべく、我が国の一貫した立場に基づいて、適切な対応を強く求めていきます」。

ところが、岸田首相は就任後、少しずつ発言内容を変えているのです。

たとえば昨年の衆院選直後の昨年12月6日に行われた第207回国会の所信表明演説で、岸田首相は日韓関係について、次のように述べました。

重要な隣国である韓国には、我が国の一貫した立場に基づき、引き続き適切な対応を強く求めていきます」。

岸田首相のこの発言自体、菅総理のころの「健全な日韓関係に戻すべく」とする文言は抜け落ちていますが、それでも菅総理の発言と大きく変わるところはありません。

ところが、これが今年10月3日付で行われた第210回国会の所信表明演説だと、日韓関係については「我が国の一貫した立場に基づき」、「引き続き適切な対応を強く求める」が欠落し、「国交正常化以来~の基盤に基づき、」「韓国政府と緊密に意思疎通していく」に変わってしまっているのです。正確な表現は次の通りです。

韓国は、国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国です。国交正常化以来築いてきた友好協力関係の基盤に基づき、日韓関係を健全な関係に戻し、更に発展させていく必要があり、韓国政府と緊密に意思疎通していきます」。

やはり「基金案」を葬り去ったはずの安倍総理が暗殺されたため、これ幸いとばかりに「対韓売国派」が蠢動して岸田首相に余計な入れ知恵をしているのだとしたら、これは看過できない問題でしょう。

こうした事実関係を無視して「岸田首相や日本政府の立場はまったく変わっていない」などと言われても困惑するよりほかありません。

韓国側から解決策は出てこない

もっとも、自称元徴用工問題で果たして解決策が韓国側から出てくるのかは微妙です。

先ほど引用した中央日報の記事の内容に戻ると、大統領室高官は自称元徴用工問題を巡り、次のように述べたそうです。

両首脳とも強制徴用問題解決策と関連し非常に密度ある協議が進んでおり、進行状況に対ししっかり報告を受けているということを確認した。これは両国実務陣間で問題の解決策が1~2案に絞られているということ(だ)」。

この「1~2案」が何を意味するかはさだかではありませんが、これまでの報道等から邪推するに、おそらくは「韓国企業が韓国国内の財団に資金を拠出し、自称元徴用工の賠償に充てる」という案ではないでしょうか。

このあたり、この手の「基金」ないし「財団」が自称元徴用工問題の解決策となるのかといえば、そこは非常に微妙でしょう。

徴用工「韓国が全額負担」でも問題解決にならない理由』でも指摘したとおり、自称元徴用工問題は「日韓請求権協定違反」という要素だけでなく、「韓国によるウソに基づく日本に対する名誉棄損」という要素もあるからです。

慰安婦財団という立派な前例があってだな…本稿は、ちょっとした思考実験です。自称元徴用工問題を韓国企業「だけ」が資金拠出する財団で解決させることは可能なのか――。結論からいえばそれは不可能です。なぜなら自称元徴用工への「補償問題」が片付いたとしても、韓国がありもしない問題を捏造して日本の名誉と尊厳を貶めている問題については、まったく解決しないからです。徴用工財団の顛末「韓国が全額負担する財団なら問題ないのでは?」昨日の『日韓が徴用工「肩代わり案」軸に年内決着目指す=共同』では、自称元徴用工問題を巡...
徴用工「韓国が全額負担」でも問題解決にならない理由 - 新宿会計士の政治経済評論

問題はそれだけではありません。もしも「日本企業はカネを出さず、謝罪にも応じない」という案の場合だと、韓国側の世論が激高し、尹錫悦政権自体が持たない、という可能性も出てきます。

なにより、自称元慰安婦問題のときは、自称被害者と対峙したのは日本政府でしたので、日本政府がなんとか政治決着を図ることができたという側面があるのですが、これに対して自称元徴用工問題に関しては、自称被害者と対峙しているのが日本企業であるという事実を忘れてはなりません。

日本企業としても、自称被害者側に対し妙な妥協をすれば、株主代表訴訟を喰らうリスクがあるからです。この「民間企業独特のリスク」に対し、日本を売ろうとしている政治家、あるいは外務省の役人らはあまりにも無頓着ではないでしょうか。

ネット世論の時代に「売国妥結案」は通用しない

ところで、以前から何度か申し上げているとおり、著者自身は自称元徴用工問題を含めた日韓諸懸案を巡って、さほど悲観はしていません。

その最大の理由は、「世論」にあります。

著者自身の持論に基づけば、官僚機構やオールドメディアを中心とするごく少数の限られた者たちにより支配されてきた日本の世論は、インターネットの台頭により、現在、その少数支配が一気に崩壊し、解放されて自由化し、国民の手に戻り始めています。

ネットの台頭により市井の専門家らがみずからインターネットを使って情報発信を始めたことの影響もあり、官僚機構とオールドメディアが長年垂れ流してきたウソがバレはじめ、財務省が唱える「国の借金」論、NHKの受信料利権の不当性などが、次々と白日の下にさらされ始めたのです。

そういえば、ツイッター社で「キュレーションチーム」が解雇されたためか、ツイッター上では一部のメディアや活動家らの姿が消え、これに代わって「本当の世論」が表に出始めているように思えてなりません。

こうした見立てが正しければ、もしも外務省がいかに裏でコソコソと動いていたとしても、自称元徴用工問題を含めた日韓諸懸案で「日本の利益を韓国に売り飛ばす」という解決策については、ネット世論が絶対に許さないでしょうし、場合によっては対韓譲歩を画策した「個人」が特定されることもあるかもしれません。

なにより自民党も「機を見るに敏」な政党ですから、「有権者の圧倒的な支持」さえあれば、政治の力で霞が関を強制的に止めるのは簡単なことであるはず。

その意味では、これを読んでいただいた皆さまを含め、有権者のひとりひとりが意識を高め、「省益を重視するあまり、日本の国益を犠牲にする」という者たちの動きについては「絶対に許さない」という強い意志を持つことが大切なのです。

幸いにして官邸への意見自民党への意見は誰でも提出できますし、もしご地元選出の国会議員の方がツイッターなどのSNSアカウントをお持ちであれば、ダイレクトメッセージなどのかたちで彼らに意見を伝えても良いかもしれないでしょう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いずれにせよ、本記事を読んでくださっている読者の皆さまにも、改めて次の3点をお願い申し上げたいと思います。

  • 納得がいかない報道をする新聞を購読しない。
  • 納得がいかない報道をするテレビを視聴しない。
  • 選挙では必ず投票する。

これで日本が少しでも良くなれば嬉しいです。

新宿会計士:

View Comments (33)

  • 岸田総理の日韓会談内容の情けなさに
    酒井良海上幕僚長は記者会見しました。

  • はて……これはいつものパターンでは?

    韓国政府「あああああ、今回も何も日本から引き出せなかった……案の定野党からも
    国民からも叩かれている……ちくしょう、ただでさえ支持率が低いのに、ちくしょう!
    ……そうだ!成果があった事にしよう!もちろん日本側は全然協力しないだろうけど、
    ”後頭部を殴られた”事にしよう!正直に”何の成果もありませんでした”と言うより絶対良い!」

    これじゃありませんかね……?日本側では「なんで会いに行ったんだよ……
    なんか岸田首相、微妙に韓国に配慮してね?」と評判がよろしくなかった今回の会談ですが、
    韓国側では「なぜ日本に媚びたぁああああ!?」の怒号が行き交っているみたいですし。

    • 韓国の発表は 都合の悪い時は必ず願望を混ぜてウソをつくのです
      だから これはウソでしょう
      そもそも韓国の発表をイチイチ信じていたら
      自衛隊哨戒機は危険な低空飛行をして 
      韓国海軍はレーダー照射などしていない事まで事実になります

  • 一括で解決する方法はあるにはあります。
    韓国が嘘をつかず条約を守れば全て解決です。何故なら、諸問題全て韓国の嘘と条約破りが原因だから。

    話は変わりますが、舞台とかで台本をみて役を演じる時に、大事なのは台本に書いてある言葉ではなく、意思です。
    例えば同じ「バカ」という言葉でも、
    好きな人に言う「バカ」と上司が失敗した部下に言う「バカ」では 意味が違うし言い方もかわります。

    韓国の言う事の意思は全て「日本を楽に騙して金を手に入れる」です。
    この意志が変わらない限り、日本は韓国を丁寧な無視で大丈夫です。
    どうせ、力で無理矢理日本から金を手に入れる方法はないのだから。

    外交だから韓国に直接「もう日本が騙されることはないし、日本の譲歩がない」と言っても、韓国が騙せると認識すれば 韓国の行動は変わりません。

    もう日本は優しくないとみせつけねば、韓国の行動は変わりません。

  • 日本の政府、オールドメディア共に水面下で譲歩しようと画策しても
    韓国側の優秀な記者が記事でバラしてくれるのはありがたい事です。

  • ゴルディアスの結び目って、解かれたのではなく、アレクサンドロス大王によって一刀両断されたような…

  • 滅多に立憲民主党に期待することは無いのですが・・・

    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA147U50U2A111C2000000/
    立憲民主党の安住淳国対委員長は日韓で懸案の元徴用工問題について「日本側が解決ずみというスタンスを変えたのか。首相に確認しないといけない」と述べた。

    是非、国会で追及してもらいたいものです。

  • 日韓諸懸案というゴルディアンノットのアレクサンダー式解決法。

    スパッと縁切り。
    お互い晴れてスッキリ。

    ゴルディアンノットに例えつつ
    「韓国大統領室の高官」は、なぜそう言わ(え)ぬ?(笑)

  • ほら言ったとおり
    岸田は2度あることは3度どころか何度でも騙される。
    こんなのを総理にした自民党、腹立たしいやら情けないやら悔しいやら。
    岸田とハニー林とポチ鈴木トリオが日本を崩壊させる。
    自民党もこれが終わりの始まりだと思いますね。

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