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13年ぶりウォン安で韓国紙がスワップに言及するが…

韓国で13年5ヵ月ぶりのウォン安水準となりましたが、これに関連する話題が韓国メディアにいくつも出て来ています。ただ、2008年の金融危機時と異なり、現在、日本は世界第2位の経済大国ではなくなりましたし、韓国は世界10位圏をうかがう経済大国となりました。2008年に日本が韓国を助けたときには「日本の支援が最も遅かった」と逆恨みされましたが、はて、今回の局面ではどうなることでしょうか。

為替市場の不安定化

米国の利上げ観測の高まりを受け、日本円も昨日は一時1ドル=145円台に突入しそうになるなど、世界の為替市場の動きが不安定化しています。

ただ、これについては世間ではよく誤解されているのですが、その本質は「円安」ではなく「ドル高」です。

とくに為替相場に関しては、長期的トレンドとしてみれば、マネーの供給量や市場金利などに応じて決定されるという傾向が認められ、現在、米国がコロナ禍で供給され過ぎたマネーを急速に回収するプロセスを踏んでいる以上、マネー供給量との関係で円安・ドル高となるのは当然のことでしょう。

また、将来的に日銀の掲げるインフレ目標が達成されたあかつきには、日本でもマネーの供給量が絞られることになるでしょうから、仮にその時点において米国の金融引締めが終了していた場合、逆に円高方向に向かうはずです。

無駄に膨大な外貨準備を片付けるチャンス?

ただし、個人的な感想を申し上げておくならば、日本の1.3兆ドルという巨額の外貨準備は、日本にとっては必要なものではありません。なぜなら、日本は自国通貨である日本円自体が国際的に通用するハード・カレンシーであり、また、為替相場の変動は現在の日本にとっての政策目標ではないからです。

こうしたなか、昨日から「日本も為替介入を行うのではないか」、といった観測も出ているのですが、経済学的な発想からすれば、これは「不必要な外貨準備を、『行き過ぎた円安を食い止める』という名目で処分するうえでの絶好の機会」、という言い方もできるのかもしれません。

ちなみに財務省が大好きな「国の借金」論(『受験秀才、「国の借金論」のウソ論破されるのを警戒か』等参照)に照らせば、現在、日本には「国の借金」が1200兆円も存在していて、大変に問題なのだそうです。

先日、某所で財務省職員が講師を務めるセミナーをウェブ受講する機会があったのですが、この者がセミナーで、最近、財務省が掲げる「財政危機」というウソを否定する意見が存在するという事実を認めました。このことは、財務省内でも自分たちのウソが社会にバレはじめたことへの戸惑いが存在している証拠といえるのかもしれません。ウソツキが議論を嫌うのは世の常ですが、それと同時に受験秀才は議論を極端に恐れているのかもしれません。自由・民主主義の原点日本が自由・民主主義社会であるという意味「日本は自由・民主主義国家で...
受験秀才、「国の借金論」のウソ論破されるのを警戒か - 新宿会計士の政治経済評論

そうであるならば、1.3兆ドル(1ドル=140円で換算すれば約180兆円!)という巨額の外貨準備を何らかの形で売却すれば、それだけ「国の借金」を圧縮することができる、という議論でもあります。

もちろん、1.3兆ドルの外貨準備の全額を1ドル=140円の水準で売却できるはずなどありません。これだけ巨額の外貨準備を処理しようとすれば、外為市場が機能不全を起こしてしまうからです(下手をすると一気に1ドル=100円を割り込むかもしれません)。

なお、円安や円高の効果については、昨日の『「悪い円安」論の誤り:円安が日本に恩恵もたらす理由』などでも議論していますので、本稿ではその詳細は割愛します。

またしても、「悪い円安論」が出てきたようです。いわく、「材料の半分以上を輸入に頼っている企業は値上げをせざるを得なくなる」。いわく、「長引く円高で海外に製造拠点を移した日本企業が多いため、円安のメリットも受けられない」。先日紹介した法人企業統計調査でも明らかなとおり、現実に円安で日本企業に恩恵が生じ始めているのですが、「悪い円安」論者の人たちは、経済理論も客観的な統計数値も一切合切無視しているようです。悪い円安論最近、「悪い円安論」、というものがあります。いわく、「円安が進めば物価が上昇し、...
「悪い円安」論の誤り:円安が日本に恩恵もたらす理由 - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、ここで重要なことは、日本の場合は金融システムが安定しているため、為替相場が乱高下したとしても、それによって資本流出・通貨危機が発生することはない、という点でしょう。

韓国でも13年5ヵ月ぶりウォン安:中央日報社説も懸念

しかし、金融システムが脆弱である場合や、通貨の国際的な通用度が低いような場合だと、行き過ぎた通貨安はその国からの資本流出のきっかけを作りかねません。

こうしたなか、私たちの隣国では、通貨安を受け、自国の金融システムに対する不安を懸念する声も出てきたようです。

【社説】為替相場1ドル=1400ウォン台秒読み、外国為替市場は大丈夫なのか

―――中央日報/中央日報日本語版2022.09.15 10:06

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日掲載された「社説」では、昨日のウォン相場が前日比17.3ウォンの下落となる1ドル=1390.9ウォンで取引を終え、「1400ウォン台入りが秒読みに入った」と指摘。

米国が来週のFOMCでFF金利を0.75~1%ポイント引き上げる可能性が高くなったとしつつも、「1800兆ウォンを超える家計債務に押さえつけられている韓国は米国ほどには金利を上げにくい」、などとしたうえで、次のように危機感を示しているのです。

韓国政府はこれまで通貨危機と金融危機の時とは違うと強調した。実際に当時のように外貨不足でもなく、ウォン相場だけが下落したわけでもない。だが通貨危機のトラウマがある韓国は安心することはできない。ドル高は来年1-3月期まで続くという分析が多い」。

このあたり、「当時のような外貨不足ではない」、などとするくだりについては、大変に怪しいところでもあります。そもそも韓国の外貨準備自体、危機の際に使い物になるとは限らないからです。

具体的方法論を欠いた提言はいつも通り

ただ、この点についてはのちほど詳しく触れるとして、社説の続きを読みましょう。

中央日報は社説で、このまま強いドルの基調が続けば為替相場が1400ウォン台も視野に入る、などとしつつ、次のように述べます。

韓国の国民は通貨危機と金融危機を除いてその水準の為替相場を経験したことはない。外貨資金市場は大丈夫だと強調する最近の韓国政府を見ると、『経済のファンダメンタルズは良い』と叫んでいた通貨危機当時の政府が思い出される」。

このあたりは私たち日本人にはよく理解できない恐怖感があるのかもしれません。

そのうえで中央日報の社説は、市場内の需給不均衡を緩和するための政策的努力として、「輸出を増やして外為市場にドル供給を増やし、ドル需要が特定時期に過度に集中しないよう調整することも必要だ」、などと注文を付け、こう述べます。

外為需給に動脈硬化や集中現象はないのか精巧にモニタリングすべき時だ」。

この手の具体的な方法論を伴わない非現実的な注文が韓国メディアから出てくるのはいつものことですが、逆にいえば、この手の記述が出てくること自体、現在の韓国の外貨市場においてウォン安がいかに警戒されているかという証拠でもあるのでしょう。

またしても通貨スワップに言及するが…

ここで改めて韓国銀行のウェブサイトから韓国ウォンの対米ドル相場を眺めておくと、「日中最安値ベース」では、昨日は1ドル=1395.5ウォンを記録しました。これは2009年4月1日の1ドル=1392ウォンを超過する水準であり、その前日・同3月31日はもう1ドル=1422ウォンと1400ウォンを超えてしまいます。

また、昨日の終値は1ドル=1390.9ウォンでしたが、終値ベースで1390ウォンを超えたのは、1ドル=1391.5ウォンだった2009年3月30日以来、じつに13年5ヵ月ぶりのことでもあります。

そうなってくると、前回の韓国がどうやって危機を乗り切ったのかに関する関心が出てくるのは当然の流れでしょう。同じく中央日報にはこんな記事が出ていました。

金融危機当時も1400ウォン台…通貨スワップで衝撃一時緩和(1)

―――2022.09.15 08:50付 中央日報日本語版より

タイトルだけで「出オチ」感がありますが、要するに、前回の危機(2008年~09年のグローバル金融危機)のときには通貨スワップなどの協定によって乗り切ったという事実を前提に置いています。

ただし、先に事実関係を述べておくと、2008年10月には米国が韓国に対し総額300億ドルの為替スワップを提供し、日本も同12月に韓国向けスワップをそれまでの130億ドルから300億ドルに拡大。中国も韓国に対するスワップを総額1800億元に拡大しました。

しかし、この記事では、これらのうちの中韓通貨スワップ、日韓通貨スワップについてはヒトコトも触れられていません。唯一出てくるのが、こんな記述です。

当時韓米通貨スワップも初めて締結されたが、為替相場の衝撃を少しの間だけでも落ち着かせる『一発』の役割をした」。

なぜ中央日報が日韓通貨スワップにまったく触れていないのか、どうにもよく理解できません。

「日本の支援が最も遅かった」と逆恨み

こうしたなかでふと思い出したのが、同じく中央日報に掲載された、こんな記事です。

「韓国が厳しい時、日本が最も遅く外貨融通」

―――2009.07.07 08:07付 中央日報日本語版より

この記事、2009年7月6日に当時の尹増鉉(いん・ぞうげん)企画財政部長官が日経新聞のインタビューに応じ、「韓国が最も厳しい時に外貨を融通してくれたのは、米中日の中で日本が最後だ」と述べた、とするものです。

そのうえで尹増鉉氏は「世界第2位の経済大国なのに、日本は出し惜しみをしている気がする」などと指摘したうえで、「日本は周辺国が大変な時は率先し、積極的に支援の手をさしのべてほしい。アジア諸国が日本にふがいなさを感じるゆえんだ」と述べたのだとか。

正直、支援してもこうやって「支援が遅かった」だの、「出し惜しみをしている」だの、「ふがいなさを感じる」だのといわれて、良い気持ちがする日本国民は少数派でしょう。

もちろん、例の自称元慰安婦問題を巡るいざこざ(とくに釜山の総領事館前の慰安婦像など)の問題もあるため、日韓通貨スワップが復活する可能性はゼロと考えて良いのですが、もしもそうした一件がなかったとしても、日本が韓国とスワップを結ぶ意義について、日本社会で共感を得ることは難しそうです。

いずれにせよ、為替相場変動の影響は国によって等しいものではありませんし、2008年のリーマン・ショック時ならともかく、すでに韓国はGDPで世界10位圏内をうかがう局面ですし、日本は世界第2位の経済大国ではなくなりました。

今般の「危機」(?)については、韓国も先進国にふさわしく、自力でコントロールしていただきたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (7)

    • どうせなら、ヌリ号も打ち上げ成功してますし、

      2001年宇宙の旅

      まで、いっちゃってください。

  • きっ、きっ、岸田総理!
    韓国に通貨スワップで貸し出したドルが差し押さえられました・・・

    やっぱり二度あることは三度あるのかなぁ・・・

  • 韓国人は助けられて当たり前と思ってるふしがあります。
    よって、助けても恩に着ず文句をつける未来しかみえません。
    なんで、文句を言われてでも助けないといけないのですか。

    だったら、助けずに文句を言われてるほうがまだマシです。
    という予想を彼らは出来ないのでしょうか?

  • どうせ泡銭なんですから、多少損する事は承知で日本が国内企業がうっかりウォン決済で受け取って焦げ付かせているウォンを円で買い取り、入った内5000億円くらいのウォンをドル買いに使って遊んでみるのはいかがでしょう?

    日本の輸出企業も守れますし、秋の行楽シーズンにお楽しみと共に日本企業こそを安心させてあげていただきたい。
    結果としてドルウォンレート市場では更なるドル高ウォン安進行のアシストになるかも知れませんがいつも嫌味言って来て国際法も遵守しない国なんか記憶にございませんし、実在自体をもはや信じておりません。

    各日本国内の金融機関とも協調し、日本国内に使い途なく残るウォンを円で買い上げドル両替。
    利益は出ないかも知れませんが対ドル円安を進ませずにドル保有額を地味に増やし、尚且つ日本人の多くが横目でニヤリとする秋のお楽しみにいかがでしょう。
    もし多少でも利益がでたら月見団子を泣く子餅替わりに頬張りましょうかね。

    ニヤリ

    • > 日本が国内企業がうっかりウォン決済で受け取って

      韓国だけとしか取引してない企業ならばともかく、多くの国と取引している企業であれば、輸出代金をウォンで受け取るなどという間抜けな企業はあまりないのではないかと思いますが。なにしろ、ウォンなんぞ貰っても、韓国内だけでしか使いようがありませんから。まだしも人民元でもらった方がマシです。
      かつて在籍した某企業では、サムスンや現代自動車相手であっても取引はUSD建てでした。