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輸出管理適正化から2年、FOIP重視戦略こそ正しい

指摘されるまで忘れていましたが、日本が韓国に対する輸出管理の適正化措置を発表してから、本日でちょうど2年が経過しました。この間、「この措置自体が自称元徴用工判決問題と無関係である」などの仮説は、当ウェブサイトでもずいぶんと議論して来ましたが、それにもまして痛感するのは、ロジックが通じない国とお付き合いすることのリスクでしょう。

輸出管理適正化から2年

言われるまで忘れていたのですが、日本政府が韓国対する輸出管理の厳格化措置(あるいは適正化措置)を発表してから、今日・7月1日で、丸2年が経過しました。

改めて、韓国に対する輸出管理適正化措置について、当ウェブサイトなりの理解を述べておきましょう。

輸出管理とは「民生品などの軍事転用を防ぐための国際的なルール」のことで、日本では外為法(正式には『外国為替及び外国貿易法』)第48条第1項に根拠規定が設けられています。

外為法第48条第1項(輸出の許可等)

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

「対抗措置」でも「経済制裁」でもない!

日本が対韓輸出管理の適正化措置を発動した理由を巡っては、俗に「韓国が自称元徴用工判決問題で有効な手立てを講じないことに対する意趣返しだ」、などと信じられていますが、これについてはさまざまな意味で、事実と矛盾しています。

そもそも日本政府がこの措置を発表した日付である2019年7月1日は、自称元徴用工判決問題を巡り、日本政府が日韓請求権協定第3条に基づく問題解決プロセスを講じている最中のことであったという事実を忘れてはなりません。

もしも日本政府が自称元徴用工判決問題に対する制裁としてこの措置を発動したのであれば、それを発表するのは、韓国による日韓請求権協定第3条違反が確定する7月19日以降でなければおかしいはずでしょう。

また、日本政府は韓国に対し、しばしば、輸出管理に関する政策対話の実施を求めて来ましたが、日韓間の政策対話が2016年6月に開催されて以来、韓国側が日本の呼びかけを無視する形で、3年間ほど途絶えていたという事実も忘れてはなりません。

横流し?不自然なHS2811.11-000の輸出高

さらに不自然なのが、フッ化水素、フッ化水素酸の韓国に対する輸出高です。

普通貿易統計』の「品別国別表」から、HSコード「HS2811.11-000」(フッ化水素・フッ化水素酸)を選んで、過去5年少々の韓国に対する輸出高をグラフ化したものが、次の図表1(数量)と図表2(金額)です。

図表1 HS2811.11-000の輸出高(数量)

(【出所】『普通貿易統計』の「品別国別表」データより著者作成)

図表2 HS2811.11-000の輸出高(金額)

(【出所】『普通貿易統計』の「品別国別表」データより著者作成)

日本政府が韓国に対する輸出管理適正化措置を発表する直前まで、日本が外国に輸出する「HS2811.11-000」は、数量ベース、金額ベースのいずれで見ても、約8~9割のシェアを占めていたことがわかります。

フッ化水素は一般に半導体の製造工程に使われますが、それだけではありません。

有名どころとしては、フッ化水素を使ってウランをフッ化すれば沸点が下がるため、遠心分離器を使った濃縮作業が容易となります。

そして、万が一の話ですが、韓国が日本からの「(旧)ホワイト国」待遇を悪用し、日本から輸入したフッ化水素などを、どこかの第三国に「横流し」していたのだとすれば、横流しの実行犯である韓国だけでなく、その韓国を「(旧)ホワイト国」扱いしていた日本の責任も問われかねません。

経産省は2年前の『大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて』で、日本が韓国に対する輸出管理を強化する原因となった事象について、「大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生した」と指摘しています。

この「不適切な事案」が何を意味するかについては定かではありませんが、韓国が国を挙げて、イランとの金銭トラブルを抱えていたという事実(『イランと韓国の泥仕合は韓国の不誠実な対応に起因する』等参照)を思い起こすだけでも、韓国が何らかの不正を働くインセンティブはあるのです。

韓国政府の異常な振る舞いとレポート

ただ、日本の対韓輸出管理適正化措置の反応は、それ以上に、韓国の常軌を逸した振る舞いでしょう。

ことに、韓国政府はこれに対し、頑なに「輸出『規制』」という間違った呼称を使い続けており、しかも、「わが国は日本の輸出『規制』では困っていない」としながらも、「日本はこの輸出『規制』を撤回しなければならない」、などといい続けています。

実際のところ、日本政府は個別許可に切り替えた3品目(フッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミド)については用途が確認できたものの輸出許可を出していると伝えられており、今のところ、韓国の半導体産業が生産に窮しているという事実もありません。

というよりも、『「輸出規制から2年で対日赤字は拡大」=韓国メディア』などでも確認したとおり、むしろ日本の対韓輸出高は大きく伸びており、半導体製造装置等の輸出が特に堅調です。

結局のところ、韓国政府のレトリックには、「日本の輸出管理適正化のせいで、今まではできていた横流しや目的外使用などの何らかの不正行為ができなくなった」ことに対する怒りでもあるのではないか、などと勘繰ってしまうのです。

こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には本日、こんな記事も出ていました。

日本輸出規制2年、韓国の素材・部品・装備競争力がさらに強化

―――2021.07.01 11:06付 中央日報日本語版より

中央日報によると、韓国政府・産業通商資源部は1日、「日本の輸出規制」措置」(※原文ママ)から2年を迎えたことを契機に、『素材・部品・装備の競争力強化2年成果』を発表したのだとか。

これによると、2019年7月の日本の「輸出『規制』措置」に踏み切った直後から、韓国企業と政府が「素材・部品・装備」の競争力強化に取り組むなどし、「2年ぶりに100大核心品目の日本依存度の減少傾向が3倍加速化」するなどの成果が出たのだそうです。

個人的には「日本依存度の減少傾向が3倍加速化」が意味するところについて、いまひとつ意味はよくわかりませんが、とにかくものすごい成果を誇っていらっしゃるようです。

話がわかる国との関係を深めるべき

ただし、記事の中にはこんな記述もあります。

日本輸出規制の対象だった『フッ化水素』『フッ素化ポリイミド』『EUVレジスト』の3大品目でもフッ化水素の日本輸入額が6分の1水準に下落するなどの成果を得た」。

フッ化ポイリイミド、レジストについては個別統計が出ていませんが、少なくともフッ化水素に関しては、日本からの輸出高の落ち込みは輸出管理適正化措置に基づくものであるのに加え、措置発動以前の対韓輸出高が明らかに多すぎたことの方が不自然だと考えるべきでしょう。

ただ、こうした数字やロジック(法令、国際条約等)の事実関係を無視し、「日本の輸出『規制』」、「素部装の国産化」などと喜んでいらっしゃるのを見ると、少なくとも韓国に対し、私たち日本側がいくら言葉を尽くして説明しても、意味があるのかどうかがよくわかりません。

いずれにせよ、日本外交が「アジア近隣国」から「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)へと軸足を移していくなかで、「ちゃんと話が通じる国」とそうでない国を峻別し、前者の付き合いを深めていくことが有意義であるという個人的持論の正しさを痛感した次第です。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • もう2年もたったのですね。
    日韓の関係もずいぶん変わりました。
    最近北の将軍様はダイエットに成功したようで、これも輸出管理がしっかり機能したせいだと自分は思っております。
    2020・2・14の新宿会計士様の記事で「韓国ネームのサムライ債残高「3000億円割れ」も?」というものがございましたが金銭の貸与で見る日韓関係があれから、どうなっているか気になります。
    韓国経済がヤバいという記事も増えてきましたから。どうぞそのあたりの事も教えてください。

  • 良くわかりませんが、自国産業強化のきっかけに出来たんならよかったんじゃいですか?
    日本としても不明瞭なフッ化水素取引に釘を刺せたんだから目的は達成しています。

    これは豊臣秀吉の朝鮮出兵と同じです。彼らは撃退したって強弁しますよね。本当に撃退出来たんなら400年にもわたって恨んだりしないのです。

    輸出管理適正化の件だってそうです。克服して産業強化につながったならわざわざ騒ぐ必要もないのです。ものすごい被害を受けたからこそのこの反応なんだろうな。

    じゃあ、どんな被害か。フッ化水素の横流しができない被害ももちろんあるでしょうが、それ以上に彼らのプライド、自尊心を傷つけたんでしょうね。「ホワイト国」からの陥落。経産省も彼らが嫌がることを実にピンポイントでついてきました。

    韓国の大統領にとって、他国に強い立場でモノを言って従わせることが、権威、権力の源泉なのです。他国から引くみられることで国内の支持を大きく失います。

    最近ある意味これを超えるような「攻撃」を日本はしました。いやまあ、単にG7で無視しただけなんですけどね。韓国は輸出管理適正化以上の被害を受けてます。あれだけ文大統領が会談を望んで追いかけまわす姿は滑稽ですらありました。
    あの話は蒸し返すほどに惨めになりますから、ウソついて捨てぜりふをはいて終わりでしょうけどね。

    次、、、案外文大統領はオリンピックに来ちゃうんじゃないかなとか読んでいます。そして、また、菅総理をストーキングして会談をしようとする。

    あとは竹島上陸ですか。こっちはリスク少ない(と韓国は思っている)ので可能性はより高いです。
    実際問題はオリンピックに領土紛争を持ち込む行為として国際的な関心を呼んでしまう可能性もあるのですが。

    • 最近ある意味これを超えるような「攻撃」を日本はしました.
      ・・・台湾へのワクチンの無償供与もありましたね。こちらのほうが 大統領の権威失墜を加速した感じもあります

      • 赤ずきん 様
        原発の処理水海洋放出も韓国のご意見は無視だし、漁業協定は結んでくれないし、コロナでも五輪は粛々と実施だし、勿論訪日の招請はないし、カンチャンイランは放置だし、いちいち気になる事ばかり・・・ですかww

  • 韓国は嘘つきで日本を騙すことには長けています。何故か?日本人が真面目で誠実だから。ココは一発、韓国人、北朝鮮人相手には、地球人とは思わずにエイリアンかなんかだと思いましょう。平気で嘘を吐きますから。

    韓国は「日本の輸出『規制』では困っていない」としながらも、「日本はこの輸出『規制』を撤回しなければならない」と言う。え?困ってないなら黙っていればぁ〜?

    確かに日本からの輸出、大幅に減っている品目がある。2年前迄は何に使っていたのか?釜山か仁川でワンクッション置いて、ボーボーーーッ(笑)。輸出ですか?テロリストとグルやん!日本も知らぬ間に運び屋させられていたんだ。

  • 日本輸出規制2年、韓国の素材・部品・装備競争力がさらに強化
    https://s.japanese.joins.com/JArticle/280305

    >韓国の素材・部品・装備企業の売り上げが約20.1%増加するなど成果をあげたことが分かった。

    見ようによっては、20%しか増えていないという事だと思います。

    >また、日本輸出規制の対象だった「フッ化水素」「フッ素化ポリイミド」「EUVレジスト」の3大品目でもフッ化水素の日本輸入額が6分の1水準に下落するなどの成果を得た。

    日本企業が韓国工場を作った結果、輸入が減ったと見るべきでしょう。

    基本的に大した成果が、無いのを韓国政府が誇大広告しているのですが、日本企業の韓国工場について韓国人から見れば、日本企業が韓国に屈しているように感じる事でしょう。

  • 韓国は対日本のこととなると、大脳を介さず、脊髄反射で行動することがままある。結果、自己を貶めていることになかなか気づけない。嘘の上に嘘を上塗りし、矛盾を突かれると逆切れする。何が何でも日本に対して折れてはならず、屁理屈だろうが押し通す。
    疲れるのでお付き合いはほどほどにするのがよろしい。

  • 誰かが書くと思うので。

    「通常の3倍の速度で日本依存度を減少させた! 」(キリっ)
    「え~っと、何それ?」

  • 3倍の速度にするなら、機体を赤く染めないと、、、、。
    あ、国体は真っ赤かですわ。

  • 韓国人の脳内設定では、「韓国は日本の輸出規制、貿易戦争に勝利した」となっていると思います。

  • いつも日本からのフッ化水素の輸入量が減ったという話だけで、韓国のフッ化水素総使用量とか、日本産フッ化水素のシェアとか韓国のフッ化水素使用量を推定できるデータの話が全然ないんですよね。キル・ユンヒョンさんあたりが調べてくれないかなあ。