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台湾半導体投資を「ふんだくった」米国に韓国紙が怒り

価値を共有しない韓国から投資を引き揚げる米国

韓国に行くはずだった台湾の半導体メーカーの投資案件が米国に「ふんだくられた」――。こんな「怒り」が、韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)で表明されました。「ふんだくる」といった激しい表現が出てくることにも驚きますが、それ以上に驚くのは、これがれっきとした「社説」の表現だ、という点でしょう。ただ、今回の問題は単なる投資案件の話ではなく、韓国の自由・民主主義国としての「態度」そのものの問題ではないでしょうか。

自由・民主・法治・人権の大切さ

普段から当ウェブサイトにて力説しているとおり、「自由」「民主主義」「法治」「人権」などは、我々日本人にとっては大変に重要な基本的価値ですが、それだけではありません。考えてみれば当然のことですが、これらの基本的価値を大切にしている国には、大きな恩恵が得られるのです。

自由主義とは、「ルールの範囲内で好きなことをやっても良い」という考え方ですが、経済的に成功している国は、たいていの場合、この自由主義のルールを採用しています。

また、民主主義とは「社会のルールはその社会の構成員が多数決などによって決めていく」という考え方のことですが、一般に「民主主義国家同士は戦争にならない」などといわれているとおり、安定した社会の多くは民主主義国でもあります(※)。

(※ただし、著者自身の持論ですが、「民主主義国家同士は戦争にならない」という主張はフォークランド紛争という事例もあるため、かなりミスリーディングなものだと思いますし、民主主義体制にさえすればその国が安定して発展する、というものでもないとは思いますが、この点についてはとりあえず脇に置きます。)

さらに「法治主義」とは、「法で定められた条件を満たせば、その法が定めた通りの効果が生じる」という考え方であり、たとえば会社を興すのに「政治的な権力者と仲が良い」、などの条件は必要ありません。極端な話、資本金を用意して会社の設立登記を済ませれば、誰でも「社長」になれます。

そのうえで「人権」は、「だれでも基本的な権利を与えられ、保証される」という考え方であり、ある日いきなり政治的な権力者が家に押し掛けてきて財産を取り上げていったり、政治的な権力者の気分次第で処刑されたりすることがない社会、というものです。

基本的価値と日本

日本はこの自由主義、民主主義、法治主義、人権尊重という考え方が徹底している社会であり、また、こうした考え方が貫徹しているからこそ、基本的には誰に対してもチャンスが与えられ、正当な努力を惜しまなければ、実力次第では一代で財を成すことも可能です。

逆に、こうした考え方が中途半端にしか機能していない国(たとえば中国など)では、政治的な権力者がカネ持ちなどと癒着したり、不正を働いたりすることもあるようですし、そもそも機会の平等すら保証されていないケースもあるようです。

いずれにせよ、国全部が豊かになるためには、「国土を掘れば石油が出てくる」という恵まれた状態でもない限りは、国民がちゃんと勉強し、働き、技術革新に努めて経済発展していくより方法はないのであり、そのための最も効率の良い仕組みが「自由・民主・法治・人権」、ということではないかと思う次第です。

ただし、地球上のありとあらゆる国が「自由・民主・法治・人権」という基本的価値を採用すれば良い、というものでもないようです。

やはり残念ながら、民主主義の制度だけ真似ても、民主主義が根付かない事例はいくらでもありますし、また、自由主義の考え方を教えると、この自由主義を「儲けるためならルール破りをしても良い」という意味だと勘違いする中国のような国が出てきてしまうのも事実でしょう。

このため、「自由・民主・法治・人権」といった基本的価値を実装するだけでなく、それを運営していくうえでは、社会の構成員がこの規範をしっかりと理解し、少なくとも選挙などの仕組みがクリーンでルール通りに実施するなど、民主主義を実践し続けることが必要です。

自分で学んだ国と外国から教わった国の違い

日本の場合、これらの「自由・民主・法治・人権」などの考え方の源流は、大日本帝国憲法の時代に求められますが、やはり自力でそれらを学び取ったのではなく、外国から教えてもらったに過ぎない国の場合、これらの基本的価値が十分に理解されていないケースは多いのではないでしょうか。

ことに、口先では「自由・民主・法治・人権」などと騙っていながら、その実質が伴わない国は非常に多いのが実情でしょう。

遡及立法(あとから制定した法で過去を裁く考え方)が罷り通るのはもちろんのこと、国民情緒法が憲法や国際法の上位に存在するような国だと、正直、「自由・民主・法治・人権」などの価値を私たち日本と共有しているとは言い難いのです。

さらには、中国共産党一党独裁を維持したまま、つまり「民主・法治・人権」をないがしろにしたままで、中途半端に「自由」を追求した結果、ルール無用で経済大国となってしまった中国に対しても、我々西側諸国はルールの順守を求めなければなりません。

あるいは、自分勝手な理論を振りかざして違法でいわれのないウクライナ戦争を仕掛けたロシアに対しても、ルールを重んじる我々西側諸国は、戦争を直ちに停止するように求めなければなりません。

それなのに、「自由・民主・法治・人権」などの西側諸国の価値観で経済発展してきたにも関わらず、中国やロシアに対して「言うべきこと」を毅然と主張しない国があるのだとしたら、それは正直、「自由・民主・法治・人権」などの西側諸国のインフラをタダで使っているのと同じでしょう。

(※なお、「法治主義」と「法の支配」は厳密には別の概念ですが、本稿ではこのあたりについて深く議論することはしません。)

半導体について、米国がどう考えているのか

さて、昨日の『米中等距離外交の「ツケ」を3大危機で支払うか=韓国』では、米国のジーナ・レモンド商務長官が6日、韓国に新規工場を検討していた台湾の半導体メーカーのグローバルウェーハーズを説得し、米国に投資を誘致したと明らかにした、などとする話題を取り上げました。

ただ、著者自身の私見で恐縮ですが、この動きは単に「半導体の投資案件を米国が韓国から横取りした」という個別事例に留まるものではなく、もっと大きな米国の「半導体経済安全保障」という文脈で整理すべきものではないでしょうか。

もっといえば、韓国が「経済安全保障の同盟国」とみなされなくなった、という証拠そのものではないかとする仮説が成り立ちます。もしも米国が韓国を「信頼すべき同盟国」とみなしているのであれば、韓国に新たな半導体工場を建てることに目くじらは立てないでしょう。

考えてみれば当然で、韓国は米国の同盟国という地位にありながら、日本との関係を徹底的に踏みにじるだけでなく、中国と密接な関係を築き上げてきたからです。

2015年12月に日韓双方が取り交わした「慰安婦合意」を、2017年5月に発足した文在寅(ぶん・ざいいん)政権が反故にしてしまったこともそうですが、それだけではありません。

同じ文在寅政権が中国に対し、「三不の誓い」(THAADを追加配備しない、米国のミサイル防衛に参加しない、日米韓3ヵ国連携を同盟に発展させない)などの「誓い」を立てたことなども、米国の戦略を大きく狂わせるなどしたからです。

当然、米国にとっても韓国が徐々に「(形の上では同盟国だけれども)実質的には信頼できない国」、とみなされていることは間違いありません。

しかも、先月韓国を訪問したナンシー・ペロシ米下院議長を韓国が徹底的に「冷遇」したという事件は、今年5月に発足したばかりの尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が、さっそくに「米中等距離外交」に舵を切ったようなものであります(『鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」』等参照)。

ナンシー・ペロシ米下院議長の訪韓を巡り、鈴置高史氏の待望の論考が出てきました。尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領はペロシ氏との面談を「謝絶」したのですが、これが米国側の怒りを買う一方、中国からは「よくやった」と褒めそやされているのです。こうした議論を読んで改めて思い出すのは、鈴置氏の6月の新刊著『韓国民主政治の自壊』でも見られた、「自由・民主主義の価値を韓国は日本と共有していない」とする指摘です。「中韓連帯意識」を理解できない日本韓国観察者の鈴置高史氏といえば、今年6月に『韓国民主政治の自壊』...
鈴置論考「尹錫悦政権は米中等距離外交に舵を切った」 - 新宿会計士の政治経済評論

当然、今回の半導体騒動は、単なる工場投資案件に留まるものではなく、もっと大きな流れで眺めるべきものでしょう。

米国が「ふんだくった」=朝鮮日報

ただ、これに関連して韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)に、こんな「社説」が出ていました。

【9月9日付社説】50億ドルの対韓投資をふんだくった米商務長官、韓国にこれほどの長官がいるだろうか

―――2022/09/09 07:42付 朝鮮日報日本語版より

「ふんだくる」という激しい表現に驚いたという方も多いと思いますが、しかもこれが「社説」だというのもなかなかに驚きます。

もちろん、この「ふんだくった」という表現には、「米国が韓国に来るはずだった台湾半導体メーカーの投資を奪った」、という怒りが透けて見えます(そのわりに社説の中身はスカスカですが…)。

ちなみに朝鮮日報によると、韓国では企業の対外投資が増え、対内投資よりも多いという「投資逆流現象」が2014年以降に本格化したのだそうですが、こうした状況についてこんな提言をします。

韓国が『企業が活動しやすい国』になるよう、大々的に規制を緩和し、大統領と長官が積極的に投資誘致に乗り出さなければ、韓国に到来するチャンスさえ再び他国に目の前で奪われてしまうだろう」。

残念ながら、それだけの問題でもないと思います。「米国と基本的価値を共有する国であること」を態度で示さない限りは、米国の戦略が変わることはないでしょう。その意味では、現在発生しているのは単なる投資案件の話ではなく、韓国の「態度の問題」なのでしょう。

そもそも半導体は米国が戦略物資として重視しているものであり、対中包囲網に参加しない国に重要産業を置いておくことを許容することは、徐々になくなっていくのではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (33)

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    韓国市民団体:「米から韓国から台湾半導体投資をぶんだくったことで、韓国の裁判所に提訴する」
    この話は、2022年9月9日時点では、笑い話である。

  • 広島のマイクロン、熊本のTSMCなどの日本進出の動きと繋がっていますね。
    もしかしたら最近の円安まで、シナリオが出来ているのかもしれないとさえ思います。

  • 私も先ほどこの社説を読み、この中にある「新たな投資先として韓国を検討した」とする部分が、そもそも本当のことなのかどうかも怪しく感じていました。

    こういう怪しい推論を前提に論を重ねる、こういう「印象操作」こそ韓国のメディアが最も得手とするところだからです。これはこういう稚拙なメディアの嘘を見抜けない(あるいは敢えて見抜こうとしないのかも?)韓国人自身の責任もあろうかと考えています。

    尤も、今の日本を見渡すとメディアの扇動に乗って「アベの国葬がー!」と大騒ぎしてるリテラシー皆無なノイジーマイノリティの方々を見るに、我々もあまり韓国人を嗤ってばかりもいられないかと、少々サビシク感じられる今日この頃です。

  • 私は法学者でもない、しがないおっさんの一人ですが、日本も法治国家としての体裁を保っているかと言われると、かなり怪しいと思います。
    獣医学部問題、大学補助金問題など、官庁自体が法律を蔑ろにしているケースも多々あるように思います。

    「そんな杓子定規に法律を適用しなくても・・・」なんて言う人がいますが、とんでもない話で,
    王侯貴族だろうと庶民だろうと、外国人だろうと日本人だろうと同様に適用されてこそ、法治国家です。

    朝日新聞、毎日新聞などが、この法治を壊そうとプロパガンダを仕掛けてますが、今の日本を見るとかなり成功しているように思えてしまいます。

    お隣の国を「情痴国家」などと笑ってばかりいられないように思います。

    • 同感です。先日加藤厚労大臣が 生活保護について「「生活保護法は日本国民を対象と承知しているが、人道上の観点で実施。総額を把握するつもりはない」という発言で 大臣が法を守らないことを公式に発言したことに唖然としました。人道が法律より上位にあるのであればそれは 法治主義ではありません。韓国のいわゆる「情治主義」中国の「人治主義」と同じであると言わざるを得ません。 ちなみに外国人生活保護は1,200億円と片山さつき議員が指摘」という情報もありました。

  • >韓国が『企業が活動しやすい国』になるよう、

    いいがかかりで企業からお金をふんだくることをやめることからはじめては如何ですか?

    • 七味 さん

      例えばドイツ車メーカーに対して「韓国社会で儲けてるのに韓国社会への寄付が少ない!もっと寄付をしろ!」とか言っちゃう連中ですよ?

      言い掛かりで金をふんだくるのを辞めろだなんて、韓国的価値観の全否定ですよ。

  • 韓国については、ウォン安で企業が戻るという話を聞かないわけで。
    労働組合をなんとかしないと、Samsung ですら、米国に逃げ出すんじゃないかな。

    • ああ、もうひとつ。
      経済安保の視点では、韓国はアメリカの同盟国として、機能してないわけで。
      まあ、台湾メーカーの韓国進出に反対するのは、当然ではあるのです。

  • 対中包囲を念頭に呼びかけられたchip4。予備会議での「対中宥和の進言」を表明した韓国。
    台湾企業の誘致は、米国の本気度の現れなんですよね。きっと。

    *米国の怒りで「一刀両断!」。 韓国は、”半胴体王国” へ・・。

    • >*米国の怒りで「一刀両断!」。 韓国は、”半胴体王国” へ・・。

      そして日本は?というと、半藤一利氏の歴史観に染まった連中が「半藤隊」として日本を蔑みまくっているのであった(汗)

  • 韓国の記事で 企業誘致の話題が出ると、たいてい妄想だらけなので
    まともに取り合ってはいけません
    本気で信じるなら、今頃韓国にユニバーサルスタジオやレゴランドがあるはずです

    世界3位の台湾シリコン素材企業が 今年2月にドイツ投資計画を白紙化、
    韓国を検討していたといたが、6月にアメリカに取られたという記事なんですが、
    ドル高も酷いのにアメリカ投資が こんな簡単に最終決定する訳ないじゃないですか
    記者の妄想とか韓国記事では よくある事です。

    外国人に投資して欲しいから外交しろって言いたかっただけだと思います

  • ヒグマの人身事故の要因の一つに、一度でも自分が触ったものを所有物と認識し、それを奪われれば執念深く取り戻そうとする習性があります。
    ザックなどを自身の所有物と認識したヒグマは、それを持ちさった登山者を加害者、自身を所有物を奪われた被害者として執拗に登山者を付け狙い、襲います。
    まあ、ヒグマに限ったことではなく、ストーカー犯罪者の多くはこのような身勝手な被害者意識で付け狙うんでしょうけどね。
    韓国の場合は、国全体が被害者プレイを演じますからねぇ。
    一度でも交渉を持った相手を他国へ乗り換えたら、交渉相手から裏切られたか、他国が奪い取ったかの被害者になりきるんでしょうね。

    • どこかがで聞いた話だと思いましたが
      「天の神が息子に、下界に降りて人びとを治めるよう命じた。太白山の神檀樹の木の下に降りた。ある日、トラとクマが来て人間になりたいと願った。桓雄はヨモギとニンニクをあたえ、これを食べて100日のあいだ日光をみなければ人間になれると教えた。トラは途中でやめたが、クマはよくたえて美しい娘となった。」
      クマかぁ。。あと、旭日旗が苦手な理由もわかったかも知れない。。

  • り地域「こんな…こんなはずじゃ… …畜生ォ、持って行かれた………!!」

    痛みを伴わない教訓には意義がない
    人は何かの犠牲なしに何も得ることなどできないのだから

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