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数字で見る:「既得権にしがみつく新聞業界の行く末」

このペースだと朝日新聞の部数は12年後にゼロになる

朝日新聞の部数の落ち込みに関するデータを眺めていて、ふと思いついたのが、「新聞業界全体と比べたらどうなるか」という論点です。これについて早速実施してみると、朝日新聞の部数の落ち込みは、新聞業界全体と比べても大きいことがわかりました。ただ、「朝日新聞に問題がある」のか、それとも「新聞業界全体に問題がある」のかに関しては、また別の論点です。これはいったいどういうことなのでしょうか。

新聞部数の減少

朝日新聞朝刊は8年間で約40%減少した

朝日新聞、売上減少のなか「過去最大級のリストラ」か』では、株式会社朝日新聞社が公表している有価証券報告書(有報)の開示データをもとに、朝日新聞の部数がこの8年間で朝刊が約40%、夕刊が約50%、それぞれ落ち込んだ、などとする話題を取り上げました。

該当するグラフを再掲しておくと、こんな具合です(図表1)。

図表1 朝日新聞の部数推移

(【出所】株式会社朝日新聞社・過年度有価証券報告書より著者作成)

このグラフを自分自身で読み返していて、ふと思ったのは、「昨今、紙媒体の新聞が部数減少に苦しんでいるのは当然の話であり、これはべつに朝日新聞に限ったことではないのではないか」、という仮説です。

新聞業界全体と比べてみたら…?

こうしたなか、日本新聞協会が公表する『新聞の発行部数と世帯数の推移』というデータのことを思い出しました。これは、2000年から2021年までの各10月1日における、新聞種類別(一般紙・スポーツ紙)、発行形態別に新聞の発行部数などを一覧にしたものです。

このうち「発行形態別」の分類は、「セット部数」、「朝刊単独部数」、「夕刊単独部数」に分けられているのですが、これについては「セット部数+朝刊単独部数」を「朝刊部数」、「セット部数+夕刊単独部数」を「夕刊部数」と定義して再集計すれば、朝日新聞の部数と比較できるかもしれません。

  • 朝刊部数=セット部数+朝刊単独部数
  • 夕刊部数=セット部数+夕刊単独部数

このように定義し、また、朝日新聞の有報の数値を半年ずらし(たとえば2022年3月31日時点の有報の数値を2021年10月1日時点のものと仮定し)たうえで、新聞全体の部数と朝日新聞の部数を同一グラフに表現してみると、図表2のようになりました。

図表2-1 新聞部数比較(朝刊)

図表2-2 新聞部数比較(夕刊)

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』および株式会社朝日新聞社・過年度有報を参考に著者作成。ただし、朝日新聞の場合、たとえば「2021年」とは「2022年3月31日の有報に記載されていた数値」を意味する)

朝日新聞の部数の減少速度は業界と比べても大きい

残念ながら、著者自身が手元に持っている有報では2013年までのデータしか追えないのですが、それでも、比較するにしては十分でしょう(※図表2-1、図表2-2ともに、左右の軸の単位が異なっている点には注意してください)。

このうち朝刊で見てみると、2013年と2021年を比べ、新聞全体では4595万部から3240万部へと、29.49%減少しているのに対し、朝日新聞に関しては753万部から456万部へと39.45%も減少しており、朝日新聞が新聞業界全体と比べて10%ポイント程度、減少率が大きいことが確認できます。

また、夕刊に関しても同じく2013年と2021年を比べると、新聞全体では1345万部から711万部へと47.10%減少しているのに対し、朝日新聞は273万部から134万部へと50.77%の減少となっており、やはり朝日新聞が新聞業界と比べて3%ポイント以上、減少率が大きいようです。

つまり、2013年と2021年を比較する限り、朝日新聞に関しては、新聞業界全体と比べ、朝刊、夕刊のそれぞれにおいて、より減少率が大きい、ということがわかります。

朝日新聞といえば、今からちょうど8年前の2014年8月5日に、慰安婦関連報道については「裏付が得られず虚偽と判断した」などとして記事を取り消した、という事件がありました。

「済州島で連行」証言 裏付け得られず虚偽と判断

―――2014年8月5日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より

朝日新聞社自身は一連の慰安婦関連報道を「捏造」だとは認めていませんが、記事のもとになった「証言」が「虚偽である」という点については認めた格好です。これに加えて福島第一原発の「吉田調書」の報道についても虚偽を認めており、この「2つの吉田問題」が朝日新聞の部数を押し下げた可能性はあります。

日本の新聞業界の問題点

そもそも業界全体として問題を抱えていませんか?

ただ、要因としてはそれだけではないのかもしれません。考えられる理由としては、ほかに何があるのでしょうか。

こうしたなか、「どうして朝刊部数が夕刊部数と比べ減少率は緩やかなのか」という点については、当ウェブサイトで長年、疑問点のひとつに挙げてきた論点でもあります。これに関しては現時点において、考えられる仮説としては、次の3つがあります。

①折込チラシ需要

新聞朝刊には(地域にもよりますが)折込チラシが折り込まれることが多く、スーパーだ、不動産だといったチラシを見て楽しみたい、という層が一定数は存在するのではないか、といった仮説が成り立つゆえんです。

②地元紙に対する特殊需要

次に、新聞には、それ特有の情報(たとえば訃報欄など)があり、銀行員や地元の商店主などを中心に、毎朝必ず新聞をチェックしなければならないという特殊な需要が存在している、という可能性です。

③押し紙(架空販売部数)

参議院ウェブサイトの第174国会の請願ページにある請願1743番『新聞の押し紙についての実態解明に関する請願』によると、押し紙とは「新聞社が販売店に卸した新聞のうち、実際には購読者に届けられない新聞」のことで、次のように記載されています。

新聞社は押し紙分の売上げが増える。新聞社は、広告主に対して公称部数を基に広告枠を販売しているため、押し紙分は架空の宣伝効果であり、広告効果以上に広告費を水増しして取っている」。

この①~③のどれが真相に近いのかはよくわかりませんが、おそらくはこれらをミックスしたものが実態に近いのではないでしょうか。つまり、とくに③に関しては、業界全体としても大きな問題を抱えている、というわけです。

朝日新聞は12.3年後になくなる?

そして、①~③の仮説が正しければ、とくに②の要因に照らせば、朝日新聞の部数の減少が新聞業界全体の部数減少と比べて多い理由は、何となく説明はつきます。地方紙の場合、やはり「訃報欄需要」があるがために、「全国紙」である朝日新聞と比べれば、部数の減少は緩やかとなり得るのでしょう。

このように考えていくと、朝日新聞の場合は「2つの吉田」報道で社会的信頼が失墜したこと、全国紙であるために地方紙にありがちな「地元紙に対する特殊需要」が期待しづらいこと、といった要因で部数の減少が加速した、といった説明は、非常に説得力があるものでもあります。

ただ、逆にいえば、「朝日新聞の問題」と「業界全体の問題」については、分けて考える必要があります。上記①~③、つまり「チラシ」「特殊需要」「押し紙問題」のそれぞれの観点から、新聞業界は今後いっそう部数減が加速しやすい状況にある、という意味でもあるからです。

先ほどの図表2でも示したとおり、朝日新聞朝刊はここ8年間、平均して毎年37万部ずつ部数が減少しているのですが(このペースを維持すれば12.3年後に朝日新聞の部数はゼロになります)、新聞業界全体としてみても、ここ8年間、毎年平均して169万部ずつ、部数が減っています。

2013年と2021年の増減
  • 朝日新聞…753万部→456万部(297万部減少、減少率は39.45%、年平均▲37万部)
  • 新聞全体…4595万部→3240万部(1355万部減少、減少率は29.49%、年平均▲169万部)

今のところは新聞業界全体の方が朝日新聞と比べて減少ペースは緩やかではあるのですが、それでも新聞業界全体が現在のペースで部数減少を続けていけば、19.1年後には新聞全体の部数がゼロになる、という計算です。

もちろん、新聞の部数が「線形で」落ちていく、などと想定するのは、考察としては若干乱暴です。

ただ、新聞全体の部数が「チラシ需要」、「訃報欄需要」、「押し紙」などによって押し上げられているのだとすれば、ウェブチラシアプリなどが普及すれば①の需要は押し下げられますし、また、公正取引委員会などがちゃんと仕事をすれば、③のような不正は撲滅されることになります。

一説によると、現在でも新聞全体の部数は「押し紙」によって2~3割は嵩増しされているとの情報もありますが、もし新聞全体の部数が3240万部ではなく、その2割減である2592万部だったとすれば、この8年間における減少率は約44%となり、朝日新聞の減少率と近づきます。

結局、新聞が生き残るための要因としては②くらいしか考えられませんが、その理由にしたって、いつまでも残るかどうかは怪しいものです。スマートフォンの急速な普及は、ありとあらゆる紙媒体需要を押し下げているからです。

日本独特の存在:たとえば「記者クラブ制度」など

ちなみにスマートフォンの爆発的な普及は日本だけでなく、全世界レベルの現象と見るべきであり、「紙媒体の新聞が消滅するかもしれない」というリスクを抱えているのは、日本の新聞社だけであるとは限りません。ただ、それと同時に、一般に持っている利権が大きければ大きいほど、「変化する時代への対応力」は低くなります。

一例をあげると、日本の新聞社、テレビ局といえば、「記者クラブ」という利権制度の存在が有名です。

フランスに本部を置く「国境なき記者団」(reporters sans frontières)が公表する「報道の自由度ランキング」(classement mondial de la liberté de la presse)においても、次のとおり、記者クラブ制度は「外国人やフリーのジャーナリストを差別する仕組み」と批判されています。

Le système des clubs de presse (kisha clubs), qui n’autorise que les médias établis à accéder aux conférences de presse et aux hauts responsables, pousse les reporters à l’autocensure et représente une discrimination flagrante à l’encontre des journalistes indépendants ou étrangers.

「ル・シュステーム・デ・クルーブ・ド・プレス」という表現の直後にカッコ書きで「キシャ・クラブズ」と注記されているとおり、この「記者クラブ制度」は諸外国でも悪名高いものであり、逆にいえば、この「キシャ・クラブズ」こそが、日本のメディア腐敗の象徴、というわけです。

つまり、新聞社やテレビ局がこの「記者クラブ制度」という利権を決して手放そうとしない理由も、実力のある独立系ジャーナリストらを排除することで、自分たちの経営の安泰を確保しようとすることにあると考えるべきであり、その意味では、利権構造の維持そのものが彼らの自己目的化している、という仮説は成り立つでしょう。

利権は自壊する

ただし、くどいようですが、利権というものはたいていの場合、怠惰や強欲のすえに自壊するものです。

当然、記者クラブなど存在しなくても、自力で取材源から情報を取ってくるような優れたフリージャーナリストは自然発生的に出現してくるでしょうし、統計や法令などの一次資料を丹念に読み解き、そこから独自の見解を導き出すようなサイトも増えてくるはずです。

しかも、現代社会には便利なことに、インターネットが存在します。

紙とインクと輪転機、そして大量の輸送用トラックなどが存在しなくても、その気になれば情報を全国津々浦々(いや、全世界)に送り届けることができてしまうのです。記者クラブなどの既得権益で変化を拒むにしても、もう無理があるでしょう。

「新聞の書き手(新聞記者)は記者クラブから得た『紙』を転写する人たちである」。

「重い紙媒体に古びた情報を印刷し、二酸化炭素を大量にまき散らしながら全国に送り届ける」。

こんなビジネスが行き詰まるのも、ある意味では当然のことなのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (20)

  • 1918年8月12日に起こった鈴木商店本店焼き討ち事件の原因は大阪朝日新聞の捏造記事が民衆を煽ったためだと言われています。これが我が国の報道犯罪の走りなのかもしれません。当時は、新聞が情報を独占していたはずなので、このことが糾弾されることはなかったのでしょうね。

  • >朝日新聞が新聞業界全体と比べて10%ポイント程度、減少率が大きい

    昔:報道は世相を映す鏡
    今:世相は報道を映す鏡

    報道のナナメウエ具合が世相に”反映”されたとしか思えないですね。(角度のつけすぎ)

  • これに対する朝日新聞の戦略は明確で「ひたすら読者を気持ちよくさせる」でしょう。
    川柳のような低レベルな子どもレベルの記事がこれからも増えていくでしょう。

    そもそも新聞そのものが近所レベルのエセ文化人気分を味わうツールだったわけですよ。今となっては新聞読んでるなんて自慢にもならんですが。

    読者を喜ばせる発想古来からの新聞の姿で、そのやり方で若干の個性があるのかなぁと。巨人軍チケットとかで釣る読売と、左翼系文化人気取りを気持ちよくさせる朝日と。

    まあ、10年後派どうなってるんでしょうね。気持ちよくする記事の需要はそこそこあるように思います。。

  • 新聞購読数現象の一因として、2000年台初頭の地デジ化も一つ考えられないでしょうか?
    地デジのメニューでTV番組表が見れる様になり、わざわざ新聞を購読しなくても番組が判るなら、無駄な新聞など契約要らないなと考える人が増えたのではないでしょうか
    夕刊が朝刊より部数減少が早いのも説に当てはまる様に感じます
    新聞のメリットして様々な情報を知ることを、感じております、ネットだと自分の興味のある分野を深掘りするのには便利なのですが、世の中の広い動きは新聞の方がパッと目に入りやすいかなと思います
    とは言っても新聞会社に依って歪んだ認知による報道があるので、公明公正な報道機関が望まれてるのかなと感じております

    • 社会人になってからウン10年、紙の新聞を定期購読してきた。最近定期購読をやめようと思っているがフンぎりがつかない。
      新聞にはいろいろな情報が入っているが、知りたい必要があって自分から取りに行くような情報、例えば株価やマーケットに関する情報は新聞では遅すぎる。テレビ番組欄はテレビに内蔵されている番組表で十分だ。スポーツ、もはや新聞紙面で扱うような情報ではないかもしれない。遅くて浅すぎるのだ。社会をにぎわす事件。ネットの方がいい情報がとれる。
      では新聞をやめられない理由はなんだろう。
      自分でもよくわからないが、たとえば「今、xx業界で異変が起きている、その背景にはxxx~」「今xxが静かなブーム、xxが品薄で~」というようなニュースではないが、知っておいて損はないような情報かもしれない。

  • 新聞の減少はオートロックマンションの増加も一因だと思います。
    玄関まで届いたものを朝出かける前に読む層にとっては、一度部屋を出て取りに行き、また部屋に戻って読む、という作業が無駄な点が一つ。
    また、オートロックマンションだと新聞勧誘がし辛いため新規顧客が増えないという点も大きいかと。

    朝日の場合は記事内容に関する問題も大きいでしょうけど。

  • 「どうして朝刊部数が夕刊部数と比べ減少率は緩やかなのか」
    ホテル(特にビジネスホテル)需要があるのかと思います。

  •  定点観測的な記事、ありがとうございます。余計な補足をコメントさせていただきます。
     我が家は折り込みチラシが購読の第一要因ですが、このタイプの読者は最大手のY新聞に移っていく傾向があります。広告主も最大手を優先するので、ゲームとしてはwinnerーtakesーallのパターンになります。
     また、私にとって朝日新聞さんは、自分の支持する政策を反対してもらえると、自分が間違っていないと安心できる、という意味で大変頼もしい存在です。

  • 朝日も早く潰れて欲しいけど、毎日と日刊ゲンダイは今日、今すぐにでも、日本から消滅してほしい。

  • 団塊世代という左派性向の強い世代が定年退職してTVのワイドショーの主要な視聴者になってから、中身がこれまでの芸能中心プラス事件事故という形態から政治社会中心にシフトしました。
    それが新聞、とくに朝日のようなゴシップ紙の価値を奪ったのではないかと思いますね。

  • 「危機の新聞瀬戸際の記者」という毎日新聞記者の著書がある。

    そこに08年の毎日新聞英字紙変態記事事件から多くの取引先や広告主が毎日新聞から手を引いたとのこと。

    この記者が関係先に伺うと「貴方が悪くないのは知ってるがこういう会社とは付き合えない」と突き放され、毎日新聞凋落の主要因とした。

    朝日新聞も慰安婦誤報、原発誤報で同じことがおこったはず。さらに去年の五輪反対社説、先日の川柳でさらに取引先、広告主が離れただろう。

    これが新聞発行部数の減少以上に新聞広告額が減少している理由であり、新聞業界の苦境は自らの驕りによる自業自得だと言える。

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