本日の「インチキ論説」です。昨日、韓国で自称元徴用工問題をめぐる官民協議体が発足したとの報道がありましたが、これを受けて、一部のメディアがいかにも主張しそうな内容を想像してみました。なお、もしも本稿を「社説に使いたい」、「そのまま紙面に掲載したい」と思われる新聞社の方がいらっしゃれば、当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』が出所であることがわかるようにしていただければ、自由に転載していただいて差し支えありません。
目次
インチキ論説シリーズ
当ウェブサイトではときどき、「いかにも」な論考を掲載することがあります。なぜこんな論考を掲載するのかといえば、「ムシャクシャしてやった」としか言いようがありません。
日韓関係改善は待ったなしだ
大法院判決から4年目の日韓関係
韓国の最高裁にあたる「大法院」がいわゆる徴用工判決を下してから、今年で4年が経過する。
この裁判は戦時中に日本軍によって強制動員された被害者らが原告となり、日本企業に対して損害賠償を求めていたもので、韓国大法院は日本企業の不法性を認めたため、これらの企業に対して損害賠償を命じる判決が法的に確定した。
ただ、日本政府の側は、この一連の判決が1965年の日韓請求権協定に違反するとして強く反発。
2019年1月には韓国政府に対し外交的協議の申し入れを行い、同年5月からはこの手続を国際仲裁手続に切り替えるなどして韓国側に問題解決を呼び掛けてきたが、結局、当時の韓国の文在寅(ウェン・ツァイイン)政権は「三権分立」を理由にこの手続を拒否。
これに対し日本政府側は2019年7月に対韓輸出規制を発動し、半導体原材料などの対韓輸出を制限するなどの措置を講じたが、逆に韓国側が日韓GSOMIAの終了を日本側に通告するなど、一時期日韓間で対抗措置の応酬が生じた。
結局、日本側が輸出規制を撤回することを約束することで韓国側がGSOMIAの終了通告の「一時中止」を宣言するなどし、いったんはこの騒動も収まりかけたかに見えたが、日本側は結局輸出規制を撤回せず、結果的に韓国が日本を世界貿易機関(WTO)に提訴するなど、両国関係はギクシャクが続いている。
日本政府と日本企業は「大人の度量」を示せ
もちろん、この一連のやり取りを眺めると、韓国の司法府(大法院)、行政府(韓国政府)それぞれにも大きな問題があることは明白だ。
日韓請求権協定ですでに最終的な決着がついている日韓間の請求権の問題を蒸し返し、国際法に違反する法的状態を作り出したことは、韓国の司法に対する国際的な信頼が傷つくことを意味するし、この問題に誠実に向き合わない韓国政府の姿勢にも首をかしげざるを得ない。
しかし、それと同時にもっと呆れるのは、日本政府の「大人気(おとなげ)のなさ」だ。
たしかに徴用工判決自体は日本政府や多くの日本企業にとって受け入れられるものではないが、それと同時に、徴用工判決で賠償を命じられた金額は、1人あたりにしてわずか1億ウォン。日本円に換算してせいぜい1000万円前後、というレベルだ(※ただし為替変動があるため、厳密な円換算額はもう少し増えている)。
正直、被告企業である新日鐵住金(※現在の日本製鉄)や三菱重工業は世界的な巨大企業でもあるため、このような金額など、支払ったところで経営の屋台骨を揺さぶるものではない。
それに日本政府も原理原則にこだわり過ぎである。
日本政府の協議要請、仲裁要請を韓国側が無視するなど、韓国側が問題解決に向けて誠意を示さなかったことは事実だが、だからといって輸出規制を発動するなど、「貿易紛争」にまで事態を発展させたことは、当時の安倍首相の判断は正しかったといえるのだろうか。
本来ならば、日本政府や日本企業こそ、「大人の度量」を示さなければならなかったのである。
断交できない日韓関係
なにより、日韓関係は非常に大事である。
地図を開いてみてほしい。朝鮮半島は対馬から最短で50キロメートルほどしか離れておらず、まさに「一衣帯水」と呼ぶべき近い関係にあることがよくわかる。
また、朝鮮半島が日本と敵対する国(たとえば中国やロシアなど)と軍事同盟を結ぼうものなら、日本の安全保障にも直結する問題である。地政学的に見て、日本としては何としても韓国を友好国にとどめておかねばならないのである。
さらには、産業・経済・金融面でも日韓間の結びつきは強く、韓国経済が不安定になれば日本にとっても少なからず打撃が生じる。
韓国ウォンの為替相場が安定するなど、金融が安定すれば、それだけで日本経済にとって多大なメリットが生じることは、山崎達雄・財務省国際局長(※当時)が2014年4月16日の国会答弁』でも明らかにしたとおりである。
それなのに、現在の日韓関係だと、両国の金融市場を安定させるための日韓通貨スワップなども再開することが難しい状況にある。日本が「国際法」、「国際法」と法にこだわり続ける限り、こうした状況は続くだろう。
尹錫悦政権のメッセージを聞き逃すな!
ただ、非常に幸いなことに、日韓が和解する兆しは生じている。
今年3月の大統領選を制し、5月に政権を発足させた尹錫悦(イン・シーユエ)大統領は、さっそく、日本に対して関係改善のメッセージを発信している。このチャンスを逃さないわけにはいかない。
とくに朴振(ピャオ・チェン)外交部長官は「被害者側を含む当事者と各界各層の意見を傾聴し、国民が納得できる解決策を模索するため」として、昨日、官民合同の協議体を発足させた。
報道等によれば、この協議体では基本的に日韓双方の企業が参加する基金案などを中心に、いくつかの解決策が取りまとめられるのだという。これには素直に期待したいところだ。
もちろん、徴用工の被害者らの意見を集約したうえ、彼らの納得を得るという作業は必要だが、これを韓国側にのみ任せておいて良いわけではない。日本政府や当事者である日本企業も積極的に韓国側と協議し、譲歩できるところは大胆に譲歩することをいとわない姿勢を示さなければならない。
こうしたなか、一部のネトウヨ系のサイトなどは、「どうせ基金案などで合意しても、韓国は合意を破る」、などと決めつけているようだ。
実際に日韓慰安婦合意についてはいわゆる「慰安婦財団」を文在寅政権が勝手に解散させてしまったという苦い記憶がある。日本の側が基金案方式での解決に前向きではないのも、こうした韓国の行動にある、という側面は否定できないのである。
よって、今回の和解案では、今度こそ韓国が基金を解散しないような工夫も盛り込み、韓国には「約束を破らない」という了解を取り付ける工夫も必要であろう。これなども、日韓双方が知恵を絞らなければならない点だ。
両国政府は参院選後に日韓関係改善を急げ
いずれにせよ、日韓双方がいつまでも突っ張りあいをするのは生産的ではない。
おりしも尹錫悦氏は先日、NATO首脳会合からの帰国途上、日韓の歴史問題と両国の未来問題を、すべてひとつのテーブルにのせて一緒に解決していかなければならないとする見方を示した。いわば、「歴史問題が両国の間で進展がなければ懸案と未来の問題に対しても議論できない」という考え方を牽制したものだ。
こうした韓国側からのメッセージに答えるのは日本政府の番だ。
岸田文雄首相自身も述べたとおり、日韓関係の改善は待ったなしである。日本政府が参院選で身動きがとり辛い状況にあるのは事実だが、逆にいえば、参院選が終われば日韓グランドバーゲンに向けての協議を本格化していかねばならないのである。
いつもの宣伝
朝っぱらから稚拙な論考にお付き合いくださり、大変ありがとうございました。
いちおう、文中には見る人が見ればわかる間違いをいくつか仕込んでおいたので、お暇な方はそれらを指摘してみてください。
最後に宣伝です。
韓国観察者である鈴置高史氏が先月上梓した新刊書『韓国民主政治の自壊』が売れ行き好調です。アマゾン・リンク(Kindle版ないし書籍版)を経由して販売された冊数が、ついに200冊に達しました。
やはり良い書籍は着実に売れるのだと痛感した次第ですが、せっかくなのでもっとロングセラーになってほしいと思いますし、重版をお願いしたいと思う次第です。
View Comments (21)
このところの韓国側のおかしな発言は、正直悲鳴にしか思えませんね。
よほど内情が苦しいのでしょうか。
>もしも本稿を「社説に使いたい」、「そのまま紙面に掲載したい」と思われる新聞社の方がいらっしゃれば、
「自称」日本の経済新聞社が近いうちに掲載すると思います。しかも無断転用で。1ウォン賭けます。。。。。
或いは、韓国の聯合ニュース辺りが、「日本の専門家談」として引用するか。
すでに、日本経済新聞社 編集委員・論説委員の峰岸博さんが、このまんま懸念されているようです。(笑)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0239E002072022000000
「日韓外交関係筋」なる正体不明勢力も腹話術発言を駆使して暗躍するのでないですか。
人名の読み方表記が宗主国風になってます。
いまいち上から目線感が足りないかなぁ? もうちょっと押しつけがましさみたいなものが滲み出てくれば尚良しでは?笑
(~期待する)とか(~を望む)とかが不足かと。
「逃さないわけにはいかない」も あえてなのかしら?
韓国の外貨準備高が94億ドル減少したようです。
もともとキャッシュが少ないのに、為替の所為で減少したとしていますが、どう考えても為替介入で溶かしたのでは?と疑ってしまいます。
だから日本や米国に「スワップスワップ」と五月蠅いのでしょう。
個人的にはデフォルトまでどのくらいなのかなっていうのが気になるところですが。
更新ありがとうございます。
久しぶりにコメントさせていただきます。
「日韓で共に未来志向(内実は日本の譲歩)」論としては、「あるある」的な論調だと思います。
実際、文中の言葉の中には何度も繰り返された来たものもいくつかあるかと。
ただこちらの、
>2019年1月には韓国政府に対し外交的協議の申し入れを行い、同年5月からはこの手続を国際仲裁手続に切り替えるなどして韓国側に問題解決を呼び掛けてきたが、
という一文は目にしたことが無いように思えます。
また
>日韓請求権協定ですでに最終的な決着がついている日韓間の請求権の問題を蒸し返し、国際法に違反する法的状態を作り出したことは、
などは、「日韓友好」論者からは、逆立ちしても出てこない言葉だと思います。
まあ、一から十まであちらを擁護する文章は、書くこと自体が大きな精神的負担になり得るので、ところどころ「本音に近い言葉」が出てしまったといったところでしょうか。
従来の日韓関係は、戦後秩序(基本条約)を壊させないための大人の対応の歩みでした。
ですが、戦後秩序そのものの転覆(自称徴用工判決)に至っては譲歩の余地はありません。
端から「度量の示せる次元ではない」ってことです。
>岸田文雄首相自身も述べたとおり、日韓関係の改善は”待ったなし”である。
彼らにとっての”待ったなし”は、時間的な猶予がなく先送りできないことなのかもしれない。
でも解決策の本質は文字通りの「待った・無し(ルールを守れ)」にあると思うんですけどね・・。
「スワップ!スワップ!」「一括解決!一括解決!」と言う悲鳴が相次いでいる事から、
「韓国に残された時間は少ない」と言う説がかなり根強くなっていますね。
なにせ一度IMFの世話になった国ですから、外貨が残り少ない疑いが常につきまとう。
もし本当に韓国が”タイムオーバー”になって経済崩壊もしくはそれに匹敵する様な
事態になった場合、今までこういう「韓国と対話しろ!関係改善しろ!」と
叫び続けていたマスコミがどういう反応を示すのか興味があります。
「今こそ韓国を支援しろ!嫌韓派は黙れ!」とでも叫ぶのか、
今まで韓国を持ち上げて来た過去を全てなかった事にして耳も口も塞ぐのか……
最後の3段落は本当にどっかが書きそうで怖い