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韓国の半導体産業は素部装の4割を日本に依存=韓国紙

韓国の半導体産業は、「素材・部品・装備」の約4割を日本に依存しているそうです。韓国メディア『中央日報』(日本語版)の今朝の記事によれば、韓国の半導体産業の素材供給の自立を妨げているのは、「人材供給が不足し、研究開発(R&D)インフラが弱く、源泉技術が脆弱」という状況なのだとか。逆に、日本は産業のキー・デバイスを握り続けなければならない、という意味でもあるのでしょう。

日本の輸出は最終製品ではなく「モノを作るためのモノ」が中心

以前から当ウェブサイトで何度となく議論してきたとおり、現在の日本は「最終製品を輸出して儲けている国」ではなくなってしまっています。

財務省が公表する『普通貿易統計』というデータでは、輸出品目を「食料品及び動物」、「飲料及びたばこ」などの10種類の分野に分けて集計しているのですが、ここから判明するのは、日本の輸出品目は、自動車などを除けば、「最終製品」ではなく「モノを作るためのモノ」(生産財、中間素材)が中心である、という点です。

最新の貿易統計をもとに、2021年1月から11月までの11ヵ月間の輸出高を集計したものが次の図表1ですが、実際、10分野のうち「機械類及び輸送用機器」の輸出が日本の輸出全体の約6割を占めており、化学製品や原料別製品といった分野もそれぞれ1割強を占めていることがわかります。

図表1 日本の輸出品目別構成割合(2021年1月~11月)
品目名 金額 構成割合
食料品及び動物 7320億円 0.97%
飲料及びたばこ 1559億円 0.21%
原材料 1兆2850億円 1.71%
鉱物性燃料 8923億円 1.19%
動植物性油脂 302億円 0.04%
化学製品 9兆5899億円 12.75%
原料別製品 8兆9832億円 11.94%
機械類及び輸送用機器 43兆2113億円 57.45%
雑製品 4兆4519億円 5.92%
特殊取扱品 5兆8799億円 7.82%
合計 75兆2115億円 100.00%

(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)

そして、「機械類及び輸送用機器」の内訳をみると、自動車や船舶などの「輸送用機器」を除くと、日本の海外への輸出品目の圧倒的な部分を占めているのは、半導体製造装置であったり、半導体等電子部品であったり、といった、「モノを作るためのモノ」であることがわかります(図表2)。

図表2「機械類及び輸送用機器」のおもな内訳(2021年1月~11月)
品目名 金額 構成割合
一般機械 14兆8171億円 19.70%
うち、半導体等製造装置 3兆0078億円 4.00%
うち、原動機 2兆2573億円 3.00%
うち、ポンプ及び遠心分離機 1兆2664億円 1.68%
うち、事務用機器 1兆2564億円 1.67%
うち、建設用・鉱山用機械 1兆1888億円 1.58%
電気機器 13兆7551億円 18.29%
うち半導体等電子部品 4兆3190億円 5.74%
うち電気回路等の機器 1兆8993億円 2.53%
うち電気計測機器 1兆6746億円 2.23%
うち重電機器 1兆1089億円 1.47%
輸送用機器 14兆6391億円 19.46%
うち自動車 9兆6192億円 12.79%
うち自動車の部分品 3兆2785億円 4.36%
うち船舶類 1兆0049億円 1.34%
合計 43兆2113億円 57.45%

(【出所】財務省『普通貿易統計』より著者作成)

半導体産業はその典型例

このように考えていくと、日本の製造業は、さまざまな機械、製品などを製造するために欠かせない素材、部品、装置を海外に輸出することで、いわば、一種の「迂回輸出」を行っているようなものです。

その典型例が、半導体でしょう。

いまや半導体は、韓国や台湾が主要な生産国でもありますし、また、2012年にエルピーダメモリが経営破綻したことで、日本からは「半導体産業が失われた」、などと指摘されることもあります(『日韓通貨スワップこそ、日本の半導体産業を潰した犯人』等参照)。

先日の『2008年の金融危機時、韓国はわざと通貨安誘導か?』では、金融危機のどさくさにまぎれ、2009年3月頃に韓国がわざと通貨安誘導を行ったのではないか、という仮説を提示しました。これについて、少し論点がわかり辛い部分があったことに加え、いくつか具体的な「証拠」が不足していましたので、本稿では「日韓通貨スワップは結果的に日本の産業を潰すことに寄与した」という点を、できるだけ具体的な数字をもとに考察していきたいと思います。「ワロス曲線」もう少し精緻に分析しなおしてみました先日の『2008年の金融危機時、...
日韓通貨スワップこそ、日本の半導体産業を潰した犯人 - 新宿会計士の政治経済評論

しかし、現実には半導体の製造に欠かせないさまざまな製品(装置、化学薬品など)については、依然として日本企業が強みを持っている、ということでもあります。

その意味では、「半導体産業は日本から完全に失われてしまったわけではない」、という希望を持ちたいところです。

韓国紙「半導体素部装の4割を日本に依存」

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には今朝、こんな記事が出ていました。

「日本のように完全に衰退しかねない」韓国半導体危機論の根拠

―――2022.01.12 06:48付 中央日報日本語版より

中央日報によると、11日に韓国で開かれた検討会では、韓国半導体の「危機論」が中心的な話題となった、などとしているのですが、日本はべつに半導体産業が完全に潰えたわけではないため、「日本のように完全に衰退する」という言い方には非常に強い違和感を覚える次第です。

ただ、ここで個人的に注目したいのは、こうした部分ではありません。

「米中覇権競争が深まる状況にサプライチェーン安が加わって、主要国家が大々的な半導体投資で技術先行獲得に乗り出し、韓国の足場が狭まりつつある」、という趣旨の記述です。具体的には、こんな記述が興味深いところです。

半導体供給の基礎段階である『素材・部品・装備(素部装)』分野では日本の依存度が依然と高いことが分かった」。

中央日報によると、「韓国が半導体素材を最も多く輸入している相手国は日本(38.5%)で中国(20.5%)よりも高い」、「半導体素部装のうち、国別依存度も日本(40.7%)が最も高い」、などとしています。

はて。

このあたり、2019年7月に日本政府が韓国に対する輸出管理の厳格化(あるいは適正化)措置に踏み切った際、韓国側ではこれを巡って「不当な輸出『規制』だ」、「これからは『素部装』の国産化を進めなければならない」、などと叫んでいた記憶があります。

しかし、蓋を開けてみたら、依然として韓国の半導体産業の対日依存度が高い、というのも興味深い話ですね。

キーデバイスを握り続けることが必要

ほかにも中央日報には、「対外政策研究院」の上級研究員による、こんな発言も取り上げられています。

半導体産業は技術障壁が高く、一部の企業に対する依存度が高く、短期間に占有率を変化させるのは難しい。<中略>国策半導体専門研究所が不在で、人材供給が不足し、研究開発(R&D)インフラが弱く、源泉技術が脆弱というのが韓国半導体の弱点」。

裏を返せば、日本は「源泉技術」を大切にしなければならない、ということでもあるのでしょう。

いずれにせよ、半導体は「産業のコメ」とも称されますが、この中央日報の記事、日本にとっても他人事ではありません。「モノを作るためのモノ」、すなわち官民挙げて、キーデバイスをしっかりと握り続ける努力が必要です(※財務省が主導する緊縮財政路線に対しては不安しかありませんが…)。

逆に、キーデバイスを握り続けていれば、いつの日にか、韓国に奪われてしまった「半導体王国」の地位が復活する、という展開もあり得るのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (15)

  • 元歯医者さんのブログによると、そんな韓国の弱みにつけこみ、中国国営銀行が韓国向けファンドを設け、韓国大企業に出資させて素材開発を担う中小企業を育て、上手くいったら中国市場に参入させてやる、という、一帯一路の変異版のような提案があったそうです。
    https://sincereleeblog.com/2022/01/11/okanedase/
    開発リスクは韓国持ちで、もしも上手くいっても中国市場に参入する際は、中韓合弁会社にさせられ、技術は中国に盗まれ、ということになるでしょう。
    日本はこれまで以上に技術流失に努めなくてはなりません。1日も早くスパイ防止法を実現させて欲しいです。

    • Sky 様

      >日本はこれまで以上に技術流失に努めなくてはなりません。

      単なるタイポだと思いますが、これは拙いでしょう。
      それとも裏の有る話でしょうか?

  • おかしいです。
    南国マスコミ情報によれば、既に日本の半導体関連技術を超えたという
    ニュースが毎月出ているのに、未だ4割も日本の半導体関連部品や技術を
    あてにしているなんて!!

    南国マスコミによると、南国の半導体事業が日本の半導体事業のように
    無くなると記事にしておりましたが、それは南国のが無くなるだけで
    中共下の南国地域で残る可能性がある言わないといけないと思います。
    日本の半導体事業(メモリー等)が無くなったのは、米国との
    半導体関連事業の不平等条約によるものであり、南国は中共と半導体事業の
    不平等条約を結ばされている訳ではありません。

  • >「韓国が半導体素材を最も多く輸入している相手国は日本(38.5%)で中国(20.5%)よりも高い」

    おそらく、日本の38.5%は所在地(直接輸入)ベースでの数値でこれなんでしょうね。
    資本由来(迂回輸入)ベース?なんて指標が存在すればこんなものではないと思います。

    ”脱日本!”の実態も、資材調達先を「第三国所在の日系企業に切り替えること」だったりしてるんですものね・・。

  • 半導体と一口に言うけど、韓国の得意なのはメモリー半導体。
    液晶と同じでいずれコモディティー化するんじゃないかな。それを狙っているのが中国。

  • Global Wafers こと台湾環球晶圓の韓国100%子会社MEMCによるウェハー生産は自国製産にカウントされているんでしょうかね。
    環球晶圓が所有する素材テクノロジーは旧東芝セラミックス社の流れを組むもので、小国徳山に並んで新潟で盛んに活動しています。沿革に注目しましょう。環球晶圓は日本起源テクノロジーの買収に成功したことで「でかした、よくやった」と台湾経営協会?から表彰を受けてます。

    • それが、サプライチェーンの現実です。 

      サプライ企業とか言われていますが、特に自動車係はいわゆる本当の下請けです。 例えば、生産工場〇×九州があります(TやNですが、NはRの系列で子会社)が、九州工場は、いわゆる一次下請け(Nは二次下請け)。 バイク系とミラーその他のH社もありますが、ここも一次下請け。 Yプレス、三G(九州工場)、Aシン九州、その他モロモロの世界的進出上場企業の●×九州は三次下請け・・・。 北九州地域+大分県でM社の何次か分からないサプライチェーンも立派に存在しています。 地元の企業は4次か5次。

      H社サプラーチェーンの九州工場は、メキシコその他と競合入札なのですよね。 まあ、バイクに特化して頂きましたが・・・。 

      • 訂正です。

        >メキシコその他と競合入札なのですよね。
        この企業はバイクとは無関係です。 (遠い)H系企業が頭の隅にあって・・・申し訳ありません。

        二次九州工場の場合、海外工場と同等です。 物流コストを含めとりあえず的企業かな?

        自動車関連では各地元企業(4次・5次・6次・7次)が規模を大きくして、奴隷企業から脱却しないといけないと思っています。 世界的企業の3次サプライ九州工場の知識レベルは豊富ですが、そこの担当者は人から聞いただけの知識! 個人はホント低レベルなのですよね。 だから、どうしたら良いのか個人で全く答えが出せない。 

        この辺から変えないと、低賃金・低労働環境の若手労働者獲得がますます難しくなります。 チャンス(大儲け)が無いところに、まともな地元若者は来ない。 自動車産業は九州では季節労働者(期間労働者?最近Hさんが新聞に出していました)ですが、TやNやHのとりあえず社員で満足している愚民が多いことに驚きです。  

         

  • 日本メーカーの半導体製造装置は当然として、米・AMAT、Lamや蘭・ASML製装置の主要部品のほとんどは日本メーカー製だと思います。
    現在、その部品が足りなくて大騒ぎです。

    • 羊山羊 様

      政府の半導体政策、TSMCの研究拠点及び生産工場の誘致など、概ね羊山羊様のコメント通りに事態が進行している上、昨年秋ごろの貴コメントにあった半導体の対韓対中包囲網的な観測も随分現実味を帯び、諸々事象の都度見通しの正しさに感服していました。
      示唆に富んだ今回のコメントもさることながら、いずれ今年以降の見通しなどコメントを拝見できることを期待しています。

      • へちま様
        そのような書込みの覚えが無いのですがお役に立てたのであれば幸いです。

        サムスンもSKハイニクスもマイクロンもtsmcも活況です。一方、外資を除く中国メーカーはパッとしない感じがします。個人的な感触ですけど。

    • 高品質品はウエハー洗浄、そうでないのは部品洗浄に使ってるのだと思います。

      韓国関税庁が発表する最新の貿易統計によると、日本から輸入された半導体製造用フッ化水素輸入額(昨年1~11月)は1,112万ドル(約12.7憶円)と前年比18.6%増加したことが分かった。
      https://korea-economics.jp/posts/22011303/

  • 鵜飼輸出ということは
    韓国は自称兄の国だが、実際には弟の鳥だってことだな