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ワクチンスワップ欲しければ「三不の誓い」破っては?

ジョー・バイデン米大統領と文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領の首脳会談に先立って、ワクチンスワップ構想の「生みの親」が訪米し、米国で「韓米ワクチンスワップをぜひやりましょう」と呼び掛けたそうです。申し訳ないのですが、この方の説明を見ても、なぜ米国が韓国とのワクチンスワップに応じなければならないのか、さっぱり理解できません。ただ、あえて米国が貴重なワクチンを韓国に提供する可能性があるとしたら、それはいったい何なのか、考えてみても面白いかもしれません。

ワクチンスワップとクアッド部分参加論

本稿は、当初、『焦る中国、駐日中国大使が日本に「クアッド脱退」要求』と一体で執筆していたのですが、すこし文章が長くなったので、分割した記事です。

ジョー・バイデン米大統領と文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領との初の米韓首脳会談を前に、韓国メディアからは連日、「ワクチンスワップ」を中心とする一方的な期待(あるいは妄想?)を全開にしたような期待論が高まっています。

「ワクチンスワップ」は、米国からワクチンを優先提供してもらい、後日、韓国国内でライセンス生産したワクチンを米国に返還するという、なにやら理解に苦しむ構想であり、4月に米国政府がそれとなく否定して終わったはずの論点です(『ワクチンスワップ構想巡り米国務省「まずは米国優先」』等参照)。

しかし、韓国国内では、なぜか5月中旬ごろから「クアッド部分参加論」が台頭し、文在寅氏の訪米で「クアッドに部分参加するのと引き換えにワクチンの提供が受けられる」、といった期待が独り歩きしているように見受けられるのです。

ここ数日、当ウェブサイトで取り上げたものに限っても、たとえば次のような話題がありました。

…。

訪米した朴振氏の見解が本当に理解できない

こうした議論の最新版が、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に昨日掲載された、こんな記事でしょう。

「韓国、ワクチンスワップの最適条件備えた」米政界訪れた2人の野党議員

―――2021.05.20 15:16付 中央日報日本語版より

これは、訪米中の保守野党「国民の力」所属の朴振(ぼく・しん)議員が現地時間18日、ワシントン特派員懇談会で、「韓国にワクチンを支援すべき理由」を次のように述べた、などとする話題です。

韓国は、ワクチンを保管して接種する能力の面で米国とワクチンを共有することができる最適の条件を備えているという点を強調した。一日に最大150万人に接種することができるため、完全に共有することができると話した」。

「朴振氏」でピンと来た方もいらっしゃるかもしれませんが、この人物は、例のワクチンスワップ構想を提唱したご本人です。

「ワクチンを保管して摂取する能力に優れている」ことが事実だったとして、どうしてそれが「米韓がワクチンを共有する最適な条件を備えている」ことになるというのでしょうか。

理解に苦しみます。

いちおう、朴振氏の訪米目的は、米韓ワクチン関連協力について、米政府、議会、シンクタンク、製薬業界関係者らと面会することにある、というものだったのだそうです。

朴振氏いわく、「韓米間の協力を通じ、グローバルワクチンハブを構築することができるし、そうすべきだと考える」、「米国と協力して韓国がワクチンハブになれば、来年50億回分以上のワクチンの供給が可能になる」、ということだそうです。

ただ、個人的な読解力が足りないからなのか、中央日報の記述が足りないからなのか、はたまた朴振氏の説明が足りないからかわかりませんが、この記事、10回ほど読み返してみたものの、「なぜ、米国が韓国とのワクチンスワップに応じなければならないのか」についてはついぞ理解できませんでした。

というのも、朴振氏が述べる「ワクチンスワップ」、米国にとってのメリットが本当になにもないからです。

ちなみに朴振氏はこの席で、日米豪印クアッドへの韓国の参加が必要、などとする見解についても併せて明らかにしたのだそうですが、やはりクアッド部分参加論は彼の差し金だったのでしょうか?

ワクチンの前に、申し開きが必要では?

ちなみにFOIPとは「自由で開かれたインド太平洋」、クアッドとはFOIPに強くコミットした日米豪印4ヵ国のことですが、これも以前から述べてきたとおり、韓国メディアには「FOIP」が見えていないらしく、多くのメディアがしきりに「クアッド」、「クアッド」と繰り返しているのも(悪い意味で)印象的です。

いずれにせよ、自然に考えて、米国の同盟国でありながらも、これまで頑なにFOIPにコミットしなかった韓国に対し、米国がどこまで「厚遇」するかは微妙でしょう。

いや、もちろん「象徴的な意味」で、米国がワクチンを少量、韓国に提供するという可能性はゼロではありませんが、少なくとも韓国が求める「ワクチンスワップ」を巡って、米国側から前向きな話が聞こえてきたという記憶はありません。

それどころか、バラク・オバマ-安倍晋三-朴槿恵(ぼく・きんけい)の各政権時代に作られた、「日米韓3ヵ国連携を円滑に推進するための仕組み(※)」を文在寅氏が壊した/壊そうとしたことについて、当時副大統領だったジョー・バイデン大統領自身が問い詰めるのかどうかが気になります。

(※その代表例が、2015年12月の日韓慰安婦合意、2016年7月の高高度ミサイル防衛システム=THAAD=の韓国・星州への配備、同11月の日韓GSOMIA署名、というわけです。)

バイデン氏自身、いまだに「日米韓3ヵ国連携」を重視しているフシがありますが、そのバイデン氏でさえ、文在寅氏がこの「日米韓」の仕組みを破壊してきたという点を認めざるを得ないはずです。

また、バイデン氏自身に認知症が疑われているのは事実ですが、そのバイデン氏を補佐すべきアントニー・ブリンケン国務長官らも同様に、「日米韓3ヵ国連携」を進める仕組みづくりに関与してきたことを忘れてはなりません。

自然に考えて、米国がワクチンを提供するには…?

さらに、朴槿恵時代と比べ、現在の韓国は中国への傾斜がいっそう進行し、たとえば2017年には「三不の誓い」(THAADを追加配備しない、米国のミサイル防衛に参加しない、日米韓を軍事同盟に発展させない)を宣言しています。

当然、文在寅氏の今回の訪米も、米中の熾烈な綱引きという局面の一幕でもあります。

逆にいえば、米国が韓国にワクチンを提供する可能性があるとしたら、「中国の側ではなく米国の側につく」という、何らかの具体的な行動を取ることを文在寅氏がバイデン氏に確約した場合、ということですが、はたして現在の韓国に、それができるのでしょうか?

米国から貴重なワクチンを優先提供してもらうだけの理由を作るほどの「手土産」を、果たして文在寅氏は準備しているのでしょうか?

では、その「手土産」とは、いったい何が想定されるのでしょうか。

じつは、そのヒントが昨日、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に掲載されていました。

次期在韓米軍司令官、「韓米同盟、日米同盟のような“グローバル同盟”へ成長を」

―――2021-05-20 10:59付 ハンギョレ新聞日本語版より

記事タイトルでも何となくわかりますが、バイデン大統領から米韓連合司令官兼在韓米軍司令官に指名されたポール・ラカメラ太平洋陸軍司令官(大将)が人事聴聞会で、米韓同盟が「日米同盟のようなグローバル同盟に成長すべき」と述べた、とする話題です。

言い換えれば、現在の米韓同盟は米国と韓国の「ローカル同盟」に留まる一方、日米同盟は、いまやFOIP、日米豪印クアッド、日米英、日米豪、日米加などの多国間同盟に進化し始めていることを、米国側も十分認識している、ということでしょう。

逆に、米韓同盟を「グローバル同盟に発展させる」のであれば、韓国は最低限、中国に対する「三不の誓い」を破棄することくらいは必要でしょう。

すなわち、文在寅氏が米国から貴重なワクチンを受け取るためには、「三不の誓いを破棄し、米韓同盟をグローバル化します」くらいのことはコミットしなければならないのではないかと思います(※そして、もしそんなことをコミットすれば、当然、中国はこれに激怒するでしょうね)。

果たして文在寅氏に、それができるのでしょうか。

いっそ米国に亡命するのでしょうか?

こうしたなか、中央日報には昨日、こんな記事も出ていました。

安哲秀氏「文大統領、ワクチン成果出せなければ帰らない覚悟を」

―――2021.05.20 15:40付 中央日報日本語版より

これは、韓国「国民の党」の安哲秀(あん・てつしゅう)代表が20日、文在寅氏に対し「今回の韓米首脳会談で、北朝鮮の非核化、新型コロナワクチン、半導体問題に十分な成果を出せなければ、再び太平洋を渡って帰ってこないという固い覚悟で会談に臨んでほしい」と述べた、というものです。

逆に、文在寅氏は「これらについて成果が出せませんでした」と開き直り、「だから韓国には帰れません」と宣言する、というオチが待っているというのはいかがでしょうか?

「現実は小説より奇なり」と言いますので、案外この可能性も、本稿を読んでいるあなたの頭上に今すぐ隕石が落ちてくる程度には高いと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (20)

  • 三不誓いニダ。
    不誓いだから、誓いじゃないニダ。
    宗主国様も、きっとわかってくれるニダ。ホルホルホルホルホルホル。
    わかってくれなかったニダ ! アイゴー !

    まぁ、約束への報酬は、
    「その約束が実行されたらという条件つきの約束」か、
    「それができたら考えてあげる」
    くらいが妥当。
    本気で従わせるなら、中国より強く殴る。

  • 「ワクチンを保管して摂取する能力に優れている」
    言い得て妙ですね。
    勉強になります。

    • わりと最近インフルエンザワクチンの保管まともに出来ずに人的被害を出してた様な…

  • >逆に、文在寅氏は「これらについて成果が出せませんでした」と開き直り、「だから韓国には帰れません」と宣言する、というオチが待っているというのはいかがでしょうか?
    ----------------------
     なるほど、確かにこれなら任期終了後収監される危険性はないので、本人にとっては最良の結果となりそうですね。

  • 私の常識から言えばですねえ、「金を借りる方が『ビタ一銭まかりならん』ということは、日本の常識ではなかなか通用できないことでありまして、ほとほと困っているところでございます。」

  • 朴振氏の訪米目的は、韓国国内における「ワクチンが貰えた時の成果」を「自分の成果」とする為。
    安哲秀氏の発言は、「文大統領が首脳会談で、ワクチンが貰えた時の成果」についてのハードルを上げる為の物で、いずれも韓国国内の政争をウリ側に有利にするためです。
    ぶっちゃけで言えば、「韓国は、まだアメリカを騙す事が出来る」と考えている事が、首脳会談前の韓国の期待発言を見れば分かると思います。
    まだ首脳会談の結果は報道されていませんが、そのうち分かると思います。

  • ワクチンが欲しければ、三不の誓いの一つ、手っ取り早く中国を怒らすけども、THAADを完全な姿に完成させるのが良いです。

    まだ、未完の部分と劣悪な居住スペース、また遠隔操作による発射方法を確立すれば、中国にとっては、指揮所が分からず、星川以外に移動式発射台設けるなら、至近距離からのミサイルで、本当にイヤでしょう。もちろん建前は北朝鮮だよ。

    中国は場合によっては、人の往来を断つ、輸出入の中止、東海岸線、あ西海も、艦船、航空機によるデモンストレーションがずっとあるかも。それに耐えねば民主主義国家では無い。どうする?お気の毒〜。ワラ。

    • 韓国は14日に慶尚北道星州郡の在韓米軍基地に工事用の重機や物資などを搬入してますのでもう動いていますね。
      中国向けには、誓いを破るとは言ってない(守っているわけでもない)とか誤魔化しそうですが。

  • 追加です。
    三不の誓いを破ろうが、韓国が信用出来ない国に変わりは有りません。
    日本も秋口になればワクチン余りが、発生すると思います。アメリカにワクチンスワップを断られ、日本に言って来る可能性もあるんかなぁと思いました。

  • サムスンの米国投資、お土産に出来なかったっぽいですね。国内外から恩赦の圧力強まりますな。

  • 苛烈な中国と異なり、アメリカはお人好しなところがあるので、分かりませんよ。当たって砕けろでやってみたら以外にも結果が良かったこともあります。

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