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    Categories: 金融

中国「総資産39兆円」企業の経営不安と日本への影響

少し前から、総資産39兆円規模の中国の「恒大集団」(エバーグランデグループ)に経営危機が報じられています。「39兆円」と聞けば驚きますが、日本よりも3倍のGDP規模を誇るとされる中国のことを考えれば、「この程度」(?)の企業の経営破綻で揺らぐというのも興味深いところです。なお、「国際与信統計」上、日本の金融機関の中国に対する与信は合計して1000億ドル前後に過ぎません。本件から日本の金融機関が受ける直接的影響は限定的と考えて良いでしょう。

「恒大集団」の経営危機

少し前から、中国の「恒大集団」(エバーグランデグループ)の経営不安から、リスク資産が売られている状況です。

ただ、報道されているものを読んでも、いまひとつイメージがつきません。

そこで、同グループの英語版の財務諸表がないかと探してみたところ、残念ながら現時点で英文開示を見つけることはできなかったのですが、中国語版のアニュアル・レポートらしきもの(※PDF版)は発見できました。

そして、同レポートのP79~81には、連結貸借対照表らしきものが掲載されていました

その内容を読み取ると、ざっくり、次のようなものだそうです(図表1)。

図表1 連結貸借対照表(金額単位:百万人民元)
項目 2020年12月期 2019年12月期
固定資産 396,225 359,763
流動資産 1,904,934 1,846,814
資産合計 2,301,159 2,206,577
資本 350,431 358,537
固定負債 443,475 498,005
流動負債 1,507,253 1,350,035
負債純資産合計 2,301,159 2,206,577

(【出所】恒大集団・『投資家向けレポート・年次報告書』ページの『2020年アニュアルレポート』【※PDF】P79~80を著者要約。金額は「百万人民元」単位なので要注意)

レバレッジ6.6倍:バランスシートは「上位地銀3~4行分」

なかなか、大変な財務諸表です。

総資産が2.3兆人民元、1元≒17円と仮定すれば、日本円にして約39兆円(!)というバランスシートです。あるいは、日本でいえば総資産13兆円程度の地銀上位行3~4行分だといえば良いでしょうか。

一方、資本は3504億元(同約6兆円)で、自己資本比率(=資本÷資産合計)は15.23%。

自己資本の約6.6倍にまでバランスシートを拡大しているのです。

しかも、バランスシート項目の約82%が流動資産であり、その主要項目を見に行くと、うち1.26兆元(約21.3兆円)が「開発中不動産」で占められている、という状況です(図表2)。

図表2 連結貸借対照表上の流動資産の主要項目(金額単位:百万人民元)
項目 2020年12月期 2019年12月期
開発中不動産 1,257,908 1,198,388
販売用不動産 148,473 129,073
売掛金及びその他の債権 141,706 143,706
前払金 151,026 130,461
現金及び現金同等物 158,752 150,056

(【出所】恒大集団・『投資家向けレポート・年次報告書』ページの『2020年アニュアルレポート』【※PDF】P79~80を著者要約。金額は「百万人民元」単位なので要注意。また、連結財務諸表項目の日本語表示は著者による訳であり、公式のものではない)

有利子負債よりも多い買掛金

一方、負債の部を見に行くと、流動負債(一般に1年以内に弁済期が到来する債務)の額は約1.5兆元(同約25.5兆円)、固定負債は約4435億元(同約7.5兆円)です。

その主要項目を見ると、最も金額が多いのは買掛金などの営業債務で約8292億元(同約14兆円)、それに長期借入金(約3811億元、約6.5兆円)、短期借入金(約3355億元、約5.7兆円)が続きます(図表3)。

図表3 連結貸借対照表上の負債の主要項目(金額単位:百万人民元)
項目 2020年12月期 2019年12月期
買掛金及びその他の債務 829,174 717,618
短期借入金 335,477 372,169
長期借入金 381,055 427,726

(【出所】恒大集団・『投資家向けレポート・年次報告書』ページの『2020年アニュアルレポート』【※PDF】P79~80を著者要約。金額は「百万人民元」単位なので要注意。また、連結財務諸表項目の日本語表示は著者による訳であり、公式のものではない)

ただ、たしかに巨額ではありますが、「日本の3倍」と称する中国の経済規模に照らすならば、この規模の会社が日本でいう会社更生法や民事再生法の適用を申請して倒産したとしても、正直、パニックが生じるほどのことではありません。

しかし、やはりそこは中国のこと。

倒産する「理由」と債務の内容、そして経済全体の不透明さから、おそらくはパニック的に市場が混乱しているという要因が強いのではないでしょうか。

WSJ「習近平指導部の方針?」

これについて、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、同社の経営不安は習近平(しゅう・きんぺい)政権ら中国指導部による不動産市場の引締めに伴って生じたものであるとの観測もある、と伝えています。

Stock Market Pares Losses, but Dow, S&P 500 Fall Nearly 2%

―――2021/09/20 19:09ET付 WSJより

すなわち、金融市場は恒大集団が経営破綻に至るような事態が生じた場合、中国本土でほかにも次々と経営破綻・経営不安が波及することを恐れている、というわけです。日本語でいえば、「中国版リーマン・ショック」、ということでしょうか。

もちろん、『「カネから見た国際関係」と世界最大の債権国ニッポン』でも確認しましたが、中国のGDPの大きさと比べ、本邦金融機関にとって国際与信全体に占める中国の重要性は極めて小さいため、同社の経営破綻が日本経済に直ちに大きな衝撃を与えることはないと考えて良いでしょう。

しかし、本当に怖いのは、中国の不動産市況については全容がなかなか見えないこと、そして中国特有の「政策リスク」なのかもしれません。

いずれにせよ、中国は諸外国の同国に対する投資リスクをできるだけ大きく、また、経済依存度を最大にしようとしているフシがありますが、逆に言えば、不要不急の投資をして良いものかどうかについては疑問でもある、ということです。

新宿会計士:

View Comments (29)

  • 恒大をみてソフトバンクGを思い浮かべるのは私だけでしょうか。
    ソフトバンクGの有利子負債も20兆円ほどあります。

    • sqsq様

      しかもソフトバンクGのビジネスモデルって、有望な新興企業に出資して株式上場して利鞘稼ぐってものなのに、近年中韓の政策に振り回されて迷走していますしね。

      中国だとアリババ等に出資してアメリカ市場で上場して儲ける寸前だったのに、中共の方針転換でマー氏が絞り上げられて上場中止の上に売上低迷。

      韓国では創業以来赤字決算だったクーパンをアメリカで上場まで持っていったものの株価上がらずで既にクーパン株の半分を売却して損切り中…

      ARMを高値で中韓辺りに売り払おうとして英米の逆鱗に触れて思う様にいかず。

      困った挙げ句に日本の中規模銀行にTOBかけて乗っとる算段かな?
      なかなかヤバい雰囲気を醸し出しているソフトバンクGです。

      なんか嫌な事考えていそうです…

  • いやいや、何が出てくるかわからないのでどこまでどうなるか全く読めない。

    • 共同富裕なるキーワードが出て来て、一線を越えたと判断しています。
      竹槍で追い立てられ、最後に高所から突き落とされる悪夢を連想しない大陸進出企業経営者が日本にいるならば、よほど鈍感なのでしょう。

    • 正確には「(党指導部以外は)みんなで不幸せになろうよ」ですね,最近の習近平らが目指し始めたのは.

  • 資本主義で長く暮らしている日本や欧米はこういうのに慣れてるけど中国はどうかな?
    対応を誤ると営々と築いてきた富が吹き飛ぶとおもう。

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (というより、自分でも独断や偏見と思いたいので)
     恒大集団の問題ではなく、中国の不動産業界の問題と考えれば、時間をおいて思わぬ日本企業に悪影響が出ることもあり得るのではないでしょうか。もっとも、それが本当に恒大集団が主な要因なのか、それとも、それを言い訳にしているのかは分かりませんが。(自分の会社の経営だけが傾けば、経営者の経営手腕が問われますが、多くの会社の経営に悪影響が及べば、「自分のところだけではない」と言い訳できまし、政府に緊急事態として支援を要求できます)
     駄文にて失礼しました。

    •  すみません。追加です。
       (実現するかは分かりませんが)「これは中国だけの問題でなく、世界経済の問題だ」と言って、中国政府からの外国企業への(事実上の)寄付の強制も、あったりして。だとしたら、韓国の文大統領も、「韓国不動産問題は、世界の問題だ」と言い出すかもしれません。

  • 全然関係ない話しですが、、、新宿会計士様。ハンバーガー評論家もされているそうですが、どこのハンバーガーが一番美味しいですか?教えてください。

  • 恒大の話は最近頻繁に書いていますが,破綻した場合,一企業の損失に留まらす,負債が連鎖することが一番怖いのです。それが,中国国内にとどまらず,全世界にリンクする可能性があります。日本も例外ではありません。つまり,39兆円がそれだけの損失で終わらず,何倍,何十倍にも拡大されてしまうリスクがそれなりにある,ということです。それが投資の世界。

  • 「恒大集団」の経営危機は、私でさえ少し前から知ってました。なにしろケタ違いの数字なんで、日本への影響を気にしてました。「大した影響はない」との事なのでプチ安心。

  • 不動産市場の引き締め・流動性の制限による経営圧迫は、大きくなりすぎた民間企業の「国有化スキーム〔破綻させて接収〕」では無いのでしょうか?

  • 日経平均前日終値比 -660.34(-2.17%)、ニューヨーク市場も同様の比率で下げており、明らかに「恒大集団」の経営危機に基づくものでしょう。

    韓国同様に中国全土でも不動産が投機対象となって久しく、先に習主席が「不動産は投機対象ではない」と明言したこともあり、中国政府が公的支援をすると明言しないかぎり、このまま下げ傾向が続くようにも思います。

    実態がよく解りませんが、日本が経験したバブル崩壊以上の経済危機が起こる可能性もあるのではないでしょうか。
    もっとも共産国なので、強引に価格統制等市場への強制介入を行ってダメージを最小限に抑えるかもしれませんが。

    なお共産国ではない韓国の場合は同様の強制措置は取れないでしょう。

    • PONPON 様
      >なお共産国ではない韓国の場合は同様の強制措置は取れないでしょう
       法治国家でなければ、国際社会の目より国民の情緒優先の国なら、あり得るのではないでしょうか。

      • 引きこもり中年様

        おっしゃるように、韓国は近代民主主義国家というより、「国民情緒法」の国です。

        しかしながら、特定の企業に対して政府が支援を行うということは、他の企業にとって不公正ということになり、それら企業やその株主からの猛批判、また訴訟がなされるリスクがあります。
        韓国の場合は共産独裁主義では無いので、中国のようにそういった批判を封印するような強制措置を取ることはできません。

        むしろ韓国はポピュリズム&大衆迎合主義の「国民情緒法国家」であるがゆえに、政府による差別だと感情的になった国民が真っ赤な顔で政府批判を行い、マスメディアがそれを煽り立て、政府は右往左往することになるでしょう。

        また政府に対する訴訟が連発されるのは確実なので、韓国政府は特定の企業への公的支援は躊躇するものと思われます、この点日本も同じようなものかと思いますが。。

        • PONPON様

          南国で企業を救済するかどうかは、大統領様のご意思によります。
          只今、南国で次期大統領選挙の前哨戦が行われており、これが決定し
          次期大統領のお仲間の企業なら助けると思います。
          法律・公正・公平? 何それ。 大統領の一言又は思惑次第です。

          • ちょろんぼ様

            確かに韓国の風土からすると、ひそかにお仲間の企業を助けるのでしょうね。
            ですが、今回のように国民に知れ渡っている事例で公的資金を投入する等、えこ贔屓するのでしょうかね?
            もっともマスメディアの殆どは共に民主党応援団なので、批判はしないのでしょうが。。

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