以前の『10年前にスマホがまだ普及していなかったという事実』では、スマートフォンが社会的に爆発的に普及したことに関する話題をいくつか紹介したのですが(たとえばタクシーでSUICAに乗れるか、など)、それに「続報」がありました。「歩きスマホ」が歩行者の通行の導線をいかに乱すかに関する研究が、「賞」を受賞したのです。日本人が受賞するのは15年連続です。
歩きスマホの導線研究
以前の『10年前にスマホがまだ普及していなかったという事実』では、爆発的に普及しつつあるスマートフォンを巡って、いくつかの話題をつれづれなるままに紹介したことがあります。
このなかでも個人的に気にいっているネタは、「タクシーでSUICAに乗ることはできるか」という論点です(※結論的には現時点において「タクシーでSUICAに乗る」ことはできませんし、おそらく将来的にもそのような時代は来ないでしょう)。
ただ、その一方で、もうひとつ興味深い話題がありました。
それが、これです。
「歩きスマホ」は、こうして歩行中の集団を混乱させる:日本の研究チームが明らかにしたメカニズム
―――2021.03.21 12:30付 WIREDより
WIREDというウェブサイトに3月21日付で掲載された記事によれば、京都工芸繊維大学と長岡技術科学大学、東京大学の研究者らが実施した実験によれば、「スマートフォンに熱中している歩行者がほんの2~3人含まれていただけで、周囲に大きな影響が生じる」ことが明らかになったというのです。
よくこれを解明しましたね!
具体的には、どんな実験をしたのでしょうか。
記事によると同実験では、被験者を54人集め、これを27人ずつのグループに分け、片方は黄色い帽子、片方は赤い帽子を被らせたうえで互いに向かって歩かせ、上空に設置したカメラで全員の経路と速度を記録したのだそうです。
最初は、誰も「気が散っていない」状態で実験を行ったところ、それぞれのグループが2~3の列(レーン)を形成(記事でいう「レーン形成現象」)。それぞれのレーンの先頭にいる人が向かってくる相手の動きを見て衝突を回避していたことが判明しました。
実験では、各レーンの先頭にいて衝突を回避する人のことを「リーダー」と名付けており、このリーダー同士がお互い衝突を回避するために取る行動・やりとりのことを、「相互予期」と称しているのだとか。
そして、この集団に「歩きスマホ」をする人をほんの3人混ぜただけで、相互予期が機能しなくなる(つまり導線が混乱する)ことが判明した、というのが、もうひとつの実験の概要です。
具体的には、赤い帽子を被った方の集団27人のなかに、今度は「歩きスマホで気が散っている3人」を混ぜて歩行させる実験を行ったところ、向かってきた黄色い帽子の集団とぶつかりそうになっただけでなく、この3人が含まれている側の「赤い帽子の集団」も、歩きスマホをしている人の後ろの動きが乱れたのだとか。
具体的には、せっかく黄色い帽子の「リーダー」が歩きスマホをしている赤い帽子の人の行動を観察していても、歩きスマホをしている赤い帽子の人の側はその黄色い帽子の「リーダー」の行動を観察していないため、「相互予期」が機能しなくなるのです。
このため、黄色い帽子の人が歩きスマホをしている人と正面からぶつかりそうになったり(あるいはぶつかったり)するだけでなく、後ろを歩いている人にも玉突きのように影響を与えるのです。
運転中のスマホは違法ですよ!
詳しくはリンク先の記事を読んでいただきたいのですが、多くの方は、この記事に書かれている内容と同じようなことを経験されたことがあるのではないでしょうか。
街を歩いていると、反対側から来た人がスマホに夢中で、ぶつかりそうになった(あるいはぶつかった)というケースもあるでしょうし、逆に、自分自身がスマホに夢中で、相手とぶつかりそうになった(あるいはぶつかった)という事例もあるかもしれません。
さらには、自分の前を歩いている人が「歩きスマホ」者が対向者とぶつかりそうになって突然立ち止まり、自分がその「歩きスマホ」者にぶつかりそうになった(あるいはぶつかった)という経験をした方もいらっしゃるでしょう。
いずれにせよ、駅や店内などの狭い場所での歩きスマホは大変に危険です。
こうした「歩きスマホ」問題は、おそらく、この10年でスマートフォンが爆発的に普及したことで生じた「新たな社会問題」のひとつでしょうし、私たちが加害者にも被害者にもなり得る問題点です。
ちなみに、スマホを見つめながら自転車に乗っている人や、酷い場合は自動車を運転しながらスマホを見つめている人もいるようですが、現在の道路交通法では、自動車等の運転中にスマートフォン等を使用したり、凝視したりすることは禁止されています(同第71条第1項第5号の5)ので気を付けてください。
日本人が15年連続で受賞!(ただし「イグ・ノーベル賞」)
さて、こうしたなか、本日の「うれしい(?)」速報があります。
村上久・京都工芸繊維大助教(34)ら日本の研究チーム4人が、「動力学賞」に選ばれました。
「歩きスマホ」は通行の流れをどう乱すのか…日本チームがイグ・ノーベル賞受賞
―――2021/09/10 12:32付 読売新聞オンラインより
「あれ?まだ9月だよ?ちょっとノーベル賞(または『ノーベル症』)には早くないですか?」
そう思った方も多いとは思いますが、「ノーベル賞」は「ノーベル賞」でも「イグ・ノーベル賞」であり、ノーベル賞とは名前は似ていますがまったく別物ですが、研究自体は大変有益なものです(ちなみに今年の授賞式はオンラインで実施されたそうです)。
なかなか興味深い話ですね。
なにより、日本人がイグ・ノーベル賞を受賞するのは15年連続なのだとか。
いずれにせよ、受賞されたグループの皆さまには心から祝意を表したいと思う次第です。
View Comments (22)
日本のイグノーベル賞は完全に定番となった感じがします。欧米の明らかなおちゃらけ100%の研究とは一線を画した、実直真面目8割以上ででもニコっとさせる研究が日本のイグノーベル賞受賞研究です。
日本の受賞研究があるからこそイグノーベル賞の輝きが増しているとすら思えます。
よく、「イグノーベル賞なら取れる」「イグノーベル賞すら取れない」的な言説がありますが、もはやそういう話じゃないように感じます。例えば韓国人はノーベル賞取れてないですが、彼らのスタンスだとイグノーベル賞の方がさらに遠いように思うのです。教授とは偉い存在で、権威を振りかざすもので、そんな、周囲を笑わせるような研究なんて思いもつかないでしょう。
まあ、近い将来イグノーベル賞の彼らにとっては想定外の尊敬される姿を確認して、欧米流おちゃらけ100%をバクってイグノーベル賞取りに行く展開もあり得ます(ただ、ギャグセンス不足で受賞には届かないかも)
G様
イグノーベル賞はたとえるなら裾野の広がりなのですね。
投稿文章を読んでなんとなくそう思えました。
G様
韓国も、1回目と2回目で異なるワクチン使うとか、接種間隔をあけるとか・・・・・それなりに有益な知見が得られそうな実験を、他にはない規模でやってるんだから、取れないことはないと思うのです♪
結果を論文にまとめる人がいないのかな??
実は、韓国人のイグノーベル賞受賞者はいます。
1999年 環境保護賞 権赫豪(クォン・ヒョクホ)
コーロングループの社員。自ら香りを出すビジネススーツを発明。
2000年 経済学賞 文鮮明(ムン・ソンミン)
統一教会の教祖。信者たち36000組に合同結婚式をさせた。
2011年 数学賞 李長林(イ・チャンリム)
タミ宣教会の牧師。1992年10月28日に世界の終末が来ると主張して1〜2万人の韓国人信者をパニックに陥れ、33億ウォンを騙し取った。同様の事をした他国の5人との同時受賞。
2017年 流体力学賞 ハン・ジウォン
バージニア大学の大学生。コーヒーカップを持ち歩く際にコーヒーがこぼれる現象を流体力学に基づいて分析した。
この中でまともな研究で受賞したのは最後の例だけですね。
文在寅と李在明なら平和賞か医療賞でW受賞できるんじゃないんでしょうか?文鮮明と李長林という文・林ペアもいる事ですし。
G 様
イグノーベル省は「くだらない」「馬鹿馬鹿しい」と思われることを真面目にコツコツと証明すること、少なくとも日本の受賞範囲はそういう傾向が有ります。
単に面白い事に気づくだけではダメで、それを労力をかけて実体化することが大事だと思われるのです。
そういう意味ではパリパリの半島人にはとても無理です。と思います。
更新ありがとうございます。
「授賞式では必ず笑いを取らないといけない」難しいなぁ〜。しかし出席しない人もいる(ほう〜)。
ナヌ?たまごっち、犬の会話を理解するバウリンガル、たまねぎ、夫のパンツで浮気分かる、、最初の二つは家にありました。育てるのがムズイ。相手しない、エサやらないと、スグ死ぬ(笑)。あと「ファービー人形」とか(関係ないですね)。
発案者が英国人、授賞者は日英が多いような。こんな事(失礼)に真剣に取り組むのは、やはり島国人だからでしょうか?でも発想がオモロイ。人間として凄くゆとり、幅が広いと思いますd( ̄  ̄)。
授賞式への旅費は、受賞者の自腹だそうで・・・。
まあ、そういうことです。
WindKnight.jp様
エッ( ; ; )!自腹、、、
誰かスポンサーを見つけないと、授賞式に行けませんね。
めがねのおやじ 様
>やはり島国人だからでしょうか?
確かに自虐趣味や、一人受けのジョークや、翌朝になってから判る洒落など、共通のセンスがあるのかも知れませんねww
つまり住宅を脅かすアリやハチの集団を乱すには、スマホを与えれば良いというわけか。高度に組織化されているミツバチも、衝突事故は起こすようです。これを促進させれば内部崩壊を誘発して駆除ができそうです。
参考:凄惨な事故動画につき閲覧注意
https://www.youtube.com/watch?v=s3QWQN_xM3M
(まぁ普通ミツバチは駆除しませんが…)
さてイグ・ノーベル賞がとれてしまうのは、それほどまでに多様な研究が自由に行われているということでしょう。"お上"や"会議"がギャンギャンと「これは不要だ」などと仕分けてしまっては、様々な芽が摘まれてしまう。
アフリカやアジアで蚊に刺されることが多かった身としては、2006年の「マラリア媒介蚊であるガンビアハマダラカのメスは、世界有数の臭さで知られるリンバーガーチーズと、人間の足の匂いの両方に、等しく惹きつけられる事を証明したこと」に興味を持ちました。
以後、タンザニアの研究機関で、汚れた靴下と、実際に寝そべった人とで、蚊の誘引効果を比較する実験がなされています。面白いこと考えるなあと思います。
「蚊は汚れた靴下のにおいが好き?マラリア対策で新戦法、タンザニア」
https://www.afpbb.com/articles/-/2813043
https://malariajournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/1475-2875-9-6
足のにおいと蚊の関係でこういうのもありましたね。
なぜ妹ばかりが蚊に刺される?
https://grapee.jp/223007
まりも 様
このお話は知りませんでした。小学生の頃から研究を続けるとは、すごい人だなと思いました。どんな持ち物を使って比較したのか、気になります。ありがとうございました。
浅草・仲見世通りのような場所で、50人くらいの観光客2グループを歩かせて比較するのはいかがでしょうか。 ひとつは日本人のみのグループ、もう一つは中国人団体5人を混ぜたグループ。
記念撮影、お土産購入を認めた上で、どちらに動きの乱れが現れるのか、原因はなにかとか。
歩きスマホに熱中するあまり、自分が何処に居るのかも気づかないまま亡くなる人もいる時代です。気づいてほしかったです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210908/k10013247061000.html
歩きスマホを自重というかできなくする機能を実装することを検討したほうが良さそうです。
新たな課題を発見し、仮説を立て、どのように証明するかというプロセスは、ノーベル賞でもイグノーベル賞でも何ら変わりはないと思います。これは、受験勉強のような、答えのある問題を早く正確に解く能力とはまた別物です。
それが何の役に立つかわからなくても、自由な探求心は大事にしてほしいです。成果(結果)にしか興味のない人たちは、いくら金をかけてもプロセス無視で安易な方向に走りがちあり、深みがありません。
全く持って同感です。
他人にとってはくだらない探求心の発露でも、その積み重ねで見えたものが文化の一端となっていくこともままあると思いますし、ブレークスルーは既存概念の打破から生まれることもあるわけですからね。
繁華街にある初めて行く目的地を目指すときに、スマホのグーグルマップの経路指示機能は本当に便利なんですけどねぇ。
どうしても歩きスマホになるし、アレで今までずいぶん人様に迷惑を掛けてたんだろうか。
反省 m(_ _)m
伊江太さま
人間として流されやすいせいか、流れの中では、思うところで曲がれないこともあります。
人が多い所では、何回も端っこ寄ってやり過ごしてから、また歩くようにしてます。
次の信号までは真っすぐで大丈夫ニカ?って感じ。
ただ人混みが苦手なだけか。
イグノーベル賞については、綾波書店という日本の同人サークルが、
受賞者にインタビューをして、"イグノーベル賞公認ファンブック"なる本を出してたりします。
すでに、18冊だそうで。
興味がある人は、どうぞ。
ああ、本当に"公認"だそうです。はい。