日本の言論の自由度を引き下げているのはメディア自身だった――。「国境なき記者団」が公表したランキングによると、今年の日本の報道の自由度は昨年からさらに下がって71位だったそうです。ただ、その原文を読むと、どうもこれは日本政府の問題というよりも、明らかに日本のメディアの問題ではないかと思えてならないのです。
目次
RSFの昨年の「報道の自由度ランキング」
当ウェブサイトで「定点観測」的に取り上げている話題のひとつが、フランスに本部を置く団体「国境なき記者団」(reporters sans frontières)が公表する「報道の自由度ランキング」(classement mondial de la liberté de la presse)です。
なぜこれを「定点観測」的に取り上げているのかといえば、とくに2012年12月に第二次安倍内閣が発足して以降、日本に関するランキングが極めて低いからです。
たとえば昨年の『今年の日本の「報道の自由度」は「モーリシャス以下」』でも取り上げたとおり、2021年における日本の「報道の自由度」は、ボツワナ(38位)、韓国(42位)、セネガル(49位)、ベリーズ(53位)、モーリシャス(61位)などを下回っていました。
ジャーナリスト(自称?)がSNSで一般人に論破されると報道の自由度が下がる不思議毎年出てくるのが、フランス・パリに本拠を置く ”reporters sans frontières” 、つまり「国境なき記者団」が発表する「報道の自由度ランキング」(classement mondial de la liberté de la presse)です。今年の日本のランキングは、なんと67位で、ボツワナ(38位)、韓国(42位)、セネガル(49位)、ベリーズ(53位)などを下回っています。ただ、実際の内容を読むと、これがまたじつに噴飯物なのです。2021/04/25 08:30 追記本文中「日本の順位は... 今年の日本の「報道の自由度」は「モーリシャス以下」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
では、日本より上位の国々とは、いったいどういう状況だったか――。
これについて再掲しておくと、こんな具合です。
- ボツワナ(38位)…民間所有の新聞はほとんどなく、国営メディアを大統領が管理下に置いている
- セネガル(49位)…安全保障上の事態が生じた場合、放送メディアの押収と報道機関の停止または閉鎖が規定されており、宗教に関連するいくつかの情報は依然としてタブーである
- ベリーズ(53位)…ジャーナリストに対する脅迫、脅迫、嫌がらせの事例が時折指摘され、インフラ不足からインターネットアクセスはカリブ海で最も遅くてコストが高い
- ニジェール(59位)…近年、数人のジャーナリストが逮捕され、メディアは恣意的に停止された。刑法またはサイバー犯罪に関する物議を醸す新法の条項に基づいてジャーナリストが裁判にかけられ、投獄されることがある。国防省内での金融横領を明らかにしたクーリエの関係者が拘留された。政府に批判的なジャーナリストが2017年、懲役2年と10年間の公民権停止を宣告され、最近、隣国のマリに亡命した
- モーリシャス(61位)…メディア関係者がインドのナレンドラ・モディ首相を「人種差別主義者」と呼んだところ、ラジオ局が72時間の放送停止処分を受けるなど、反対派に近いジャーナリストは制裁の対象となりやすい
つまり、昨年の時点で日本はこうした「あからさまな言論弾圧」が行われている国々よりも、報道の自由度が低かった、というのがRSFによる評価、というわけです。なにやらにわかには信じられない話ですが、これが「外国からの評価」なのだとしたら、ちょっと驚いてしまいます。
今年は71位に後退:「大企業の影響力で自己検閲」=時事通信
その最新版が、今年も公表されていたようです。
日本71位に後退 報道自由度、大企業の影響力で「自己検閲」
―――2022年05月04日05時56分付 時事通信より
時事通信によると、今年の日本のランキングは昨年の67位よりもさらに下がって71位だったのだとか。
その理由として時事通信は、こんなふうに指摘しています。
「RSFは日本について、オーストラリアや韓国と同様に大企業が強い影響力を持ち、ジャーナリストが配慮して都合の悪いニュースを報じない『自己検閲を行っている』と指摘した」。
いわば、大企業に忖度して、ジャーナリストらが「自己検閲」を行っている、というのです。日本からは、自由な言論空間が失われつつある、という指摘にも見えてなりません。
RSFの原文を読んでみた
ただ、時事通信の記事だと少し短すぎて、よくわかりません。
そこで、こういうときには原文を読んでみるのが良いでしょう。
Classement mondial de la liberté de la presse 2022 : la nouvelle ère de la polarisation
―――2022/05/03付 「国境なき記者団」HPより
具体的に一体なにが問題なのか、レポートを眺めてみましょう。
Japon
Le Japon est une démocratie parlementaire qui respecte les principes de liberté et de pluralisme des médias, mais les journalistes peinent à exercer pleinement leur rôle de contre-pouvoir face au poids des traditions et aux intérêts économiques.<<…続きを読む>>
―――RSFウェブサイトより
これについて、原文を意訳しながら紹介しましょう。RSFによる日本に対する今年の総評は、こんな具合です。
日本はメディアの自由や多元主義の原則を尊重する議会制民主主義国であるが、ジャーナリストは伝統と経済的利益の重みに対するカウンター・ウェイトとしての役割を十分に発揮するのに苦慮している
これはいったいどういう意味でしょうか。
日本のメディアは少数寡占、そして「記者クラブ」の存在
まずRSFは、日本のメディアの状況が「少数寡占」にある、と指摘します。
- 日本では、既存メディアは依然としてオンラインのニューズサイトよりも影響力を持っており、主要な新聞と放送グループは、読売、朝日、日経、毎日、フジサンケイの5大メディアコングロマリットが所有している
- 読売と朝日はそれぞれ1日当たり700万部と500万部を発行する世界で最も発行部数が多い新聞であり、NHKは世界で2番目に大きな公共放送である
「NHKが世界で2番目に大きな公共放送である」と指摘されているというのも興味深い点でしょう。年間7000億円という破格の受信料を視聴者からかき集め、肥大化している証拠でしょうか。いずれにせよ、この「少数の会社が日本の既存メディアを支配している」という部分は、日本のメディアはあまり報じません。
次に、RSFは政治的背景について、次のように指摘します。
ナショナリストの右翼が権力の座に就いた2012年以降、ジャーナリストらは自分たちに対する敵意を伴った不信感の風潮が生じていると指摘する。記者会見や政府高官などの会見に参加するには記者クラブの許可を受ける必要があるため、記者を自己検閲に追い込むとともに、独立ジャーナリストらを露骨に差別している
…あれ?
何のことはない、例年と同様、「記者クラブ自体が日本の報道の自由度を引き下げている」、と指摘しているだけのことです。この文章に含まれているうちの「自己検閲」云々については、先ほどの時事通信の記事では「大企業に忖度して」、とありましたが、文脈から判断して、その大企業とは「メディアそのもの」のことです。
つまり、報道の自由度を下げているのはメディア自身、というわけです。
苦笑せざるを得ない記述が続く
さらには、問題があるのはこんな記述です。
2021年に公布されたあいまいな規制は、2年の懲役または最大200万円をともない、福島発電所などの「国家安全保障にかかわる」とみなされる防衛施設やインフラ施設などへのジャーナリストのアクセスを制限している
いわば、特定秘密保護法のことだと思われますが、これもじつに悪意のある書き方です。
RSFが絶賛する「報道の自由」が貫徹しているはずの欧州には、特定秘密保護法に相当する法律はまったく存在しない、とでもいうのでしょうか。多くの国では、安全保障にかかわる機密を漏らした公務員に対しては罰則が適用されると思うのですが…。
そのうえで、思わず苦笑してしまったのが、次の記述です。
世界でも最も人口が多い国のひとつである日本では、活字メディアなどが依然として主要な経済主体ではあるが、視聴者の減少によりその将来は不透明である。日本には新聞と放送グループの株式持合を規制する法律がなく、それが極端なメディアの集中につながる
つまり、日本の報道の自由度を引き下げているのは、記者クラブという不透明な組織とともに、少数の企業がメディアを支配している、という状況であり、これは「右翼政権」とはまったく無関係です。
ちなみに、こんな記述もありました。
日本のジャーナリストは比較的安全な職場環境にあるが、「中傷的」とみなされるコンテンツをリツイートしたとして政治家から訴えられた人もいる
このような文章を読むと、産経新聞の阿比留瑠比氏を刑事告訴した野党議員の事例を思い出してしまいます(2015年4月24日付・同議員のホームページ『ネット上の名誉棄損に対する法的措置について』等参照)。
いずれにせよ、日本の言論の自由度が非常に低い、などといわれても、少なくとも原文を読む限りにおいては、それは日本政府に問題があるからではなく、むしろジャーナリスト、メディア関係者らの問題であるように思えてならないのですが、いかがでしょうか?
View Comments (17)
いったい誰が審査してるのか?
評価基準は?
その審査の妥当性の担保は?
一々挙げってたらキリがないほど疑問点が出てきます。
わざわざ一喜一憂するようなランキングじゃありませんよね。
この手のランキングって、所謂「モンドセレクション」ですよ。
クサレメディアが、中身隠して被害者ぶって、利権を守る道具にしてるだけでしょう。
審査自体は、単純なスコア分析なので、あまり問題ないです。
問題なのはデータ。
スコアの元となるデータは、各国のメディア専門家、弁護士、社会学者へのアンケートです。
アンケート回答者の思想の偏りで随分変わってきます。
日本の場合は、どれも左寄りですからねぇ。
一般人が答えたら、順位は変わるでしょう。
おっしゃる通りアンケートで報道の自由度を測るのは無理でしょうね。そこで新しい報道の自由度の基準を考えてみました。
報道の自由度 ≒ 政府に雇われた報道関係者数/その国の全報道関係者数
その他、
政府に逮捕拘束追放された報道関係者数/その国の全報道関係者数
などの指標もありではと思います
>スコアの元となるデータは、各国のメディア専門家、弁護士、社会学者へのアンケートです
これって、要は各国の「専門家w」による偏った主観を元にした順位ってことですよね
客観性も論理性も感じられない、データとは言えないものだと思います
あと、日本の専門家の主観アンケートを他国の主観アンケートを合算した順位にも世界的な意味はなく、この順位を持って海外から日本がどう見られているかという証左にはとてもなりえないものだと思います。
主観による印象操作に利用されるプロパガンダとしか思えませんね
原文を(deepLで)読みましたが、時事が書いている「大企業への忖度」の文脈は一切読み取れませんでした。
そういうのがマズイんだと言ってるんだと思いますけどね。(笑)
概要ページにはいかにも公平に定量評価してランク付けをしたかのような説明がありますが、日本のレポート部分の記載も「誰に聞いたの?」と聞きたくなる記述が多く、レポート全体を怪しく感じます。
報道しない自由度ランキングなら五指に入るのかな?
>「大企業に忖度して」
原文を見てその考えに至るのは、身に覚えがあるからなんですよね。きっと。
「ジャーナリズム・ジャーナリストに対する敵意・憎悪」は正常な社会反応の結果に過ぎません。
朝日新聞社「事件」を日本は決して忘れることはないでしょう。
コメント失礼します。
圧政よりも、マスゴミ自体の腐敗の方が評価は下がるのですね。
マスゴミは扇動、捏造、不作為の自由ランキングを作って貰えばいい。西側の中では上位に食い込めるのではないかと。
電波利権の剥奪が早く実現します様に。
毎度、バカバカしいお話しを。
ガラパゴスの日本マスゴミ村としては、自分たちの村でさえ通用する「報道の自由」があれば、よいんだって。だから、この報道の自由度ランキングが下がったことで、「下がったのは、ネットが問題だからだ」と言い出したんだって。
おあとが、よろしくないようで。
蛇足ですが、日本マスゴミ村の報道の自由と、海外メディア(?)の報道の自由を、区別するために名称を変えたほうが、よいのではないでしょうか。
翻訳ありがとうございます。読んでみて
「時事通信の記事と全然ちゃうやん!」って突っ込みました。
ホント通信社ってやつは。トホホ...
こんな、自作自演の日本をディスるためだけのランキング、何の役にも立たないことがわかりました。
自称的に機械翻訳がさらに進んでこの手の海外では~が通用しなくなる日が待ち遠しいです。
日本のマスコミが声高に叫ぶ報道の「自由」って、実際は報道の「特権」ですよね。
NHKの殿様押し売りと言い、新規参入のハードルの高さと言い、
問題を起こしても頑なに認めない姿勢と言い……
インターネットの登場で「特権」が奪われつつあるが、かなり遅いペース。
だからこそマスコミ関係者はわざわざ改革や革命を起こしたりせず、
「自分が引退するまで持てばそれでいい」と言う姿勢を崩さないんでしょうね。
朝日新聞がフェイクニュースをフェイクニュースと認めるのに何十年も掛かった事を、報道の自由の根拠として取り上げないのがちょっと不思議です。