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韓国でまたもトリプル安:ウォンは1年9ヵ月ぶり安値

今回のウクライナ戦争、果たして「リーマン級」となるのでしょうか。「炭鉱のカナリヤ」ではありませんが、個人的にひとつ注目している指標が、新興市場国における「トリプル安」(株安、債券安、通貨安)です。そして、日本の近隣には、1997年と2008年に通貨危機を発生させた国が存在しています。これについてどう考えるべきでしょうか。

韓国ウォンの相場が下落するも…

韓国の通貨・ウォンの対米ドル相場(USDKRW)が一時、1年9ヵ月ぶりの安値水準に下落しました。

米メディア『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)のマーケット欄によると、日本時間の朝方の時点で、瞬間的に1ドル=1236ウォンにまで下落する局面も見られました。2020年5月27日以来、約1年9ヵ月ぶりの安値水準です。

ただし、為替介入のためでしょうか、その後は買い戻されているようです。

これに関連し、韓国メディア『聯合ニュース』にはこんな記事が配信されていました。

原油高、景気低迷の懸念で為替レートが1230ウォン突破(総合)【※韓国語】

―――2022-03-08 09:42付 聯合ニュースより

聯合ニュースによると、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格・原材料価格の急騰やこれに伴う「スタグフレーション」などを警戒し、外為市場ではドル高となったことに加え、米国がロシア産原油の輸入禁止を検討しているとする報道が原油価格を急騰させた、などとしています。

ただ、それよりも興味深いのは、こんな記述です。

ただし、外国為替当局がボラティリティ拡大に対応して微調整(スムージングオペレーション)に乗り出すことができるという期待は、ウォン/ドル為替レートの追加上昇を制約している」。

ここでいう「微調整(スムージングオペレーション)」とは、まさに米財務省が議会向けの報告書でも繰り返し問題視(『米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める』等参照)している、韓国の通貨当局による不透明な為替介入のことでしょう。

米財務省が先日公表した為替監視レポートを読んでいると、韓国が2020年下期にかなり多額の為替介入を行ったと読める記述があります。これは、当ウェブサイトでかなり以前から提唱してきた「韓国の資産バブルFRB主犯説」ともかなり整合している話題であり、また、韓国が公然と為替介入を行っている証拠でもあります(※もっとも、米国は韓国について「不透明」という表現は使っていませんが…)。韓国の資産バブル韓国の資産バブルFRB主犯説当ウェブサイトではかねてより、新型コロナウィルス感染症拡大に伴う米FRBなどの金融緩...
米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める - 新宿会計士の政治経済評論

「微調整」と言いながら、現実には「微調整」ではなく、大胆な為替介入もなされているフシがあるからです。

年初来何回目かのトリプル安

では、今回の同国通貨安については、どのようなインパクトがあるのでしょうか。

同じく聯合ニュースには昨晩、こんな記事も出ていました。

【ウクライナ侵攻】国内金融市場大揺れ…株式、通貨、債券「トリプル安」【※韓国語】

―――2022-03-07 17:35付 聯合ニュースより

これによると昨日の韓国の金融市場では、ウォン安だけでなく株安(韓国の株価指数「コスピ」が2.29%、「コスダック」が2.16%下落)、債券安(3年物韓国国債利回りが7.4bp上昇)、という状況が生じている、とするものです。

これなど『日韓両国で「トリプル安」発生も、日韓には根本的違い』などでも触れてきた、典型的な「トリプル安局面」そのものでしょう。

韓国ではなぜか今年に入り何度も「トリプル安」が発生昨日は日本や韓国で、「株安・債券安・通貨安」という、いわゆる「トリプル安」が発生しました。この点、同じトリプル安でも日韓では事情がまったく異なります。日本の場合は日銀のイールドカーブ・コントロール政策に加え、債券市場の資金量が盤石であるため、トリプル安はあくまでも一時要因ではないかと思いますが、韓国の場合はそもそもFRBなどの金融緩和が資産バブルの原因となっていた可能性が濃厚であり、資本フローの脆弱さはまだ当分続くかもしれません。昨日は日本で...
日韓両国で「トリプル安」発生も、日韓には根本的違い - 新宿会計士の政治経済評論

以前からしばしば説明しているとおり、教科書的には株式は「リスク資産」、債券は「安全資産」とされ、株式と債券が同日に売り込まれるということは、さほど多くありません(※皆無というわけではありませんが…)。

これに加え、その国の通貨が売られるということは、これが示唆しているのは、「外国人投資家がその国の株式や債券を売却し、通貨ポジションを手仕舞いする動き」が発生しているという可能性です。

韓国ウォンの過去の動き

実際、金融評論家の立場からすれば、「炭鉱のカナリヤ」ではありませんが、新興市場諸国のなかでも、とりわけ韓国ウォンの動きについては「世界的な危機」の先行指標として役立つことがあります。韓国ウォンの動きを見ていれば、世界の投資家のリスク選好(あるいはリスク回避)度合いを間接的に知ることができるからです。

国際決済銀行のデータを使い、USDKRWの動きを図表化してみると、1997年のアジア通貨危機、2008年の金融危機の影響がいかに大きかったかがわかるかもしれません(図表)。

図表 USDKRWの推移

(【出所】the Bank for International Settlements, US dollar exchange ratesより著者作成)

これに対し、2020年3月のコロナ禍の際は、米FRBによる韓国銀行を含めた9ヵ国・地域の中央銀行・通貨当局との臨時為替スワップなどの影響もあり、危機が深化するのを防ぐことができました。実際、コロナ禍直後に韓国ウォンが暴落する、という状況は生じていません。

(※もっとも、韓国ウォンの為替相場は、時期によっても異なるにせよ、当局がおおむね一定のレンジに収まるように誘導してきたフシもあるのですが…。)

しかし、今般のウクライナ戦争においては、おりしも米FRBが利上げを議論している最中でもあり、米FRBによる支援は期待し辛い状況でしょう。また、韓国との間で諸懸案を抱えている日本が、積極的に日韓通貨スワップなどの金融支援を復活させるということもあり得ない話です。

その意味で、市場のパニック的な動きがUSDKRWの動きに現れて来るかどうかについては、要注目、といったところでしょう。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • 要注目=「楽しみだ」が、心の声でしょう。

    1235で戻したようです。
    雰囲気としては、朝から介入して、どうにか押し返したが、また押され気味といった感じ。

  • 『聯合ニュース』の記事中に、「NH先物のキム・スンヒョク研究員は、『・・ドルペッグの増加は小康状態に入る可能性が高い』と付け加えた。」 ともあります。

    「ドルペッグ制とは、為替介入や金利調節をして自国通貨とアメリカドルの為替レートを一定に保つ制度」 らしいです。
    すると、これも韓国が為替介入+金利政策によって為替レートを維持する制度を使っている、ということを自ら証言していることなのではないでしょうか?
    そして、「ドルペッグの増加は小康状態に入る可能性が高い」という発言の意味は、「ドルを使った為替介入は小康状態になるだろう」ということではないでしょか。
    この発言は韓国国内の経済不安を少しでも消そうとして発言しているのでしょう。
    しかし、それは「be in vainに終わる可能性の方が高い」でしょう。
     
    無策ではすぐに恐怖の1USD 1250ウォンを超えます。必死に頑張って下さい。

    • >無策ではすぐに恐怖の1USD 1250ウォンを超えます。必死に頑張って下さい。

      韓国の通貨当局が必死に頑張って「小康状態」を保とうとしたがハングル表記の勘違いをして「焼香状態」になってしまったとか考えてしまいました。

  • 周辺国との関係を、蹂躙する側となるか、蹂躙される側になるかという以外の見方ができず、ときに暴力を伴う恫喝で、常に強国であり続けようとした結果、自らの立ち位置を逆に狭め、遂には一線を越えるに及んで、国際社会から締め出しを食らった某大国。

    周辺国の値打ちが、集れる相手か、集れない相手かという以外の判断基準をもたず、虚言、巧言、言い逃れを駆使して対立する大国間を泳ぎ渡り、おいしいとこ取りに励んだ挙げ句に、国家的信用を失墜させてしまった、自意識の上では大国の某小国。

    事ここに至っては助けを求める先は同じ? もうひとつの大国に呑み込まれるか、それとも冷たく謝絶されるのか?

    因果応報、会者定離、色即是空、南無阿弥陀仏(合掌)。

    • 某大国でもなく、某小国でもない某中国は、どう動くのでしょうかね。

  • >韓国との間で諸懸案を抱えている日本が、積極的に日韓通貨スワップなどの金融支援を復活させるということもあり得ない話です。

    寧ろ韓国には我が国の領土を不法占拠されているだけでなく,我が国の農業関係者が苦心惨憺して生み出した優れた新品種を盗まれたりしているのですから,韓国通貨の安定を破壊するぐらいの報復=経済戦争を日本は国家としてコッソリと(余り大っぴらにやるとバイデンさんらから目くじら立てられてしまいそうですから)仕掛けて差し上げるべきだと思います.

    特に韓国政府が日本政府に対して重要案件で逆らったりすれば,罰として韓国の弱点である為替レートで徹底的に痛めつければ良いのです.(その場合にはアメリカに一言断ってから大々的に仕掛けても良い)

    つまり,韓国ウォンの対ドルレートが高すぎるときは更に高値に誘導する取引をし,低すぎるときは空売りでも使って売り浴びせるといった具合に.韓国ウォン市場の小さな規模からして,我が国の外貨準備の極く一部を使えば,韓国中銀を翻弄し青瓦台の顔色を歩行者信号の如く変えて差し上げることが可能でしょう.

    こうやって韓国大統領や韓国の政治家に対して,彼ら朱子学原理主義者=序列至上主義者達の大好きな「どちらが甲でどちらが乙か」という問題の日本と韓国とに関する答えを,繰り返し叩き込めば良いのです.ちょうど周共産王朝が逆らえば叩き伏せるという躾を繰り返すことで,中華王朝に対しては全く逆らわなくしたように.

  • 相場はただ眺めて批評するだけでなく、それを利用して現実に自分自身の利益を得ることも面白いと思います。ただ、韓国への投資はちょっと難しいので、現在、大きく動いている日本株のほうを利用したいと思います。
    カラ売りは善悪の問題ではなく利益の問題なので、儲かると思えば私より優秀なプロの投資家が韓国にもカラ売りをかけるでしょう。でも、選挙が終わるまでは動かないかな。
    傍観者は、原油高、株安などから生じる物価高・いろいろな負担金増などの損害を被るだけになってしまうかもしれません。
    世界ではプーチン政権がいつまで持つか、という問題もありますが、FRBの政策や、不動産や株のバブルの付け、隠れた不良債権問題など、あちこちに爆弾があります。韓国も不動産バブルという爆弾を抱えていて、どちらに転んでもいいことがありません。中国もですが。

  • どうやら1240を伺った所で、介入しました。
    1240の方が、元々1250より強い抵抗線で、この次は、1280だと思います。
    全て妄想ですので、責任は持ちません。

    • 夕方以降、押し戻しては押し返されというのを繰り返してますな。
      20:00現在、1234.4近辺で揉みあってますが、この先どちらに転がるか。ここで踏ん張らないと、ガタっと行きそうな気もします。
      明日は大統領選投票もあることだし、楽しみ...もとい、不安がいっぱいですね。

  • ウクライナ危機もあるから
    当初の防衛ラインは諦めて、もう少しウォン安なラインを防衛する作戦かも