X
    Categories: 外交

「クアッド」巡り中国が日本に対し「強烈な不満」表明

名指しで批判したわけでもないのに「強烈な不満」を表明されてしまいました。時事通信などの報道によると、中国外務省は日本大使館の公使を呼びつけ、日米豪印クアッド首脳会合に関し、「日本側の誤った言行に厳正な申し入れを行い、強烈な不満と深刻な懸念を表明した」のだそうです。ただ、こうした申入れ自体、逆効果ではないでしょうか。

クアッドもよく見ると中途半端

世間では日米豪印「クアッド」の首脳会合を巡って、ずいぶんと盛り上がっていたようです。

ただ、当ウェブサイトでは今朝の『「できるところから協力する」クアッド会合のスタイル』でも取り上げたとおり、現実に出てきたクアッド首脳会合の「成果物」を眺めていると、日本や米国が「前のめり」になっていたフシがある対中牽制については、どうも中途半端な結果に終わった感があります。

昨日は東京で日米豪印4ヵ国(クアッド)の首脳会合が開催されました。前回に続き、中国を名指しした批判などは盛り込まれませんでしたが、ロシアによるウクライナ侵略については「ロシアを批判する」とする文言はなかったにせよ、「力による一方的な現状変更を許さない」とする声明が盛り込まれ、また、宇宙空間、サイバーセキュリティ、5Gなどの重要技術・サプライチェーン、さらにはリアルタイムでの海洋監視などのさまざまな分野で合意がなされました。成果としては、上々でしょう。もりだくさんのクアッドクアッドの2回目の対...
「できるところから協力する」クアッド会合のスタイル - 新宿会計士の政治経済評論

というよりも、以前からしばしば報告しているとおり、クアッド首脳会合ではこれまで、中国を名指しで批判したことはありません。

外務省ウェブサイトに5月24日付で掲載されている『日米豪印首脳会合』を読んでも明らかですが、この長文のなかに、4ヵ国首脳が「中国による力による海洋秩序への挑戦を批判した」、とする記述は、ただの1行も入っていないのです(というよりも「中国」という単語自体が出てきません)。

また、ウクライナ情勢に関しても、「法の支配や主権及び領土一体性等の諸原則はいかなる地域でも守られなければならない」などと述べるに留まっており、「4ヵ国首脳はロシアによるウクライナへの侵略を批判する」などと明確に述べるくだりは出てきません。

対中批判トーンがずいぶん弱まったのはインドのせい?

このあたり、日米首脳会談後の共同声明とは、雲泥の違いがあります。というのも、日米両国はロシアの行動を「侵略」と断言したうえで非難し、中国の軍拡にかなり強い懸念を示していたからです。やはり、インドが日米豪3ヵ国の枠組みに参加していることで、ロシア批判のトーンが弱まってしまった格好でしょう。

実際、外務省ウェブサイトの『日印首脳会談』のページで確認しても、岸田文雄首相とナレンドラ・モディ首相の会話の中で、「ロシア」、「ウクライナ」、「中国」などの語は出てきません。

「だったら、何のためのクアッドなのか」。

「クアッドは中国を牽制するための機構ではないのか」。

「インドを除外して日米豪で同盟を結んではどうか」。

「クアッドではなく、やはり日米韓3ヵ国連携の枠組みが有益ではないか」。

そんな疑問を持つ方も多いでしょう。

そもそも相手国と100%同意することはあり得ない

しかし、外交関係において、相手国と100%、利害を共有することはあり得ません。人間関係で例えてみればわかりますが、私たち一般人のお付き合いでも、よくあることです(たとえばAさんはBさんと仲が良く、Cさんと仲が悪かったとししても、BさんとCさんの仲が良い、といった事例は頻繁に生じます)。

ましてや、日印両国が置かれている地理的状況、経済発展段階、人口構造、国内問題などの諸条件は、まったくと言って良いほど異なります。日米、日印、日豪、あるいは米印、米豪、印豪などが100%、すべての外交諸課題において合致することはあり得ないのです。

だからこそ、最低限の「基本的価値を共有する国」同士が「できるところから協力する」というのは、外交の基本であり、その意味において、当ウェブサイトではこの日米豪印クアッド首脳会合については非常に高く評価するに値する、と考えている次第です。

中国側が「強烈な不満」

こうしたなか、私たち日本人の多くにとっては、クアッド首脳会合では中国に対する牽制もほとんどなく、いかにも中途半端に見えるのではないかと思うのですが、中国はそう考えていないようです。

中国、日本公使に抗議 クアッドに「強烈な不満」

―――2022年05月25日01時58分付 時事通信より

時事通信によると、24日夜、中国外務省の劉勁松(りゅう・けいしょう)アジア局長が在中国日本大使館の志水史雄特命全権公使と「緊急に会談(※原文ママ)」し、「日本側の誤った言行に厳正な申し入れを行い、強烈な不満と深刻な懸念を表明した」のだそうです。

「緊急に会談」とありますが、「中国外務省が日本公使を呼びつけた」のでしょう。夜中に呼びつけられるというのは、本当にうんざりする話でもありますが、時事通信によれば「中国側の申し入れは受け入れられない」と反論した、などとしています。

ただ、この短い時事通信の記事を読んでも、いったい中国があの曖昧な声明文のどこに「強烈な不満」を持つのか、理解に苦しみます。いや、もっといえば、「強烈な不満」は「中国以外の国」が「中国に対して」抱いているものではないか、とすら思えてなりません。

まさに、当ウェブサイトで普段から報告している、「自分たちに過失があっても、屁理屈を駆使し、過失割合を極力減らそうとする」という、「ゼロ対100理論」そのものでしょう。

※ゼロ対100理論とは?

自分たちの側に100%の過失がある場合でも、屁理屈を駆使し、過失割合を「50対50」、あるいは「ゼロ対100」だと言い募るなど、まるで相手側にも落ち度があるかのように持っていく態度のこと。

(【出所】著者作成)

不満表明は中国が恐れている証拠

中国といえば、ロシアや北朝鮮などと並び、この「ゼロ対100理論」の名手(?)なのでしょう。

というよりも、香港、ウイグル、チベットでの人権抑圧、東シナ海や南シナ海などにおける違法な海洋進出など、普段から違法行為に深く関与している中国は、日米豪印「クアッド」、米英豪「AUKUS」などの連合を、じつは心の底から恐れているのかもしれません。

このあたり、普段から虚勢を張っている者ほど、いざ自分が標的となったときに馬脚をあらわすものです(そういえばわが国においても、普段は舌鋒鋭く政府や与党などを攻撃している野党議員ほど、「ブーメラン」の名手だったりしますね)。

いずれにせよ、中国のこの反応自体、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)や日米豪印「クアッド」連携などを進めることが、日本にとっては間違いなく有益であるという確証を、むしろ多くの日本国民に与えたことだけは間違いなく、結果的には逆効果だったと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (18)

  • 個人的な話で申し訳ありません。
    良く行くスナックには常連さんと言われる人たちがいて一見さんは外されているように見える事があります。その気が無くともそう見える。多分どこでも有ることだと思っています。
    今回のクワッドも主旨(人権、自由民主主義、法の下の平等)の元に集まるのが非常に大切だと思って居ます。
    国際社会のルール「ウェストファリア体制」。
    一 心の中では何を考えてもよい
    二 人を殺してはならない
    三 お互いの存在を認めあおう
    最低限これを守る事が本当に大切だと思って居ます

  • 恐れているかもしれませんけど、とりあえず自分たちの意思通りにならないものとか目障りなものには、一々口出ししますよね。
    十分強い国なのに、役人の集合体が戦狼外交を生んで、ケツの穴の小さい国家を演じてしまうという皮肉。

    • 他国に文句言うわりには、
      他国から文句言われたら内政干渉、
      このダブスタいったいなんなんでしょうね。

  • 新宿会計士さまがご指摘の
    『強烈な不満』表明は中国が恐れている証拠
    のお見立てに賛成です。

    たとえば地域自治体連携で
    防犯強力体制ができたら
    窃盗団さんが強烈な不満(笑)
    を持つのと同じような構図のようなもので
    クアッドが正しい方向性である証です。
    中国の思い上がりのけったいな
    抗議に対してはガチで相手せず
    受け流し、鼻で笑ってあげて
    いきり立ってる小物感を
    演出してあげましょう。

    中国はこれまで、
    先進国には巨大市場の幻影餌に
    後進国には援助の体裁取った略奪狙いで、
    強面恫喝戦狼外交でのさばって来ました。
    今の中国は巨大化し
    侮れないのは確かですが
    ただ、GDPサイズでロシア中国足しても
    クアッドの半分にもなりません。

    ますますチンピラ化する
    中国の主張への対応を考える上で
    ロシアへの対応の反省を
    今後に活かすべきと考えます。
    プーチンが思い上がって
    今の蛮行に至ったのは
    これまで厚かましいロシアの言動主張を
    国際社会が見過ごして甘やかしてきた
    ことにあると思います。
    今後中国に対しては、
    その思い上がりと野蛮さを
    正しく小バカにして
    思い上がりをくじいていく風潮が
    国際社会で必要だと考えます。

    ロシアのクリミア強奪の際に
    現地に行ってまでプーチンの肩を持った
    鳩ポッポさんのような輩の言動行動は
    今のロシアの蛮行に大きな責任を持つ
    と考えますが、
    今後中国に対しても
    ならずもの国家とは『友愛』結ぶとかの
    行動に出てきたときはその都度正しく
    小バカにして行くことが
    世界の秩序と平和に大切だと考えます。

  • 要するに、中国としてはQUADが存在していること自体が目障りでならんということでしょう。「中国の夢」とやらに同調するどころか、ダメ出しをしている国々がつるんでいるというだけで、皇帝陛下(予定)としては不愉快なんでしょうね。放置で問題ないでしょう。

  • 日本が怯む訳がない、と言うのはもう分かり切った上で
    それでも言わない訳にはいかないのが中国の立場なんでしょうね。

    公害、腐敗、そして経済の問題が相次いで悪化し続ける一方なのに、
    自国民はとにかく自分だけでも富む事しか考えていない。
    なのに力のある国からは嫌われるか、相互利用が精々。
    唯一の悪友だったロシアは大失態続きと言う有様。

    中国って言う国の運営も中々大変ですねえ。

  • 中国の共産党政権って、外交上手だと思っていたが、最近はまったくダメですね。鄧小平が老練だっただけで、革命第一世代が消えたら、元々傲慢なの本性がでて、世界中から嫌われてしまった。明治の政治家の賢さと昭和初期の政治家の劣化と同じ軌跡を歩んでいる。遅かれ早かれ滅びるだろうね。

    • 中国の外交が巧みだったのではなく、中国の代弁者が居ただけではないでしょうか。最近の外交がうまくいっていないのは、やり過ぎた所為で代弁者が動けなくなっただけではないでしょうか。

    • 革命第一世代の人々は中国共産党の外部とのやり取り「も」含めた業績で傑出して来た人材なのでしょうが、第二世代以降は共産党内部の闘争のみで出世して来たのでしょうから、その中国共産党の内部の特有な価値観や思考回路を疑わずにそれが其の儘出て来ちゃうのでしょうね。 

      中国内部での「閉鎖的な環境での成功体験」を繰り返してしまうのは自然です。

  • インドと中国は昔から仲が悪いし領土でも揉めている。敵の敵は味方だから中国の敵(現在はそれほどでもないけど)ロシアとインドは友好関係にある。中国けん制ということでロシアを非難したくないんだろう。中国もインドの敵パキスタンと友好関係を結んでけん制している。

  • ついでに、アメリカは中国の敵。日本は敵の味方だから敵。北朝鮮は敵(アメリカ)の敵だから味方。韓国は? 態度がころころ変わる。蹴りの一発も入れてやれば味方になると思ってるはず。

    • >韓国は? 態度がころころ変わる。蹴りの一発も入れてやれば味方になると思ってるはず。

      蹴りを入れなくとも脅せば犬の如く尻尾を振り、奴隷の如く従順になると考えますが。

      最早韓国には中国に立ち向かう気概など無いでしょうし。

  • これって日本公使にのみ抗議なのですか?
    日頃日本の事をアメリカの犬とか言っているくせに犬にしか抗議できないのかと思ってしまいました。
    中国は韓国人の事は物凄くよくわかっているのに日本人の事はあんまりわかってないな。

    •  “A chain is no stronger than its weakest link.”
       「攻而必取者 攻其所不守也」。
       孫子の兵法にも通ずる王道の「攻め」でしょうね。

  • 時事通信の記事については、個人的には以下が特に注目した点です。
    >時事通信によれば「中国側の申し入れは受け入れられない」と反論した、などとしています。

    以前から、林外相が親中派だから~という理屈で色々と恐れている意見も見掛けましたが、実際は日本は中国の五輪ボイコットに追従し、クアッドについては路線を踏襲し、中国の難癖に対しては反論をしています。
    結局のところ、日本の外交というものは、対中に対しても、これまでと何ら路線変更はされていないし、これからも変わらないと見ていいのではないかと思います。

    • マクドナルドの「スマイル0円」」ではありませんが,口先だけの反論も0円あるいは0元ですよ.

      我が国の主権の一部である外交に関して干渉するような発言をされたら形式的に「受け入れられない」ぐらいの言葉は言うでしょうし,言ったところで共産チャイナも日本に対して改めて何か行動を起こす(在中の日本企業や子会社に何らかの経済的な不利益を与えるようなアクションを行う)筈もない.

      これが既に北京政府が属国と位置づけている韓国の場合なら多少は話が違って来るでしょうが.(口先の抗議だけでも韓国には頭をゴツンとして痛みを与えて自らの立場を再確認させるぐらいのことは北京ならやりそうだ)

      北京は日本を韓国同様に属国にしたくて仕方がなく,日本の経済界・マスコミ・政界・官界の全てにハニートラップを含め様々な形で協力者を育てて来ているのは間違いないと推測しますが,少なくとも今のところは日本国民は米国や在日米軍に高い信頼感を持ち(個人的には日本人は米国や在日米軍を信頼し過ぎていると考えていますが,それはさて措き)その結果として韓国民のように共産チャイナに対する屈従意識は持っておらず,またこの国民意識の結果として日本政府や政治家も露骨に共産チャイナへの従属行動はやり難い状況にあります.

      ですから(10年後どうなっているかはかなり怪しいですが)今のところは幸いにも日本は共産チャイナの属国にはならずに済んでいますし,共産チャイナも今のところは日本は自分たちの属国でないと理解した対日外交をしています.(どこまで日本国民が耐えられるかを試すかの如く,日本に対する恫喝はどんどん強めていますがね)

      従って,現時点では属国でないと日中双方共に認識している日本の外交官がチャイナに対して「うるさい余計なお世話だ,俺の勝手だろうが,すっこんでろ」ぐらいの口先反論をしても共産チャイナも何ら気にしないのですよ.

1 2