申請すれば加入できるというものではないのですが…
TPPには現在、中国と台湾が加入申請を提出しており、これに加えて韓国も近日中に「加入するかどうか」を決定することとされているようです。ただ、少なくとも中国と台湾に関していえば、茂木敏充外相は台湾について「歓迎する」と述べたにも関わらず、中国に対してはこの「歓迎する」という表現をしていないようなのです。こうしたなか、韓国政府が大いに勘違いしていることがあるとすれば、TPPには「申請すれば加入できる」というものではない、という点ではないかと思う次第です。
申請すれば加入できるというものではない
先日の『台湾海峡・朝鮮半島の2つのリスクにFOIPで対処を』の末尾で、韓国の洪楠基(こう・なんき)経済副首相兼企画財政部長官が訪問先の米国で、「早ければ今月末にもTPPに加入するか否かを決定する」と述べた、という話題を取り上げました。
TPPは申請すれば参加できるというものでもない韓国メディアの報道によると、インテルのCEOは「半導体の供給を台湾や韓国に依存し過ぎるのは地政学的に見てリスクが高い」とする趣旨の主張を述べたのだそうです。この主張自体は一種のポジショントークでもありますが、それと同時にたしかに地政学的リスクについては無視できません。ただ、これをうまくマネージするためのヒントとは、結局のところ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」にあるのではないかと思う次第です。FOIP、TPP、AUKUS今朝の『対中包囲... 台湾海峡・朝鮮半島の2つのリスクにFOIPで対処を - 新宿会計士の政治経済評論 |
この「韓国のTPP参加」については、どうも違和感を拭い去ることができません。というのも、韓国メディアの報道によれば、洪楠基氏は「(韓国政府が)加入するか否かを決定する」、などと述べたのだそうですが、そもそも論として、加入を認めるかどうかを決定するのは、韓国政府ではありません。
日本を含めたすべてのTPP参加国です。
そして、TPPに加入するためには、その国は、TPPに求められる「高い水準」を満たさなければなりません。
このTPP、じつは中国も加入を申請しています『中国のTPP加盟申請の「狙い」』等参照)。
本日は、久しぶりに驚く話題がありました。中国が昨日夜、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を申請したと発表したというのです。といっても、中国が参加できるか、できないかを論じるよりも、むしろ大事なのは、「中国がこのタイミングでTPPに揺さぶりをかけてきた理由」、という論点ではないでしょうか。中国がTPP加盟申請すでに複数のメディアが報じていますが、中国商務省は16日の夜、同国が環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を申請したと発表したそうです。中国、TPP加盟を正式申請 アジア貿易主導権狙う―――202... 中国のTPP加盟申請の「狙い」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
そして、TPPの加入条件については、中国がTPPに加入申請をした直後、9月17日時点で茂木敏充外相が記者会見で次のように述べています(外務省・9月17日付『茂木外務大臣会見記録』参照)。
「TPP11は、私が担当大臣として、まさに日本がリーダーシップを発揮して進めてきたマルチの経済連携協定であります。これは市場アクセスの面でも、それから電子商取引、知的財産、政府調達、国有企業等、ルールの面でも高いレベルの内容となっています」。
つまり、茂木外相によれば、TPPは単なるFTA(自由貿易協定)の集合体ではなく、参加する各国の国内法の問題にも直結する、大変に高いレベルの協定です。
では、中国はこの要件を満たしているのでしょうか。茂木外相は中国について、次のように述べています。
「TPPに加入したいということになりますと、<中略>今般、加入申請を提出した中国についても、TPPのこうした高いレベルを満たす用意ができているかについて、まずしっかりと見極める必要があると、このように考えております」。
これは、中国に対してだけでなく、韓国に対しても同様に成り立つ議論でしょう。
ただし、韓国のTPP加入議論について、茂木氏がどんな見解を述べたのか見てみたいと思って外務省ウェブサイトを調べてみたのですが、総選挙の期間に入ったためでしょうか、掲載されている茂木外相の記者会見は10月15日のものが最後です。
想像するに、茂木外相ならばおそらく、中国について述べたのと同じような感想を述べるのではないかと思いますし、また、そもそも自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題で、さまざまな国際法・国際条約・国際約束破りを繰り返している韓国のTPP加入を日本が歓迎するとも思えません。
台湾には「歓迎」と述べた茂木外相
その一方、TPPには現在、英国、中国に加え、台湾も加入を申請しており、これについては『大事な友人・台湾のTPP参加を日本が支援すべき理由』でも述べたとおり、台湾のTPP参加に向けたハードルは決して低くはありません。
先日の『中国のTPP加盟申請の「狙い」』に続き、TPPを巡っては興味深い話題が出てきました。台湾メディア『中央通訊』(日本語版)の昨夜の報道によれば、台湾がTPP参加を正式に申請したというのです。台湾は日本にとり、価値や利益を共有する大切な友人(※外交青書)であり、貿易面でも防衛面でも日本にとって大事なパートナーです。台湾のTPP参加のハードルは決して低くありませんが、日本政府としては台湾のTPP参加を後押しすべきではないでしょうか。中国のTPP参加というジョーク先日の『中国のTPP加盟申請の... 大事な友人・台湾のTPP参加を日本が支援すべき理由 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、9月28日付の外務省『茂木外務大臣会見記録』によると、茂木外相は別の記者会見で、台湾の記者から台湾のTPP加入申請について尋ねられ、次のように述べました(抄)。
- 台湾は日本にとりまして、自由、民主主義、そして法の支配等、基本的な価値を共有する、また、緊密な経済関係を持つ大切なパートナーであると思っております。
- その台湾がTPPについて加入申請をしたと、これは自由で開かれたハイスタンダードの経済秩序、経済圏を世界に広げていくと、こういうTPPの目的に沿ったものであると思っておりまして、歓迎をいたしております。
- 当然、英国に対してもそうでありますが、加入に当たっては、TPPの持っているハイスタンダードのルール等、しっかりとそれが受入れられるかどうかと、こういったことは見極めていかなければならないと思っております。
- その上で、日本産食品の輸入規制の撤廃については、政府の最重要課題のひとつでありまして、東日本大震災後、日本産食品に課している輸入規制について、日本は各国・地域に対して、安全性について科学的根拠に基づいて説明をし、その早期撤廃をこれまでも強く求めてきたところであります。
- 台湾の方々が日本産食品の安全性について理解をし、規制の早期撤廃につながるよう、今後も日本台湾交流協会等を通じて、あらゆる機会をとらえて、粘り強く働きかけを行っていきたいと、こんなふうに思っております。
要するに、「台湾の加入申請は歓迎するけれども、TPPのハイスタンダードのルールを満たす必要はあるし、日本産食品の輸入規制についても撤廃してくれないと困るよ」、という、外務大臣としてはほぼパーフェクトな答えです。
ただし、こうした問題はあるものの、中国に対しては使わなかった「歓迎する」という表現を台湾に対して使ったこと自体、大変に興味深いと思う次第です。
TPP参加決定が「遅れる」
さて、韓国の話題に戻りましょう。
韓国メディア『中央日報』(日本語版)には昨日、こんな記事も掲載されていました。
CPTPP加入決定を先送りした韓国「あまりにもタイトな日程…追加調整が必要」
―――2021.10.22 15:25付 中央日報日本語版より
中央日報によると、「韓国政府当局」は22日、週明けの25日に予定されていた対外経済長官会議が11月初めに延期となったと明らかにしたとしつつ、これに伴い「TPPへの加入決定時期が1週間ほど遅れることになった」と報じています。
相変わらず、「TPPに加入するかどうかを決定する」と、あたかも韓国政府が自分でそれを決定できるかのごとく報じているのは、大変に面黒く、そして興味浅いところです。
そもそも論として、TPP加入には全会一致の原則があるという事実を、韓国政府、あるいはこれを報じている韓国メディアが理解しているのかどうかはよくわかりません。
いずれにせよ、茂木外相が韓国に対し「歓迎する」と述べるかどうかについてはちょっとだけ聞いてみたい気がすると思う次第です。
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日本は「ルールを守れない国は加入を認めない」とはっきり言うべきです。そうじゃないと、また邪魔しただの、加入されたら困るから反対してるだの韓国が騒ぐのが見えています。今の状況はあいまいな態度と甘やかしがもたらしています。もう、そういった状況と決別すべきです。
日本が中国や韓国に対して加入拒否を決定できるのか疑問に思っています。
政府自民党や経済界に度胸と矜持があるのかハラハラしながら見ていくようになりそうです。
台湾も東南アジア加盟国次第と思います。中国に切り崩されそうでこれもハラハラドキドキです。
「日韓請求権協定」と同様に、「TPP協定」にも紛争解決手続きが定められています。
「日韓請求権協定」第3条には、「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争」についての解決手続きが定められ、日韓両国の協議により解決できない場合には、第三国を含む仲裁委員会の決定に服するものと定められています。
「TPP協定」第28章には、「 協定の解釈適用に関する紛争」などについての解決手続きが定められ、当事国の協議、あっせん・調停・仲介、パネル設置等により解決することが定められています。
日本政府は、韓国政府に対し「韓国政府は、TPPに加入した場合は、協定に定める紛争解決手続きを順守することを行動で証明して欲しい。(加入に反対とは言わない)」と言えば良いと思います。
文在寅大統領は、自称元徴用工問題について「日韓請求権協定に対する日韓両国の『解釈』の相違の問題だ」と明確に言っている訳ですから。
中国と台湾は韓国の虚を突いて加入申請したと認識しているように見えますね。
<ぐずぐずしている時に虚を突いた中国と台湾、韓国もTPP加入するか>
https://japanese.joins.com/JArticle/284060
相変わらず自分のことには能天気ですね。加入申請すれば加入できるはず、という思い込みがすごい。加入のハードルは韓国には高いし、全会一致ですよ。
韓国の意思で参加できるような言い方をしているのは
韓国国民にTPPは参加の意思があれば 誰でも参加できるモノだと誤解させたうえで
参加失敗を日本の責任にする為だと思います
中国をTPPに入れるのは
王水一気飲みするようなもの
毎度、バカバカしいお話を。
韓国が、「韓国がTPPに加盟してやろうと、言っているのだから、世界は、これを歓迎するのが当たり前だ」と、言っているんだって。
おあとが、よろしくないようで。
蛇足ですが、まずイギリスのTPP加盟を判断する方が、先ではないでしょうか。
多分韓国は即加入できないことは理解しています。
本来でしたら日本が中心メンバーのうちはTPPに加入しないつもりでした。TPP加入国のうち日本とメキシコ以外にはFTAがあるから実質的な意味に乏しいというのが表向きで、実のところは万が一にも日本の以降で加入拒絶された時の衝撃が大きすぎるのが理由です。
「日本にやられた」となったら大統領の支持率は地に落ちるでしょう。退任後の収監は間違いないですし、任期切れ前のろうそく罷免すらあり得ます。
今回の中国の加入申請で、韓国がもう一つ恐れる「世界から取り残される」になるので慌ててますが、それでもTPP参加表明はしないのではというのが私の予想です。
今、韓国がTPP加入表明した時の、取り急ぎ日本がコメントしないよう猛烈な懇願が入っていると想像します。日本が中国にしたようなコメントを韓国に向けてしたら、それこそ政権支持率は急落します。日本に頭を下げるという状況が韓国としてはあり得ない。アメリカ、中国に頭を下げるのは構わないが日本に頭を下げるのはいけない。
まあ加入表明はないでしょう。韓国の裏での懇願に日本は対応している暇はないので。
徴用工の代位弁済や慰安婦問題に関する妥協案を持ってくるでしょうが、全て日本は突っぱねるでしょう。彼らは必ず「謝罪」を条件のどこかに入れてきます。ただ、どんな些細な謝罪でも入れてしまうと、絶対に問題終結にはならないことを日本は身をもって学びました。そんな愚かなことはしないでしょう。
日本は困っていることは何もないので、何もしない。もうそれでいいでしょう。
G様
ほんと同感。
そもそも多くの韓国人は自らの置かれた状況を理解できていないですから、ノー天気に北朝鮮がミサイル発射しまくってるにもかかわらず、いまだに韓国は北朝鮮に対する制裁緩和や終戦宣言のための働きかけばかりしているのです。なので、私は多くの韓国人は自分たちは先進国だから加入表明したら加入できるものと勘違いしてると思います。だからこそ即加入できないと分かってる外国当局者は加盟申請したくはないでしょうが、政府の中にも勘違いしている人は多いでしょうからひょっとしたら勘違いしたまま加入表明はあるかもとは思ってます。
韓国はロケットでも同じでしたね。目標高度に到達しただけで「完全成功だあ!」と各社速報飛ばしまくって。
結局燃焼不足で衛星は予定軌道に入らず、あとから「部分的に成功」などと。
ロケットの場合は失敗を宇宙のせいにはできませんが、TPP加盟申請が否決されば、「日本が後頭部を」と言うのでしょう。
中国が申請を取り下げるか否決されたとしたら、おそらく韓国も「酸っぱい葡萄」と言いながら、取り下げると思います。
某ブログコメント欄風コメントでした。
中国 韓国は、
特に、中国はRCEP をどうするつもりなのかな?
tppには源加入国の優位があり、韓国は日本から請われなければ(日本より下位の序列には就けない)加盟申請さえもできないはずなんですけどね。
もしかして、「中国と同列なら吝かではない」くらいの認識だったりするのかな・・?
先ずは実績を積んで信頼を担保しなくっちゃですね。
どの国も保証人にはなりたがらないでしょうからね。