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韓銀総裁「スワップは通貨安防ぐうえで役に立たない」

韓国の中央銀行総裁が昨日、通貨スワップについては「通貨安を防ぐことはできるというのは誤解だ」と述べたそうです。米国から通貨スワップの締結を断られたための負け惜しみでしょうか?ただ、韓国当局者が「現在の韓国は危機的状況ではない」などと強調すればするほど、逆に、投機筋にとっては良い材料が提供されているのかもしれません。

韓国のジレンマ

わが国の隣国である韓国で昨日、0.25ポイントの利上げが決定されました。

これについては『苦しい立場に置かれた韓国銀行の「焼け石に水」利上げ』でも詳しく取り上げたとおり、現在の韓国は利上げを行うにしても行わないにしても、なかなか難しい状況に置かれてしまっています。

韓国銀行が本日、政策金利を0.25%ポイント引き上げる決定を行い、韓国ウォン(USDKRW)も小幅で買い戻されているようです。ただ、正直、通貨安を食い止めるという視点からは、0.25%の利上げだと「焼け石に水」かもしれません。しかも、韓国はこれ以上利上げをすれば家計債務の破綻が相次ぐという懸念もあります。こうしたなかでふと思い出すのが、(韓国のなかでは)「米国が約束した」ことになっている「外為市場の安定」、その後、トンと話を聞きません。いったいどうなっているのでしょうか?韓国銀行、0.25ポイントの利上げ韓国...
苦しい立場に置かれた韓国銀行の「焼け石に水」利上げ - 新宿会計士の政治経済評論

まず利上げを行えば、膨張した家計債務の金利負担が激増しかねず、ただでさえ多重債務者が多い韓国社会全体が悲鳴を上げ、金融危機に陥る可能性があります。しかし、もしも利上げを見送れば、韓国から大規模な資金流出が発生し、通貨危機に発展する可能性もあります。

まさに「ジレンマ」であり、なかなかに苦しい局面といえるでしょう。

韓国銀行総裁の会見

こうしたなか、韓国メディア『毎日経済』に、韓国銀行の李昌鏞(り・しょうよう)総裁による25日の会見の様子が掲載されていました。

イ・チャンヨン韓銀総裁『しばらく物価中心通貨政策基調が望ましい』【※韓国語】

―――2022.08.25 11:42:19付 毎日経済新聞より

毎日経済が報じた李昌鏞氏の発言の要旨は、こうです。

  • 韓国銀行としては、現在の物価や成長の見通しに照らし、当分の間、物価に焦点を当てて通貨政策を運用し、利上げ基調を続けていくことが望ましいと判断している
  • しかし、高いインフレ傾向が持続するかどうか、経済成長の流れ、資本流出入などの金融安定状況、主要国通貨政策の変化、地政学的リスクなどに関する不確実性が非常に高い状況であるだけに、このような要因の展開状況を綿密に点検しながら政策を運営していく予定だ

…。

このあたりは昨日も韓国銀行が発表した政策決定文とほぼ同じであり、特段の目新しい点はありません。

一般に金融政策(韓国語でいう「通貨政策」)は、物価や雇用の状況を見ながら決定する必要があり、本来であれば為替相場は金融政策とは無関係です(このあたりは『融通手形?トルコとマレーシアの通貨スワップの危険性』などでも説明した「国際収支のトリレンマ」をご参照ください)。

脆弱通貨国同士の通貨スワップ協定には、通貨危機を世界に広めかねないというリスクがあります。こうしたなか、次なる通貨危機の候補国のひとつはトルコでしょう。そのトルコでは今年6月に外貨準備高が1000億ドルの大台を割り込み、為替相場も1ドル=18リラの大台を史上初めて突破する可能性が出てきています。そのトルコがマレーシアと通貨スワップ協定を結ぼうとしているようなのですが、これをどう考えれば良いでしょうか。ドル高基調と通貨安への対処雇用統計受け全面的なドル高に先週末に米労務省が公表した雇用統計( “non-far...
融通手形?トルコとマレーシアの通貨スワップの危険性 - 新宿会計士の政治経済評論

しかし、韓国の場合、「先進国」を自称していながら、自国通貨の国際化を怠ってきたというツケが溜まっており、韓国の通貨・ウォンは為替変動に極端に弱いという特徴があります。このため、韓国銀行が金融政策を為替相場と完全に無関係に決定することは難しいのでしょう。

このあたり、毎日経済も指摘するとおり、韓国銀行は4月の会合以降、(会合のなかった6月を除いて)政策金利を「史上初めて4回連続で引き上げ」ており、現時点の政策金利も2.50%で、米国のFF金利(2.25~2.50%)と水準としては並んでいます。

しかし、米FRBもおそらく来月のFOMCで利上げに踏み切るでしょうし、ケースによっては「ビッグステップ」(0.5%ポイント)または「ジャイアントステップ」(0.75%ポイント)の利上げもあり得ることから、政策金利における「米韓逆転」は十分にあり得る話です。

韓銀総裁「通貨スワップは通貨安防ぐのに役立たず」

ところで、毎日経済によると、李昌鏞氏は、最近の韓国ウォンの対米ドル相場が下落している点については、「韓国だけが経験する問題ではない」、「2008年とは異なり、韓国は純債務国ではなく純債権国だ」などとしたうえで、先に経験したような金融危機とは状況が異なると強調したのだとか。

そのうえで注目すべきが、通貨スワップに関するこんな発言です。

流動性リスクをどのような信用リスクと対比するのが良いかはわからないが、現在の状況では為替レートが(他の主要国家もそうであるように)切り下げされる状況を、(通貨スワップが)防ぐことができるというのは誤解だ」。

これは興味深い発言です。

今年に入ってから韓国ではしばしば、「韓米通貨スワップ」や「韓日通貨スワップ」の必要性が提起されることが増えていて、とくに先月はジャネット・イエレン米財務長官が訪韓する直前まで、「イエレン氏と韓国側の当局者の会談で、韓米通貨スワップで合意するに違いない」、といった観測もあったほどです。

このあたり、当ウェブサイトでは『為替スワップはイエレン財務長官にとっては「管轄外」』などでも指摘したとおり、そもそも米国が外国と(「通貨」スワップ)ではなく「為替」スワップを結ぶにしても、イエレン氏自身は財務長官であり、その「管轄外」でもありました。

下手に米韓スワップ待望論煽ればウォン市場に悪影響も「韓米通貨スワップで共感を得ている」。「日本など他の国との通貨スワップも積極的に検討および推進している」。なんとも面妖な発言です。韓国メディア『中央日報』(日本語版)によると、これらは韓国政府や韓国の与党関係者の発言だそうですが、ジャネット・イエレン米財務長官の訪韓を前に、米韓通貨スワップへの期待感を一方的に煽りすぎるのは、韓国自身のためにもなりません。結果としてウォンの失望売りを招きかねないからです。米国が韓国と「通貨」スワップを結ぶ可能性...
為替スワップはイエレン財務長官にとっては「管轄外」 - 新宿会計士の政治経済評論

また、韓国政府はイエレン氏と秋慶鎬(しゅう・けいこう)副首相兼企画財政部長菅との会談で、こんな趣旨の内容を発表しています(『韓国待望の米韓通貨スワップはほぼゼロ回答=財相会談』等参照)。

秋慶鎬副首相とイエレン長官は、韓・米両国が必要流動性供給装置など多様な協力方案を実行する余力がある(have ability to implement various cooperative actions such as liquidity facilities if necessary)という認識を共有した」。

この発表だけを読むと、米国が韓国との間で通貨スワップや為替スワップの検討で合意したかの芋見えるのですが、これに相当する発表は、米国側からは一切なされていません(『イエレン氏は本当にスワップに「含み」持たせたのか?』等参照)。

韓国といえば、「言った」「言わない」の議論になりがちな相手国です。こうしたなか、いくつかの韓国メディアは昨晩から今朝にかけ、「米国が通貨スワップ締結に含みを持たせた」、などと大いに報じているようですが、不思議なことに、米財務省のウェブサイトを見たところ、現時点でそれに相当する報道発表は見当たらないのです。そもそも本当にイエレン氏は通貨スワップないし為替スワップに「含み」を持たせたのでしょうか?通貨スワップに関しては「ほぼゼロ回答」だが…今朝の『韓国待望の米韓通貨スワップはほぼゼロ回答=財相会談...
イエレン氏は本当にスワップに「含み」持たせたのか? - 新宿会計士の政治経済評論

こうした客観的証拠を積み上げていくならば、おそらくは韓国側が今年5~7月にかけ、米国に対して為替スワップの再開を要求したものの、米国側からは断られたため、やむを得ず中央銀行総裁が「スワップは通貨暴落を防ぐうえで役に立たない」などと発言したように思えてならないのです。

危機ではないと強調する韓国政府

その真相がどうなのかどうかはわかりませんが、もうひとつ客観的証拠を挙げておくならば、韓国政府関係者からも、この手の「現在は金融危機や通貨危機を懸念する状況ではない」とする発言が出ていることは、注目に値します。

韓国大統領室「ドル高だが金融危機や通貨危機懸念する状況ではない」

―――2022.08.25 17:40付 中央日報日本語版より

韓国メディア『中央日報』(日本語版)によると、韓国大統領室の崔相穆(サイ・総木)経済首席秘書官は25日、最近のドル高と関連し、現在の韓国については「金融危機や通貨危機を懸念する状況ではないが、投機的な動きが発生すれば積極的に対応する」、などと述べたのだそうです。

崔相穆氏はまた、現在のドル高についてはユーロ、ポンド、円などにも共通した現象であり、CDSプレミアムも過去の危機と比べて低い水準だと指摘。外為市場については次のように述べるにとどめたのだそうです。

急激なドル高は物価と民生に否定的影響を及ぼすだけに決して油断せず外国為替市場の状況を鋭意注視する。投機的な動きが発生すれば市場安定措置など積極的に対応したい」。

こうした発言自体も、韓国ウォンがユーロ、ポンド、円などと異なり「ソフト・カレンシーである」という事実を無視したものに思えてなりませんが、いずれにせよ、韓国当局者が「危機」を否定すればするほど、逆に投機筋にとっては良い材料と受け取られるのかもしれません。。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • >韓国当局者が「危機」を否定すればするほど、逆に投機筋にとっては良い材料と受け取られるのかもしれません。

    その通りですね。余計なこと言ってウォン売りを招く。投機筋は口先介入と思うでしょう。

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    韓国政府が、「韓国が通貨危機や金融危機になるかのような報道は禁止する」と言い出したんだって。もっとも、これに近いことをしている国が、他にもありますが。
    この話は、2022年8月26日時点では、笑い話である。

  • 最近の報道から逆に「経済危機、通貨危機は起こらないのではないか」という気がしてきました。
    1. 前回IMF管理下に置かれた事をいたく韓国の面子を潰したと
    本人達が嫌がっている点。
    2. IMFも前回、これ以上大きくなると救済できないと報道された

    点を考慮すると、「〇んだ方がましたが、○○危機と報道されてはいけないゲーム」が始まる気がしています。
    中の国も不動産危機はとっくに始まっていますが一切報道も無いようですし、仲良くいっていただければ と思います。

  • いつもの「すっぱい葡萄」ですね。
    ここは笑ってあげるべきだと思いますw

    • 共産圏はいつも嘘をつきますから。
      現在進行形でのロシアや中国の侵略とか。

  • 韓国政府が「通貨スワップでウォン安を防ぐことができる」と言えば、「ではなぜ米韓(日韓)通貨スワップを締結しないのか?」と二の矢がきて、締結してもらえない政治責任を追及されることになるので、公式見解では「通貨スワップではウォン安を防ぐことはできない」と言う以外にないだけですね。

  • 韓国政府はアジア通貨危機の時も同じ話したのに、結局どうなったか忘れてんだわ。

  • 通貨危機に役に立たないのであれば、日韓通貨スワップの締結は不必要だわな。もともと、望み薄だったから、諦めてくれたなら、誠に嬉しい。年内にはドルベース1ドル1500ウォンは突破するかもね。夢の2000ウォン以上が見れたらいいな。頑張れよ。じい~~~~~と、瞬きもしないで見ていてやるからな。おぉ!耳栓も買っておこう!

  • ウォン安の原因はドルとの金利差が原因になっているものと、投機筋の売りがあると思う。
    後者はドルのスワップがあれば投機筋がビビるんじゃないかな。

  • むかしウォン相場でワロスW曲線と言うのが流行ったことがありました。
    明らかに南朝鮮銀行が通貨介入してた証拠でした。
    南朝鮮はその時の経済状況に応じて、1050-1200のレンジを維持するドルペッグだったと思います。
    期間としては2011-21年、この間は南朝鮮経済は比較的安定していました。
    こう言った通貨主権の放棄=チート行為は、ペッグ先の金融政策の影響をモロに受けます。
    普段チートしてればチートしてる分だけ、通貨を自分勝手に弄ると必ず天罰のように跳ね返ってきます。
    まさに自業自得、因果応報、身から出たサビ、天罰覿面。
    上の方もおっしゃってるように、本当に南朝鮮はイソップ童話的な世界だと思います。
    今回は酸っぱい葡萄でしょうね。

    繰り返し言いますが、米国には余力なんか欠片もありません。
    1980ー1994ー2008ー2022
    もう今年間違いないから言いますが、米国は14年サイクルで土地不動産が暴落します。
    中間選挙も近くなり、もう形振り構っていられない状況です。

  • その通り!
    >現在の状況では為替レートが...切り下げされる状況を、(通貨スワップが)防ぐことができるというのは誤解だ」。
     そ
     の通り、今回はアメリカとドル流動性スワップを締結しているハードカレンシー(日本円もユーロもポンド等)ですらドルに対して全面安!
     紙屑ウォンなどドル流動性スワップでどうにかなるものではない。

     そもそも今回のドル高/ウォン安はドル独歩高の一部でしかない。アメリカが世界中にバラまいたドルを徹底的に回収し始めたからの世界中の国々(除くドル溢れる日本)のドル不足という恐怖のなか
     もしも通貨スワップして貰えてあ大量のドル売/ウォン買をしようものなら(ドルに飢えた超大金持ちらによって)大韓民国にとっての大量ドル売りは一瞬にして吸収されてしまい世界中のドル独歩高(=ウォン安)は止まらない。
     

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