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    Categories: 金融

対ロシア与信リスクは仏伊墺の3ヵ国に集中=与信統計

対露融資で損失を発生させる可能性が高いのは、フランス、イタリア、オーストリアである――。これは、以前の『国際与信統計で読み解く各国の「金融パワー」と力関係』などでも指摘した予想ですが、当ウェブサイトの予想が正しかった証拠が、また出て来ました。時事通信の『欧州銀に巨額損失リスク ロシア向け投融資、回収困難』とする記事によれば、まさにフランス、イタリア、オーストリアの銀行の対露融資が問題になっているのだそうです。

BIS統計で見る国際与信

以前の『国際与信統計で読み解く各国の「金融パワー」と力関係』でも取り上げましたが、統計データ上、西側金融機関の対露エクスポージャーの金額自体、「最終リスクベース」で見て1000億ドルを少し超えるくらいです。

ロシアは「どうせ欧州は制裁しない」と高を括っていた国際決済銀行が公表した2021年9月末時点の国際与信統計を使えば、各国の金融パワーや力関係が見えてきます。たとえば、ロシアに最も多くのカネを貸している国はフランス、イタリアの両国でした。実際、報道等によれば、最後までロシアの銀行をSWIFTNetから除外する措置に反対したのが欧州諸国だとされていますし、統計データで確認する限り、ロシアは直前まで、「どうせ欧州や日本は自国への制裁に踏み切らない」と高を括っていたフシがあります。国際与信統計(CBS)とは?:...
国際与信統計で読み解く各国の「金融パワー」と力関係 - 新宿会計士の政治経済評論

具体的には、国際決済銀行(BIS)が公表する国際与信統計(CBS)のデータを委細に検討していくと、「最終リスクベース」で見て、西側諸国などのロシアに対する与信額は2021年9月末時点において1047億ドルでした(図表1)。

図表 2021年9月末時点におけるロシアに対する債権国(最終リスクベース)
金額 割合
1位:フランス 236億ドル 22.57%
2位:イタリア 232億ドル 22.14%
3位:オーストリア 171億ドル 16.31%
4位:米国 145億ドル 13.84%
5位:日本 92億ドル 8.80%
6位:ドイツ 52億ドル 4.92%
7位:オランダ 47億ドル 4.51%
8位:英国 31億ドル 2.93%
9位:韓国 14億ドル 1.35%
10位:フィンランド 9億ドル 0.89%
その他 18億ドル 1.73%
合計 1047億ドル 100.00%

(【出所】the Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics Full Dataより著者作成)

ロシアによる「非友好国からの債権」踏み倒し宣言

対露与信は上位10ヵ国だけで全体の98%以上を占めていますが、その上位10ヵ国は、いずれも「非友好国」リストに掲載された国ばかりです。

ここで、『ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠』などでも取り上げたとおり、「非友好国リスト」は、ロシア政府が「外貨建ての債務の元利払いをルーブルで支払っても良いこととする」、という大統領令を一方的に公表した相手国のことです。

中国は対露「1000億ドル支援」に耐えられるかロシアによる「非友好国リスト」に対する事実上の「借金踏み倒し宣言」は、ロシアに対する「SWIFT排除」「外貨準備凍結」「起債制限」などの金融制裁がてきめんに効いている証拠です。そして、明らかに国際法に違反する大統領令を出したことで、ロシアは却って国際的な信用を喪失することになるでしょう。本稿ではこれについて、報道や統計データなどをもとに、その実態を詳細に検討してみます。ロシアの違法な一方的宣言「非友好国リスト」は一種の「借金踏み倒し宣言」『「借金踏み...
ロシア「非友好国リスト」は金融制裁が効いている証拠 - 新宿会計士の政治経済評論

具体的には、ロシア政府が公表した「非友好国」リストを公表し、このリストに含まれた国・地域からの外貨建ての債務のうち、毎月1000万ルーブル(かそれに相当する外貨)を超える支払手続については、外貨ではなくルーブルを使用することを容認する、などとする措置です。

したがって、「非友好国からの債務踏み倒し宣言」により、少なくとも金融機関の対ロシア向け与信のうち、最悪の場合、全体の98%が凍結されるかもしれない、という話でもあります。

この点、「最終リスクベース」で見てみると、ロシアに対する国際与信の60%はフランス、イタリア、オーストリアの3ヵ国で占められている格好ですが、ただ、それと同時に、国際与信全体(2021年9月末時点で31兆1122億ドル)に占めるロシアの割合は0.3%に過ぎません。

このように考えていくと、ロシアが西側金融機関からの借金を全額踏み倒したとしても、フランス、イタリア、オーストリアの3ヵ国を除けば、正直、国際的な金融システムに対する影響は極めて少ないと考えて良い、というのが先日の議論の暫定的な結論、というわけです。

時事通信「欧州銀に巨額損失リスク」

こうしたなか、これに関連し、時事通信に今朝、こんな記事が出ていました。

欧州銀に巨額損失リスク ロシア向け投融資、回収困難

―――2022年03月14日07時06分付 時事通信より

時事通信によると、「欧州の金融機関が巨額の損失を被るリスクが高まっている」として、具体的にはソシエテ・ジェネラル(仏)が2021年末時点で186億ユーロ、ウニクレディト(伊)が78億ユーロ、ライファイゼン・バンク・インターナショナル(墺)が233億ユーロ、などとなっているのだとか。

この金額、先ほどの図表に示した金額(フランスが236億ドル、イタリアが232億ドル、オーストリアが171億ドル)というものとはピタリとは一致しませんが、「対露融資ではフランス、イタリア、オーストリア3ヵ国の与信が非常に大きい」とする統計的事実と、だいたい整合しています。

もっとも、時事通信によると、ドイツ最大手のドイツ銀行の場合、ロシアとウクライナ向けの与信は14億ユーロと「全体の0.3%に留まる」、などとしているなど、「欧州全体で対露融資で巨額の損失が生じている」とは言い難いのではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (8)

  •  凍結したロシアの外貨準備で精算するわけにはいかないですよね~。

    • それだと凍結じゃなくて召し上げになっちゃいますね。w
      元に戻せなくなります。

      • 元に戻す必要があるのでしょうか?。本来国連からも除名でしょう。ロシアも鎖国のつもりでしょうし。

        • 今の時点で手札を使い尽くす必要はないと判断しているのだと思います。次の状態がどんな状態なのか想像もつきませんが、今の戦闘状態が永遠に続くわけでもありません。

          例えば、プーチン政権が倒れそうになれば、それを餌にロシア国内にメッセージを出せます。「プーチンさえいなくなれば、もとに戻すかもよ」とか。
          何がどうなるかは全く見えないですが、選択肢は残しておくのが合理的だと思います。

  • 直接的な与信以外に,ロシア株などを経由した投資被害もあります。現在,ロシア株は評価基準額を算定できないもとが増えていて,ご指摘頂いた金額よりは被害が大きいでしょう。

  • 米国からのロシア向け半導体輸出禁止に対抗して
    ロシア側は真空管の輸出を禁止したそうです。

    https://twitter.com/gear_otaku/status/1502816319552458760

    実は家にも一台electro-harmonix社の真空管ヘッドホンアンプがあるのですが.......
    GE製で相当品が手に入るはずなのでしばらくは様子見です。
    まさかのオーディオファンへのとばっちり。

  • 日本が中国を育てたように
    フランス、イタリア、ドイツもロシアを意図的に育てて、新冷戦になるように布石を打った面があるかも