米FRBは0.75%ポイントの利上げに踏み切りましたが、現在のところ、とくに外国為替市場の反応は限定的です。ジェローム・パウエル議長自身は追加利上げの可能性も示唆したものの、いったんは7月の材料が出尽くしたため、市場参加者は様子見、といったところでしょうか。こうしたなか、例の「D8スワップ」の続報もありました。結論的にいえば、あまり進展はないようです。
FOMCで75ベーシス・ポイントの利上げ
米国時間の27日午後2時、すなわち日本時間の28日午前3時に公表されたFOMCの結果、米FRBは先月に続き、今回もFF金利を75ベーシス(0.75%ポイント)引き上げるとともに、コロナ禍後の金融緩和で膨張したFRBのバランスシートについても、これまでどおり圧縮を継続するすることを決定しました。
Federal Reserve issues FOMC statement
―――2022/07/27 14:00 EDT付 FRBウェブサイトより
ただし、外為市場では日本円、ユーロ、ポンドなどの主要通貨が米ドルに対して一斉に上昇しています。
この点、FOMC直後の会見でのジェローム・パウエル議長の発言内容に照らし、今後も利上げがあり得るとの示唆もあったようですが、やはり今回の利上げ幅が市場参加者の予測通りだったことに加え、金融引締めのペースが加速する可能性はさほど大きくないことなどが、市場に安心感を与えたのかもしれません。
このあたりはロイターが日本時間の今朝5時前に配信した次の記事なども参考になります。
Reactions after Fed hikes rates by another 75 basis points
―――2022/07/28 4:56 GMT+9付 ロイターより
この記事の末尾には市場参加者のコメントが紹介されているのですが、たとえばチャールズ・シュワブの英国部門のマネジング・ディレクターであるリチャード・フリン氏は、FRBが現在保有している米国債などが満期まで保有されることが許容されるものだ、などと指摘しています。
いったんはFOMCという今月の最大の山場が一段落したことは間違いないでしょう。
D8スワップに「続報」
ただし、米国におけるインフレ率の状況次第では、今後も追加利上げの可能性は十分にあるのですが、そうなってくると困るのは新興市場諸国です。
こうしたなか、先日の『バングラデシュで「D8スワップ」構想=現地メディア』でも取り上げた、「D8スワップ構想」に、続報がありました。
Egypt, Nigeria with other developing nations seek to overcome energy, currency crises
Business leaders and officials from eight developing nations meeting in Bangladesh on Tuesday said more cooperation was needed among them to overcome dwindling foreign currency reserves, a growing energy crisis and supply chain disruptions.<<…続きを読む>>
―――2022/07/27付 africanews.より【※AP配信】
『アフリカニューズ』というメディアが配信した記事によると、「D8諸国」(※)のビジネス関係者や当局者がバングラデシュに集まり、「外貨準備の減少、エネルギー危機の深刻化、サプライチェーンの途絶」などの問題を話し合ったのだそうです。
(※D8諸国とはエジプト、インドネシア、イラン、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、トルコ、バングラデシュの8ヵ国のことだそうですが、このアフリカニューズの記事ではなぜかインドネシアの名前が欠落しています。記者のミスでしょうか?それともインドネシアだけ不参加だったのでしょうか?)
記事によると主催者側は、今回の会合では「外貨準備の脆弱性に対処するため」に「通貨スワップ、物々交換、ブロックチェーン」などの代替的な貿易金融について議論し、あわせてバングラデシュのアブドゥル・モメン外相も「D8は5兆ドルの経済規模を持つ」として、域内貿易拡大や自由貿易協定に言及したそうです。
さらには、イランやナイジェリアなどが世界有数の産油国であるということを踏まえ、D8はエネルギー安全保障を強化する方法を模索しているとも述べた、などとしています。
正直、中身はほとんどない
正直なことを申し上げるなら、この会合、中身はほとんどありません。「ブロックチェーンでドル依存を減らせる」というのも意味がよくわかりませんし、物々交換も極めて非現実的だからです(過去にイランと韓国がバーター貿易を行ったこともありましたが、うまくいかなかったようです)。
さらには、恒常的な外貨不足に悩む域内各国で通貨スワップを締結しても、たとえばインドネシアと韓国の通貨スワップのように、あるいはトルコと韓国のように、危機の備えにならないばかりか、通貨危機を世界にまき散らす要因にもなりかねません。
どうもこの「D8サミット」とやらも、あまり実効性がある解決策は打ち出せなかったと見て良いでしょう。
ちなみにアフリカニューズの記事には、ほかにも、なかなか興味深い記載があります。
「バングラデシュは人口1億6000万人・世界41位の経済大国ではあるが、輸入コスト上昇の圧力を緩和するために、ディーゼル発電所の稼働を停止した。また、同国の中央銀行は、銀行でのドル不足を背景に、高級品の輸入を減らす措置を講じている」。
このあたり、D8スワップやD8エネルギー安保のために、D8域内での経済圏でも作ろうとしたのでしょうか。
いまひとつ、よくわかりません。
ただ、世界各地で外貨不足の問題が発生していることは間違いなく、その直接的または間接的な要因がFRBの利上げや金融引締め(あるいはその見通し)であることについても、留意する必要がありそうです。
ちなみに日本は、D8諸国のなかではインドネシア、マレーシアの両国と通貨スワップを締結しています(財務省資料によると、インドネシアは227.6億ドルの片方向スワップ、マレーシアは30億ドルの双方向スワップだそうです)。
一時期、D8諸国の一角を占めるトルコでは「日本との通貨スワップが検討されている」といった観測報道(あるいは「飛ばし報道」)が通貨防衛に使われたこともありましたが(『「飛ばし報道」だけでトルコリラの暴落を防いだ日本円』等参照)、日本がトルコなどと通貨・為替スワップを締結する可能性は低そうです。
昨日の『トルコとの100億ドルスワップ報道に「驚いた」日本』では、トルコ国内で「トルコ中央銀行が日銀と100億ドル規模の通貨スワップ締結で合意に至る直前である」などと報じられた、とする話題を紹介しました。いわば、一種の「寝耳に水」のような話ですね。わが国ではさほど話題になっている形跡はないのですが、現時点で判断するかぎりは「利下げに備えて通貨安を防衛するための一種の情報操作だった」とうい可能性が高い気がします。トルコメディアの飛ばし報道「100億ドルスワップ説」は信頼できるのか?昨日、当ウェブサイトで... 「飛ばし報道」だけでトルコリラの暴落を防いだ日本円 - 新宿会計士の政治経済評論 |
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>「ブロックチェーンでドル依存を減らせる」というのも意味がよくわかりませんし、
「ブロックチェーンって言っときゃいいんだよ」は、「スワップだったら何でもいいんだよ」に似ていると思いました。イケイケドンドンみたいな。
ブロックチェーンは、送金情報の正しさや前後関係の正しさを証明する仕掛けです。第三者的な機関が存在しなくても、それが十分正しいことが誰でも確認できるので、発行や送金を管理する中央銀行や金融機関が不要になります。
D8通貨や人民元など既存通貨がブロックチェーンを取り入れたとして、何のメリットがあるのやら。既存の中央銀行や金融機関が信用ならない、と言いたいのかな?
ちなみに、今のデジタル人民元にはブロックチェーンは使われていません。当面使う予定もないそうです。
一挙に0.75%の利上げと言えば、もっとインパクトがあって然るべきと思うのですが、マーケットは冷静。むしろ円ドルレートは円高方向に動いているようですね。
海外のニュースを見ていると、今アメリカで起きているインフレの凄まじさは半端なものじゃないようですから、この程度の利上げは焼け石に水ということなんでしょうか。
7/14に1%観測報道があって、その時に世界中で一気にドルが買われました。
その後の理事の修正発言や売り買い交錯の中で、既に市場に織り込まれてしまっていたと思います。
「噂で買って事実で売る」のパターンかなと思いました。
https://jp.reuters.com/article/usa-economy-fedfunds-idJPKBN2OO1F4
韓国も参加してD9になり、D9総本部ビルを仁川あたりに造ればいいんじゃないかな。
AIIBの時とかも参加内容より本部ビル所在地にこだわってたし。
ローカルカレンシー同士で趣旨には合うし、ローマ教皇に始まり見捨てられたんだからイスラムに改宗してしまえばよろしい。
改宗する時の手柄話として
「憎き日本の対馬の仏教寺から仏像と経典盗んで、逃げる途中で経典は邪魔くさいし売れるかわからないから港から海に投げ捨てましたばい! どうよ! 反仏教だからイスラム教国にふさわしいっしょ♪」
って是非言ってみて欲しい。
FOMCは市場の予想通りだったので,短期的な影響は少ないでしょう。
D8諸国は,マレーシアを除くと,どこも海外投資家が考え込む問題を抱えているように感じます。
ドル・円相場は私の直感だと,円安進行がそろそろ終わって方向が反転しそうな気がします。理湯は,日本国債をカラ売りしていた投資ファンドの幾つかが,傷を負って撤退するのではないか,という予想です。
原油高も一段落してきましたしね。