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NHKに剰余金還元義務付け?「そこじゃない」改革論

どうもピントが外れていませんか?産経ニュースの日曜日の報道によれば、総務省は来年1月の通常国会に、NHKの剰余金を還元することを義務付けるとともに、受信料の割増金の聴衆を可能にするなどの放送法改正を提出するそうです。ただ、現代社会において本当に求められているNHK改革論は、そこではないように思えてなりません。

NHK問題

これまでに当ウェブサイトでも何度となく申し上げてきたとおり、NHK問題とは結局のところ、「国民が消費者としての選択の結果として、その組織の在り方に関与することができない」という点にあります。

そもそも、放送法の規定に従えば、私たちはテレビなど「NHKの放送を受信することができる設備」を設置すれば、NHKと受信契約を締結する義務が生じます(放送法第64条第1項本文)。

放送法第64条第1項本文

協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。

NHKはこの法の規定をタテに、私たち一般国民に対し、契約を迫って来ます。

私たちにできる選択肢といえば、テレビなどを設置してNHKと契約をするか、法律に違反してテレビを設置しているのにNHKと契約をしないか、あるいはいっそのことテレビそのものを持たないか、というくらいしかありません。

あるいは、「法律に違反しないで暮らしたい」という善良な市民にとっては、事実上、「テレビを設置してNHKと契約をする」か、「テレビを設置しないでNHKと契約をしない」か、という2択だと考えた方が良いかもしれません。

逆に、これをNHKの側から見れば、「法律の規定に基づき、テレビを設置しているすべての家庭・事業所に対し、契約を締結することを要求することができる」、という意味です。

どんなつまらないコンテンツを作ろうが、テレビを持っている人からは受信料を払ってもらえるというのが、事実上、法律によって保障されているわけですから、笑いが止まりません(※民間企業の場合だと、「法律の規定で自社の製品を買わせることができる」というのは基本的にはあり得ません)。

人件費問題、1兆円金融資産問題…

そして、NHKがかき集めた受信料を適正に使用しているならまだ納得がいく人も多いのかもしれませんが、当ウェブサイトで長らくNHKの財務諸表などを分析してきたところ、どうもNHKの受信料の使い方が適切であるようにも思えません。

その典型例は、人件費でしょう。

NHKはイラネッチケー「逆転勝訴」で自滅の道を行く』などでも説明しましたが、NHK職員は少なく見積もって民間平均給与の2.4倍(!)という破格の給与を得ており、また、これに福利厚生費などを含めると、1人あたり1600万円近い人件費が計上されています。

「イラネッチケー訴訟」を巡り、最高裁の堺徹判事が愚かな判決を下したことで、NHKがテレビ業界を道連れに、自滅の道を歩み始めました。せっかく「テレビを設置してもNHKと契約しなくて済む」という合法的な道ができるチャンスを、この堺徹判事がぶっ壊してくれたため、テレビ業界の衰退がこれから加速すると考えられるからです。「NHK利権を守るための判決」が「NHKを含めたテレビ業界をぶっ壊す」のだとしたら、皮肉としては最高に強烈です。利権の3つの特徴当ウェブサイトの定義で恐縮ですが、「利権」とは、「不当な...
NHKはイラネッチケー「逆転勝訴」で自滅の道を行く - 新宿会計士の政治経済評論

また、『NHKの「隠れ人件費」600万円のケースもあるのか』などでも触れた「隠れ人件費」などを含めれば、職員1人あたりの人件費は、下手をすると2000万円を大きく超えているかもしれません(※このあたりはNHKが実態を隠蔽しているため、詳細についてはよくわかりませんが…)。

先日の『NHK職員に対する住宅手当に潜む「隠れ人件費」問題』では、NHK職員に対して月額5万円の住宅補助が出ているとする内部告発や、広尾の物件に2万円で住んでいる職員もいるらしいとする記事を紹介しました。これについて、もう少し踏み込んで補足しておきたいと思います。NHKの人件費問題事情は伏せますが、個人的にはこの数日、大変に忙しく、あらためて振り返ると、ここ数日の記事については誤字・脱字も多く、また、いくつか議論したい論点がすっぽり抜け落ちていたりもします。そのひとつが、先日の『NHK職員に...
NHKの「隠れ人件費」600万円のケースもあるのか - 新宿会計士の政治経済評論

NHK本体だけで1万人を超える職員に対し、職員1人あたり単純計算で1600万円近い人件費を計上し、さらにケースによっては「とても豪奢な社宅に格安の家賃で住める」という噂もあるほどです。

しかも、『NHK「1人あたり人件費1573万円」の衝撃的事実』でも取り上げましたが、NHKは連結集団内に年金資産を含めて1.1兆円を超える金融資産を蓄え込んでおり、さらには簿価ベースで計上されている土地などの不動産物件を時価に引き直せば、下手をすれば数兆円の価値のある不動産を保有しています。

1兆円を超す金融資産、不透明な連結決算に加えて「隠れ人件費」疑惑もNHKが2021年3月期(=2020年度)の財務諸表と連結財務諸表を公表しました。当ウェブサイトとしては、NHKが「公共放送」として相応しくないほど非常識に超高額な人件費を負担している点や、国民からかき集めた巨額のカネを1兆円以上、さまざまな形で保有している点を指摘して来ましたが、ここで最新状況について改めてまとめておくとともに、あらためて、NHKの「あり方」について考えてみたいと思います。NHK問題の要諦NHK問題をまとめると…?当ウ...
NHK「1人あたり人件費1573万円」の衝撃的事実 - 新宿会計士の政治経済評論

これなど、過去にNHKが視聴者から徴収し続けてきた受信料の額が過大だったという証拠ではないでしょうか。

要するに、番組を作るのに必要な経費が、受信料収入を大きく下回っていて、それが何年、何十年と累積した結果が、1兆円を超える巨額の金融資産に結実していると考えると辻褄が合うからです。

このように考えていくならば、「NHKに引き続き、公共放送として放送事業を担わせるのが良いのかどうか」、という論点もさることながら、「現状の受信料水準が適切なのか」、「受信料の使途が適切なのか」、「巨額の資産がNHKの経営に必要なのか」、といった、いくつもの問題点が出てくるように思えてなりません。

剰余金の還元を義務付ける代わりに割増金制度創設か

こうしたなか、産経ニュースには一昨日、こんな記事が掲載されていました。

NHK値下げ法案を再提出へ 1月通常国会 剰余金の活用義務付け

―――2021/12/19 21:20付 産経ニュースより

産経によると、総務省は来年1月の通常国会に向け、放送法改正案を提出するそうです。

記事タイトルには「NHK値下げ」とありますが、記事をよく読むと、「NHKが積み立てた剰余金を受信料の値下げに充てることを義務付ける」とともに、「テレビを設置しているが受信料を支払っていない世帯から割増金を徴収できる制度も盛り込む」、とされています。

「受信料負担の不公平感をなくして値下げにつなげる」のが狙い、ということでしょう。

ただ、そもそも論ですが、記事を読む限りでは、現状のNHKの事業自体が妥当なのか、総務省が見直した形跡はありません。

いくつものチャンネルを持ち、年間13,650円(地上波のみの契約で、口座振替やクレジットカードでの1年一括払いの場合)という受信料をかき集め、ドラマ、歌番組、アニメ、クイズ、お笑いなど、民放と同じようなジャンルのコンテンツを提供する必要が、果たしてあるのでしょうか。

このように考えていくと、ちょっとした剰余金の還元でお茶を濁しつつ、そもそも論としてのNHKを巡る諸論点を無視したまま、という状況を放置することが妥当とも思えません。

NHKを巡る諸論点の例
  • ①現代の日本社会に公共放送というものは必要なのか
  • ②公共放送が必要だったとしても、現在のNHKにそれを担う資格があるのか
  • ③「見ない人からも徴収する」などの受信料制度は妥当なのか
  • ④1兆円超の金融資産、莫大な不動産などは、NHKの経営に必要なのか
  • ⑤少なく見積もって職員1人あたり1550万円超という人件費水準は妥当なのか

(【出所】著者作成)

テレビ業界を待つ未来とNHK改革

もっとも、『紙媒体の新聞から10代が離れた』などでも触れてきたとおり、正直、新聞業界と同様、テレビ業界を待つ未来も決して明るいとはいえません。

「テレビ利権」はいまだに根強いが、果たしてその将来は?以前の『新聞を「情報源」とする割合は10代以下でヒトケタ台』では、総務省の調査結果を速報的に紹介したものの、記事のなかに盛大な事実誤認が含まれており、その訂正に追われるあまり、続きについて紹介しそびれてしまいました。ただ、ネット上でちょっと興味深い記事を発見したという事情もあるため、あらためて「メディア利権」についての先行きについて、考えてみたいと思います。総務省の調査当ウェブサイトにおける盛大な事実誤認のお詫び以前の『新聞を「情報源」とす...
紙媒体の新聞から10代が離れた - 新宿会計士の政治経済評論

実際、総務省が先週水曜日に実施した『デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会』の配布資料のひとつで、千葉大学の多賀谷一照名誉教授による『資料3-2 放送の将来』【※PDFファイル】と題したA4サイズ4ページ分の資料などを読むと、こんな記述もあります。

30代-40代…TVを見ない、持たない/彼らから、現行的な意味でのNHK受信料を取ることはいずれ無理となる」。

当ウェブサイトもこの見方には大筋で同意します。

そもそも論ですが、放送法が制定された時代と比べれば、テクノロジー自体が大きく変化しており、現代社会だとインターネットなどの有料・無料の動画サイトがかなり充実しており、オンデマンドでさまざまなコンテンツを視聴することができます。

というよりも、そもそも地上波を使った公共放送自体が必要なのか、という点に、いずれ国民的議論を広げざるを得ないでしょう。

いや、もちろん、「国会中継や天気予報などの公共性の高いサービスは必要だ」、という意見があることは承知していますが、昨今の政府インターネットTV、衆参両院のインターネット審議中継、気象庁ウェブサイトなどの充実ぶりをみるにつれ、これらは公務員が税金で運営するというものであっても良いかもしれません。

いずれにせよ、今般の法改正も、正直、「ちょっとした剰余金の還元」でお茶を濁すようなものに過ぎず、国民のNHKに対する不満は溜まる一方ではないか、という気がしてならないのです。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • 64条の契約が無理なら、せめて契約種別に「モニター利用」ってのを加えて、受信料0円にしてくれないのかな?

    • あと、
      >「テレビを設置しているが受信料を支払っていない世帯から割増金を徴収できる制度も盛り込む」
      なんてことするなら、契約義務のある「受信設備」には、マークかなんか付けて購入前に明示するようにすべきだと思ったのです♪

      スマホとかカーナビとか、放送の受信を目的としていない機器を持ってて、知らないうちに割増料払わされるなんて、おかしいと思うのです♪

  • 剰余金って、利益が出ないように子会社設立しまくって、天下りさせ、割高の韓国ドラマを子会社に発注して中抜きさせて、利益を減らすようにしてるのに、ますます剰余金が出ないようにするだけでしょう。

  • 悪法もまた法なり

     国民が求めているもの
    テレビをみる自由とNHKをみない自由(受信料不払い)の両立
     結論は既に出ている(NHK放送のスクランブル化)
     スクランブル化してから総務省・NHKの利権解体が結局は早道なのでないか? と思います

  • >受信料の割増金の聴衆を可能にする

    徴収ニダ。

    NHKの現有資産や既得権に手を入れないと駄目でしょう。

  • わんわんさま

    個人的にはスクランブル化でも不満です。
    観たい番組も幾つかあるので…
    でもごく一部に過ぎないのでバカ高い受信料を丸々払うのには業腹です。
    なのでワシはペイバイビュー化が理想です。
    でもそれだと単価がバカ高くなるだろうから誰も観なくなる。
    国営化しか道がなくなるのですけどね…

  • 総務省もNHK改革を検討/推進している感を出しているだけで、抜本的なNHK改革(解体)=放送法の大改正等を行うなど微塵も考えていませんよ。

    割増金を徴収できる制度を盛り込むなどによって、国民がビビって受信料の支払率が向上すれば、受信料を下げても結果的に収益は減らないし、NHKの望む公平負担がさらに促進されることになる…という糞ロジック、NHKに厳しく当たっている風を装ったポーズにすぎませんね。

  • 水道や、電気の様に視聴した分だけ払うと言うのが一番納得されると思います。

  •  逆に考えるんだ。「NHKが全日本人が只の一人も不満を持たないレベルの価値を持った放送をするようになれば良いさ」と考えるんだ。

  • そこじゃないですよね。
    目先のごまかしではなく、法改正を望みます。

    最近、小野田紀美議員の活躍が聞こえてきて、是非頑張って欲しいと思ってます。
    (N国党も地道にやればいいのにと思う)

  • ところで、NHK党は前の選挙は惨敗だっけ?