駐日中国大使ごときの命令に従う必要はどこにもない
最近気づいたのですが、中国政府関係者とは、自分の内心を秘めておくのが、ものすごく下手な人たちです。自分たちが「これに困っている」ということを、高圧的な要求という形で、堂々と相手に伝えてしまうからです。そして、具体的に中国が「困っている」ものとは、「自由で開かれたインド太平洋」、つまり、いわゆる「FOIP」なのです。その証拠が、「日本はクアッドから抜けよ」という、駐日中国大使のどこか怯えたような「命令」なのです。
目次
日本にとってのFOIPの「2つのメリット」
以前から当ウェブサイトでは、安倍晋三総理大臣の大きな遺産のひとつが、「自由で開かれたインド太平洋」、あるいは英語の “Free and Open Indo-Pacific” を略した「FOIP」と呼ばれる構想だと申し上げてきました。
その理由はいくつかあるのですが、その大きなものを2つほど挙げておきましょう。
1つ目は、(やや本質的なものではないかもしれませんが、)日本にとっては、このFOIPを推進することで、日本の国際社会における地位が上昇するという効果も期待できるかもしれない、という点です。
FOIP自体、日本が全世界に対して主体的に提唱した考え方であり、かつ、事実上の事務局でもあります。したがって、私たちの国・日本が主体的に関与できる構想であるだけでなく、むしろ主体的に関与「しなければならない」構想でもある、ということです。
表向き、FOIPの実質的な「リーダー」は米国であるかにもみえますが、著者自身が見たところ、このFOIPは日本が事実上の事務局を務めており、その意味では「陰の実質的なリーダー」は日本でもある、という言い方ができるのかもしれません(※あくまでも私見です)。
そして2つ目は、このFOIPという構想自体、事実上の「価値連合」として、多くの国に門戸を広げているものであるという点でしょう。このFOIP、現状では最も強くコミットしているのが日米豪印4ヵ国(=クアッド)だと思われていますが、将来的には無限の拡張性を備えている、というわけです。
実際、米豪印を筆頭に、非常に多くの国から賛同ないし協力の意思表明が得られているのですが、それだけではありません。
FOIPに現在参加しているのは日米豪印4ヵ国(つまりクアッド)が中心ですが、たとえば『【資料】G7外相会合コミュニケ』でも詳述したとおり、著者自身が把握している限りにおいて、たとえばG7諸国ではドイツとイタリアを除くすべての国からFOIPへの賛同が得られています。
FOIPの現状
G7(除く独伊)を味方につけた日本
では、FOIPは現在、どう展開しているのでしょうか。
具体的には、茂木敏充外相が今年5月、日本でいうゴールデンウィークのタイミングで英国・ロンドンを訪問したことを挙げておきたいと思います。
順番に見ていきましょう。
まず、5月3日にロンドンで開かれた日加外相会談では、茂木外相はマーク・ガルノー加外相とのあいだで、「日加両国は自由、民主主義、法の支配といった普遍的価値を共有するインド太平洋国家であり、FOIPをともにビジョンとして掲げている」という認識で一致しました。
そのうえで両外相は、「両外相はFOIPの実現に向け、『自由で開かれたインド太平洋に資する日本及びカナダが共有する優先協力分野』を発表した」と述べています(詳細は外務省の和文概要/英文/和文仮訳等をご参照ください)。
次に、同じく5月3日に開かれた「第9回日英外相戦略対話」では、茂木外相はドミニク・ラーブ英外相との間で、「FOIPの実現に向けて協力していくことを再確認」し、さらには英空母打撃群のインド太平洋地域への展開と日本への寄港を「日本として歓迎する」と表明ました。
さらに、5月4日の日仏外相会談では、茂木外相は「インド太平洋における協力のためのEU戦略」を「歓迎する」と述べたうえで、やはりジャン・イブ・ルドリアン仏外相とのあいだで、「FOIPの実現に向けた協力の具体化に取り組む」、などと述べているのです。
G7ではドイツとイタリアが例外だが…
ただし、このFOIP構想、結果として「中国を牽制する」ような意味合いもあるためでしょうか、G7のすべてがこれに強く賛同しているわけではない、という点には注意が必要です。
たとえば5月5日付の日伊外相会談では、茂木外相はルイージ・ディ・マイオ伊外相と意見交換し、「インド太平洋についてはイタリアとしても日本との連携を重視している」と述べたのだそうですが、英仏加3ヵ国と比べてトーンが弱いのは、それだけイタリアが中国に配慮しているからなのかもしれません。
また、とても残念なことですが、ドイツはFOIPに関し、明らかに非協力的に見えてしまいます。5月4日に茂木外相とハイコ・マアス独外相との間で開かれた日独外相会談には約30分間の時間が割かれたそうですが、FOIPに関してはたんに「意見交換」がなされただけでした。
こうした残念な例もあるものの、G7のなかで、日米英仏加の5ヵ国がFOIPに強くコミットしている状況にあります。このため、このFOIPという考え方が「クアッド(4ヵ国)」に留まらず、将来的には「FOIPセブン」(日米英仏豪加印)などに拡大する可能性が高いといえます。
いや、FOIPセブンどころか、(依然として何らかのハードルはあるとはいえ)将来的にはASEAN諸国のうちの数ヵ国や、G20のうち数ヵ国、さらには台湾などが、このFOIPに参加してくれるかもしれません。
台湾のFOIP参加の可能性
では、台湾のFOIP参加の可能性を議論する意味は、どこにあるのでしょうか。
まず、台湾は現在、貿易統計上、日本にとって4番目の輸出相手国・3番目の輸入相手国であり、このペースで推移すれば、早ければ今年中にも台湾は韓国を抜いて3番目の輸出相手国に浮上します(『反日不買運動が日本経済に与える打撃は事実上「ゼロ」』等参照)。
次に、『台湾を「価値共有する友人」と呼び、重視し始めた日本』などでも議論したとおり、日本はここ数年、少しずつ台湾の外交上の位置づけをアップグレードし始めています。
もちろん、台湾が「国」としてFOIPに参加するとなれば、中国を強く刺激することになるでしょうし、「思慮に乏しい習近平(しゅう・きんぺい)政権」【※著者私見ですよ!】が人民解放軍のハンドリングを間違え、台湾危機が発生してしまう可能性もあります。
(※もっとも、余談ですが、あくまでも私見に基づけば中国共産党政権下の中国は自力で大規模な対外戦争に勝利したことがないため、実戦となれば意外と怖気づくのではないか、という気もします。もちろん、楽観は禁物ですが。)
このように考えると、日本としては、まずは協議体としてのFOIPの活動実績を粛々と積み上げ、このFOIPを実効性のあるものにしていくというのが、国家戦略としては非常に正しいのではないかと思う次第です。
FOIPに怯える中国
FOIPに実態はまだない
ただし、FOIPについて議論する際、気を付けなければならない点があるとすれば、それは「何らかの実態を伴っているとは言い難い」、という点です。とくに、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)などと異なり、現時点において具体的な条約機構などが存在しているわけではありません。
だからこそ、『初のFOIP首脳会談、日本にとってはまずまずの成果』などでも述べたとおり、このFOIPについてはまずは「共通の価値」「共通のビジョン」で結束し、ワクチンや気候変動などの足元の政策課題をこなす、ということにしたのでしょう。
こうした「まずはFOIPで何かを成し遂げよう」とする発想、考え方としては非常に合理的です。だからこそ、何か目に見える協力で成功事例を積み上げていくことを、日米豪印は目指しているのでしょう。
逆に、著者自身の理解に基づけば、「クアッドでワクチンなどの協力体制を敷く」という部分には、あくまでも「FOIPの推進実績」を作る、という目的があります。だからこそ、「FOIPクアッドに部分協力すればワクチンがもらえる」というものであってはならないのです。
(※余談ですが、「ワクチン協力」も「FOIPを実効性のある国際協力の枠組みにしていく」という狙いがあると見るべきであり、いまからノコノコと「『クアッド』に参加しますからワクチンをください」などと要求すること自体、かなりナンセンスな考え方といえるでしょう。どこの国とはいいませんが。)
駐日中国大使「日本はクアッドから抜けよ」
さて、こうしたなか、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に昨日、少し気になる記事が出ていました。
孔鉉佑・駐日中国大使「日本はクアッドから抜けよ」
―――2021-05-20 06:31付 ハンギョレ新聞日本語版より
これは、孔鉉佑(こう・げんゆう)駐日中国大使が19日、日本の共同通信とのインタビューに応じ、「クアッドは冷戦思考で100%時代遅れ」などと批判したうえ、「日本は米中の軋轢に巻き込まれるな」など述べた、とする話題です。
(※なぜ共同通信の元記事を参照しないのか、と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、その理由は、日本語メディアのなかではこの記事がインタビューを最も詳しく報じていたもののひとつだったからです。なお、共同通信のインタビュー記事を、共同通信以外のメディアが詳報することはよくあることです。)
記事タイトルにある、「日本はクアッドから抜けよ」は、本文では次のように記載されています。
「孔大使は『日本は対中・対米関係をバランス良く両立させ、共存できる』とし『中米関係が極度に悪化する状況で、日本が対米追従外交から抜け出す戦略的自主性を発揮し、中国とも関係を強化することを望む』と話した」。
まるで、FOIPに怯えているかのような言い方にも見えてしまいます。
もし孔鉉佑氏が本当にこのような認識をお持ちなのだとしたら、外交官としての適性が問われます。なぜなら、FOIP自体、もともと日本が提唱した概念であり、少なくともFOIPに関しては、べつに日本が対米追従しているわけではないからです。
いや、むしろFOIPは「日本が米国を動かした」という数少ない例であり、まさに「対米追従外交から抜け出し、戦略的自主性を発揮した」結果、生まれてきたものです。
そして、もし孔鉉佑氏がこうした事情を「知っていて」、「わざとこう述べた」のであれば、じつに外交下手な人物です。なぜなら、彼がそのように発言すること自体、日本を中国から遠ざける要因になりかねないからです。
その「上から目線」、どこから来るのですか?
しかも、ハンギョレ新聞にはこんな記述もあります。
「米国のジョー・バイデン政権のスタート以後に露骨化した日本の『親米-反中』の歩みに対する叱責も続いた」。
おもわず、「日本は中国に『叱責』されるほど落ちぶれていませんよ」、と言い返したくなりますね。
いずれにせよ、FOIPを中国がここまで嫌がるということは、FOIPが中国を牽制する枠組みとして、すでに強力に機能し始めているということを間接的に物語っています。
そして、日本と異なり、韓国はいまや中国の属国に陥りつつある感もありますが、その韓国のメディアが、「中国様がクアッドから抜けろと日本に命令したぞ」、とばかりに本件を報じたことも、現在の韓国の地位を見せつけているように思えてなりません。
当然、FOIPの「言い出しっぺ」にして「陰の主役」である日本がFOIPから抜けるということはあり得ない話ですし、中国はそもそも、日本にとって宗主国でも何でもありません。日本が中国の命令を聞くということはあり得ない話なのです。
(※ただし、某高学歴サラリーマン経営者の方が経営されている企業のなかには、この期に及んで中国進出を加速しようとするセンスのない方もいらっしゃるようです。高学歴経営者が国を滅ぼしかねないという点については、また別途、どこかでじっくり議論を展開しても良いかもしれませんね。)
FOIP≒天安門
さて、本稿では米韓首脳会談を前に、「ワクチンスワップ」だ、「クアッド部分参加」だ、といった勝手な妄想がどんどん膨らむ韓国メディアの記事をいくつか取り上げようとも考えていたのですが、「中国のクアッド脱退要求」の議論のインパクトがあまりにも強すぎるので、ここでいったん稿を締めたいと思います。
最後に余談をひとつだけ。
今回紹介した『ハンギョレ新聞』(日本語版)の記事、読んでいて不思議に感じたのが、「FOIP」ないし「自由で開かれたインド太平洋」という極めて重要なキーワードがただの1回も出て来なかったという点です。
もしかするとこのFOIP、「6・4天安門」「法輪功」などと並ぶ、中国共産党にとっての禁止ワードなのかもしれませんね。
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皆さまおはようございます。
私はマフィアの方が怖いですが、心情的にはチンピラの方が嫌いです。なので、中国より先に、韓国をとっとと経済的に焦土化しましょう。
今日の「Moon米国訪問顛末」、文ちゃんがやらかしてくれること、正直、大いに楽しみであります。
新宿会計士殿、早朝から新たな記事掲載有難う御座います。
> また、とても残念なことですが、ドイツはFOIPに関し、明らかに非協力的
> に見えてしまいます。5月4日に茂木外相とハイコ・マアス独外相との間で開
> かれた日独外相会談には約30分間の時間が割かれたそうですが、FOIPに関
> してはたんに「意見交換」がなされただけでした。
上記の件ですが、ドイツメルケルがそもそも社会主義国であった旧東ドイツ出身です。メルケルの思考から何から独裁国家に馴染んでいる上に、メルケルは支配者に登り詰めたのですから、寧ろ心地よく、中国の独裁者習近平とも癒着出来るのでしょう。
そのメルケルがEUを中国に売り渡しました。下記記事をご参考迄にご紹介します。
親中メルケルの集大成「EU・中国投資協定」で中国依存は修正不可能に
欧州議会が待ったをかけてくれたら…
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/83090
売り渡したというよりも買ってもらったというべきでしょうね。もっともドイツは中国を攻撃できる核を持ってないからどのみち牽制には役に立たないですけど。
ドイツ人は大切な所で判断を誤る悪癖でもあるのでしょうか?
大変理屈っぽい方達のようですが。
国民性として全体主義のほうが馴染みやすいところもあるようですし。
日本がドイツ以外のEU諸国に対して中国の危険性を説得する必要があります。
中国人を一番理解しているのは日本人なのですから。
>米国のジョー・バイデン政権のスタート以後に露骨化した日本の『親米-反中』の歩みに対する叱責も続いた
中国からのクレームは全て「叱責」と受け取る癖が付いてるんしょう。
で、日本も同じだと思ってしまうと言う。
>表向き、FOIPの実質的な「リーダー」は米国であるかにもみえますが
米国が人権だ民主主義だと騒ぎ出すとうざいですからねえ。日本というクッションが必要。
>東シナ海の釣魚島(日本名 尖閣列島)問題については、「釣魚島の主権は中国にあり、日本が不法占有している」と強調した。ただし彼は「平和的手段を通した解決を望んでおり、武力で現状を変更させることはない」
ワロタw いつでもICJに提訴してくれてええんやで?法の支配で平和的に行こうや。
当サイトの本年 3-31 15:30 投稿
日米首脳会談の直前に「台湾の目の前」で中韓外相会談
意外と速く完成する「日米vs中韓」の対立構造
https://shinjukuacc.com/20210331-04/
を読み直しました。外交部長官の福建省アモイ訪問は 4-2 に実現することになるのですが、多くの方がそのように気づいておられるように、東アジア情勢のパワーバランスを大きく動かす「歴史的通過点=エポック」であったと言えるでしょう。
では、会談では何が話し合われたのでしょうか。皮相的報道目くらまし報道には現れない両国の本音が(語らずして暗黙に|言葉にされて明瞭に)交わされたのではあるまいか。禁止用語、報道から欠落する情報こそ、中国が本心から恐れること、韓国が本心から恐れること、そのような仮説を立て追跡検証してみるのは面白い試みと思います。
>G7(除く独伊)を味方につけた日本
・かつての敵は今の友。
>G7ではドイツとイタリアが例外だが…
・かつての友は今の・・?
>駐日中国大使「日本はクアッドから抜けよ」
>もし孔鉉佑氏がこうした事情を「知っていて」、「わざとこう述べた」のであれば、じつに外交下手な人物です。
・彼らには野心を隠す理由がないからなのかと・・。
毎日の更新お疲れ様です。中国からのクワッド離脱要求は日本ではなくふらついている南朝鮮に威嚇だと思います。今さら提唱者たる日本が脱落する可能性は極小でしょうから。
駐日大使に(ミカケ)日本のメディアを通して発信させていることに中共のセンス(笑)を感じマスですハイ
私は、FOIPを「力による現状変更を志向する国に対する、自由民主主義国の対抗手段」と定義しようと思います。
中国は、「力による現状変更を志向する国」の親玉の存在なので、「FOIPを主導する日本」の存在は、邪魔なのでしょう。
これから中国は、「力による現状変更を志向する国」に飲み込まれた国を増やす努力を強化し、国の数ではFOIPに同調する国を上回る事が予想され、国連など国際機関を利用し現状変更をしようとしてくるでしょう。
なんか上手くまとまらん。
そんなに嫌なんだね。FOIPで爪弾きにされる事が。事務局が日本というのも圧力を感じてそうだ。基本的価値、民主主義というルールに乗れない中国は、悪の独裁国家とツルムしか無いでしょう。
日本政府に対して、こんな暴言を吐く方が駐日大使とは、、孔鉉佑駐日中国大使は、帰って貰って結構だ。「クアッドは冷戦思考で100%時代遅れ」(失笑)。ではお前んとこの香港、ウイグル自治区、台湾に対する攻撃はどうなんよ⁉︎
まさしく分かりやすい。顔色、言葉にスッと出るんだな、思ったことが。今すぐ中国をサプライチェーンから外すのは難しいが、今後間違いなく引き潮だ。日本にはアレルギーというか、怖さを感じるんでしょう。
中国って、もう少し巧妙な外交戦略を使うのかと思っていましたが、
大朝鮮と呼ぶのがふさわしいようです。
話は変わりますが、オーストラリアからの輸入では、
石炭やワイン・ロブスターなどで嫌がらせをしているくせに、鉄鉱石は大量に買っているとか。
選択的不買ニカ ?
キンペー一派は大朝鮮的嗜好でワカリヤスイかもシレマセンが、
いつまたトーショーヘー級の人物が出てこないともシレマセン