日本外交に転機、FOIPが中韓より上位に=外交青書
日本政府は自由で開かれたインド太平洋(FOIP)とそれにコミットする国などを、中韓よりも重視する意向を示したようです。外務省は本日、今年版の外交青書の全文を公表しましたが、その冒頭部分を読むと、FOIPが米国の次に位置付けられ、あからさまに中韓両国がFOIPから除外されているのです。
目次
今年の外交青書が公表される
外務省は本日、令和3年版の外交青書の全文を公表しました。
外交青書第64号(2021年/令和3年版)【PDFファイル※大容量注意】
―――2021/04/27付 外務省HPより
リンク先はPDFで322ページという膨大なものですが、本稿ではその冒頭部分の概要について、気になった部分を読んでみたいと思います。
日本にとってFOIPが「米国の次」に!
まず目についたのは、「日本外交の七つの重点分野」とする節です。
日本外交の七つの重点分野
- ①日米同盟
- ②自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の推進
- ③中国・韓国・ロシアといった近隣諸国
- ④北朝鮮をめぐる諸懸案
- ⑤中東情勢
- ⑥新たなルール作りに向けた国際的取組の手動
- ⑦地球規模課題への対応
(【出所】外交青書P20を著者要約)
じつは、昨年は『地球儀を俯瞰する外交』の一節に「日本外交の六つの重点分野」というものが設けられていたのですが、今年は『地球儀を俯瞰する外交』という表現がなくなったかわりに、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)が日米同盟の次に来ました。
日本がどれだけFOIPを重視しているかという証拠でしょう。
そして、このFOIPの部分を読んでいくと、次のような趣旨の記載があります。
- インド太平洋は、世界人口の半数を擁する世界の活力の中核であると同時に、各国の「力」と「力」が複雑にせめぎ合い、力関係の変化が激しい地域でもある
- この地域において、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を実現し、地域全体、ひいては世界の平和と繁栄を確保していくことが重要である
- この構想は今や、米国、オーストラリア、インド、ASEAN、欧州の主要国とも共有され、国際社会において幅広い支持を得つつあり、様々な協議や協力が進んでいる
このFOIPに中国、韓国、ロシアの名前はありません。
つまり、現在の日本政府から見て、中国、韓国、ロシアの3ヵ国は「非FOIP諸国」として外交の優先順位が下がった、ということでもあります。また、昨年は「北朝鮮をめぐる諸懸案への対応」が日米同盟の次に来ていましたが、これが4番目に繰り下がったのも興味深いところです。
つまり、外交青書の順序だけで見れば、日本から見た優先順位はつぎのとおりです。
- ①米国
- ②豪州、インド、ASEAN、欧州諸国
- ③中国、韓国、ロシア
- ④北朝鮮
- ⑤中東その他
もちろん、現実にASEANや欧州諸国がFOIPに無条件にコミットしているわけではないという点を踏まえると、今回のFOIPの扱いには若干「先走り」感がないではありませんが、それでもFOIPを中韓などより上位に持って来て、かつFOIPから中韓を除外して見せたのは、興味深い点です。
中国:「習近平訪問」が欠落し、対決姿勢を強調へ
次に、優先順位が「クアッド」やASEAN、欧州よりも下に位置付けられた中国の扱いを見ておきましょう。
外交青書は中国について、毎年、「東シナ海を隔てた隣国である中国との関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つ」と位置付け、安定した日中関係などの必要性に言及しています。
これについて、昨年の外交青書では、こんな記述が確認できました。
「首脳・外相を含むハイレベルでの対話が活発に行われ、『日中新時代』に向けて日中関係を新たな段階へ押し上げていく一年となった。また、両国の首脳・外相相互往来のほか、議会間・政党間交流も活発に行われ、各分野における日中間の実務的な対話と信頼醸成が着実に進められた」。
しかし、今年の外交青書では、この記述が欠落し、次のような趣旨の記述が登場しました。
- 中国との間には、様々な懸案が存在している
- 引き続き首脳会談や外相会談などのハイレベルの機会を活用して、主張すべきはしっかりと主張し、中国側の具体的行動を強く求めていく
- 東シナ海で継続・強化される中国による力を背景とした一方的な現状変更の試みは断じて認められない
- 関係国との連携を強化しつつ、日本の領土・領海・領空を断固として守り抜くとの決意の下、冷静かつ毅然と対応していく
いわば、協力すべきは協力しつつも、現在のような侵略は認めない、という姿勢です。
また、昨年の外交青書には記載があった「習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席の国賓訪問の日程調整」、「東シナ海を『平和・協力・友好の海』とすべく、中国との意思疎通を強化していく」といった表現も欠落しました。
外交青書を前年と比べるだけで、日本政府の中国に対する姿勢が硬化したことが一目瞭然、というわけですね。
韓国は扱いがさらに軽くなる
一方、韓国に関しては、昨年版の外交青書では、日韓関係についてさまざまな具体的懸案を列挙していました。日本政府の韓国に対する苛立ち・怒りが透けて見えるという意味では、珍しいほど強い文章です。少し長くなるのですが、昨年の記述を紹介しましょう(文字数をカウントすると392文字です)。
「韓国は、日本にとって重要な隣国であり、日韓両国は、1965年の国交正常化の際に締結された日韓基本条約、日韓請求権・経済協力協定その他関連協定の基礎の上に、緊密な友好協力関係を築いてきた。しかし、2019年は、前年に続き、旧朝鮮半島出身労働者問題に関し韓国が依然として国際法違反の状態を是正していないことを始め、日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の終了通告(ただし、後に終了通告の効力を停止)、慰安婦問題に関する「和解・癒やし財団」の解散に向けた動き、韓国国会議員などによる竹島上陸や竹島における軍事訓練、竹島周辺海域における韓国海洋調査船の航行、東京電力福島第一原発の処理水に関する韓国側による非建設的な問題提起など、韓国側による否定的な動きは止まらず、日韓関係は厳しい状況が続いた。このような中、日韓間では、12月には、1年3か月ぶりとなる日韓首脳会談を実施したほか、頻繁に外交当局間の協議を行った。」
…。
いかがでしょうか。
「韓国は日本にとって重要な隣国」という冒頭の一文、末尾の「日韓首脳会談・外交当局間協議」の記述を除くと、それ以外はすべて、韓国の非常識な行動、国際法違反、約束違反などを列挙して批判するものばかりです。
とくに、「東京電力福島第一原発の処理水に関する韓国側による非建設的な問題提起」の記述、これを執筆した担当者の怒りがひしひしと伝わってきます。
これが、どう変わったのでしょうか。
「韓国は重要な隣国であり、北朝鮮への対応を始め、地域の安定には日韓、日米韓の連携が不可欠である。しかしながら、2020年以降も、旧朝鮮半島出身労働者問題や慰安婦問題などにより、日本側にとって受け入れられない状況が続いている。特に、2021年の元慰安婦等によるソウル中央地方裁判所における訴訟に係る判決確定は、国際法及び日韓両国間の合意に明らかに反するものであり、断じて受け入れることはできない。日本政府として、両国間の問題に関する日本の一貫した立場に基づき、国際法違反の状態の是正を含め、今後とも韓国側に適切な対応を強く求めていく。」
たった、これだけです。
文字数にして、259文字に減りました。韓国に対して肯定的な表現は冒頭の一文のみであり、それ以外はすべて「受け入れられない」、「適切な対応を強く求めていく」など、否定的な表現のみです。
地域別に見た外交でもFOIPが繰り上がる
次に、外交青書の第2章が『地域別に見た外交』ですが、昨年の第2章『地球儀を俯瞰する外交』と比べると、章タイトルも変更されましたが、節の順序も変更されました。
昨年は第1節が「アジア・大洋州」で、以下、「北米」、「中南米」、「欧州」、「ロシア、中央アジアとコーカサス」、「中東と北アフリカ」、「アフリカ」だったのが、今年は第1節に「『自由で開かれたインド太平洋』の推進」が設けられたのです。
そのうえで、FOIPの節に、米国、ASEAN、豪州、インド、日米豪印、欧州の項がそれぞれ設けられ、改めて概要が示されている、というわけです。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
個人的には、安倍総理が辞任したときの最も大きな懸念が、日本の外交が再び無原則な「事なかれ主義」に陥っていくことだと考えていました。ただ、外交青書の冒頭の部分を読んだ限りにおいては、こうした懸念はとりあえずは杞憂だったと考えて良いと思います。
むしろ、中国や韓国を押しのけてFOIPが上位に押し上げられたのは、日本外交が「単に地理的に近い国となあなあで仲良くしましょう」という姿勢を脱却したと評価したいと思います。
地理的に近い中韓ではなく、わざわざ地理的にはそれよりも離れたASEAN、豪州、インド、欧州、米国を上位に持ってきたのは、そうすることが日本にとっての「生きる道」であることを、日本外交が認識したという証拠です。
なにより、中国がチベット、ウイグル、香港などの人権弾圧を強めるなか、習近平・中国国家主席を私たちの大切な天皇陛下の賓客として迎え入れるようなことがあってはなりませんし、厳しさを増す東アジア情勢において、尖閣問題に安易な妥協をしてはなりません。
さらには、中国による台湾侵攻の脅威が現実味を帯びてくるなか、日本が志を同じくするクアッド諸国やファイブアイズなどと強く連携し、自由で開かれた海洋秩序を断固として守る決意を示すことは、現在の国際情勢下では最優先で取り組まねばならない課題のひとつでしょう。
もちろん、現状でASEAN諸国のすべてがFOIPにコミットしているわけではないこと、「ファイブアイズ諸国」のなかでも微妙な温度差があることなどを踏まえると、現状で「自由主義陣営」対「無法国家陣営」、という単純な図式が出現しているわけではありません。
しかし、少なくとも外交青書の取扱いでFOIPが大きく格上げされたことについては、後から振り返れば「日本外交の大きな転換点だった」と評価されるのではないでしょうか。
View Comments (8)
大体ここで議論されている事が、間違っていない事を裏付ける内容だと思います。
韓国は竹島の記載について公使を呼んで抗議したようですが、日本政府が、韓国の外交ポジションを格下げしたとの記事は、まだ有りません。
韓国の外交ポジションの格下げは、昨年末あたりから目に見えていました。ASEAN以下というのは、最近ハッキリしてきたように思います。
外相会談が行われない、新任大使が外相と面談出来ない事から、私は大臣マター未満の扱いになったと思っています。そして事務レベルで韓国が国際法違反を是正するまでは、レベルが上がる事は無いでしょう。
韓国は、国際法違反を認める事、またそれを是正する事は有りませんので、永遠に韓国が大臣マターに戻る事が、あり得ないと同じ事です。
また、時間の経過と共に韓国側からの嫌がらせが強まる事や、米韓関係の悪化が予想されますので、外交的な将来には、暗雲が立ち込めているという事です。
>「韓国は日本にとって重要な隣国」
公式文書なので刺激的な表現は抑えられていますが、本音は
「(日本を仮想敵国とする)韓国は(中国に対すのと同じく重大な懸念を要する)重要な隣国」
と違いますか。
(警戒)重要な隣国。
でないですかね。同じ意味ですが。
なぜ、どのように重要なのかが無いところが、それこそ重要なのだと思います。
「韓国は日本の隣国」では単に地理的事実を言ってるだけです。
何かしらの修飾語というか評価コメントが必要だったのでしょう。
いくらなんでも「無くて日本は困らない隣国」と書いては無礼というか、率直すぎますし、中共属国扱いでなく「隣国」としたのが、せめてもの最後の温情なのかなと思います。
安倍総理が提唱した、自由で開かれたインド太平洋という、世界に通用する思想が、
しっかり生きているのは歓迎すべきことですね。
しばらくは、これを中心とした、中国への対処が、世界の大きな課題となるでしょう。
韓国さん、大事なことだから、もう一度言いますよ。
自由で開かれたインド太平洋は、対中国の課題を解決するためのものであり、
安倍総理が提唱した、
韓国で最上位に君臨する売春婦を締め出した、安倍政権が提唱したものなのですよ。
ワクチン確保のために入ろうなどと、打算で考えてはいけませんよ。
(参考資料: "安倍政権、韓国人売春婦を締め出しか ワーキングホリデー制度悪用者を相次ぎ強制送還" (zakzak by 夕刊フジ 2014.06.28))
更新ありがとうございます。
安倍晋三総理の基本的な構想がそのまま精度を上げているのは、歓迎すべき事ですね。
中でも米国の次にFOIPが来るとは、日本も思い切った表現を行い、旧来型の大物政治家、企業人らの媚中、親韓派の抑え込みがようやく整いつつあるようです。日本、米国、豪、印のFOIPと、ASEAN、欧州諸国でまずはタッグを組む。
青書を読めば分かりやすい。中韓北露は敵性国、じっくり考えて一手ずつ攻略しないといけません。韓がコチラ側では環が綻びる。またFOIPもFIVEとかSIXとかにならないかなと、期待してしまいます。
記事の趣旨とは外れますが、チベットが出てきたので。
先ごろ、人民解放軍で「チベット人部隊」が編制され、標高5,000mほどになる中印国境の守備隊にするようです。高所の適応能力を買われてだとか。
すでにインド側では60年程前のチベット蜂起以降に亡命したチベット人らによる部隊が居るため、これでチベット人同士が大国間の最前線で戦い合う事に。インド側はインド軍所属ではなく政府付きで、CIAが訓練関与していたそうですが。
中国は「チベットは中国領で国内問題だ」として憚らないですが、こちらにもFOIPの流れで風穴を開けて欲しい。
QUADやFOIPは中国の覇権を阻止する枠組みであり、(首尾よく)覇権争いに勝ったのち、このQUADやFOIPが新たな世界秩序を決めていくことになります。
だから、欧州の先進国、特にイギリスなどの関心も高いわけです。
いうまでもなく日本は二次大戦後に敵国として管理され、大きな苦労を強いられてきました。
次は正確な判断をして日本と日本人が国際社会の中で正当に評価されるポジションに立ってほしいと思います。
韓国はどうでもいいです。
QUADもFOIPも中心に日本がいるので輪の中に入ってこれないでしょう。
反日で快感をむさぼってきたつけを払うべきですね。
中韓除外に反対している勢力がある。
2021年04月27日、韓国の経団連といわれる、あの『全国経済人連合会』が主催する「2021新韓日関係のための二国間協力方案」というセミナーが行われました。
このセミナーには日韓議員連盟も参加しており、日本からは二階俊博自民党幹事長もビデオ画像ながら参加し、祝辞と共に日韓の協力について述べたとのこと。そしてまたぞろ
韓国の経団連が「日韓通貨スワップ」とか東アジア経済ブロックの構築とか言っている
自民党の幹事長が 外交青書と反対の運動を先導しているとは 驚き。
https://money1.jp/archives/50321より抜粋]