香港の金融業を日本に招致?その前にやることがあるでしょ!
土曜日ということもあり、本稿では久しぶりに、ちょっとした雑感を掲載したいと思います。当ウェブサイトでは常々、「日本は法治国家だ」、「法律を守ることは大切だ」などと主張しているのですが、その「源流」的な記事を発見したので、表現を修正したうえでアレンジし、転載してみたいと思います。言いたいことは「日本の役所が日本経済のボトルネック」、です。
目次
10年前のブログ記事「日本は法治国家だ」
当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』を運営するウェブ主「新宿会計士」は、このウェブサイトを開始する前には、大手ブログサイトでブログ形式のウェブ評論を行っていました。その時代を含めれば、いちおう、ウェブ評論歴は12年、という計算です。
こうしたなか、過去に自分自身が執筆した文章に、「法治国家」「人治国家」という一節があったのを「再発見」しました。だいたい、次のような内容です(転載に当たり、漢字かなづかい、助詞の使い方などについては修正しています)。
日本は法治国家だが、世界には「人治国家」も存在する。この「法治国家」、「人治国家」という違いは、極めて大きい。
法治国家においては、法律に定められている内容がすべてに優先する。たとえ内閣総理大臣のような「最高権力者」といえども、法に反した行動(例えば勝手に税金を徴収するとか、自分の仲の良い人の交通違反をもみ消すとか)といった事はできない。
そのうえで、法に書かれてあることに不満があれば、国会に法案を提出し、国会での審議の末に、多数決に基づき、それを変更しなければならない。その決定プロセスは透明であり、かつ、それを決めることができるのは、我々国民が選んだ国会議員だけである。
これに対して人治国家においては、法律に書かれてある内容に背く要望であっても、ある程度、融通を利かせることができる。それなりの権力者であれば、「ツルの一声」次第では、さまざまな承認手続を迅速に進めることもできるようなのだ。
法治主義と人治主義、どちらがお好きですか?
現時点でこの記述を読むと、「カネの力」を悪用する財務省や「メディアの力」を悪用するNHKのように、民主主義の手続によって選ばれたわけではないにも関わらず、不当に大きな権力を握る組織への言及が不十分であるなどの問題点があることは事実です。
ただ、そうした点はさておき、当ウェブサイトで常々、「日本は法の支配を重んじている国だ」、「日本は国際法や国際手続などを守るべきだ」と申し上げている内容の「源流」が、このあたりにあることも間違いありません。
文章の続きを読んでいきましょう。
さて、「人治主義国」と「法治主義国」、あなたはどちらの国に住みたいだろうか?
仮にあなたが大金持ちであれば、あるいは権力者と仲が良いのであれば、断然、人治国家の方が良いだろう。しかし、それ以外の大部分の善良な市民にとっては、日本のような法治国家の方が、はるかに暮らしやすいことは、いうまでもない。
「はるかに暮らしやすい」というのは、我々の生活のすべてが透明である、という点に由来する。
日本の場合は、いくらカネ持ちであっても、行政上の便宜を図ってもらうことは不可能だし、ましてや犯罪を揉み消すことなど出来っこない。そして我々は、日本が法治主義国であるがために、どんな小さな犯罪でも確実に裁かれるという緊張感と安心感の上に生活しているのだ。
いってみれば、どんな権力者であっても、脱税その他の犯罪行為には容赦がないのが日本の特徴である。
…。
この文章を執筆したのは、今から10年近く前の2012年のことです。2012年といえば、日本は民主党から自民党への政権再交代が生じた年であり、また、中国全土で反日デモが吹き荒れた年でもありました。
当時は新聞、テレビを中心とするオールドメディアの情報支配力が現在よりもかなり強く、「韓流ブーム」などで韓国に親近感を持つ人も多かったものの、8月に李明博(り・めいはく)韓国大統領(当時)が島根県竹島に不法上陸するなどしたためか、日本国民の対韓感情にも大きな変化が生じた年でもありました。
著者自身は一貫して、「中国や韓国は日本とはまったく異なる価値観を持っている」、という点を、機会があるごとにブログなどを通じて情報発信していたのですが、当時はネットの情報発信力も現在と比べて大変に弱く、名もないブロガーが何か説を唱えたところで、だれも見向きもしてくれませんでした。
本当に、時代は変わったものだと思います。
準則主義と会社経営
さて、先ほどの文章には、こんな続きがあります。
法治国家とは、わかりやすくいいえば、「あらかじめルールが示されている社会」のことだ。そして、条件さえ整えたら、誰でも当然に一定の行動を起こすことができる。その典型例が、「会社の設立」だろう。
何か事業を営もうとして、会社を設立しようと思ったときに、日本ではべつに役所にその事業についての審査を求める必要などない。会社の設立手続は「準則主義」といって、必要な書面などをきちんと整えて申請すれば(つまりルールに準拠していれば)、会社を設立することは可能である。
「役所の人の虫の居所が悪かった」、「あなたの態度が悪かった」、「あなたが政治家と仲が悪い」などという事情で、会社の設立を拒否される、ということはない(あなたが用意した書面に不備があった場合などは、話は別だが…)。
もちろん、金融事業などのように、それを営むためには役所の許可が必要とされる業種もあるのだが、こうした業種であっても、役所から認可されるための条件については、事前にルールが開示されている。
そして、「これをやってはいけません」という規範が予め示されている社会でもある。
言い換えれば、「やってはならない」という規範に逸脱さえしなければ何をやっても良いという社会であり、自由主義が野放図にならずに社会秩序を維持していく上で欠かすことのできないという意味で、自由主義と表裏一体の概念として機能している。
当然、法治国家においては、ある行為を行った時点でそれが犯罪でなければ、事後的に策定された法律で裁かれることはあり得ない。そして、事後的に制定された法律で、それが犯罪だと記載されたとしても、そのような法律は事後法(遡及法)として無効だ。
…。
自分自身がその後、起業し、この「準則主義」のメリットを強く意識する立場になろうとは、当時はまったく考えていませんでした。まさに自由・民主主義社会における「経営」とは、「ルールを守って利益を最大化すること」を意味するからです。
起業してわかった:日本の役所のダメっぷり
ただ、それと同時に、自身で起業して気付いたことがあります。現在の日本で、とくに会社法制における「準則主義」が徹底していることは間違いないのですが、だからといって日本が「企業経営しやすい国」であるかどうかといわれれば、そこは疑問でもあります。
税金、公租公課などの負担が重すぎることもさることながら、役所関連で手続が煩雑過ぎるからです。
たとえば、源泉徴収や住民税特別徴収に関する「納期特例」の適用を受けていたとしても、税金関係では次のような手続が必要です(※1事業年度が12カ月で3月決算の都内の会社を前提)。
1月
- 源泉徴収税額の納付(税務署)
- 給与支払報告書の提出(従業員が居住する市区町村の役所)
- 第4期分・住民税特別徴収の納付(従業員が居住する市区町村の役所)
5月
- 3月決算の会社の法人税・地方法人税・消費税の申告・納付(税務署)
- 3月決算の会社の都民税の申告・納付(都税事務所)
6月
- 第1期分・住民税特別徴収の納付(従業員が居住する市区町村の役所)
7月
- 源泉徴収税額の納付(税務署)
- 健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届(日本年金機構)
8月
- 第2期分・住民税特別徴収の納付(従業員が居住する市区町村の役所)
10月
- 第3期分・住民税特別徴収の納付(従業員が居住する市区町村の役所)
11月
- 3月決算の会社の法人税・地方法人税・消費税等の中間納付(税務署)
- 3月決算の会社の都民税の中間納付(都税事務所)
…。
つまり、書類の提出先は、会社が所在する場所の管轄の税務署・都税事務所・年金事務所に加え、従業員を雇ったならばその従業員が居住している市区町村の役場、といった具合に、てんでバラバラ、時期もめちゃくちゃ、まさに日本の役所がダメだった、というわけです。
香港の金融業を日本に招致?ムリムリ!
実際、香港における「国家安全法」などの混乱を受け、日本政府が香港のアセット・マネージャーらを日本に誘致しようと努力していたことがあります。
これについて当ウェブサイトでは「着眼点は秀逸かもしれないが、香港の金融業者らが日本にやってくることはない」と「予言」しています(『日本が香港の金融業を誘致:課題もあるが着眼点は秀逸』等参照)。役所関連の手続があまりにも煩雑過ぎるからです。
香港で国家安全法制が制定される方針が決定され、米国が香港について「中国からの高度な自治を喪失した」と認定するなどの混乱も続いているのですが、こうしたなか、日本からは密かに香港から逃げ出す金融業者に無料でオフィスを提供するなどの誘致策が検討されているようです。日本と中国は基本的価値を共有しない国同士ですが、日本がテーブルの下で中国の足を蹴っ飛ばすような行動は積極的に続けてほしいと思う次第です。香港の国家安全法制先月、中国で香港に対して適用される「国家安全法制」の制定方針が決定され、米国が香港に... 日本が香港の金融業を誘致:課題もあるが着眼点は秀逸 - 新宿会計士の政治経済評論 |
いずれにせよ、中小企業を経営する立場からすれば、「歳入庁」を作って提出先を一本化してほしいと切に願いますし、何なら法務局の機能も統合して、会社に関わる役所をまとめてほしい、と思っています。
なかでも事務処理能力が各段に酷いのが日本年金機構や日本年金機構、さらには日本年金機構です(聞いてますか、日本年金機構さん?)。日本年金機構はさっさと解体し、全職員を解雇したうえで、新たに歳入庁を設立して年金事務、地方税の徴収などを一元化すべきでしょう。
その意味では、過去に自身で執筆した文章を後から読み返すというのも、なかなかに興味深いことだと思う次第です。
当時から法治主義を捨てようとしていた韓国
ちなみに余談ですが、本稿で紹介した2012年のブログ記事の末尾には、こんな記述もありました。
ところが、こうした法治主義の鉄則を正面から捻じ曲げようとしている国がある。それが韓国だ。
ひとつの例を挙げよう。
新日鉄住金(旧「新日鐵」)は7月、韓国の裁判所から「韓国人の戦時徴用」を巡る訴訟に敗訴し、賠償を命じられた。その後、各メディアが「新日鐵住金が損害賠償を支払うつもりだ」と報じたが、それが誤報だったということが判明するという混乱も生じている。
はたして韓国の最高裁は、こうした法治主義の鉄則を曲げる判決を維持するつもりなのだろうか。
…。
これ、現在当ウェブサイトでさかんに議論している自称元徴用工問題の話です。
結論的にいえば、2018年10月には新日鐵住金(現・日本製鉄)に、同11月には三菱重工に、それぞれ自称元徴用工への損害賠償を命じる判決が下りました。もしも韓国がこの判決を国内手続上無効化することができなければ、名実ともに韓国は無法国家の仲間入り、というわけでしょう。
まさか10年越しで「伏線」を回収することになるとは。
感無量、といったところです。
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租税公課の徴収のための財産調査を各庁がバラバラに行っている有様では、いかにも非効率。結局、国・地方公共団体の租税公課はいずれも国税徴収法の流儀で徴収するのですから、徴収の一元化には大いに賛成であります。
とはいえ、なかなか一元化できないのは、課税が条文ごとの縦割りになっているから。そこをうまく一元化できれば話は進むのですが、さて、どういう具体策が考えられるでしょうか。
手続きや規則に暁通した専門の仕業さんたちに助け続けてもらわないと、正社員は気安く増やせず、手当や給料を勤務実態に合わせて増減できもしない。経営者泣かせの本朝の細切れ行政は、外でもない会計士どのがそう言っているのですから、やっぱり現実そのとおりです。
いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。
確か、GIマルチモードファイバは日本で原理を発明して特許出願しましたが審査員が理解できませんでしたので申請が受理されず、海外企業が特許権を取得して莫大な知財収入をフイにしましたね(笑)。
西澤潤一は産まれた国が悪かった(笑)。
異質なコロンブスの卵はこの国では認められないのですよ(笑)。
年末調整を企業に課しているが、あの手続きは実質的には確定申告。(年末調整を基礎に確定申告する人も最近増えているが)
アメリカのように全員に確定申告を義務付けたら、税務署の職員数はもっと必要になる。
日本は公務員の数が諸外国と比べて少ないと言われているのは、このあたりに原因がありそうだ。
「日本は会社主義共和国なんだな」と気が付いたのは、当方の場合愚かにも壮年になってからことでした。会社に行政の仕事の一部を代行させることで円滑化を図る社会体制を日本が目指したのは 1930 年代だったと理解しています。会社と社会が、反転入れ子というか、回文になっているのは、皮肉でもなんでもなくて事実の顕れ。だって、会社会社会社 ...
社会保障は職場の机に付随しているのであって、個人ひとりひとりが確保できているわけではありません。
ついでに言うと。町内会の仕事の大半も
市町村業務の事務代行を荷っておりますが、
その市町村と町内会の責任区分が行方不明なのも
お約束です。
ゴミ・街灯問題もそうであり、噂で聞く
移住したらゴミが捨てられない問題もあるそうです。
(市町村は知らんプリ)
>李明博(り・めいはく)
ではなく、(り あきひろ)
彼は日本生まれ、おそらく韓国に帰国せず日本に永住することを考慮して(親が)つけた名前だろうと言われている。あの漢字の組み合わせは朝鮮人の名前にはまずないらしい。
税の世界は、めちゃくちゃルールも複雑なんですよね。昔滞納整理の事務を担当してたときがありますが、競売のときに裁判所から関係市町村に租税債権の有無の照会が来て、役所は交付要求という手続きをするんですが、差押等で債権が残ってると全く配当の目がなさそうでめちゃくちゃ面倒でも、一応出すことになってて、ところが時折何かの拍子で配当されるときがあるんですよね。確か他の公的機関の租税債権で民事債権に優先するものがあって、公租グループに割り当てられた額から公租グループ内の法定納期限等の順位で配当されて、他の機関の取り分を横取りする形になるパターンだったと思います。
市民ニーズは手続きの一元化ですが、手続き以前に徴収権がそれぞれで、それによって余分な事務も沢山生じてるんですよね。
この他にも労働保険の年度更新(7月)や納付があります。
それに、役員等が変われば登記も必要、
許認可業種であれば許認可関係の申請、
それに助成金やらコロナの給付金の申請とかも。
いやはや大変です。
>給与支払報告書の提出(従業員が居住する市区町村の役所)
この手続きは1月末までに必ず終えてくれと役所からのきついお達し。
私のいた会社では、この手の業務はすべて外注していたけど、ある年、4月ごろから、いろいろな市区町村から「お宅の会社にxxxという名の人いますか?」という謎の電話が相次ぐようになり、なんと外注先が給与支払報告書の提出を失念していたことが判明。すぐに提出してもらい新年度の特別徴収には間に合った。本当に驚いたと同時に「1月末までに必ず終えてくれ」は何だったんだ?
1月に終えてないと4月からの督促状が間に合わないのだろ
効率化して窓口が統一されたとして、その窓口担当がめちゃ仕事遅かったら壊滅的だし、万が一賄賂なきゃ仕事しない輩だったら詰むな〜とか。ある意味日本の今のシステムは不正腐敗を起こしにくいのではないかと思いますけどね。
行政機関における手続きが、迷路の如く難解奇妙奇天烈だから、行政書士や税理士の仕事が成り立つのでわ? 行政書士の中には、外国人向けに日本での起業の手続をワンストップで請け負って成功している人もいるようです。
私も近く行政書士開業を考えているので、行政機関の迷路ぶりにはお世話になるつもりです。