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    Categories: RMB金融

欧米、共同声明で「ロシアのSWIFT排除」など発表

欧州委員会や米国、欧州主要国は日本時間の本日、ロシアの特定の銀行をSWIFT決済システムから除外するなどの追加措置を打ち出しました。ロシアの貿易の50%が米ドル建てである、などとされるなか、短期的にはロシア経済には大きな打撃が予想されます。ただし、こうした動きは同時に、ロシアと中国を中心とする「人民元経済圏」の発足につながる可能性もあります。

日本を除くG7の共同声明

ついに、ロシアの金融システムを、部分的にSWIFTから排除することで合意が取れたようです。

欧州委員会に加え、日本を除くG7諸国(フランス、ドイツ、イタリア、英国、カナダ、米国)は日本時間の今朝、共同声明を出し、ロシアに対する追加での経済制裁措置を発表しました(※この声明文に日本が含まれていない理由はよくわかりません)。

Joint Statement on further restrictive economic measures

―――2022/02/26付 欧州委員会HPより

これらの諸国は、「我々はロシアの侵略に抵抗するウクライナ政府・ウクライナ市民の側に立つ」としたうえで、ロシアの今回の戦争が「第二次世界大戦以後、形成されてきた国際的な法や規範への挑戦である」と非難したうえで、次のような追加措置を講じると述べています(抄訳)。

  1. 選択されたロシアの銀行をSWIFTの送金システムから除外すること。これによりこれらの銀行を国際的な金融システムから遮断し、グローバルに活動するうえでの制約を課す
  2. ロシアの中央銀行に対し、外貨準備を使って経済制裁を逃れようとする動きを制限する
  3. ロシアの富裕層のうち、ロシア政府関係者に対する「ゴールデン・パスポート」と俗称される市民権の販売を制限することで、ロシア政府関係者が我々の金融システムにアクセスすることを制限する
  4. 経済制裁対象の企業・個人を特定するための国際的なタスクフォースを立ち上げ、ロシア政府関係者やその家族に対し、資産を隠す動きを追及する
  5. 偽情報を含めたハイブリッド戦争に対する国際的協力を強化する

…。

このあたり、欧州連合(EU)内でもドイツがロシアのSWIFTからの排除に消極的でしたが、ようやく実効性のある措置を講じることができた、という格好です。

ルーブルは主要通貨ではない

なにより、ロシアにとっては主要銀行が米ドル決済から排除されると、非常に影響が大きいとも考えられます。というのも、ロシアの通貨・ルーブル自体は国際的な市場でほとんど通用する通貨ではないからです。

SWIFTが公表している『RMBトラッカー』というページでは、「顧客を送金人とする決済額および銀行間決済額(SWIFT上で交換されたメッセージ)」の上位20通貨の順位と割合が毎月公表されているのですが、ルーブルの地位は非常に低いのが実情です(図表)。

図表 主要国通貨とロシア・ルーブルの国際送金シェア(2021年12月)
ランク ユーロ圏込み ユーロ圏除外
1位 USD(40.51%) USD(42.66%)
2位 EUR(36.65%) EUR(38.16%)
3位 GBP(5.89%) GBP(3.74%)
4位 CNY(2.70%) JPY(3.21%)
5位 JPY(2.58%) CAD(1.99%)
16位 DKK(0.32%) RUB(0.32%)
20位 RUB(0.21%) HUF(0.19%)

(【出所】SWIFT『RMBトラッカー』をもとに著者作成。なお、USDは米ドル、EURはユーロ、JPYは日本円、GBPは英ポンド、CNYは人民元、DKKはデンマーク・クローネ、CADは加ドル、HUFはハンガリー・フォリント。)

バイデン「ロシアの貿易の5割が米ドル建て」

そして、ロシアルーブルのような国際通用力が弱い通貨の場合、外為市場では、両替するためには米ドルなどの基軸通貨ないしハード・カレンシーを介入させることが一般的です。

たとえば、ロシア企業が韓国企業から製品を輸入する際には、ルーブルと韓国ウォンを直接交換することはできないため、いったんルーブルを米ドルに両替し、その米ドルを韓国ウォンに両替する、といった具合です。

ちなみに、ジョー・バイデン米大統領はロシア向け制裁の「第1弾」を発表した際に、ロシアの外為取引の80%、国際的な貿易の約50%が、米ドル建てである、と述べています。

Fact Sheet: United States Imposes First Tranche of Swift and Severe Costs on Russia

―――2022/02/22付 ホワイトハウスHPより

該当する記述は次のとおりです。

Over 80% of Russia’s daily foreign exchange transactions globally are in U.S. dollars and roughly half of Russia’s international trade is conducted in dollars. With this action,no Russian financial institution is safe from our measures, including the largest banks.

こうしたなか、ロシアのウラジミル・プーチン大統領にとって、SWIFT排除などの金融制裁が「織り込み済み」だったのかどうかは定かではありませんが、とりあえず短期的には、ロシアにとってはG7諸国に対する輸出だけでなく、さまざまな分野に非常に大きな影響が及ぶことが予想されます。

ロシアはウクライナ侵攻で思わず手間取っている、といった報道もありますし、これに加えて自国経済にさまざまな国際的圧力が加えられるという結果をもたらしたことは、ロシアの経済成長に大きな影響を与えるかもしれません。

中国のブロック経済圏?

もっとも、ロシアはいちおう資源国でもあるのに加え、最近は中国がブロック経済圏を作ろうとしているフシもあります。『ロシアは中国とのブロック経済圏形成で制裁を逃れる?』などでも述べたとおり、ロシアにとってはSWIFTから排除されたとしても、「人民元経済圏」に参加する、という可能性がないわけではありません。

ロシアの駐日大使が日本に「重大な対抗措置を取る」と表明するも――。日本政府の対露制裁パッケージは、経済的に見たらほとんど実効性がありません。2021年におけるロシアへの半導体輸出高は6億円未満と、日本の半導体産業にとっては無視できる金額でもあります。もっとも、ひとつ気になる点があるとすれば、中国を中心とするブロック経済圏にロシアが加わろうとするかどうか、です。経済制裁の実情日本政府の対露追加制裁『日本政府はロシアへの「半導体輸出などの制裁」を発表』で「速報」的に取り上げたとおり、日本政府は25日、ロ...
ロシアは中国とのブロック経済圏形成で制裁を逃れる? - 新宿会計士の政治経済評論

つまり、先ほどのロシア・韓国の貿易の事例でいえば、「ルーブル→米ドル→韓国ウォン」、という取引において、米ドルの代わりに人民元を使用し、「ルーブル→人民元→韓国ウォン」、といった為替取引が広まるかどうかどうかについては、注目する価値がありそうです。

現実的には、現在の国際的な銀行送金システムにおいて、SWIFTが圧倒的なシェアを持っていると考えられる点から、人民元決済システム「CIPS」が今すぐに国際送金システムとしての地位を得るとも考え辛いのが実情でしょう。

ただ、中国とロシアが結託し、これに北朝鮮や韓国、パキスタンといった「友好国」が参加するブロック経済圏が成立すれば、これはこれで冷戦期が再現するのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (62)

  • > 中国とロシアが結託し、これに北朝鮮や韓国、パキスタンといった「友好国」
    何の違和感もないのは何故?
    サプライチェーン再構築に、若干の影響があるかもしれませんね。

  • >(※この声明文に日本が含まれていない理由はよくわかりません)。

    ただ単に勇ましければよいというものでもなく、プラグティズムも否定はしないけれど、
    本当に、何なんでしょうね。
    外務省・財務省の無能か、岸田・林ラインの外交音痴か。

    この期に及んで、サハリン2が、平和交渉が、北方領土が、と言っているとしたら
    正に外交政治オンチでしょう。
    国の指導者としても事の軽重・優先順位の分からない無能者。

    笑いもののドイツも軌道修正してきたというのに。それ以下という事を晒してしまった。

    • アメリカは今回のことを指摘して
      ロシアや中国から日本が侵略されても助けない。核ミサイルが東京に落ちても知らんぷりする大義名分ができた

    • 日曜討論を見てました。
      SWIFTに対する日本の立場と聞かれても何を言ってるのか分からない。
      結局言及を避けたように見えました。
      この期に及んで外務大臣がこの有様。

      無能者なんでしょうね。

    • このSWIFT、加盟金融機関を会員とする協同組合の態らしいのですが、国が一部会員の資格停止を命じる法的規程があるのでしょうか。
      単に日本の金融庁に指揮命令出来る権限がなかったのではないかと。

      • SWIFTは参加金融機関が出資する組合構成で、日本の参加金融機関の組織SWIFTジャパンは東京銀行協会内に事務局がありますがもちろんそんな決定に関与できる組織でありません。 他国は国家が有事に命令を出せますが日本はそんな法整備もないので参加しようがなかったのだろうと思います。

        • 世相マンボウ 様

           細かいことは知りませんが、普通に、外為法を使って送金禁止を命令すればよいと思います。

  • イラン制裁に乗じて 原油購入代金を踏み倒そうとしている韓国は、 ロシア金融制裁でも 一儲け企んでいるかもしれません。
    人の不幸を お祝いする国ですから。

  • Cold War 2.0 との単語も流布が始まっているそうですし。
    中国が心から恐れているのは 1980 年代に引き戻されることでしょうから、これはパワーワードになりそうな。

  •  10年位前は、中露が裏で密約を交わしているに違いないなんて発言しても、ただの陰謀論扱いでしたが、状況がこんなだと事前に綿密に「計画」をしていたと思わざるを得ないですね。
     西側は中露両方と共には相手にできないので、ここで中国に動きがあれば止めようがありません。冬季パラリンピックが終わるまでは「自制」するかもしれませんがそのあとは事前に決めておいた「中露紳士協定」の通りに中国も動き出すでしょう。中国が今動かない利点が何かありますか?

    • 陰謀論者 様

       動く可能性は否定できませんが、現状、人民解放軍の準備状況が出てこないところを見ると、あっても一か月以上先ではないでしょうか?

      それまでの間に弾薬・ミサイルの備蓄が間に合うと良いのですが。

      • なんとなく
        ロシア ⇒ ナチス・ドイツ
        中共  ⇒ 大日本帝国
        に、見えてきました。

  • 細かい情報がまだないのでよくわからないですが、

    >選択されたロシアの銀行を

    ここに抜け穴があるという指摘もあるようです。
    米国は、SWIFT排除は象徴で、中銀への制裁が実だ謳っているようです。
    「手加減」のメッセージとならなければいいですが。
    今後の推移もよくみておきたいです。

    そもそも、ドイツがロシアから買っている燃料を代替する方法って、物理的にあるんでしょうかね。少なくとも短期的には厳しいでしょうが。
    各国からそこへの担保が無い限りは、抜け道は無くせない気がします。この短期間でその調整ができたとも思えません。

    歴史の一場面で、各国はどういう判断をするのでしょうね。

    • 元ジェネラリスト 様

      >各国からそこへの担保が無い限りは、抜け道は無くせない気がします。この短期間でその調整ができたとも思えません。

      仰る通りと思います。

      ただ、細部を詰めて時間を浪費するより、このタイミングでメッセージを発することを優先したのだと思います。また、(合意した)抜け道は用意しているでしょうが、こっそりそれ以外のことをしない様に、お互いの情報機関は監視しているでしょうね。

      • こんな記事がありました。

        https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB264SI0W2A220C2000000/
        米高官はロシアとエネルギーを取引する国への影響を少なくするため「どの銀行を通じてエネルギー関連の取引が行われているかを知っており、そうしたところを選ばないこともできる」と述べた。

        まさに、そのためにやったと言ってるような。(笑)

  • 物足りない……
     SWIFTが何物なのか、排除でどのくらいの影響があるかをもう少し掘り下げて欲しかったですね。

     とりあえず、アメリカはロシアの銀行の資産の半分を占めるズベルバンク(ロシア連邦貯蓄銀行)、VTB銀行に制裁してUSsドルの取引を制限(禁止ではなく)するようですね。
     しかし他の銀行、特にロシア連邦中央銀行は対象外ですし、米ドル以外の決済も塞がれた訳でもないし、ソ連時代から行われている天然資源とのバーター取引だって可能です。
     果たしてどこまで効果があるのでしょうか。
     そして岸田政権の動きがなぜこんなに遅いのでしょうか。北方領土返還交渉が望みならロシアを会談へ「引きずり出す」べく、今は強気で締め上げなければならないのに。

  • 外国からの侵略を防ぐとの意識や『備え』が、万全とはいえない日本にとって、
    今回の問題について毅然とした態度、実行を採ることが不可欠なのに
    岸田内閣の態度は、大好きな『緊密に』『連携し』・・とのこと言葉を使い、
    『慎重に』『熟慮し』、そのうえで決断をしない傾向が顕著です。

    こうした言動、態度は、日本が危機にさらされる事態、状況になった際に
    果敢な実行ができず、
    周囲からも信頼を得られず、不安になる

  • SWIFTの価値(仕組みは解ります―早い話手形小切手決済所のようなもの)が
    あまり解りませんが、他の記事では
    SWIFTから露を除外しても意味が無いとしているのもありました。
    露を除外した場合のSWIFTの強み・弱みを記載していないので、何が意味が無いのかが
    わかりませんでした。効き目があるなら、やればよろしいでしょ?
    私は露は悪の組織だから、手形等を使用せず、現金決済だから効き目は少ないと
    思っています。(キャリーバッグの中に金・ユーロ・米ドル・ウォン札・核燃料等)
    これは日本マスコミの特徴であり、もし効き目がないのなら
    何か別の案(いわゆる代案)を提示すべきです。
    代案なしにこれはダメ・あれもダメじゃ社会(世界)は動きません。
    事態が過ぎ去ってから後手後手というのは、ダメです。(コロナで聴き飽きました)
    それでは立憲共産党と同じです。 いや立憲共産党のブレーンはマスコミだから
    そうなってしまうのか? 

    • ちょろんぼ 様

      >私は露は悪の組織だから、手形等を使用せず、現金決済だから効き目は少ないと
      思っています。(キャリーバッグの中に金・ユーロ・米ドル・ウォン札・核燃料等)

      これは、ロシアを見くびりすぎです。
      あの金一味が支配する領域ですら、貿易決済できず難儀したと聞きます。

      10円、20円は抜け道を通ることが出来ますが、何十億、何百億ドルを物理的に運ぶのは現実的ではありません。

      中国が提供する国際的な人民元決済システム「CIPS」を使う可能性もありますが、制裁破りとして米国はその国を締め上げるでしょう。

      バーターするにしても、欲しいものは禁輸となっていて、救急車やマスクをロシアが欲しがるとは思えません。

      全てのロシア銀行を対象にしていないので、これから交渉しながら、ゆっくり締め上げようとしていると思いますが、窮鼠猫を噛むでICBMが飛ばないことを祈ります。

      多分、韓国はイランと同様に騙そうと近づくかもしれませんが、米ロ双方の逆鱗に触れて国が無くなることになるでしょう。

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