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ウクライナ南部・ヘルソンでロシア軍孤立か=英防衛省

ロシアが占領しているウクライナ南部の都市・ヘルソンで、ウクライナ軍の反攻の結果、ロシア軍が孤立しているとの情報が出てきました。情報を発信したのは英国防衛省の『インテリジェンス・アップデート』です。この情報をそのまま信頼して良いかという問題はあります。ただ、先週は英情報機関の長官が「ロシアは数週間以内に勢いを喪失する」との見通しを示したこともあり、ウクライナがヘルソン奪回に成功するかどうかは、ウクライナが今後、どこまで反攻できるかを予測するうえでカギとなりそうです。

ロシア軍はウクライナ東南部の制圧に全力

ロシアによる違法なウクライナ戦争の開始から、すでに5ヵ月以上が経過しました。

ロシア側の当初の目標は、おそらくはウォロディミル・ゼレンスキー大統領の除去とウクライナ全土の掌握にあったと見られますが(『ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」?』等参照)、現実には3月末ごろには首都・キーウ近郊からロシア軍が撤収。

その後はブチャ事件を含め、ロシア軍による戦争犯罪などが続々と判明し、西側諸国もロシアへの非難のトーンを強めていますが、残念ながらロシア側は停戦に応じず、それどころかウクライナの東部や南部の制圧に全力を尽くしています。

ロシアは「ブチャの惨劇」について、しらを切りとおすつもりなのかもしれません。『タス通信「ブチャの事件はウクライナ側の虚偽の宣伝」』ではメドベージェフ前大統領のSNS投稿を紹介しましたが、これに加えてクレムリンの報道官も、「ブチャ事件」については「西側がロシアの説明を聞かない点に問題がある」などと述べているのだそうです。ただ、「カチンの森事件」当時と異なり、現代はインターネットが存在します。真相をいつまでも隠蔽できるというものでもないでしょう。ウクライナ戦争はすでに40日が経過2月24日に始まった...
「ブチャ事件」で明らかに変わった「国際社会の潮目」 - 新宿会計士の政治経済評論

このため、現在、ウクライナの東南部はほぼロシアに制圧されてしまっている状況にあります。ウクライナ自体がNATO加盟国などではないため、欧米諸国が直接にロシア軍と戦うことが難しく、結果的にロシアの新興を許してしまっている格好だからです。

MI6長官「ロシアはウクライナで近日中に失速」

ただ、本来ならば物量で圧倒しているはずのロシア軍も、さすがにここに来て、息切れが目立ってきたようです。

英MI6長官「ロシアはウクライナで近日中に失速も」』でも取り上げましたが、欧米諸国の武器供与も継続しており、これに対してロシア側には人的リソースの不足も目立ってきたからです。

「ロシアは人的リソースの欠乏から今後数週間以内に失速するかもしれない」――。こんな分析が出てきました。英国の情報機関「MI6」のリチャード・ムーア長官は現地時間21日に開催されたフォーラムで、欧州では外交官を装ったロシア人のスパイが400人以上追放され、諜報能力が激減しているなどとする分析を示し、あわせてウクライナ側の士気の高さや新たな武器による反撃の可能性に言及しました。この5ヵ月でロシアが払った犠牲早いもので、ロシアによるウクライナ侵略戦争の開始から、明日で5ヵ月が経過します。ロシア側はこの戦争...
英MI6長官「ロシアはウクライナで近日中に失速も」 - 新宿会計士の政治経済評論

これに加え、新兵器の「HIMARS」の投入で、ウクライナ側には反撃の機運も生じている、とする報道もあります。

戦争は新段階に突入か、HIMARS効果でウクライナに反撃の好機

―――2022年7月26日 0:38 JST付 Bloombergより

記事にあるHIMARSとは、米国が供給した長距離ロケット砲システムのことで、ブルームバーグによると、米シンクタンクの「戦争研究所(ISW)」は「HIMARSがロシア軍の前線に武器を供給していた数十の兵器庫を破壊した」と分析しているそうです。

今度はヘルソンのロシア軍が孤立か?

こうしたなか、英国防衛省がツイッターなどで日々公表している『インテリジェンス・アップデート』と称する情報発信には、個人的には以前から注目してきました。事後的に見ると、ロシア軍の動きをかなり正確に予測していると評価できるものが多いからです。

その最新版が、こんなツイートです。

これによると、ウクライナ側がヘルソンでの反撃を強化している、というのです。テキスト版とそれにたいする意訳を紹介しておきましょう。

  • Ukraine’s counter-offensive in Kherson is gathering momentum. Their forces have highly likely established a bridgehead south of the Ingulets River, which forms the northern boundary of Russian-occupied Kherson. (ウクライナのヘルソンでの反攻は勢いを増している。ウクライナ軍は、ヘルソンにおけるロシアの占領地との北方の境界線を形成しているイングレット川の南端に橋頭堡を築くのに成功した可能性がかなり高い)
  • Ukraine has used its new long range artillery to damage at least three of the bridges across the Dnipro River which Russia relies upon to supply the areas under its control. (ウクライナは新型の長距離砲を使い、ロシアが支配する地域の補給を担っているドニプロ川にかかる橋のうち、少なくとも3本に打撃を与えた)
  • One of these, the 1000 metre long Antonivsky bridge near Kherson city, was damaged last week. Ukraine struck it again on 27 July 2022 and it is highly likely that the crossing is now unusable. (そのうちのひとつはヘルソン市近郊にある長さ1000メートルのアントニフスキー橋で、ウクライナ側は先週に続き27日にも攻撃を実施し、現時点においてこの橋は使用不可能になっている可能性が高い)
  • Russia’s 49th Army is stationed on the west bank of the Dnipro River and now looks highly vulnerable. (ドニプロ川の西岸に駐留しているロシアの第49軍は、現在は非常に脆弱な状態にあるようだ)
  • Similarly, Kherson city, the most politically significant population centre occupied by Russia, is now virtually cut off from the other occupied territories. Its loss would severely undermine Russia’s attempts to paint the occupation as a success. (同様に、ロシアが占領している最も政治的に重要な人口の中心地であるヘルソン市は、他の占領地から事実上孤立した状態に置かれている。この都市を失うと、ロシアの占領に向けた軍事作戦を成功させるうえでの大きな障害となる)

HIMARS&ヘルソンに注目

もちろん、このツイートをそのまま信頼して良い、という話ではありません。

しかし、ヘルソンの地形を調べてみると、たしかにロシアが同市に物資などを補給する場合には、同市南部を流れるドニプロ川を渡河する必要がありますが、その主要幹線のひとつが同市東部にあるアントノフスキー橋であり、ここが使えなくなれば、ヘルソンのロシア軍は孤立します。

【参考】戦況

(【出所】英国防衛省)

HIMARS効果と相まって、まずはヘルソン奪回にウクライナが成功すれば、戦況を一気に変えることができるかもしれません。その勢いでドネツク、ルガンスク、クリミアなどの各地域にウクライナが進軍できるかもしれないからです。

その意味では、HIMARSなどの新兵器とヘルソン戦線については注目する価値がありそうです。

新宿会計士:

View Comments (6)

  •  ウクライナ軍と日本国自衛隊は大雑把な捉え方では相似点が割りとあります。陸軍国か海軍国かですでに違うのですがまぁ。
     兵力規模20万人程度。それぞれ米ソではあるものの戦後に大国庇護から離れて国防に特化している点。NATOに加盟していないもののNATO方式といえる兵器・戦術体系をとっている(とるることにした)点。集団的自衛を主戦略にしている(することにした)点。
     自衛隊・防衛省でも本件はかなり我が身の事のように注視研究していることでしょうし、もしウクライナがロシアを撃退するようであれば、戦略の有効性が証明されるということになるでしょう。最終的に敗北(条件が不明ですが)となったとしても、今現在の状況は既に十二分に評価されるべきですし。選択が正しければ必ず最高の結果が出るわけではありません。
     [ロシア]対[支援付きウクライナ]、ですらこの苦戦ですから、[規模はあるものの実力の怪しい中国]対[支援付き台湾]、あるいは対 同日本では……と単純に推測するだけで、間接的に東アジアの安定化に寄与した可能性があるかも。また左翼さんがたが集団的自衛を否定するなら、相当なそれっぽい論理を作らなければなりませんね。

  • ロシアへの道義的批判は、軍事的な情勢分析とは分けて考えるべきです。
    現在、ウクライナ軍の7割近くは、開戦後に緊急動員された民間人だと言われています。そんな急ごしらえの軍隊に、アメリカ製の最新兵器を与えても、使いこなせるわけがありませんよね。
    それよりも大きな問題は、言うまでもなく天然ガスの問題です。世界的なインフレの主原因の1つでもあり、EU諸国からすれば今冬を乗り切れるかの生き死にがかかった問題でもあります。
    さらに重要なのは、この秋のアメリカの中間選挙です。バイデン民主党が大幅に議席を減らすと見られていますが、共和党の最大の攻撃材料は、露宇戦争へのバイデン政権対応の誤りによるインフレです。直近のアメリカのインフレ率は、9%を超えています。共和党が議席を伸ばせば、当然強まってくるのは停戦圧力です。
    EU諸国は冬までには停戦を実現したい。中間選挙で勝利した米共和党と歩調を合わせて、停戦実現へ舵を切ることになるでしょう。しかし、短期的には有利な立場にあるロシアに冬までの停戦を飲ませるなら、ウクライナに領土的な譲歩を受け入れさせるよりありません(強制的に)。ウクライナ一色だった欧米リベラルマスゴミは、すでに方針転換を始めており、最終的にゼレンスキーは梯子を外され、年内にもウクライナの一人負けの形で停戦合意がなされることになるでしょう。
    道義的にはロシアに非があると思いますが、繰り返しになりますが、それとは分けて考えるべきだと思います。

    • ウクライナ軍はアメリカから供給されているHIMARSなどの高度な兵器をちゃんと使いこなしてロシア軍の侵攻を食い止め,逆に徐々に押し返し始めていますが,それが何か.

      それから,欧州のそれもドイツやフランスやイタリアあたりはともかく,NATO諸国でもウクライナの次は自分達だと強い危機感を有しているポーランドやバルト3国は言うに及ばず,アメリカでも共和党は昔から民主党以上にロシアの拡張主義的行動に対して厳しい態度をとっていますよ.

      貴殿が幾らロシアのシンパであっても,余りにも現実離れした妄想レベルの情勢分析では,朝日や毎日しか読まない人々や地上波ニュースしか見ない情報弱者相手ならばいざ知らず,このブログの読者相手では誰も騙せませんよ.

  • ミリタリー系サイトによれば,大活躍中のHIMARSで撃ちまくっているロケット砲弾の供給が間に合わず,ウクライナの南部奪還作戦を本格的に行う上で支障を来しそうだとのこと.

    アメリカ軍もゲリラ同然の非正規軍か正規軍でも圧倒的に戦力で劣るのが相手の非対称戦争しか久しくやっていないから,弾薬の備蓄量も昔に比べて大幅に減ってるんでしょうね.(しかも,その弾薬は単純な砲弾じゃなくてGPS誘導付きのロケット弾となれば1発のお値段も昔の砲弾とは桁違いに高くなってるだろうし)

    あとHIMARSに関して言えば,それで発射できる300キロもの射程を有するATACMS地対地ミサイルがアメリカから供給されれば2014年のクリミア半島強奪から駐留しているロシア軍部隊への唯一の補給路であるロシアとクリミア半島とを繋いでいる橋を,現在のウクライナ支配地域から破壊でき,クリミア半島奪還作戦も可能になるという話もありますね.(現在ウクライナ軍に供給され使用中のロケット砲弾では射程が短すぎて現状のウクライナ支配地域からは橋に届かない)

    • 現時点でクリミア(の軍港)まで手を伸ばせばロシアによる"戦術核"の使用が視程に入りそうです
      ロシアに"核"を使わせないで如何に押し返すか、焦れったいですがウクライナへの軍事援助がサラミスライスの如くチマチマ伸展するのもある意味仕方がないのかも知れやせん