韓国が諸懸案放置なら日本企業の韓国からの撤退加速も
昨日は日韓外相会談が行われました。見ていて危なっかしい点もありますが、総じていえば、「宿題を抱えている」のは韓国の側であることが、改めて確認された会合だったといえるでしょう。そして、本稿では現実に日韓双方の外交当局の発表内容を見比べたところ、少なくとも76箇所の相違が存在することが判明しました。このインターネット時代、私たち一般国民もその気になれば両国のウェブサイトを直接見比べることができるというのも興味深い話です。
2022/07/19 9:15追記・訂正
当初のタイトル・本文では「日韓外交当局の発表内容で7箇所の相違がある」としていますが、現時点において韓国政府ウェブサイトをもう一度読み返したところ、そのうちの1箇所については韓国側のウェブサイトにも記述がありました。よって、記事タイトルを「6箇所」に修正するとともに、該当する記述についても修正履歴付きで修正しています。
日韓外相会談
昨日は朴振(ぼく・しん)韓国外交部長官が日本を訪れ、林芳正外相は朴振氏との間で日韓外相会談とワーキングディナーに臨みました。その内容については、日韓双方の外務省・外交部がそれぞれ報道発表を行っています。
これについて、まずは日本側の発表を確認しておきましょう。
日韓外相会談及びワーキングディナー
7月18日午後4時頃から約2時間半、林芳正外務大臣は、訪日中の朴振(パク・チン)韓国外交部長官との間で会談及びワーキングディナーを行ったところ、概要は以下のとおりです。
- 朴長官から、今般の安倍元内閣総理大臣の逝去に関し、衷心よりの弔意が伝えられました。これに対し、林外務大臣から、朴長官の弔意に謝意を述べました。
- 両外相は、現下の戦略環境に鑑み、日韓・日韓米協力の進展が今以上に重要な時はないとの認識で一致しました。また、ロシアによるウクライナ侵略に対する非難で一致しました。
- 両外相は、北朝鮮への対応における更なる連携を確認しました。また、朴長官から拉致問題について改めて支持を得ました。
- 林外務大臣から、1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の基盤に基づき日韓関係を発展させていく必要があり、そのためには旧朝鮮半島出身労働者問題を始めとする日韓間の懸案の解決が必要である旨述べました。
- 朴長官から、現金化が行われる前に、望ましい解決策が出るよう努力する旨述べました。その上で、両外相は、この問題の早期解決で一致しました。
- 両外相は、両国間の協議を加速させることで一致しました。また、両外相は、両国間の人的交流の再活性化を進めていくことでも一致しました。
―――2022/07/18付 外務省HPより
危なっかしさもあるが…
端的にいえば、あたかも日韓諸懸案の解決責任が日本の側にもあるかのごとく認めたかの「危なっかしさ」もあるものの、「宿題を抱えている側」が韓国であることが示されたという意味では、いちおうの及第点とはいえるでしょう。
とくに、箇条書きの6番目にある「両国間の協議の加速」を含め、なんだか非常に気になる記述もいくつかあります。日韓諸懸案をめぐって、韓国側がこれと言った「解決策」を提示しているわけでもないにも関わらず、諸懸案の解決に日本も協力すると言明したかのように読めてしまうからです。
諸懸案の解決責任があたかも両国にあるかのように読めてしまう曖昧さがある点については非常に気になりますし(例の「外務省の小役人」の暗躍でしょうか?)、「韓国が国際法を守らなければ日韓関係の「正常化」はあり得ない、という点にもっと踏み込んで言及すべきだったのではないかという気がしないでもありません。
ただ、「人的交流の再活性化」に関しては、韓国国民に対するビザ免除措置の停止自体、対韓制裁として発動されたものではなく、あくまでもコロナ防疫のために発動されたものですので、時期が来たら解除されるという点に関しては、ごく当たり前の話を述べているだけです。
そのうえ、朴振氏による自称元徴用工問題を巡り、「現金化が行われる前に望ましい解決策が出るよう(韓国側が)努力する」との発言については、自然に考えて、とりあえずは「まずは解決策に関しては韓国側が出してくるとの言質を取った」、という意味だと考えて良いでしょう。
いずれにせよ、外務省が安易な対韓譲歩を図ろうとしているフシがあるなど、気になる点がないではありませんが、「宿題を抱えている側」が韓国であることが示されたという意味では最低限の及第点と考えて良いでしょう。
韓国側の報道発表
ところで、韓国側の発表を読むと、かなりニュアンスが異なります。
韓日外交長官会談(7.18)結果【※韓国語】
- パクチン外交部長官は就任後初の公式訪日を実施し、林芳正日本外務大臣と7.18(月)韓日外交長官会談及び晩餐を持ち、両国間の懸案問題及び共同関心事について議論し、未来志向的な関係発展のための方案について意見を交換した。
- ※外交長官の両者次元の訪日は2017.12月が最後(ただし、多者会の出席などの目的では2019.11月のG20外交長官会議契機訪日が最後)
- 会談に先立ち、朴長官は岸田首相と林外務大臣のリーダーシップのもと、日本国民が安倍前首相の死亡に伴う衝撃と悲しみを賢く克服していくことを祈り、日本国民に深い哀悼と慰労の意を伝えた。
- 両長官は、急変する国際情勢下で韓日両国が地域及び世界の平和と繁栄のために多様な分野で今後緊密に協力していこうという意見が一致した。
- 両長官は最近の朝鮮半島情勢に対する評価を共有し、北朝鮮の追加挑発については断固として対応していく一方、対話の扉を開けておき、柔軟で開かれた外交的アプローチを推進していくために韓日・韓米日間協力をさらに強化するとした。
- 朴長官は、1998年の「21世紀の新韓日パートナーシップ共同宣言(金大中・小渕宣言)」の精神と趣旨に基づいて、両国関係を発展させていこうと述べた。
- 朴長官はその間、両国間緊密な疎通の下で▼金浦-羽田路線再開、▼隔離免除、など韓日間人的交流復元のための措置が行われた点を評価して、今後もビザ免除など交流再活性化に必要な制度的基盤整備のためにずっと努力して行こうと述べた(※朴長官は今回訪日時に金浦-羽田路線利用)。
- 両長官は相互関心事について意見を取り交わして、両国間諸般懸案の早速な解決のために長官間を含んで協議を加速化するということに意見が一致した。
―――2022/07/18付 韓国外交部HPより
…。
2022/07/19 9:15追記
なお、現時点において韓国政府・外交部の発表を読み返すと、次のような記述が含まれていました。
- 朴長官は、強制徴用判決関連の現金化が行われる前に望ましい解決策が出るように努力すると述べ、両側は同問題の早期解決が必要であるという認識を共にした。
これについては著者自身が読み落としたのか、韓国政府が修正したのかについてはわかりません。少なくとも以下の議論では修正が必要な箇所が出てきますので、修正履歴付きでその箇所を示しています(※ただし、議論の全体に大きな影響を与えるものではありません)。
この短い発表文でここまで齟齬が生じるとは…
いかがでしょうか(訳文が日本語として不自然な点がある理由は、複数の翻訳エンジンを参考に作成したからですが、大意に関してはこれで問題ないはずです)。
この短い文章のなかで、さっそくに日韓双方の報道発表内容にいくつかの齟齬が生じています。
細かい表現の違いはとりあえず脇に置くとして、日本側の発表に含まれているのに、明らかに韓国側の発表に含まれていないのは、次の4点です。
- ①両氏がロシアによるウクライナ侵略に対する非難で一致した旨
- ②朴振氏から拉致問題について改めて支持を得た旨
③朴振氏が「現金化が行われる前に、望ましい解決策が出るよう努力する」と発言した旨- ④林外相からの「1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の基盤に基づき日韓関係を発展させていく必要がある」「旧朝鮮半島出身労働者問題を始めとする日韓間の懸案の解決が必要である」旨の発言
その一方で、韓国側の発表に含まれていて、日本側の発表に含まれていない表現も、次の3点でしょう。
- ⑤両者が「(北朝鮮に対し)対話の扉を開けておき、柔軟で開かれた外交的アプローチを推進していくために韓日・韓米日間協力をさらに強化する」旨で合意したとの記述
- ⑥朴長官からの「日韓共同宣言の精神と趣旨に基づいて両国関係を発展させていこう」とする発言
- ⑦朴長官からの「ビザ免除」に関する発言
同じ内容についての報道発表であるはずなのに、ここまでの違いが出るというのは興味深いところです。
ウソをついているのはどっちだ!?
このうち、林外相や朴振長官の一方的な発言(たとえば④、⑥、⑦)については、べつに相手側の発表に含まれていなくてもおかしな点はありません。単純に、「対話のなかで自国の立場の主張をしたけれども、一致を見なかった」というだけの意味だと考えておいて間違いないからです。
ただ、「両者が合意した」と記載されているにも関わらず、片方の発表にしか含まれていない論点が3つあります。それが、日本側の「①ウクライナ侵略へのロシア批判」、「②朴振氏の拉致問題支持」、「③現金化の前に(韓国側が)解決策を出す」、韓国側の「⑤北朝鮮への対話の窓を開いて」云々の記述です。
これらは、どれも大変に重要な論点であるにもかかわらず、片方にしか含まれていません。さて、ウソをついているのは、どちらの側なのでしょうか。
いずれにせよ、当ウェブサイトではかなり以前から指摘してきたとおり、日韓関係の落としどころは、諸懸案が(韓国の国際法遵守、日本の譲歩など)何らかのかたちで解決・妥結することで関係破綻を回避するか、それとも諸懸案が解決せずに、いずれ日韓関係自体が破綻してしまうか、そのいずれかでしょう。
日韓諸懸案を巡る「3つの落としどころ」
- ①韓国が国際法や国際約束を誠実かつ完全に履行することで、日韓関係の破綻を回避する
- ②日本が原理原則を捻じ曲げ、韓国に対して譲歩することによって、日韓関係の破綻を回避する
- ③韓国が国際法や国際約束を守らかったことの結果として、日韓関係が破綻する
(【出所】著者作成)
この点、日本の外務省の発表内容を眺めていると、ともすれば上記②、つまり「韓国側に譲歩しよう」とする姿勢が垣間見え、危なっかしくてならないのですが、それ以上に、このインターネット時代において、②の選択肢を外務省がゴリ押しするのは困難です。
日本の側では、たとえば自民党の外交部会、さらにはその後ろには日韓問題に深い関心を持つ数多くの日本国民が控えていますので、外務省が韓国に下手に譲歩しようとしたとしても、それもなかなか難しいのが実情だからです。
このように考えていくと、日韓関係は現在のように、表面的には「日米韓3ヵ国連携は大事だね」、「諸懸案の解決が必要だね」、などと原理原則を主張しつつも、現実には諸懸案解決への推力が働かず、日韓関係は漂流を続ける、というのが現時点で一番可能性が高いシナリオではないでしょうか。
資産現金化?おそらくそれはない(と思う)
このようなことを申し上げたら、真っ先に、「でも自称元徴用工問題で資産現金化プロセスが進んでいるじゃないか」、「早ければ今夏から今秋にかけて資産現金化が行われるかもしれないぞ」、といった反論をいただくかもしれません。
しかし、当ウェブサイトとしては、その「資産現金化」とやらは、結局は行われないのではないかと考えています。その理由は簡単で、もし自称元徴用工側が本気で判決の履行を凍なうならば、換金が容易な資産、もっといえば「金銭債権」を差し押さえるはずだからです。
『徴用工「官民協議体」が「日本の謝罪」など議論=韓国』などでも述べたとおり、韓国の自称元徴用工側の議論は、「どうやって日本企業に謝罪させるか」といった点にも力点が置かれているのですが、これも非常に奇妙な話です。
出発点がおかしいから議論もしっちゃかめっちゃかになる昨日は韓国で行われた自称元徴用工問題をめぐる2回目の官民協議会で、「日本の謝罪」や賠償などが議論されたのだそうです。そもそも議論の出発点が間違っているので、出てくる議論もしっちゃかめっちゃかですが、「怖いもの見たさ」ではないものの、この「官民協議会」とやらでどんな結論が出てくるのか、ちょっと見てみたい気もします。ただ、私たち日本は彼らの見え透いた罠に引っかかってはなりませんが、それ以上にそろそろ次の議論として、あらためて「約束を誠実に守る国... 徴用工「官民協議体」が「日本の謝罪」など議論=韓国 - 新宿会計士の政治経済評論 |
確定判決が出ているのなら、「日本の戦犯企業の謝罪」だ、「日本企業と交渉」だ、などといわず、さっさと資産の現金化を図るのが筋でしょう。それをやらずに、非上場株式だの、知的財産権だの、換金が非常に難しい資産ばかりをわざと差し押さえているのは、おそらく彼らの側に本気で現金化するつもりがないからでしょう。
こうした点を踏まえるならば、おそらく自称元徴用工問題を巡り、原告側の「資産現金化」は結局実行されないまま、月日が経過するというシナリオが最も現実的です。
したがって、日韓関係は中途半端に諸懸案を抱えながら、対韓ビジネスを強化する企業もかもしれませんが(※たとえば経団連会長の出身企業など)、今後はむしろ、対韓ビジネスから撤退する企業の方が増えてくる(『日本企業の韓国合弁事業から「撤退」の動きは続くのか』等参照)のではないでしょうか。
出発点がおかしいから議論もしっちゃかめっちゃかになる昨日は韓国で行われた自称元徴用工問題をめぐる2回目の官民協議会で、「日本の謝罪」や賠償などが議論されたのだそうです。そもそも議論の出発点が間違っているので、出てくる議論もしっちゃかめっちゃかですが、「怖いもの見たさ」ではないものの、この「官民協議会」とやらでどんな結論が出てくるのか、ちょっと見てみたい気もします。ただ、私たち日本は彼らの見え透いた罠に引っかかってはなりませんが、それ以上にそろそろ次の議論として、あらためて「約束を誠実に守る国... 徴用工「官民協議体」が「日本の謝罪」など議論=韓国 - 新宿会計士の政治経済評論 |
このように考えると、日韓諸懸案については「現状維持」が続くことが、結果として日本社会や日本経済の「脱韓国」の動きを加速させるのかもしれない、などと思う次第です。
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「こうした点を踏まえるならば、おそらく自称元徴用工問題を巡り、原告側の「資産現金化」は結局実行されないまま、月日が経過するというシナリオが最も現実的です。」
めぐるめぐるよ時代は巡る
別れと出逢いをくり返し
ユンちゃん、5年くらい、あっという間だよ。月日は流れて幾千年、現金化判決を口実に次の1000年間は韓国と仲良くしなくていいかと思うと、悪い判決ではないかも。宿題しない子は宿題をするまでテレビを見たり漫画を読んだりしてはいけないんだよ。ユンちゃん、パクちゃん、お母さんにそう言われなかったの?
>朴長官から、現金化が行われる前に、望ましい解決策が出るよう努力する旨述べました。
これは韓国お得意の「通訳の問題」か?
ウクライナに関するロシアへの非難で一致はありえないですね。
陰で約束破りで儲けたい韓国は日韓と関係ないという一言で言質を避けるハズだからです。
おそらく稚拙では無く外務省からのメッセージですね。
「今回の日韓会合での日本の発表は信用度ゼロですよ」という。
少なくても当方は「日本の発表内容に信用は無くしました。」
日本外交の脱アベへのサラミスライスが早速スタートした気がします。
大丈夫ですかね。
たしかに統一教会側と弁護団側の発表内容が相違していることも興味深い話です
加えて創価学会とも縁を切れない、そんな軟弱組織が政権担当をしているという事実があります
ですから、日韓上層部の話が噛み合わないからと言って、ここにいるオールド保守の皆さんの望む展開にはならないでしょうね。
尹大統領の支持率が下がってきている事を考えると、韓国政府が建国以来積み重ねて来た嘘と妄想で捏造した「正しい歴史認識」を尹大統領が清算出来ない限り、日韓関係は疎遠になる方向にしか力は働かない気がします。
政治家では無い尹大統領だからこそそれが出来た、となるのか、これからが勝負ですね。
害務省の作文遊びが始まったのかなあ…
コリアスクールが蠢動してるような印象
外務省に回帰できるかしら?
何しに来たんでしょうね
結局解決策を用意してきたわけでもないし
岸田に会わせろと言ってるらしいけど
会っても中身ないよね
>現金化が行われる前に、望ましい解決策が出るよう "努力" する
まるで「努力したがダメだった」とするための前フリみたいですね。
さてさて、拉致問題しかり、慰安婦合意しかり、彼らの発した ”努力” のなんと軽いことよ・・。
努力義務に未達の咎はないとの認識による ”その場凌ぎの詭弁” でしかないんですものね・・。
組織によって部内的には過程に対する評価も一定あるのやもしれませんが、対外的には結果がすべてですものなあ
恐ろしい食い違いですね。
もう、2者会談(密室、動画なし)はしてはならないレベルですね。
動画公開か、アメリカの副大統領クラスと英語同時通訳が仕切る話以外無理ですね。
飯食ったとか、会ったとかの写真なり動画が撮れたら、それで目的達成でしょうからね。後は有ること無いこと言い放題。韓国伝統の戦術から政権が変わっても1mmもブレないのは、やはり国民性なんですかね。
朝鮮の四字熟語に「外華内貧」があります
外面だけ整えれば、中身を気にしない 朝鮮の気質を自虐して誕生した言葉だそうです。
「日本の要人が 頭を下げて来たぞ、握手お願いにきたぞ! オラは偉くなった!誇らしい!!」
一事が万事 こういうノリでしか 日韓関係を考えていないので
中身の相違など1mmも気にしてないと思います