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韓国首相「韓日未来対話が必要」

韓国首相が「未来のための対話が急を要すると考える」と述べる一方、外相は国際会合で日本批判――。ある意味では、最後の最後までブレない政権です。ただ、とても冷静に考えていくならば、「日韓の諸懸案」と呼ばれているものは、じつはそのほとんどが「韓国の問題」でもあります。そして、かつてのような「日本が韓国に譲歩する」という妥結策も、今や日本の国民世論が許さない状態になっていることも間違いありません。

日韓諸懸案、じつはほとんど「韓国の問題」

韓国の現在の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領の任期は今年5月で終了しますが、その後継者を決めるための大統領選が3月に実施されます。

ただ、日韓間には、自称元徴用工判決問題や竹島不法占拠問題などを筆頭に、あまりにも懸案が多すぎるため、正直、次の大統領が誰になろうが、日韓関係がただちに「改善(?)」される可能性は高くないだろう、というのが著者自身の見方です。

もっとも、これまでに当ウェブサイトで何度も報告してきたとおり、日韓諸懸案というものは、ほとんどの場合、次のいずれかの特徴を有しています。

日韓歴史問題の2つの本質的問題点
  1. 日韓間の請求権に関するあらゆる問題は、1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みであり、韓国が歴史問題を主張することは、この請求権協定に反する状態を創り出そうとするものである
  2. 韓国側が主張する「被害」の多くは、(おそらくは)韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである

(【出所】著者作成)

自称元徴用工・慰安婦問題などについては上記2つの特徴をともに有していますし、2018年に発生した火器管制レーダー照射事件についても、2番目の特徴を有しています。

すなわち、日韓諸懸案の多くについては、韓国が歴史問題に関するウソや捏造をやめ、国際法や日本との条約・約束などを誠実に守る方向に舵を切れば、その大部分が消滅するのであり、その意味ではすべては「韓国の側の問題」なのです。

韓国首相「未来のための対話が急を要する」

ただし、それと同時に、非常に困ったことに、「韓国が国際法などを誠実に守る方向に舵を切る」という解決策については、非常に望みが薄い期待でもあります。

たとえば、自称元徴用工判決問題に関しては、日本政府の要求は「日韓請求権協定違反・国際法違反の状態を是正せよ」、ですが、韓国政府はこれに対し、「被害者優先で韓日が話し合いを行い、最適な解決策を見つけなければならない」などと主張しており、両者はまったく噛み合っていません。

こうしたなか、韓国メディア『聯合ニュース』に一昨日、ちょっと興味深い記事が掲載されていました。

韓国首相「南北関係、保守政権でも大きい変化ない」

―――2022.02.22 20:10付 聯合ニュース日本語版より

聯合ニュースによると、韓国の金富謙(きん・ふけん)首相は22日、ソウル外信記者クラブ主催の記者会見で、日本のメディアの記者による「日韓の軋轢を解消するための方策」という質問に対し、次のように述べたのだそうです。

未来のための対話が急を要すると考える。異なる見解がある部分はそのままにしても、相互に協力でき、必要な部分については両国の政治指導者が今後の歴史と未来世代に対する責任意識を持ち、解決のために努力しなければならない」。

これもなかなか凄い発想です。

「未来のための対話」とおっしゃいますが、この点については大変な違和感を抱いてしまいます。これまでの日韓関係で、「過去の問題」(しかもその多くは虚偽の問題)を提起し、これらの問題に徹底的に拘ってきたのは、ほかならぬ韓国の側だからです。

この期に及んで「ツートラック」とは…

また、「異なる見解がある部分はそのままにして」云々の発言についても、もはや現在の日韓関係は、「見解が異なっている」というレベルではありません。自称元徴用工判決問題などの諸懸案を放置したままだと、日本企業としては、「まともに韓国でビジネスを展開することすらできない」という状況だからです。

この点、韓国の政治家や韓国メディアからは、しばしば、「ツートラック」という表現が聞かれることがあります。

これは、歴史問題と現在の国際協力については切り離し、過去の問題では日本の追及を続ける一方、現在の課題などについては日本と協力する、といった考え方のことですが、そもそも韓国が違法判決問題などを放置した状態で、こうした「ツートラック」が日本にとって受け入れられるものではないことは明らかでしょう。

いずれにせよ、金富謙氏の発言も、基本的には「ツートラック」そのものであり、日本にとってはとうてい受け入れられるものではありません。

ただ、聯合ニュースによれば、金富謙氏は日本の岸田文雄首相や林芳正外相について、次のように述べたのだそうです。

北東アジアの国々の善隣友好関係を重視する方々。このチームがある時に韓日関係を改善する機会が設けられることを願う」。

…。

言い換えれば、日本で岸田政権が続いているうちに、「韓国が望む形での」日韓関係改善を図りたい、という意味です。岸田首相といえば、安倍晋三総理の下で外相を務めていた2015年に世界遺産登録、日韓慰安婦合意と2回も騙された人物でもあります。

岸田首相自身が「相手国から高く評価されている人物」である、という点が何を意味するのかについては、私たち有権者としてもしっかり考えていくべきなのかもしれません。

韓国外相は国際会合で日本批判

もっとも、「韓日関係をツートラックで改善する」という意味では、文在寅政権は最後の最後までブレないのかもしれません。現在、ロシアのウクライナ侵攻などの懸念が強まっているなかであるにも関わらず、韓国の鄭義溶(てい・ぎよう)外交部長官が国際会合で日本を批判したのだそうです。

閣僚会合では「過去史」、ユネスコでは「佐渡金山」…意を決して日本叩いた韓国外交部長官

―――2022.02.23 12:03付 中央日報日本語版より

韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日掲載された記事によれば、鄭義溶氏は「インド太平洋協力」に向けた閣僚会合に参加するために21日から22日にパリを訪問し、「佐渡金山を巡る外交戦に続く『日本叩き』に出た」のだとか。

具体的には、会合の安保・国防セッションで「域内国間の歴史問題が依然として存在し、多国間主義・法治に基づいた国際秩序がまだ定着されておらず、不信と安保不安がいまなお残っている」と述べたうえで、「歴史問題が不信と安保不安につながる」という点を強調したのだそうです。

これについて中央日報は、「域内国間の歴史問題」とは「韓日間の強制徴用・慰安婦問題などの対立を示したもの」と分析したうえで、日本を名指しこそしていないにせよ、「日本のやり方が究極的にはインド太平洋地域の安保不安につながると批判した形」だと述べています。

「目の前の政策課題よりも歴史問題の方が重要だ」、というのは、何とも呆れた話です。

日韓関係は「政府間レベル」ではなく「国民世論レベル」

もっとも、「現実にインド太平洋地域の結束を乱している国がいったいどこなのか」と問われれば、少なくとも日本ではないことは間違いありません。

それに、そもそも論ですが、現在の日韓関係は「交渉」で何とかなるレベルではなく、もはや韓国が国と国との約束を守るのか、守らないのか、というレベルの話でもあります。この点、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏も、次のように指摘しています。

平気で約束を破り、堂々と他人を裏切る韓国と首脳会談を開こうとする国はまず出てこない。何を取りきめようが、すぐに反故にされるからです。日本と韓国がうまくいかない原因は『日韓関係の特殊性』ではなく『韓国の特殊性』にあるのです」。

この文章の出所は7月16日付『デイリー新潮』の『文在寅が菅首相をストーカーするのはなぜか 「北京五輪説」「米国圧力説」……やはり「監獄回避説」が有力』ですが、本当に至言と言わざるを得ません(『鈴置論考、「日韓の」ではなく「韓国の」特殊性に言及』等参照)。

文在寅氏「ブラックスワン・ストーカー」説、いつにもまして辛辣な小気味よさ巷間「日韓関係の特殊性」に関して議論する人はいますが、じつは特殊なのは「日韓関係」ではなく「韓国」だったと指摘されれば、思わず目からウロコが落ちるという思いをすることができます。日本を代表する鈴置高史氏が昨日、『デイリー新潮』に寄稿した最新論考では、文在寅氏が日韓首脳会談に拘る理由――「ブラックスワン・ストーカー説」――について、あらためて丁寧に説明されています。どうなった?「文在寅氏の訪日」論文在寅氏は日本にやって来るの?...
鈴置論考、「日韓の」ではなく「韓国の」特殊性に言及 - 新宿会計士の政治経済評論

いずれにせよ、日韓関係が「改善(?)」の方向に向かうのか、そうではないのかについては、文在寅政権を引き継ぐであろう次期政権の動向次第ではあります。

ただ、昨日の『日韓諸懸案「密室化」を許さなくなった日本の国民世論』でも指摘したとおり、むしろ最近だと、日本の国民世論が日韓問題に高い関心を抱いているため、日韓関係はもはや日韓両国政府が「密室で」話し合って決められるものではなくなっているという点も重要です。

竹島問題がツイッターで大々的に注目を集める時代に!韓国・文在寅政権が末期を迎えるなか、日韓諸懸案を巡って、重要な変化が出て来ました。日本の国民世論というファクターです。これまでの日韓外交では、「韓国が主張し、日本が折れる」というパターンが多かったのですが、社会がインターネット化したことにともない、日本の国民世論が、「日本が折れたら済む」といった安易な考え方を許さなくなり始めているのです。その最近の実例が、竹島問題や佐渡金山世界遺産推薦でしょう。竹島問題を振り返る竹島問題を巡る不見識竹島問題と...
日韓諸懸案「密室化」を許さなくなった日本の国民世論 - 新宿会計士の政治経済評論

すなわち、「水面下の日韓交渉で日本が譲歩する」といったかつてのような決着を、日本国民が許さなくなったのです。

結局のところ、日韓関係の破綻を回避しようと思うならば、韓国が国際法を守る方向に舵を切る以外に方法はないのではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • 韓国が日韓関係を改善したければ、韓国政府は日本人の国民感情を尊重しなければならない。

  • >日韓関係の破綻を回避しようと思うならば、韓国が国際法を守る方向に舵を切る以外に方法はないのではないでしょうか。

    "自助努力"の意味を穿き違えてるうちは無理ですね。
    「自らを助けさせるための努力」ではないのに・・。

  • 国家間の合意や条約を守ろうとしない国と、外交交渉することは無意味です(図らずもプーチンのミンスク合意破棄によって確認されました)。そしてほとんどの国が日韓関係悪化の主要な原因が韓国にあると理解して、米国は韓国に日韓関係改善の努力を求めています。この段階で「未来対話」を韓国が主張しても、日本が取り合うわけもありません。韓国内向けのポーズでしょう。放っておきましょう。心配なのは、保守派のユン・ソギョルが勝った場合です。日本政府が、日韓改善の端緒をつかまねばならないと、中途半端に首脳会談に応じてしまうリスクを気にかけています。
    頑張れイ・ジェミョン!

  • つい先日もハワイで外相会談をやりましたよね。次官級であれば結構頻繁にやってますので、対話をしていない訳ではありません。
    これが「未来」に向けて実のある対話にならないのは、対話をしても平行線で全く進展が無いからです。
    よって日本のマスゴミは、「日韓の軋轢を解消するための方策」という質問ではなく、具体的に、「一度も約束を守らない国と次の約束ができる訳がないのだから、一度くらい約束を守ることは出来ないのか、それが初めの一歩だろう」と詰問すべきでしょう。
    まあ、どうせ朝日とか毎日とかに期待は出来ませんが・・・

  • 対話が必要と言いつつ、他方で嫌がらせをするのは、
    「話をしないと嫌がらせを続けるぞ」
    という、かの国の駆け引きの一つでしょう。

    日本人の感覚からすれば仲良くしたいのかどうかよくわかりませんが、ほっといても日本は困らないので、無視しておけばいいと思います。

  • いつまでも何度でも「ツートラック」「被害者を納得させろ」「条約ではなく対話」云々。

    韓国にとっては絶対に手放せないし逆らえない”聖なる教え”なのだけど、
    日本はもうそんな”宗教”に付き合う気はない、と世論が固まっているのが幸いですね。

    この先韓国が国際法を守る国家に生まれ変われるかどうかは、いよいよ金もパンも
    なくなってきた時、後生大事に抱きしめていた”聖典”を捨てられるか否か次第でしょう。

    ただ、そうなった場合まともに国家運営する気をなくして日本に数千万人単位の
    難民として押しかけてきそうなのが嫌なんですよねえ……杞憂で終われば良いんですが。

  • 日本もツートラックで良いのではないでしょうか?
    日韓二国間の問題解決のためには韓国政府が是正するまで徹底的に制裁し
    国際社会における多国間の協調には日韓共に協力する。
    あきませんかね?

  • 残念ながら岸田首相には期待できませんが
    そろそろ保守系の自民党議員から
    「約束を履行できない国との交渉は意味が無い」
    旨のコメントを出してほしいところですね。

    あと
    韓国にとっては急を要する事かもしれませんが
    日本にとっては急ぐ理由が全く無い話ですね

    昨年の「東京オリンピックで首脳会談を」のときも
    (儀礼的になら)会えるとなったら
    韓国側は好き放題に要求を出してきたそうですし

    • 好きに要求させれば良いのでは
      どうせ全部却下なのだから

  • >日本メディアの記者から韓日のあつれきを解消するための方策を問われ、「未来のための対話が急を要する・・」

    方策を問われているのに、その回答が、(急を要する)対話であるとは?
    対話は方策ではないです。よく言っても、対話とは方策を実現するための手段にすぎません。
    問われているのは方策なのだから、具体的な施策を答えるべきでした。対話では回答になっておりません。

    元々、日韓併合前の朝鮮半島には学校らしきものもなかったし、彼らの言語の中には、社会とか、法律とか、方策などの単語は存在しませんでした。
    だから方策の意味も、今でも彼らにはそれがよく分かっていないのかもしれません。
    それとも、韓国側には方策がないので、それを誤魔化すために、わざと、「対話が・・」と答えたのでしょうか?

  •  韓国の言う「対話」とは、日韓関係における永遠の韓国の被害者化の確認。
    『佐渡金山巡る対立が歴史戦? 「おかしな振る舞い」=韓国大使』
    https://jp.yna.co.kr/view/AJP20220223002400882?section=japan-relationship/index
    >【東京聯合ニュース】韓国の姜昌一(カン・チャンイル)駐日大使は23日、日本による植民地時代に朝鮮人が強制労働させられた「佐渡島の金山」(新潟県)を巡る韓国と日本の認識の隔たりについて日本側が「歴史戦」と規定したことに対し、「おかしな振る舞いだ」との見解を示した。
    >加害者が被害者に歴史戦をしようというのは話にならない」と批判した。
     永遠かつ無条件に韓国に被害者の地位があると、日本に認めさせることに他ならない。

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