TPPは申請すれば参加できるというものでもない
韓国メディアの報道によると、インテルのCEOは「半導体の供給を台湾や韓国に依存し過ぎるのは地政学的に見てリスクが高い」とする趣旨の主張を述べたのだそうです。この主張自体は一種のポジショントークでもありますが、それと同時にたしかに地政学的リスクについては無視できません。ただ、これをうまくマネージするためのヒントとは、結局のところ、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」にあるのではないかと思う次第です。
目次
FOIP、TPP、AUKUS
今朝の『対中包囲網に加わらない韓国:経済安保法制を急ぐべし』では、当ウェブサイトが以前から指摘して来た、「経済安保に関する日本の法の不備」に関する現状を簡単に振り返りました。端的にいえば、米中対立局面が深化するなかで、軍事面だけでなく、経済面からも、安全保障環境は待ったなしだ、という主張です。
岸田文雄首相は所信表明演説で、経済安全保障に力を入れると明言し、実際、40歳代の小林鷹之・内閣府特命担当大臣が経済安全保障担当で入閣しました。ただ、昨日の『対中半導体包囲網?鈴置論考に見る輸出「規制」の真意』でも議論したとおり、日本にとっての経済安全保障環境は、待ったなしです。こうしたなか、米中対立局面における経済安全保障を巡って、さっそく、韓国メディアから米国への「抵抗」が出てきたようです。経済制裁(狭い意味の)経済制裁の概要以前の『【総論】経済制裁「7つの類型」と「5つの発動名目」』、ある... 対中包囲網に加わらない韓国:経済安保法制を急ぐべし - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、その際に重要なことがもうひとつあるとしたら、軍事的に中国が台頭するなか、日本だけで中国に対抗することは非現実的だ、という点ではないでしょうか。
先月の『近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた』でも触れたとおり、安倍晋三、菅義偉の両総理のイニシアティブにより、日本はすでに、外交・安全保障・経済の基軸を「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」、「TPP重視型」に切り替えました。
日本時間の土曜日早朝、菅義偉総理は訪問先の米国で史上初の対面での日米豪印首脳会談に臨みました(厳密には、今年3月のテレビ会議を含めれば、首脳会談としては2回目ですが…)。少しインドのトーンが弱いというのは気になるところではありますが、ただ、今後は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)が日本外交における基軸となることは間違いありません。まさに菅政権の最後の仕上げ、というわけです。クアッドではなくFOIPが重要先日の『日本外交は「クアッド+台湾」>「中露朝韓」の時代へ』では、「最後の最後まで仕... 近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた - 新宿会計士の政治経済評論 |
FOIPとは、簡単にいえば、表向きは「自由、民主主義、法の支配、人権」といった普遍的な価値を大切にする国が、同盟国ないし同志国として、こうした価値の実現を目指していきましょう、という構想のことだとされています。
しかし、それと同時にFOIPとは事実上、この「自由、民主主義、法の支配、人権」に正面から反している国に対し、「自由、民主主義、法の支配、人権」を大切にする国同士がガッチリ手を握って対峙しようとする構想でもあります。
中国共産党が一党独裁する中国は、まさに「自由、民主主義、法の支配、人権」を正面から否定する国でもありますので、その中国がFOIPを嫌うのは、ある意味では当然のことでもありますし、中国がFOIPを無効化しようとして来ることは、当然に織り込んでおくべきです。
したがって、FOIPを推進する立場からは、やはりFOIP実現へのコミット度合いに応じて、ある程度の階層分けをすることが必要かもしれません。
中核となるのは日米豪印4ヵ国(いわゆる「クアッド」構成国)、あるいは「AUKUS」と呼ばれる英米豪3ヵ国の連合体であり、また、わが国は「AUKUS」を巡っても、将来的にはこれに「J」を入れて「JAUKUS」とすべく、国内法の整備などを行う必要がある、というのが当ウェブサイトとしての持論です。
半導体の台韓依存は「地政学リスク」=インテルCEO
さて、このクアッド、AUKUSなどは、ややもすれば軍事的な側面、外交的な側面に焦点があたりがちですが、実際には経済同盟、あるいは経済連合としての性質もあります。
とくに、半導体などの安定供給は、世界経済を支える上で欠かせません。
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されていました。
インテルCEO「韓国・台湾は地政学的に不安定…半導体チップの国内生産拡大を」
―――2021.10.19 08:05付 中央日報日本語版より
これは、インテルの最高経営責任者(CEO)を務めるパット・ゲルシンガー氏が現地時間17日、米国が台湾と韓国に半導体生産を依存するのは「地政学的な不安定を招く」としたうえで、同社の米国内における半導体生産拡大に向けた投資に補助金の支援が必要だと述べた、という話題です。
補助金云々はポジショントークだと思いますが、その点はともかくとして、「台湾海峡」リスク、「38度線」リスクというこのゲルシンガー氏の指摘には、なかなかハッとさせられます(※台韓両国への依存度を減らすうえでは「日本」という選択肢が浮上すべきではないか、というツッコミどころは、とりあえず脇に置きましょう)。
たしかに、台湾海峡と38度線は、東アジアにとっては潜在的な紛争地帯でもあります。
どちらも日本にとっては外国のことではありますが、それと同時に、台湾も韓国も、日本にとっては隣国であり、その隣国が関わる大規模な国際紛争が生じることは、日本の安全保障にとっても大きなリスク要因であることは間違いありません。
同盟の環とリスクマネジメント
ただし、ここで個人的には「発想の転換」も必要ではないかと思います。
「軍事・安全保障の専門家」と名乗る方の議論を眺めていると、「台湾海峡と38度線はともに導火線だ」という議論から、いきなり飛躍して、「だから日本は韓国を絶対に敵に回してはならない」、「万難を排し、韓国が敵対国になるリスクを避けねばならない」とする主張につながることがあるのですが、ここに違和感があるのです。
だいいち、もし「半島情勢の安定を考えるなら、日韓関係は大切だ」と主張するなら、「台湾海峡の安定を考えるなら、日台関係は大切だ」という結論も同様に導かれなければならないはずですが、日韓友好論を唱える人が日台友好論を唱えているのを見たことがありません。
この点、台湾海峡有事と朝鮮半島有事が「同時に」発生することは、日本としては悪夢のようなシナリオではありますが、片方ずつであれば、なんとかマネージできるものでもありますし、逆に日本が国家として「マネージしなければならない」ものでもあります。
ここで考えねばならないのは「同盟の環(わ)」という概念ではないかと思います。
「自由・民主主義などの普遍的価値を信奉する国家」同士がお互いにしっかりと手を握り、中国に対して隙を見せないことは、中国による軍事力を伴った現状変更というリスクを抑え込むうえで重要です。
しかし、それと同時に、同盟の環に弱い部分があればそこを集中的に突くことで、却って同盟を弱体化させることができます。
あるいは、昔から「無能な味方は有能な敵を上回る脅威」と言われます。
自由・民主主義などの普遍的価値を信奉する力が弱い国、国際的な法・条約・約束すら満足に守れない国を同盟・同志国に含めることは、同盟の結束を弱めかねない行為でもあります(このあたりの事情を、一部の「軍事評論家」を名乗る方がなぜきちんと理解していないのか、不思議でなりません)。
申請すれば加入できる、というものでもなかろうに
さて、同じく韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)には昨日、こんな記事も掲載されていました。
韓国政府 今月末にもTPP加盟可否決定へ
―――2021.10.18 09:29付 聯合ニュース日本語版より
これは、韓国政府が「早ければ今月末にもTPPに加盟するか否かを決定する」、とする話題です。
TPPにはすでに中国と台湾が加盟を申請していますが(『中国のTPP加盟申請の「狙い」』、『大事な友人・台湾のTPP参加を日本が支援すべき理由』等参照)、TPPの新規加盟には加盟国すべての賛同が必要であり、その意味で中台の参加はそれぞれにハードルがあります。
本日は、久しぶりに驚く話題がありました。中国が昨日夜、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を申請したと発表したというのです。といっても、中国が参加できるか、できないかを論じるよりも、むしろ大事なのは、「中国がこのタイミングでTPPに揺さぶりをかけてきた理由」、という論点ではないでしょうか。中国がTPP加盟申請すでに複数のメディアが報じていますが、中国商務省は16日の夜、同国が環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を申請したと発表したそうです。中国、TPP加盟を正式申請 アジア貿易主導権狙う―――202... 中国のTPP加盟申請の「狙い」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
先日の『中国のTPP加盟申請の「狙い」』に続き、TPPを巡っては興味深い話題が出てきました。台湾メディア『中央通訊』(日本語版)の昨夜の報道によれば、台湾がTPP参加を正式に申請したというのです。台湾は日本にとり、価値や利益を共有する大切な友人(※外交青書)であり、貿易面でも防衛面でも日本にとって大事なパートナーです。台湾のTPP参加のハードルは決して低くありませんが、日本政府としては台湾のTPP参加を後押しすべきではないでしょうか。中国のTPP参加というジョーク先日の『中国のTPP加盟申請の... 大事な友人・台湾のTPP参加を日本が支援すべき理由 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、今回のこの「韓国のTPP参加」については、どうも違和感を拭い去ることができません。まず、記事本文の時点で「韓国政府が~加盟するか否かを決定する」、とありますが、加盟するかどうかを決定するのは韓国政府ではなく、TPP参加国です。
また、聯合ニュースは韓国の洪楠基(こう・なんき)経済副首相兼企画財政部長官が、TPP加盟時に必要となる国内の制度改善などについては「過去2年間、官庁間で検討し、可能な限り改善を行ってきた」などと述べたのだそうですが、それを評価するのも韓国政府ではなく、TPP参加国です。
このあたり、韓国政府が「加盟を申請すれば加盟できる」と考えているフシもあるのですが、それよりも先に、ありもしない歴史問題を捏造し、外国政府や外国企業に対して違法な判決を下し、資産を差し押さえたりする行為をやめるほうが先ではないかと思う次第です。
FOIP重視こそ日本の国益
いずれにせよ、これからの東アジア情勢は、外交・安全保障に加え、半導体、TPPといった経済・産業面での結びつきも考慮すべき重要な要因でしょう。
幸いにして、安倍晋三、菅義偉の両総理は、日本が自由・民主主義国として、志を同じくする国同士の連携を取りながら生きていく、という道筋をつけてくれました。そして、そのFOIPを重視することこそ、日本が21世紀も平和と繁栄を享受し続けるうえでの重要な要素なのです。
いずれにせよ、岸田文雄首相(あるいはその後継者)には、日本という国の立場をしっかりと意識したうえで、慎重かつ適切な対応をお願いしたいと思う次第です。
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素朴な感想ですが、「次の総選挙で政権をとる」と言っている立憲民主党は、(日本経済へのリスクに直結する)朝鮮半島や台湾海峡のリスクについて、言及すべきではないでしょうか。
駄文にて失礼しました。
引きこもり中年様
ムリです。 立憲民主党が日本経済のリスクを考えれると思いでしょうか?
今そこにある日本経済の最大リスクは、立憲民主党が夜盗第一党になる事です。
立憲民主党のできる事は「ハンタイ」ただこれだけです。
台湾・南国の軍事的問題は、お得意の「九条守れ」を唱える事しかできません。
空いた時間いつでも「九条守れ」を唱えると、軍事的問題は起こらないそうです。
又、宗主国様に対し文句(日本の言い分)を言う事もできません。
立憲民主党は中国共産党の「浸透工作」下にある。
政権を取ったら中共のために動く悪夢の時代が訪れるだろう。
日本は中共の浸透工作、インフルエンス・オペレーションについてもっと声を上げるべき。
記事を読んで思ったのですが
何故半導体といえば台湾、韓国なのでしょう?
日本はアメリカによって潰されたのでないとしても、ヨーロッパ、アメリカが半導体の技術で上位に来ることもできるのでは。
装置産業は博打打ちでないと成功しないのです。
米国も欧州もその点でダメダメ。
日本は金を掘る人にシャベルを売るのを選択しました。
僭越ながら、りょうちんさんの解説を少し補足し、具体的な数値を上げさせて頂きます。
最先端半導体の研究・開発・製造にはEUV(極端紫外線)露光機が必須ですが、これがオランダASML独占の装置ですが1台300億円もするシロモノです。
そしてこれを年間、台湾TSMC:50台ほど、韓国SAMSUN:10台弱、米国インテル:数台ほど導入してまして、、、EUV露光機以外の各種装置や建屋の費用を全部あわせると、この10倍以上かかる。
「年間」と書きましたのは、こうした装置はせいぜい2-3年で陳腐化し、毎年の最新機種導入が必要だからです。
すなわち、TSMCで言いますと、300億円×50×10=15兆円程の投資を毎年行うわけですが、「最先端」ですから失敗もあり得るまさにギャンブルです。 このギャンブルに勝って市場を握り、製品が売れないとたちまち会社は苦難に陥ります。
こうしたギャンブル合戦で現在生き残っているのが、TSMC、、、越えられない壁、、、サムソン、インテル(虫の息)て状態です。
レス感謝。
そこまで高額とは知りませんでした。
これは確かに博打ですね。
台湾韓国に地政的なリスクがあるとしても、新たに代替の企業が出るまでにはまだまだ時間がかかりますね。
韓国は 行動開始を発表したと同時に
既に自分達が望む成果が存在するような頭でいるのはなぜでしょう
上の例では
TPP申請前なのに、既にTPP参入が済んだ後の事を語っています・・・
それ以外にも
首脳会談すれば問題解決するみたいに考ていますし
何らかの計画が持ち上がっただけなのに、既に成果が存在するように考えて他国と比較して見下します。
はたから見ていると朝鮮思考は面白すぎます
「ブッ殺す」と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!
を地で行ってるからです。
「始作イ半イダ」と言う諺が彼の国にあります。
物事は始めることで半分は出来たも同じなのだ、という意味です。
我が国の、百里を行く者は九十里を半ばとせよ、と言うのとは全く逆の考え方の様に思いますが、これはこれで含蓄のある言葉だと思っています。
ただ何でもかでも「始作イ半イダ」で染まると、加盟申請すると決めただけで加盟後の儲けを計算したりという滑稽なことになるのです。
ご存知と思いますがが、TPCPPへの新規加盟には、全参加国の了解が必要です。
立場上日本が主導的ですが、中台韓の新規加盟を日本だけで決める事はできません。
中韓排除で台湾を加盟させることを考える人が多いと思いますが、参加国に中国が圧力をかけて、台湾加盟反対の国が出て来ると思います。
FOIPでの対処は重要ですが、日本国民が国際環境の変化を認識する必要も強いと思います。
なんか違和感を感じたらw>TPCPP
日本語は入れ替えても、結構そのまま読めるのだそうです。
こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です。
りょうちんさま
良く気がついたニダ。
台湾海峡有事で中共と台湾どっちが勝つかな?
陸での戦いはなさそう。空と海。
中共の2艘の空母、定遠、鎮遠みたいなことになると面白いけど。
清朝は当時の新興国日本にボコボコにされて世界から侮られた。中共はメンツを大事にするから100%勝てる確信がないと台湾進攻しないのでは。
これについて面白いシミュレーションがされていて
・中国は台湾を完膚なきまでに叩く必要がある
・台湾は三峡ダムを破壊するだけでよい
現在の中国で三峡ダムが破壊されると取り返しのつかないことになる。
それをやるのは台湾にとってそう難しいことではない。
だから中国は台湾に侵攻できない、とされる。
結構、本質をついてると思う。
韓国のTPP加入の申請は、加入できれば儲けもの。加入を反対する国があり加入できなかったら、「日本が後頭部を殴った」と、反日ネタにし、来年の大統領選挙を反日ネタで与党が乗り切る算段かと想像しました。
現状で本気で加入できると考えているのなら、ある意味恐ろしい思考だと思います。
どうせ韓国は、加盟ルールについて良く考えていません。せいぜい加盟した時の損得勘定をしていれば、上出来だと思います。
韓国内でTPPに加盟する事は親日的行為で、政権にとってマイナスに作用します。
また、しばらく前までは、日本に対する外交カードと考えていました(今は知らん)。
この時期に加盟を申請する理由としては、
1.中国にお前も加盟申請しろと言われたから。
これは、中韓でTPPを乗っ取るもしくは、機能不全にする為です。
2.韓国が日本との経済的繋がりを持つ、日中韓FTAが議論されていましたが、まとまる可能性はほぼ無くなりました。
現実的に韓国が加盟出来るとすれば、中台が加盟申請しているドサクサに紛れられる、今しか無いから。
加盟申請から協議、加盟までは、時間が掛かると思いますので、来年の韓国大統領選挙には影響しないと思います。
何度も言うが、韓国は太平洋に全く面してないからFOIPもCPTPPも関係無いんだってば!
>台湾海峡有事と朝鮮半島有事が「同時に」発生することは、日本としては悪夢のようなシナリオではありますが、片方ずつであれば、なんとかマネージできるものでもあります
中国から見ると朝鮮半島有事はuncontrollableですが、台湾海峡有事はcontrollable(というか主犯)なので、タイミングを合わせようと思えば簡単に合わせられますよね。
ちょっと待って下さい…
米国で ”Jackass” は「知能が足りなく、自己顕示欲が強いい嫌われ者」と言う意味で使われますし、 ”JAUKUS ≒ Jokers" は「戯れ者達」なので、語韻が良くないのでは?