ワクチンと並んで消費税の引き下げと財務省の始末こそが日本経済の処方箋
「先日、内閣府が公表したデータに基づけば、2021年第1四半期のGDP成長率がマイナス5.1%に沈んだ」とする話題は、すでにいくつかのメディアにも報じられているとおりですので、多くの方が認識されていると思います。ただ、当ウェブサイトとしては、これを「コロナ不況」と呼ぶのは正しくないと疑っています。正確には「消費税・コロナ不況」と呼ぶべきではないでしょうか。そして、その正しい処方箋はコロナワクチンだけでなく、「消費税の減税」にあります。
GDPの解説
内閣府は20日、2021年第1四半期(=1-3月)のGDP第一次速報を公表しました。
四半期別GDP速報
―――2021/05/18付 内閣府HPより
これについてはすでに多くのメディアでも取り上げられているため、当ウェブサイトの読者の皆さまのなかにも、内容についてはよくご存じの方も多いでしょう。
ただ、報道されているデータと、実際に内閣府が公表しているデータの間には、大きな違いがあります。ことに、いくつかのメディアは「GDPがマイナス5.1%成長だった」、「3期ぶりにマイナス成長だった」、などと報じているのですが、これはいったい「何と比べて」マイナス5.1%だったのでしょうか。
まずはこの点について、簡単に確認しておきましょう。
そもそも論ですが、内閣府が公表しているGDPには、「▼名目、▼名目季節調整、▼実質、▼実質季節調整」、という4つの種類があります。
名目GDPは「実際に取引されている価格」をベースに推計される統計であり、物価変動の影響を受けてしまいます。このため、ある「参照年」を基準に置いて、物価変動の要因を加味した形での実質GDPがあわせて公表されている、というわけです。
(※ただし、この実質GDPについては、「参照年」が異なるものどうしを比較しても意味をなさないので注意が必要です。内閣府によると現在の参照年は2015年だそうですが、実際のデータについてはピタリと一致するわけではありません。)
また、「季節調整」は、季節変動によるGDPへの影響を取り除いたもので、内閣府によると、基本的には「米国商務省センサス局法X-12-ARIMA」という手法を使い、GDP需要者項目や雇用者報酬などに対して調整が実施されているのだそうです。
参考URL
- 内閣府『過去の年次推計について』
- 2001年11月30日付・内閣府経済社会総合研究所『GDP(国内総支出系列)の季節調整方法について』
ざっくり、「そのまま生のデータで集計したもの」が3ヵ月間の名目GDP、「参照年(たとえば現在だと2015年)との物価変動の影響を除外したもの」が3ヵ月間の実質GDP、そして名目・実質の各GDPを一定の手法で年間の数値に置き換えたものが季節調整GDP、と考えれば良いでしょう。
この点、どのGDPに注目するかは目的により異なりますが、経済の状況(とくに「プラス成長なのか、マイナス成長なのか」、など)を見るベースとしては、やはり「実質季節調整GDP」の使い勝手が最も良いと思います(著者私見)。
四半期GDPの詳細
さて、現在公表されている数値は、次のとおりです(図表1)。
図表1 GDP(2021年第1四半期・第1次速報値、金額単位:十億円)
項目 | 2021年1Q | 変化率 |
---|---|---|
名目GDP | 134,678 | 前年同期比▲2.1% |
名目季節調整GDP | 542,457 | 前期比▲1.6% |
実質GDP | 134,635 | 前年同期比▲1.9% |
実質季節調整GDP | 534,275 | 前期比▲1.3% |
(【出所】内閣府ウェブサイト)
これらの数値はあくまでも「第1次速報」なので、今後の改訂により実数、変化率ともに修正される可能性がある点についてはご注意ください。
また、GDP成長率については、「季節調整後年率」という考え方があります。
計算式は次のとおりです。
年率表示の成長率={(当期の実数÷前期の実数)の4乗-1}×100
たとえば、名目季節調整GDPは、2021年第1四半期は542兆4570億円(①)、2020年第4四半期は551兆4260億円(②)でしたので、(①÷②)の4乗は0.9365…であり、これから1を引いて100倍し、小数点以下2位を四捨五入して▲6.3%という数値が求まります。
また、実質季節調整GDPも同様に、2021年第1四半期の534兆2750億円(③)と2020年第4四半期の541兆3790億円(④)をもとに、(③÷④)の4乗が0.9485…、と求まり、ここから1を引いて100倍し、小数点以下2位を四捨五入して▲5.1%、というわけです。
実質GDPの成長率年換算値(2021年第1四半期)
- 名目季節調整GDP…▲6.3%
- 実質季節調整GDP…▲5.1%
現在の不況は「コロナ局面」なのか?
以上、GDPやそのプラス・マイナスの計算の仕組みを確認したところで、「実質季節調整GDP成長率・年換算値」が▲5.1%という大幅なマイナスに落ち込んだことについて、どう考えるべきでしょうか。
当然、換算であるため、数値的には大きく出ていますが、やはり「コロナ局面」と考えるのが正しいのでしょうか。
これについてグラフ化したものが、図表2です。
図表2 実質季節調整GDP成長率(年換算値)
(【出所】内閣府ウェブサイトデータより著者作成)
いかがでしょうか。
やはり2020年4-6月期の▲28.6%という大幅なマイナス成長のあと、その反動で2020年7-9月期にはプラス22.9%、10-12月期にはプラス11.6%へとそれぞれ持ち直してきただけに、ここにきて再びマイナスに沈んだ、という流れが見えてきます。
ただ、この2020年4-6月期の極端な経済の落ち込みがコロナによるものであることは明らかですが、現在の経済停滞局面を「コロナ局面」と呼称して良いのかについては、極めて強く疑問に感じる点です。
というのも、「コロナ局面」が始まる前の2019年10-12月期において、すでに▲7.4%という、異常に大きな経済の落ち込みが見られるからです。
そう、その正体は消費税です。
財務省の「何とかの一つ覚え」
つまり、非常に嫌な言い方ですが、財務省にとっては「コロナのおかげで消費税の増税の影響をごまかすことができた」、という状態なのです。
2019年第4四半期のマイナス成長は消費税の税率がそれまでの6.3%から7.8%に、地方消費税の税率が1.7%から2.2%に、合計税率が10%に引き上げられたことで、消費が甚大な打撃を受けたことによるものであることは自明でしょう。
ただ、その後のマイナス成長は、コロナやその後の「GoToキャンペーン」などの財政出動などの影響によって完全に紛れてしまっている、というわけです。
あえて邪推すると、「コロナにより財政出動が増え、『国の借金』が増えたから、消費税を20%に増税します」、といったストーリーを財務省が考えていても不思議ではありません。
過去の経緯を踏まえるならば、消費税の増税は国内の消費活動に直接の打撃を与えることで消費を委縮させ、却って経済を停滞させ、財務省様が大好きな「財政再建」とやらを遠ざけて来たのではないでしょうか。
まさに、「何とかの一つ覚え」、というやつでしょう。
(※日本で一番頭が良いとされる某大学出身者が多いとされている財務省の官僚様を「何とか」と呼ぶのに違和感を抱く方もいらっしゃるとは思いますが、残念ながらその財務官僚の皆さまの多くは経済官庁でありながらマクロ経済学の基本を理解されているようには見受けられません。)
過去の消費税の増税を振り返る
さて、過去の消費税の増税局面を振り返るうえで、図表2を書き換えてみましょう。
消費税が3%から4%に引き上げられ、あわせて1%の地方消費税が創設され、合計税率が5%になったのは1997年4月のことですが、1996年から2003年頃までの「実質季節調整GDP成長率・年換算値」を示したものが、図表3です。
図表3 実質季節調整GDP成長率(年換算値)
(【出所】内閣府ウェブサイトデータより著者作成)
また、消費税の税率が4%から6.3%に、地方消費税の税率が1%から1.7%に、合計税率が5%から8%に引き上げられたのは2014年4月のことですが、同様に2013年から2017年頃までの「実質季節調整GDP成長率・年換算値」を示したものが図表4です。
図表4 実質季節調整GDP成長率(年換算値)
(【出所】内閣府ウェブサイトデータより著者作成)
1997年の増税時には、ちょうど不良債権問題がピークをつけ始めていたという事情もあり、プラス成長、マイナス成長と「一進一退」状態にあったことがよくわかります。
また、2013年以降は日銀の異次元緩和局面とアベノミクスによる景気上昇のため、成長率はプラス基調を維持していたものの、やはり2014年4月の「野田佳彦増税(※)」がなかったとしたら、さらに成長できていたのではないかという気がしてなりません。
(※なお、「野田佳彦増税」とは、2014年4月の増税が野田佳彦元首相の時代、自民党、公明党、当時の民主党の3党が合意して成立した消費税法改正案に基づいているため、当ウェブサイトではこのように呼称している、という次第です。)
この点、前政権を率いた安倍晋三総理は、「野田佳彦増税」で定められていた、2015年10月からの増税を、衆院解散などを伴い、結局は2019年10月に延期することに成功しました。ただ、それでも結局、消費増税を阻止することはできませんでした。
これについては当ウェブサイトでは普段から報告しているとおり、安倍総理、あるいは副総理兼財相の麻生太郎総理の責任というよりはむしろ、「財務省の力が強すぎるためだ」という仮説を個人的には抱いている次第です。
そして、コロナ不況で財務省が焼け太るという事態こそ、いま個人的には最も恐れている次第です。
コロナ・消費税不況
日本経済にとっての最大の問題点とは、大きすぎるデフレギャップを解消する目処が立っていないことにあります。よく勘違いしている人が多いのですが、「借金=悪」、ではありません。とても当たり前のことですが、あなたにとっての金融資産は、他の誰かにとっての金融負債です。
たとえば、あなたはM銀行に100万円の預金を預けているとしましょう。それはあなたにとっての金融資産です。ところが、その100万円の預金、M銀行から見れば「あなたから借りた金融負債」です。
つまり、一国においては、「誰かにとっての金融資産は、他の誰かにとっての金融負債である」という状態が出来上がっており、「閉鎖経済」の前提を置けば、国中の金融資産の総額と、国中の金融負債の総額は一致するのです。
「国の借金」(正しくは「中央政府の金融負債」)についてもこれと同じことが言えます。一国全体の資金循環バランスで読まなければなりません。それを読むために最適なツールのひとつが、日銀が公表する「資金循環統計」と呼ばれる統計データです。
(この資金循環統計に基づく現状分析については、『家計資産2000兆円達成間近!コロナ減税こそが正解』や『「国の借金が過去最大」?むしろ国債増発と減税が必要』などでも議論していますので、是非、ご参照賜りますと幸いです。)
その意味で、現在の局面は「コロナ不況」ではなく、「コロナ・消費税不況」と正しく呼び替えるべきであり、当然、その処方箋も「ワクチン」だけでなく「消費税の減税(あるいは消費税法の廃止、財務省の解体・廃止)」ではないかと考える次第です。
(このあたりについては今後も引き続き当ウェブサイトで取り上げていく所存です。)
View Comments (6)
>「コロナのおかげで消費税の増税の影響をごまかすことができた」
姑息な財務省、もう緊縮財政はやめてくれ。
財政拡大、消費税減税が必要なときに、復興税などど、馬鹿なことはしないでくれ。
今年はきっと、経済不況が原因で、自殺者が急増するぞ。
未だに成長軌道に乗れない原因は消費税を含めて行政機構に原因があるのかもしれませんね。
成長戦略の柱である規制緩和も遅々として進みませんし。
財務省、総務省、厚生労働省など行政組織がこのままで良いのか再度見直す必要があるのでは無いかと思います。
コメント少ないですね。皆さん経済には関心ないのかな。個人的には日本の最重要問題だと考えているのですが。
問題は理解しても、財務省をどうこうできる手段が全く思いつかない。
よって話すことがなにもない。
名無しのPCパーツさんへ
返信ありがとうございます。
>財務省をどうこうできる手段が全く思いつかない
まあ全くその通りかもしれませんが、それでも何とかしないと日本は衰退しますよ。現に衰退しています。
今日の自民党財政再建推進本部も財務省の「ご説明」に負けて基礎的財政収支の黒字化目標を堅持するよう提言することが決まってしまいました。
政治主導の財政再建、という形を取らされたのです。
自民党の政治家に財政再建を目的としないよう働き掛けることを三橋貴明は呼び掛けていましたが。まあ私も働き掛けはしていないのですが。
国防を直接的に支えるのは軍事力つまり軍が装備している兵器とそれを扱う兵士の練度と指揮能力ですが、十分な装備兵器を買い揃えて維持を可能とするのはその国の経済力ですからね。
財政再建という本来は不要な事柄を「目標」として設定し、その目標達成のための度重なる増税と地方切り捨てや「民営化」そして中流階級解体によって日本の経済力を根底から毀損すれば、日本の国防も成り立たなくなります。無論、自国の防衛すら成り立たないので台湾有事でも日本は指を咥えて眺めているだけしか出来ません。
今の調子で財務省の言う通りにしていれば、尖閣諸島はおろか南西諸島、少なくとも米軍が駐留する沖縄本島よりも大陸寄りの八重山諸島や宮古島列島までが人民解放軍の支配下に入るのは、そう遠い将来のことではなくなってしまうでしょう。
徴税は社会保険料徴収と統合して歳入庁として財務省の外局でなく組織的にも人的にも切り離し、また予算編成権も財務省から剝奪して切り離し、共に国民が選んだ政治家の代表としての内閣が直接に管轄する形に改める必要があります。それが本当の民主制というものです。
その体制で税金の集め方や使い方に関してクズな事態となれば、それは内閣を選んだ我々日本国民自身がクズあるいは馬鹿であることの結果ですから仕方ありません。