「中国が強くて賢い国」?ご冗談を!
歴史的な転換点にいる人は、得てして、自分自身がその転換点にいるということに気付かないものなのかもしれません。昨日は米CNNがさりげなく、蔡英文(さい・えいぶん)台湾総統が「台湾に米軍が駐留している」と認めたかのように読める記事を配信しています。米軍が台湾に駐留している可能性は以前から指摘されて来ましたが、もしも事実なら、これは画期的なことでしょう。ただ、中台間のやりとりをみていると、個人的にはもどかしい思いをすることもあるのです。
目次
蔡英文氏、CNNに米軍駐留(?)の事実を認める
米メディアCNNに昨日、こんな記事が掲載されていました。
Taiwan’s President says the threat from China is increasing ‘every day’ and confirms presence of US military trainers on the island
―――2021/10/28 16:51 HKT付 CNNより
比較的長文の記事ですが、これは台湾の蔡英文(さい・えいぶん)総統が火曜日、CNNとの独占インタビューで、米軍が「訓練」を目的に台湾に駐留していると述べた、というものです。
CNNはまた、すでに昨年の時点で米軍の特殊部隊が台湾で訓練する様子に関する動画を公表し、のちに非公開にしたなどとしつつ、蔡英文氏が米軍の事実上の駐留という事実を認めたことについては1979年の米台断交以来の画期的なものだと指摘しています。
そのうえで蔡英文氏は、駐留している米軍の規模については言及せず、「一般に思われているほど多くはない」と述べるにとどめましたが、その一方で米国との間で広範囲な防衛協力を行っているなどと述べたのだとか。
こうした蔡英文氏の発言は、中国の軍事的圧力が日増しに強まるなかで、台湾の産業、世界の投資家などに対しても「台湾海峡の防衛には米国がコミットしている」と思わせるには十分でしょう。
蔡英文氏の人柄がしのばれるインタビュー
また、インタビューのその他の内容自体も大変興味深く、蔡英文氏は台湾が “beacon of democracy” (※「民主主義のともしび」、といった意味でしょうか?)であり、世界の民主主義の価値に対する信奉を擁護するためには台湾防衛が必要だ、などと述べた、というのです。
そのうえで、蔡英文氏は次のように指摘した、などとしています。
“If we fail, then that means people that believe in these values would doubt whether these are values that they (should) be fighting for.”
要するに、台湾が中国に侵攻されて陥落するようなことがあれば、民主主義社会における価値が揺らぐ、といった警告でしょう。
蔡英文氏という指導者の人柄がしのばれる、大変興味深い記述だと言わざるを得ません。
CNNの記事自体は、難解な英単語、回りくどい表現もそれほど含まれておらず、高卒くらいの英語力があれば何とか読めると思いますので、ご興味があればぜひとも原文を直接読んでみてください(幸いなことに、現在のところ、全文が無料で読めるようです)。
やっぱり、中国が強く反発
その一方、予想どおりというべきでしょうか、中国が蔡英文氏の発言に強く反発したようです。
台湾総統、米軍の駐留認める 米メディアに 中国けん制
―――2021年10月28日 19:48付 日本経済新聞電子版より
中国、米軍の台湾での訓練に「断固反対」
―――2021/10/28 19:35付 産経ニュースより
日経電子版や産経ニュースなどによると、中国側はこの蔡英文氏の発言に「激しく反発」し、とくに産経ニュースは中国外交部の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官が28日、次のように述べたと報じています。
「米側が台湾地区と行ういかなる公的往来や軍事的関係にも断固として反対する」。
「台湾地区」というのも変わった呼称ですが、おそらくこれは、中国政府が台湾を「一体不可分の領土」と称していることと関係しているのでしょう。
それはともかくとして、汪文斌氏は台湾独立を巡っても、「歴史の流れに逆らうもの」「袋小路」などと鋭く批判したそうです。
ただ、こうした舌鋒鋭い反論は、まさに、米台関係の深化が中国共産党政権にとって、よほど都合が悪いということの裏返しでしょう。
中国が日増しに軍事的な能力を高めているとみられるなかで、あまり油断してはならないという点には注意も必要ですが、それと同時に、中国が軍事的な力を誇示して周辺国を恫喝していることが、じつは台湾など周辺国には「逆効果」であるという可能性もあると思います。
あるいは、中国がこのように強い調子で台湾(や米国)に警告を与えているということは、言い換えれば、じつは戦闘になること中国自身が望んでいないということの裏返しであるようにも思えてならないのです。
中国は本当に「強くて賢明な国」なのか?
考えてみれば、中国は面積も大きく、人口も多いという、紛れもない「大国」ではありますが、それと同時に本当に「強くて賢明な国」なのかどうかと聞かれると、疑問に感じざるを得ません。
21世紀に入ってからもイラク戦争、アフガン戦争などの「実戦」を戦ってきた米国と比べれば、中国は大規模な海外派兵をさほど行っていませんし、「中華人民共和国」発足以降に限定しても、中国が何らかの形でかかわった戦争といえば、朝鮮戦争や中越紛争などを除けば、非常に限定的です。
もちろん、「実際に戦ってみたら中国は強かった」、となるのかもしれませんので、中国の実力についてはあまり見くびらない方が良いことは間違いないのですが、それと同時に、中国の激しい言葉遣いは、どこか「実力のなさ」「外国からの支持のなさ」の裏返しにも見えます。
なにより、汪文斌氏のこの発言を聞いて、蔡英文氏やジョー・バイデン米大統領、あるいは米議会関係者らが「よし、わかった」「台湾地区の問題は中国の内政問題だから米国の台湾への関与はやめる方向で検討しよう」、などと思うものでしょうか。
話しは逆で、言葉を選ばない中国の激しい反発は、現実の政治の世界では、米台の軍事的結び付きをより一層強める方向にしか働きません。
もちろん、台湾「国内」にも親中派がいると思われるなど、台湾も一枚岩ではありませんし、台湾防衛の価値があるとどこまで思わせることができるかは台湾次第ですし、米国が今後、どこまで台湾防衛にコミットするかは米国次第でしょう。
ただ、もし中国が本気で台湾の併呑を目指すなら、まずは国際的に中国の主張を理解する国を増やすところから始めるべきでしょう。
しかし、現在の中国は、たとえば日本に対しては東シナ海での尖閣諸島での挑発、ASEAN諸国に対しては南シナ海での挑発、インドに対しては国境地帯での挑発、英国に対しては香港国家安全法の施行による約束破り、豪州に対しては輸入規制などを通じ、多くの「敵」を作っているように思えるのです。
現在の中国の「味方」といえば、ロシアと北朝鮮、あるいは事実上の「属国」と化しつつある韓国の、3ヵ国くらいなものです。
そのうえで、英明な蔡英文氏という指導者を持つ現在の台湾と、やたらと周辺国を恫喝してばかりの現在の中国を比較するならば、少なくとも台湾が共産中国に併呑されるというシナリオは、短期的には実現しないと考えて良いのではないでしょうか。
台湾には「あと一歩」が足りない?
ただし、最終的に米国や日本などの「自由・民主主義国家」群が台湾とどう付き合っていくかについては、台湾自身の覚悟も必要です。
もしも台湾が「自由・民主主義国として中国から独立する」、あるいは「すでに中国とは独立した主権国家だ」などと宣言するのであれば、日米などにとっては、いかようにもやりようがあります。
とくに、中国がいくら反発しようが、日米英豪・G7・EUなどが毅然として台湾独立を同時に支持するなどすれば、中国としては手出しができません。台湾は晴れて自由・民主主義同盟の一員として国際社会に迎え入れられることでしょう。
すでに日本は台湾のことを「基本的価値を共有する友人である」と認めています(『令和3年版外交青書』P55等参照)。当然、日本が強く推進している「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)に、台湾は歓迎されるでしょう。
これに加えて、台湾が現在加入申請をしているCPTPPを巡っても、もし台湾が国際社会から公然と「独立国」として認められれば、既存参加国にとっては台湾加入に反対する理由がひとつ消滅することになります(※TPP入りにはほかにも条件が必要なので、必ず入れる、という話ではありませんが…)。
さらには、将来的には米台同盟、日台同盟なども発足するかもしれませんし、将来的には「インド太平洋版NATO」にも、日本とともに参加するかもしれません。日本にとっても実効性のない「日米韓3ヵ国連携」より、「日米台3ヵ国同盟」のほうが、はるかに心強いでしょう。
そのように考えると、現状は「あと一歩」、台湾が勇気を出せるかどうかにかかっているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
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>もちろん、台湾「国内」にも親中派がいると思われるなど、台湾も一枚岩ではありませんし、
そう言えば、アジアの某国のR4なる政治家は、かつて(今も?)台湾籍でありながら中華人民共和国信奉者と思しき言動を行う『非国民』『売国奴』だったような。。。?
>日本にとっても実効性のない「日米韓3ヵ国連携」より、「日米台3ヵ国同盟」のほうが、はるかに心強いでしょう。
「日米韓3ヵ国連携」に無いのは「実効性」ではなく「現実性」ではないかと。
朝鮮民族が居ない朝鮮半島の南部だけでも日米が支配出来れば、対共防波堤としての機能が復活するでしょうから。
>中国がいくら反発しようが、日米英豪・G7・EUなどが毅然として台湾独立を同時に支持するなどすれば、中国としては手出しができません。
そっかな?
紛争が早まるだけだと思いますけどね。
台湾政府もそれが怖いんでしょう。
今は、北京オリンピック前でチャンスの一つだとは、思いますけどね。
習近平は、困るでしょうけど。
どっかな。
だんなさん>
大陸の台湾侵攻能力は2025年頃に整うと言う説があります。
一方国力はその頃にピークを迎え、以降は衰退に向かうとの見方も。
大陸としては準備万端で侵攻し新しい地平を開くことでしょうけど。
それをさせないために準備不足で暴発し崩壊するか、隠忍自重して
穏やかに衰退するかの選択を突き付けているのだと思います。
台湾独立?はて面妖な・・・いつ中共の軍門に降ったのかな?
歴史を捻じ曲げるにも程がある
>台湾独立?はて面妖な・・・いつ中共の軍門に降ったのかな?
台湾独立派や本サイトの運営主さんが「台湾独立」と言う場合、中華民国あるいは旧大日本帝国からの独立であって、中共からの独立の意味ではないと思います。なので、独立という言葉を使ったとしても、台湾は中共の一部であると認めている訳ではありません。なので、おかしくはないと思います。もっとも、現在の台湾の国体については、他にも様々なタテマエ論(観念論)があるようなので、これ程単純ではないようですが。
中華民国から台湾省が独立したら、福建省の金門島をどうするのかな?
台湾国が中華民国(金門島他)を占領あるいは連邦国家にする??
観念論の部分は何かと面妖ですな。
なるほど、台湾人の台湾人による台湾人の為の台湾ですね。
ならば、中華民国に「台湾独立を承認する」と宣言してもらえば良いのですね?
門外漢様
中華民国に「台湾独立を承認する」と宣言する。
今一つですけど、ま~良い案ですね。
文大統領もカジュアルに「終戦宣言しよう」と言っておりますので
ついでくらいに、中共から宣言して欲しいところです。
「観念論」とはうまく言ったものです。
ことの本質は「中華」にあります。それを取り下げてもうちらうちらと言い切れるだけの「度胸」と「心の整理」は、彼らの側の問題です。
蔡英文台湾総統が米軍駐留を公式に認めたことが、中国にどれほどの衝撃を与えたかは彼らの反応の激しさを見れば一目瞭然です。ある意味実に判りやすい国なのかもしれません。
かつての周恩来などのような老獪な政治家とは違って、習近平とその取り巻きの連中には俄か成金特有の成り上がり根性が透けて見えるからでしょうか、その言動に余裕が全くといいほど感じられません。いくら大口を叩こうとも、まさか米軍が駐留する台湾に武力制圧を掛けられるほどの覚悟も軍事力もない事ぐらい、私の様な素人でも判ります。
中国が周辺国との間で様々な紛争を起こしてきたことはよく知られていますが、特に私の中で強い印象として残っているのは、1979年にベトナムとの間で起きた中越紛争です。いや、これは紛争などと云うよりも戦争と云っていいほどの戦闘でした。ベトナム戦争でアメリカを撤退の追い込んだベトナム軍は、ここでも中国に手痛い打撃を与えて、中国はベトナムからの撤退を余儀なくされています。
このように中国という国は戦争に強いのか弱いのかよく分からない国なのですが、一説によるとこの敗戦が中国人民解放軍の近代化を促した側面もある等とも云われておりますので、余り見くびらない方がいい、という新宿会計士様のお見立てはある意味その通りなのかもしれません。
しかし彼らの中にはかつての日清戦争然りこの中越紛争然り、圧倒的に優位な軍事力を以てしても敗戦、あるいは撤退を強いられたという屈辱の記憶は、今も生々しく残っていると考えます。ですから単に台湾だけでなく、そこにアメリカという世界No.1の軍事国家の軍が駐留しているという事は余計に恐怖をかき立てられていることだと思う次第です。
またこれは単に台湾一国の問題ではなく、我々日本人にとっても存立を脅かされている事案であるという事を、我々は常に忘れてはならないでしょう。台湾のすぐ東側約100km之海上には与那国島があります。中国が主張している第一列島線とは、台湾とこの与那国島を含む八重山諸島そして沖縄諸島のすぐ上に引かれているのです。
もし中国が台湾を不法に占拠するような事態となれば、彼等は直ちにその主張に従って尖閣諸島を支配しようとするでしょうし、ことによると沖縄まで呑み込もうとするかもしれません。否、それはもはや彼等の政治的タイムテーブルの中に織り込まれていると考えた方がいいでしょう。
ことほどさように、台湾を呑み込もうとする中国の野望は、我々日本人にとってけっして対岸の火事などではないのです。
今のところ日本政府の対応は一応毅然としてはいますが、しかし今一つ踏み込みが甘いように感じられてなりません。今回の衆議院選がどのような結果になるかはまだよく分かりませんが、是非とも自民党が単独過半数(出来得れば単独3分の2以上)の議席数を確保した上で、憲法改正、即ち九条の改正を行い日本を「正常な国」にして貰いたいものです。
>現状は「あと一歩」、台湾が勇気を出せるかどうかにかかっているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
新宿会計士様、これは日本に対しても言っているように聞こえます。
日本もあと一歩!ですよね。
閑居小人さま
日本もあと一歩というか「日本人」が今一歩という気がします。
その意味で今回の衆院選は政治家の信を問うというよりは「日本国民」の「真」が問われる選挙ではないでしょうか。
リッケンが議席を伸ばしたりするようでは…と危惧しています。現状維持ですら危ういと思っています。
世界の殆どの先進国で共産党は非合法だとききます。
日本とフランスぐらいしかないらしい。
もし、台湾が国民党を非合法にしたら、どうなるのだろう?
本土からの侵略者である国民党が非合法になれば、唯一の接点が消えて無くなるかも。
国民党と共産とが共鳴し合う「国共合作」は目前の敵、かつて20世紀にあっては大日本帝国、を共有しあうから意味を成す。では現代の国共合作は誰を敵とみなしているのか。それを白状させることで白黒はつきそうです。日台合作が対立軸になっているとも分かります。
米国にも共産党はありますよ定期。
りょうちん様
本当ですか?
すみません、知らなかったです。
どこかで、見た時に フランス共産党はナチスに抵抗したから 先進国でも非合法じゃないんだと説明されて、なるほどと思った記憶が。
米国は2大政党しかないと思ってました。
イギリスにも共産党は存在しますよ。
かつてのフランス共産党やイタリア共産党のように強勢を誇るというわけにはいかないようですが(英国共産党の党員は200人だそうな)、大方の先進国には共産党が存在しています。ドイツにすら存在しますので、非合法とされているのは多分韓国(OECD基準による)くらいでしょう。
ソ連崩壊を受けてフランスやイタリアの共産党はほぼ壊滅状態となったので、いまや西側諸国で健在と言えるのは日本共産党くらいです。
龍様
ご教授ありがとうございます。
ずーと、日本とフランス以外は共産党が非合法やと思ってました。
今度から、間違った知識をさらさずにすみました。
ドイツやスペインは戦後も非合法時代が長かった
ドイツでは共産党はふるわなかったが
イタリアやスペインは共産党が国会で議席を得たこともある
アメリカのバイデン大統領も、台湾の蔡英文総統も、「台湾防衛に米軍が関与するかもしれない」から「台湾防衛に米軍が必ず関与する」に政策変更の覚悟を決めたのでしょうか。
因みにCNNの日本語版の記事だと次の通りになります。
台湾総統、米軍訓練教官の存在を認める 中国の脅威は「日々」増大 2021.10.28 Thu posted at 18:15 JST
https://www.cnn.co.jp/world/35178724.html
https://www.cnn.co.jp/world/35178724-2.html
当記事で紹介された一文の日本語訳は次の通りになります。
「もし我々が失敗すれば、こうした価値観を信じる人々が、これが自分たちが戦う(べき)価値観なのだろうかと疑念を抱くようになる」
CNNと朝日新聞社、テレビ朝日とは仲良しこよしなので、氏名に態々()内に北京語読みを加えているのは不快ですが、台湾は日本以上に腹を括っているのかもしれません。
韜光養晦路線を捨ててから中国は反発されることが増えてますが、それまでは欧米から大絶賛されてたり、今でも力による外交に弱い国は見事に言いなりになっていて、中国の代弁者として振る舞ってる国も少なくありません。この現実を考えると外交下手とまでは言えないのではないですかね。
先日もウイグル問題に関して、国連では中国支持の国の方が多かったですよね。
尊敬はされてないかもしれませんが、実利はそれなりにとってるように見えます。
中国の強硬姿勢は国内向けじゃないでしょうか?一応ライバルは蹴落としたものの、終身主席となると党内はともかく、世論の反発も怖い。こういう場合、外に焦点を作るのは古来行われてきた常套手段。軍に対しても一応のジェスチャーになります。
また、周辺諸国(特に半島南部)には、結構脅かしだけでも効果があります。負けた時の国内の反発が大変でしょう。それゆえに、今の段階で本当に米軍と事を構えるのはリスキーと判断しているとおもいます。