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「米国か中国か」選択迫られる韓国社会の悩みは深まる

さっそく中国が韓国の「クアッド入り」を牽制

今月の韓国の政権交代を控え、韓国メディアに相次いで、「米国か、中国か」という選択を迫られる韓国社会の悩みを象徴するような記事が出ていました。ひとつは左派メディア『ハンギョレ新聞』に掲載された「バランス外交」論、もうひとつは保守メディア『朝鮮日報』に掲載された「中国が韓国のクアッド入りを牽制」とする趣旨の記事です。まさに日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏の「米中二股外交論」そのままですね。

韓国は「バランス外交」が基本…!?

今月発足する予定の韓国の尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が「5年ぶりの保守政権」であり、日韓関係や米韓関係についても改善される見通しである、などとする言説が、最近、一部メディアを中心に頻繁に出てきています(『「お互い知恵を出す」ことは日韓関係のためにならない』等参照)。

韓国の新政権発足を機に、日韓がともに知恵を出し合い、包括的解決に向けて合意しよう――。こんな寝ぼけた認識が、日本だと日経新聞などから、韓国だと朴振(ぼく・しん)次期外交部長官候補などから、それぞれ出てきているようです。しかし、「お互いに」、と述べた時点で、それは論外です。なぜなら日韓関係を健全なものにすることができるかどうかは、韓国にかかっているからです。「日韓関係改善」という幻想経済オンチの日経新聞は外交オンチでもあった韓国から尹錫悦(いん・しゃくえつ)次期大統領による「政策協議代表団」が日...
「お互い知恵を出す」ことは日韓関係のためにならない - 新宿会計士の政治経済評論

文在寅(ぶん・ざいいん)現政権下で検事総長に抜擢されたことで頭角を現した尹錫悦氏自身が「保守政治家」なのかという点もさることながら、過去の「保守政権」、とりわけ李明博(り・めいはく)、朴槿恵(ぼく・きんけい)両政権下で日韓関係がどうなったかを思い出すだけで、こうした言説に説得力はありません。

ただ、ここでもう少し重要な視点があるとしたら、日韓関係、すなわち「日本と韓国の関係」だけではなく、「韓国自身の外交関係」です。

いうまでもなく、韓国という国は、米国の同盟国として、「自由・民主主義国陣営」に属することによる恩恵を最大限受けてきました。

したがって、米国を筆頭とする自由・民主主義国陣営諸国が「自由、民主主義、法の支配、基本的人権」といった基本的価値を共有し得ない国と対峙するような機会が到来した場合には、米国は当然のごとく、韓国にもその陣営に加わることを期待しています。

それなのに、韓国の態度は煮え切りません。外交・安全保障面では米国に深く依存していながら、経済面では中国に対し、深く依存してしまっているという事情もあるのですが、はたしてそれだけなのか――。

ハンギョレ新聞「バランス外交が求められる」

これに関して韓国の「左派メディア」とされる『ハンギョレ新聞』(日本語版)に先日、こんな記事が出ていました。

[コラム]韓国外交は何をすべきか

―――2022-04-30 06:57付 ハンギョレ新聞日本語版より

この記事は同氏の論説委員の方が執筆したものだそうですが、読んでいると、なにかと考えさせられるものでもあります。冒頭の記述は、こうです。

韓国は今、世界で最も難しい外交を展開しなければならない国の一つだ」。

なぜなら、ロシアのウクライナ侵攻が世界を「分断」したことで、「安保は米国、経済は中国、北核問題は米中と協力」という枠組み自体が「崩れ落ちた」からです。ハンギョレ新聞はこれについて、こう述べます。

安保と経済が一つに絡み合っているのに、経済は中国依存度が高すぎるうえ、北朝鮮の核の脅威も危険度が増している。難題を解決する容易な道はないだろう」。

この現状認識自体は、そのとおりでしょう。

ところが、驚くのはその次の文章です。

対中国包囲網の最前線に立つことなく、国際社会と協力し、国際秩序の変化に積極的に対応していく指導者の慎重な言動がいつになく求められる」。

…。

これはまた驚きの認識です。

この論説委員の方が述べている内容自体が、まさに米国を苛立たせている韓国の認識でしょう。なぜなら、「対中包囲網の最前線に立つ」という「米国の同盟国」としての義務を果たさず、今までどおり「経済は中国、安保は米国」という「良いところどり」をしようとしている、という意味だからです。

ハンギョレ新聞は尹錫悦(いん・しゃくえつ)次期大統領が4月14日に米ワシントンポスト紙とのインタビューで「中国は北朝鮮と同盟であり、北朝鮮は我々の主敵だ」と述べた点を、「次期大統領の発言としては断定的過ぎる内容」だと批判。

「来月21日、就任から11日後という超高速で開かれるジョー・バイデン米大統領との首脳会談で、尹次期大統領が韓国と米国の国益をきちんと区分できるかどうかが心配だ」、などと述べている、というわけです。

このコラム記事ではほかにもグダグダとした主張が続いているのですが、もし興味があるという方は、是非リンク先記事を直接読んでみてください。

朝鮮日報「中国が韓国のクアッド入りを牽制」

その一方で、「保守系メディア」とされる『朝鮮日報』(日本語版)には上記と同日、こんな記事も掲載されていたようです。

「クアッド」へとつながる韓米の連携強化に不安か…中国による韓国けん制が本格化

―――2022/04/30 18:14付 朝鮮日報日本語版より

朝鮮日報は、「米国のジョー・バイデン大統領の韓日歴訪スケジュールが確定する中、中国の牽制が本格化しつつある」と指摘します(原文の「けん制」という表記を、本稿では敢えて「牽制」に修正しています)。

具体的には、バイデン大統領が尹錫悦氏の就任直後に米韓首脳会談を開くことが米国から発表されたことを受け、中国外交部の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官が28日の定例ブリーフィングで、クアッドについて次のように述べた、というのです。

閉鎖的かつ排他的な小グループを作って地域国家間の相互信頼と協力を害してはならない古い冷戦的思考で満ちている。軍事的対決の色彩が濃く、時代的潮流にも逆行し、支持を得ることはないだろう」。

自分たちの国にとって好ましくない動きに対しては、あからさまに「時代に逆行する」だの、「支持を得ることはない」だのと述べて批判する…。じつにわかりやすい発想です。中国、ロシア、北朝鮮、韓国の4ヵ国には、とくにそのような傾向が強い気がします。

朴槿恵政権時代の外交が復活?

ただ、これについて朝鮮日報は、尹錫悦氏自身が日米豪印「クアッド」に「加入したい」と述べたことに対する中国からの牽制だと位置づけているのですが、こうしたレトリックは汪文斌氏だけのものではありません。

朝鮮日報によれば、環球時報英語版、すなわち『グローバルタイムズ』の4月27日付の記事で、岸田文雄首相が韓国側の「韓日政策協議代表団」と面会した際に日米韓3ヵ国の戦略的提携を強調したことを巡り、「韓国をクアッドに引き入れ、ロシアとウクライナの問題で協力を引き出すためのもの」と主張したそうです。

岸田首相がそこまで考えているのだとしたら、逆に頼もしい話でしょう。

いずれにせよ、今回の朝鮮日報の記事自体、『鈴置論考「ガラガラの韓国国会ゼレンスキー演説会場」』などでも言及してきた、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏が展開する「米中二股外交」論そのものでしょう。

待望の鈴置論考が出て来ました。今回の論考はウクライナ大統領のオンライン演説会場が、なぜガラガラのスカスカだったのか、という点を手掛かりに、韓国社会のかなり本質的なところに斬り込む、いつにもまして読みごたえがある秀逸なものです。個人的には1人でも多くの方に読んでいただきたいと思う記事でもあります。日経編集委員の方の「?」な論考昨日の『韓国の約束破り無視する「関係改善論」=日経編集委員』では、「天下の」日経新聞のとある編集委員の方が執筆した「論考」をもとに、その編集委員の方が考える日韓関係「改善...
鈴置論考「ガラガラの韓国国会ゼレンスキー演説会場」 - 新宿会計士の政治経済評論

あと1週間少々で始まるであろう尹錫悦政権下で、朴槿恵政権時代のような激しい米中二股外交が繰り広げられることに関しては、覚悟しておく必要があるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • り地域をクアッドに入れるのは「獅子身中の虫」を作ることになると思うんですけどねw
    中国の指示で情報漏洩をやらかしかねない。
    速やかに赤陣営の走狗と認定しておいた方があと腐れがないかと。

  • たまには韓国に対して優しい考え方でも試してみましょうか。

    もしあなたが韓国の大統領だとしたら、どうします?

    A:中国を怒らせる事を覚悟した上でアメリカ側に立つ。するとどうなるか?
    手段を全く選ばない中国は即座にお仕置きしてきます。だからと言って今まで散々米日に
    不義理を働いてきた事がチャラにはならないので、損害を埋めてくれる訳じゃありません。
    結果、ただでさえキツかった経済が爆発して国民があなたの首を狩りに来ます。

    B:アメリカを怒らせる事を覚悟した上で中国側に立つ。するとどうなるか?
    中国ほどあからさまではありませんが、アメリカも様々な罰を与えてくるでしょう。
    そして中国はアメリカ程優しくもなく、アメリカ程安定している訳でもありません。
    厳しいご主人様と運命共同体になり、一時の経済的安定と引き換えにお先真っ暗になります。

    C:コウモリ!れっつコウモリ!今まで通りコウモリ!するとどうなるか?
    中国もアメリカも冷たい視線を浴びせてきますが、今すぐ鞭を振るったり銃口を
    つきつけてきたりする訳ではありません。いずれ世界の流れやパワーバランスが
    激変した時韓国はどうしていいか分からなくなり、被害を被る確率大ですが……
    それは5年以内じゃないかも!運が良ければ次の大統領に押し付けられるかも!

    ……あれ、韓国じゃなくて韓国大統領に対して優しい考え方になっちゃった?
    とりあえずオチとしては、「現実が分かっている韓国人はわざわざ大統領にはならず、
    夢想家しか大統領を目指さない」を仮説として提唱したい、と言う事で……

    • 雪だんご様

      今の韓国が置かれた状況は李朝末に重なる、なんて見方もあるようですから、

      D. 右顧左眄、風見鶏外交を繰り返しながらも、切羽詰まった挙げ句に、日本に抱きつき後で涼しい顔してる。

      なんてウルトラCも、なきにしもあらずかも(笑)。

    • 答えに成って無いですが、自分だったら即座に辞任なり亡命したりしてますね・・・・
      確かに甘い汁等は沢山吸えますが、リスクがとんでもなくあり過ぎて、成りたいとも思わないです。
      やっぱり離れた日本から、野次馬観戦してる方がいいと思います(あの国の事だからまた何か面倒な騒動を引き起こしてトバッチリが来そうですが・・・・)

    • E:とっとと停戦協定を破って、北朝鮮を攻めに行く。

      元々、アメリカとソ連の対立でそうなった訳で、ロシアの手が西でいっぱいいっぱいになっている可能性がある今が、北を攻めるチャンスかと。
      約束破り? そんなの知らない。
      弾道ミサイルしか無い骨董品兵器だらけの北朝鮮ですが、欠陥兵器でも駆使していけば韓国でも潰し合って勝てるでしょう。
      根拠は無いけど、きっと上手くいきます。アメリカも世界各国も、ウクライナみたいに韓国を支援してくれるはずです。

      こうして、晴れて悲願の南北統一を果たし、人口でも日本に負けず、アメリカ、中国、ロシアに干渉されない堂々とした独立国になれます。
      元北朝鮮の人達を労働力として加え、生産力も爆増させて経済成長します。これは、日本越えも夢では無い。
      韓国の未来はバラ色ですね。

      ……本当かなあ? ツッコミ歓迎です。

  • >対中国包囲網の最前線に立つことなく、国際社会と『協力』し、

    協力とは助け合うこと。依存することではありません。

    *『協力』の、カ(カタカナ)の字省いて、”♰ 磔(ハリツケ)"か・・。

  • >韓国は今、世界で最も難しい外交を展開しなければならない国の一つだ

    (o゚Д゚)エエッ!! 本気で言ってるのですか?
    って思っちゃったのです♪

    韓国の進むべき、というか進んでる道って、経済とかいろいろ中国に従属してて、自由主義陣営にいるふりをして、事あるごとに足を引っ張る(例えば、対北・対イラン制裁の抜け穴、対ロシア制裁躊躇、航行の自由作戦への不参加とかとか)役回りの一択で、結構前からそのとおり着実に進んでるんじゃないのかな??

    そういう立ち位置がバレてきて難しくなったってるって事なら、わかるんだけど♪

  •  「米中二股外交」と聞くと、あたかも一人の女性(韓国)が、屈強で包容力も経済力もある男性(米国)と、その敵対関係にある成り上がりの富豪で腕っぷしも強いが嫌われ者の男性(中国)の二人を手玉に取って両天秤にかけているような印象を受けます。
     しかし、実際は、女性には二人の男性を手玉に取れるだけの魅力がある訳では無く(女性は、自身にそれだけの魅力が十分に有ると自惚れている節がありますが)、二人の男性も女性に魅力を感じている訳ではなく、敵対関係にあるために一人でも多くの女性を味方に付けたい(敵に回したくない)だけというのが実状ではないでしょうか。
     その意味では「日和見外交」と言うのがより実態に近く、尹錫悦新政権も伝統的な「日和見外交」を展開することになると思います。文在寅政権も「日和見外交」でしたが、違いはどちらの男性により多く傾くかということだけで、最終的にどちらか一方の男性を選択するという決断ができない(しない)という点は共通していると思います。

  • 先日、3年ぶりの学生時代のサークル仲間のOB会で、沖縄で反米活動に勤しんでいる老人みたいになってしまった友人や先輩がいました。
     
    士、三日会わずば、即ち更に刮目して相待つべし、とは三国志の中で呂蒙が魯粛に告げた言葉ですが、三年会わなければここまでになっちゃうものなのかなと、些か暗然とする思いでした。

    まぁ元々そういう傾向のある人たちではあったんですがね。

    日本はアメリカではなくアジアと連帯しなくてはならないとか、実は山本太郎が好きだ、彼は本当によく勉強しているとか、訳のわからないことを言ってくるので、「そのアジアとは中国や北朝鮮のことですか」そして「うん、山本太郎は詭弁術だけはよく勉強しているよね」更には「巧言令色鮮し仁、とは山本太郎のためにあるような格言だよね」などと茶化して、会話はそのあたりで打ち切りました。

    わかり合えない人たちと、噛み合わない対話を延々と続けるというのは不毛なものですから。

  • 米国からすると、韓国は既に「選択を済ませた」国なのですが、韓国からすると「選択を強いられただけで選択した訳では無い」ってところですかね。。。

    ずっと「選択を強いられたぁぁぁ(涙)」と自分を慰めていれば良かったのに。

    「選択を出来る国になったぁ!」とホルッたりせずに。