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中国「不動産危機」の本質は「シャドバン連結外し」か

キャッシュ潤沢な会社が次々と債務不履行に陥る謎

連日、中国における不動産危機が報じられます。これについて先日の『中国恒大企業集団の「シャドバン簿外債務」17兆円説』では、円換算で33兆円相当の負債を抱え、経営危機に陥っている恒大(こうだい)企業集団に、さらに17兆円相当の簿外債務が存在する可能性が報じられていますが、資金繰り的に問題がなさそうな会社が続々と債務不履行に陥っている事実を見るに、どうも中国の不動産業界全体に、理在商品を使った隠れ資金調達という可能性が内在している可能性を疑うのです。

中国不動産危機

「恒大」以外にも続々と!

中国恒大企業集団の「シャドバン簿外債務」17兆円説』を含め、当ウェブサイトで数日前からしばしば言及しているのが、中国の不動産業界における一連の経営不安問題です。

ことに、日本円換算で約33兆円相当の負債を抱えて経営危機に陥っている恒大(こうだい)企業集団に、シャドーバンキングがらみの隠れ債務がさらに17兆円存在するかもしれない、といったゴールドマン・サックスのレポートも、市場では不安を誘っているようです。

こうしたなか、昨日は恒大と比べると規模は小さいながらも、やはり同じ中国の不動産デベロッパーにおいて、社債の償還不能が生じた模様です。

中国不動産会社、社債償還できず 恒大は取引停止続く

―――2021年10月05日17時56分付 時事通信より

時事通信によると、今回、社債の償還に失敗したのは中国の不動産開発会社「花様年(かようねん)控股集団(こうこしゅうだん)」だそうです(ちなみに同社ウェブサイトによると、英語名では「ファンタジア・ホールディングス・グループ」 “Fantasia Holdings Group Co., Ltd” なのだとか)。

なぜこれで資金ショートが発生したのか?

同社の2021年6月30日時点の中間連結貸借対照表(未監査ベース)によると、同社の財政状態は次のとおりです(図表)。

図表 花様年控股集団の2021年6月30日時点・連結貸借対照表抜粋
項目 金額と総資産に占める割合 参考:円換算額
総資産 1096億元(100.00%) 1兆8636億円
固定資産合計 296億元(27.03%) 5037億円
流動資産合計 800億元(72.97%) 1兆3599億円
うち販売用不動産 386億元(35.21%) 6562億円
うち現金預金 272億元(24.79%) 4620億円
流動負債 496億元(45.28%) 8438億円
固定負債 334億元(30.44%) 5674億円
純資産 266億元(24.28%) 4524億円

(【出所】花様年控股集団・中間報告書【※PDF、英語版】P44~45より著者作成)

正直、このバランスシートで、なぜ社債の利払ができなかったのかが謎です。

たしかに販売用不動産がバランスシート全体の35%を占めていますが、現金・預金の額が272億円に達していますし、また、自己資本比率も25%弱とやや低いものの、恒大企業集団のケースと比べればまだ健全な水準です。

ちなみに、Bloombergやロイターに一昨日掲載された次の記事などによれば、今回、元利払いに失敗した債券はドル建てで2億600万ドルだそうであり、仮に1ドル=110円だとしても、日本円に換算してたかだか220億円程度の金額です。

中国の不動産会社、花様年のドル建て債急落-フィッチも格下げ

―――2021年10月4日 20:11 JST付 Bloombergより

フィッチ、中国不動産開発の花様年を4ノッチ格下げ

―――2021年10月5日1:54付 ロイターより

また、この程度の金額であれば、現在の人民元市場では自由に両替が可能であるはずですので、「人民元と米ドルの外為市場が機能不全を起こしたために債務不履行状態に陥った」という可能性は、とりあえずは排除して良さそうです。

となると、このバランスシートで資金ショートが発生したというのは、どうにも謎なのです。

利益を計上していたのに突然資金繰りがつかなくなる…?

しかも、花様年控股集団自体の連結財務諸表を眺めていると、本当に直前の2021年6月30日の中間期において、11億元ほどの税引前利益を計上していましたので、かなり唐突感があります(格付業者の依頼格付の杜撰さは、いまに始まったことではありませんが…)。

また、時事通信の記事によれば、花様年のほかにも「新力(しんりき)控股(こうこ)集団」という企業も「債務の返済が滞る」という状態に陥ったのだとか。

この「新力」の連結財務諸表(2020年12月末、同社アニュアルレポート【※PDFファイル、英語】P108~)を眺めてみると、先ほどの花様年とだいたい同じくらいの規模で、流動資産の「開発中物件」が436億元ほどですが、キャッシュも175億元あるため、やはり債務不履行というのは不自然です。

すなわち、最も規模が大きい恒大グループ(公式には総資産33兆円規模、一説によると簿外債務17兆円を含め50兆円規模)の経営危機に端を発する今回の中国危機は、不動産業界全体に広がっている形跡があります。

そして、どうも報じられる会社の財務諸表からは、「なぜこの財務諸表で経営危機になるのか」がよくわからない、というケースが大変に多いのです。

連結外し

シャドバン簿外債務問題

現時点であまり予断をすべきではないのは当然ですが、それでもキャッシュポジションにまったく問題がなさそうな会社の債務危機が連続しているという時点で、やはり、中国の不動産業界全体で、何らかの簿外債務(隠れ債務)を抱え込む商慣習が存在している可能性を疑った方がよさそうです。

ここで、シャドー・バンキングとは、一般に「陰の銀行」、すなわち「銀行業を経由していないにも関わらず、実質的に社会全体で与信が膨らんでいる状態」をさします。

このあたり、簿外債務自体は粉飾決算の基本テクニックとして常に存在しますが、日本を含めた先進国では、銀行関連統計がきちんと整備されていて、社会全体で数十兆円、数百兆円という「隠れ債務」が存在するということはあり得ません。

しかし、中国の場合は、この「隠れ債務」が社会全体でかなり存在しているのではないか、という気がするのです。

シャドバン+連結外し

いちおう、会計理論上考えられるテクニックとしては、何らかの特別目的の事業体(SPV)を設立して連結対象外にしつつ、設立母体がSPVの債権者に対し、実質的な保証を与える、というものがありえます(※日本だとこの時点で「連結外し」の粉飾決算に相当する可能性が高いでしょう)。

たとえば、「X不動産」がペーパー・カンパニー「Y社」を設立し、X不動産と無関係な人(たとえば慈善事業信託、俗にいう「チャリタブルトラスト」)に形式上の株主になってもらい、その「Y社」が「当社はX不動産の別動隊です」と称して投資家から資金を集めます(いわゆる「理財商品」)。

投資家としては、この「理財商品」はペーパー・カンパニーであるY社ではなく、その設立母体であるX不動産だと思って投資するのですが、もしもY社における不動産開発が失敗した場合には、X不動産が投資家におカネを償還してくれる、という期待を抱くのです。

数字例で見る「シャドバン連結外し」

ここで、X不動産の規模が、資産2兆元、負債1兆元、自己資本1兆元だったとしましょう。

X不動産の単体貸借対照表
  • 資産…2兆元
  • 負債…1兆元
  • 資本…1兆元

このとき、X不動産が実質的な子会社・Y社を設立し(資本金は無視します)、Y社がX不動産の名前を使って投資家から7兆元を負債(理財商品)として集め、その7兆元でさらに不動産開発に投資したとしたら、Y社のバランスシートは次のとおりです。

Y社の単体貸借対照表
  • 資産…7兆元
  • 負債…7兆元

このような場合、日本の会計基準やUS-GAAP、IFRSなどだと、基本的にはX不動産はY社を連結の範囲に含めなければなりません。

X+Yの連結貸借対照表
  • 資産…9兆元
  • 負債…8兆元
  • 資本…1兆元

つまり、X不動産がY社を含めた連結貸借対照表を作成していれば、かかる簿外債務は発生しないのです。この場合、「X+Y」の連結貸借対照表上は、自己資本が1兆円、総資産が9兆円という、大変に自己資本比率が低い不健全な会社が出現します。

しかし、仮にX社がY社のような存在を隠していたとしたら、どうなるか。

結果的に、X不動産の単体貸借対照表がそのまま連結貸借対照表となります。

X不動産の連結貸借対照表
  • 資産…2兆元
  • 負債…1兆元
  • 資本…1兆元

私たち外部者は、このX社を見て、「資産規模は2兆円と大きいが、自己資本もその半額の1兆円あるから健全な会社だ」と勘違いしてしまう、というわけです。

もちろん、このX不動産の、資産を何倍にも膨らませているというのは、説明上の「極端な事例」です。

ただ、この手の「シャドバン連結外し」などに基づく隠れ債務が存在していたとしたら、唐突な資金ショートも、なんとなく説明がつくのです。

中国に証券市場運営資格なし?

いずれにせよ、本件については、少なくとも中国の証券監視当局が責任をもって不動産会社の決算を調査し、諸外国に対し、適切な説明を行うべきでしょう。

日本の金融庁にも、日本の投資家の利益を守る立場として、中国当局に対する適切な調査を要求していただきたいと思います。

そして、中国当局がそれを怠るのであれば、IOSCOあたりが中国企業の各国証券市場からの排除を勧告するのが筋ではないでしょうか。

さぁ、FSB(金融安定理事会)さん、IOSCOさん、お仕事ですよ!

新宿会計士:

View Comments (17)

  • 中国のシャドー・バンクの件です。業務は与信と海外送金の2つが胃大きいです。後者に関する説明がなかったので,補足したいと思います。
    中国は海外送金にそれなりの規制があります。例えば,中国人が海外の不動産を買ったり,海外の銀行や証券会社に試験を移す場合に,シャドー・バンクがよく利用されます。それが使えない個人は,以前はビットコインなどを利用していました。日本はシャドー・バンクが(ほとんど?)ない国で,そのため,中国人が日本の不動産を購入するには,かなり苦労します。
    中国政府としては,この不正な送金手段を潰そうとしていますが,共産党幹部も利用しているようなので,難しいところです。
    参考尾までに,日本も海外送金は厳しく財務省に監視されています。海外に銀行口座を開設するのは簡単ですが,そこに(沢山)お金を移すと全部財務省に把握されます。

  • この件が中国の CPTPP 加盟の申請にどういう影響をもたらすかには個人的な興味があります。

    中国の金融市場や会社会計規約の透明性、そして関係法規の厳格な施行等が問題になりそうですね。

  • 中国共産党について思うこと。

    コロナのような未知の危険は、発生の適切な初期段階の対応、自然発生の原因を研究する事が大事なのではないでしょうか?

    なぜ中国は、自然発生のコロナを最初隠したのでしょう?
    適切に情報公開、対応をしていれば、世界は違う展開になっていたかもしれません。

    会計士さまのご指摘も、同じ流れのような気がします。

  • こんにちは。

    "この場合、「X+Y」の連結貸借対照表上は、自己資本が1兆円、総資産が9兆円という、大変に自己資本比率が低い不健全な会社が出現します。"

    毎○新聞社の悪口を言うのは止めてください!!

  • >正直、このバランスシートで、なぜ社債の利払ができなかったのかが謎です。

    私の推測では、銀行が預金を押さえている。「社債利子より先にうちの借入金払え」ということかも。

  • 中国のシャドーバンクとは、もしそういうものがあり得るとすれば、それは地方政府のことではないのでしょうか?

    あくまでも個人的な直感でしかありませんが、そうであれば大いにあり得る筋立ての話だとは思えます。

  • 日本にもサラ金とか消費者金融とかあるけどね

  • 何らかの事情で開発が滞ると、手持ち資産を「建設仮(未完成)」として計上せざるを得なくなるんですよね。
    塩漬資金を抱えた企業は新規開発計画の立ち上げによる先行販売で、当面の決済資金を工面しないといけないのに、不動産市況の過熱抑制の名目で先行販売が次々と規制されてしまうと、・・厳しいなぁ。。

    *倒産した企業は、国有化されるのかな?

  • 会計基準に課題があるなら、会計基準にかかるガバナンスも問題ですね。
    日本にはIFRS財団のアジア・オセアニアオフィスがあったはずだけど、機能してるかな?
    日本語で検索したら、PDFと、自画自賛動画は見つかったけど、日本語サイトはなかったのですが。

  • シャドーバンキングの主たる手法が暗黙の保証を投資家に信じ込ませることだとすれば、Chinaは国家≒China共産党がまさにシャドーバンキング≒理財商品のラスボス的な存在であり、このような国家≒共産党(政府より党が上という特殊な国体)は我々の属する公正な法治による自由主義市場経済とは相容れない、言葉は悪いがイカサマ師国家であるわけで、更に言えばイカサマ師が暴力(武力)で威嚇するとなれば、反社そのもの。反社とは距離を置くのが正解。

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