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【悲報?朗報?】消滅の危機に瀕する義理チョコの奇祭

一時期、インターネット上で「特定義務的菓子贈答禁止法」なる架空の法律が議論されていたことがありあります。これは、2月14日に特定義務的菓子(チョコ)を贈与することを包括的に禁止するという法律です。もちろん、現実にはそんな法律、存在しないのですが、その一方で今年も「3大奇祭」のひとつである「義理チョコの日」が到来します。しかし、今年はちょっと様子が異なるようですよ。

今年も奇祭がやってきた!

2月14日といえば、わが国において特定商品が飛び交う日としても知られています。こうしたなか、当ウェブサイトでは次のとおり、例年、その当日にこの問題を議論してきました。

ただし、今年は2月14日が日曜日に該当しているという事情もあり、少し早いのですが、この重要な論点について議論させていただこうと思う次第です。

特定義務的菓子贈与禁止法

毎年のことですが、今年も「特定義務的菓子贈与禁止法」が規定する「特定菓子の提供の禁止」に相当する日付が到来するようです。

特定義務的菓子贈与禁止法 第1条

この法律は、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情を催させる目的で特定日に特定菓子を贈与することを禁止することにより、社会の健全な秩序を維持し、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

(【出所】著者作成)

「特定義務的菓子贈与禁止法」とは、「政令で定める特定日」において、「政令で定める特定菓子」を、「特定の者に対する恋愛感情その他の行為の感情を催させる目的」で提供することを包括的に禁止する法律のことです。

この点、「特定義務的菓子贈答禁止法施行令」第3条によれば、「政令で定める特定日」は「2月14日」と「3月14日」とされており、「特定菓子」は2月14日に関しては「食品表示基準」別表第1第10号に定める「チョコレート類」などが指定され、3月14日に関してはこれに加え、もう少し広範に、同第11号に定める豆類(あん、煮豆、豆腐など)が指定されています。

なお、具体的な禁止品目は、次のとおりです(特定義務的菓子贈答禁止法施行令第3条、食品表示基準別表第1等)。

特定義務的菓子贈答禁止法において贈与が禁止される品目
  • 2月14日において…ビスケット類、焼き菓子、米菓、油菓子、和生菓子、洋生菓子、半生菓子、和干菓子、キャンデー類、チョコレート類、チューインガム、砂糖漬菓子、スナック菓子、冷菓、その他の菓子類
  • 3月14日において…上記に加えて、あん、煮豆、豆腐・油揚げ類、ゆば、凍り豆腐、納豆、きなこ、ピーナッツ製品、いり豆、その他の豆類調製品

おそらく第11号製品が指定されている理由は、豆類の調製品(いわゆるドラえもん焼きなど)などのスイーツを排除するためと考えられます(著者試験)。

また、この法律に反して特定日において特定菓子の贈与を行った者には6ヵ月以下の禁固または50万円以下の罰金(※併科されることもあります)、2月14日に特定菓子の贈与を受けた者には死刑または無期懲役が科せられることもあります(同法第378条)ので気を付けてください。

当ウェブサイトの読者の皆様におかれましては、くれぐれも特定義務的菓子贈与禁止法の趣旨を理解のうえ、2月14日と3月14日においては適切な行動を講じるようお願い申し上げる次第です。

今年も奇祭がやってきた!

…。

という架空の法律の話題は冗談として、毎年2月14日は「バレンタインの日」、つまり英語で “Baren-Tain-no-Hi” 、3月14日には「ホワイトデー」(翻訳者にもよるものの、一般に英語では “the Japanese ‘Whites’ Day’” )と呼ばれています。

これは、日本が誇る3大奇祭のひとつで、バレンタインの日については諸説ありますが、ホワイトデーについては1970年代に日本で発症発祥したらしい、というのが通説です(ちなみにもうひとつの奇祭は、12月25日にチキンとケーキを食べるという、日本独特のお祭りです)。

このうちバレンタインの日とは、神戸の洋菓子店が戦前に「バレンタインチョコのキャンペーンを開始した」という説や、戦後に新宿のデパートでチョコレート会社が「バレンタインセール」を行ったという説など、いくつかの説はあるようですが、ひとつだけ確実なことがあるとしたら、「日本発症発祥である」という点でしょう。

とくに現代の日本において「バレンタインの日」は、①女性が好きな男性にチョコレートを贈与することで愛の告白をする、②女性が夫、父、息子、職場の男性などに対し、何らかの嗜好品(菓子)を義務的に贈与する、③男女・恋愛感情と無関係に、特定菓子が贈与される、といった奇祭です。

また、「ホワイトデー」ないし「ホワイツデー」とは、2月14日に食品を贈られた者(主に男性)が、返礼として贈与者(主に女性)に阿知氏、何らかの商品ないし有価物を贈与するという奇祭のことで、一般に贈与されるものの目安は2月14日に受領したものの市場価格の3倍であるとされるようです。

ちなみにここでいう「特定義務的菓子」は、多くの場合、「チョコレート」です。

総務省統計局『家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)』によると、たしかに家計の品目別支出額におけるチョコレートの消費額は、毎年2月に集中しています(図表)。

図表1 総務省家計調査「二人以上の世帯」における特定義務的菓子の支出額

(【出所】総務省統計局『家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)』の『全品目(2015年改定)・月次データ』より「352.チョコレート」、「353.チョコレート菓子」を集計)

逆にいえば、チョコレートメーカーにとっては、毎年、この時期にチョコレートを仕込む必要がある、というわけです。

とくにわが国においては、野生のチョコレートの生息数が激減することでも知られており、畜産業者はこの日に備えて養殖物のチョコレートを育てているという話も聞いたことがないわけではないような気がするようなしないような感じです。

世界に広がる奇祭

ただし、これらの奇祭が始まったのはいずれも日本ですが、現在ではアジア各国(台湾、韓国、中国、東南アジア諸国など)にも広まっているほか、欧米にも「逆輸入」されているという情報もあります。

「逆輸入」というのは、欧米諸国ではもともと、(国にもよりますが)2月14日は聖人ウァレンティヌスValentinus(英「セイント・ヴァレンタイン」、仏「サン・ヴァランタン」、伊「サン・ヴァレンティノ」)の祝祭とされていたからです。

ちなみにこの聖ウァレンティヌスの祝祭は、もともとはチョコレート奇祭、すなわち「女性が男性に特定菓子を贈与する祭り」ではなかったようですが、19世紀に英国でハート形のチョコレートボックスが販売されたことが変質して日本に伝播し、いつの時点からか、チョコレートが飛び交う日と化してしまった可能性がありそうです。

なお、一部では、「台湾の場合はバレンタインの日に男性が女性に何らかの金品を贈与し、ホワイツデーに女性が男性に返礼を行うことが一般的だ」、といった情報もあるのですが、この点に関しては当ウェブサイトとしてはまだ確認が取れていません。

絶滅危惧種としての義理チョコ

こうしたなか、この奇祭を維持しようと努力している人たちにとっては、非常に由々しき話も聞こえてきました。

武漢コロナ、武漢肺炎の蔓延の影響もあり、日本が誇る奇祭「義理チョコ」文化が今年で消滅の危機に瀕している、というのです。

【2021年バレンタイン調査】「義理チョコを贈らない」が68%、義理チョコ文化は今年で消滅!? 今年のトレンドは「コロナで会えない中、大切な人にだけこだわりのギフトを」

―――2021年1月26日 13時00分付 PR TIMESより

リンク先記事によると、株式会社クリーマが実施した「バレンタインに関するアンケート」では、「今年のバレンタインでは義理チョコを贈らず、夫、恋人、家族など大切な人に想いを込めた特別なギフトを贈りたい」というトレンドが見えてきたのだそうです。

具体的には、コロナ禍でもバレンタインのギフトを贈る予定だと答えた人は全体の84%に達したものの、そのうち「義理チョコを贈る予定はない」と回答した人は、じつに68%にも達したそうです。

また、主な送り先は「▼夫・恋人(78.5%)、▼子供(36.9%)、▼親・兄弟姉妹・祖父母(34.3%)」で、ギフトを選ぶ際に重視することは「▼相手の欲しいもの・好きなもの(66.8%)、▼おうち時間を楽しめるもの(11.2%)」など、「コロナ禍ならではの回答が多数見られた」のだとか。

いずれにせよ、義理チョコメーカーとしては深刻な経営危機、というわけです。

義理チョコが絶滅すれば、影響は確かに甚大です。

恵方巻き、クリスマスケーキ・クリスマスチキンなどと並び、昭和期から平成期にかけて発症発祥した「特定の食品を食べる奇祭」のうち、ひとつが絶滅してしまいかねないわけですから。

なお、参考までに、先ほどの図表1について、「チョコレート・チョコレート菓子」を「ケーキ・鶏肉」に入れ替えたものが、図表2です。

図表2 総務省家計調査「二人以上の世帯」におけるケーキ、鶏肉への支出額

(【出所】総務省統計局『家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)』の『全品目(2015年改定)・月次データ』より「344.ケーキ」、「222.鶏肉」を集計)

本当にわかりやすいですね。

ホワイトの日って…

なお、これも毎年議論している話ですが、20世紀後半以降、「バレンタインの日」の1ヵ月後に該当する3月14日のことを「ホワイトデー」と呼ぶことについては、昨今では欧米圏でも認知されているようです。

しかし、英語に詳しい知人の説明によると、もともと “white” を形容詞として使う場合は、物質名詞を伴う必要があるそうです。しかし、この知人曰く、 “day” は物質名詞ではなく抽象名詞であるため、「白い日」という意味で “white day” と呼ぶことは英語的に「あり得ない」のだそうです。

したがって、 “the White Day” ないしは “the Whites’ Day” と表現した場合、 “White” が形容詞(「白い」など)ではなく名詞(「白人」など)として認識され、「白人のための記念日」といったニュアンスで伝わってしまう、というのがこの知人の指摘です。

本当でしょうか。

このあたり、個人的にはさほど英文法に詳しいわけではないので、むしろ詳しい方がいらっしゃれば教えていただきたいと思います。

新宿会計士:

View Comments (23)

  • この奇祭は、
    古くからある、豆まきや七夕の風習と同じようなものだと思っています。
    世の殿方(特に菅総理あたり)には、血糖値(決闘値)を上げて、英気を養って欲しい日でもあります。

    バレンタインデーはともかくとして、ホワイトデーは、なんで今日なの?('why today' )って気がしなくもないんですけどね。

    「想いをお返しする」のなら、早いに越したことは無いのかと・・。
    ぐずぐずしてると、いいご縁から無くなってくものなのだし・・。

  • 更新ありがとうございます。

    「バレンタイン」商戦、有名店やデパート、大手量販店では今年も好調なのか、既に棚に商品が無くなっている人気アイテムもあるようです。

    特に追加オーダーの効かない欧州モノ、ベルギー、スイス、フランス等の誰もが知ってる(私は疎かったんですが、若い頃仕事上、少し詳しくなりました)人気品番は、売り切れも出てますね。商戦的には売上は、今日11日が一番のピークかな。

    女子中学高校生、大学生らは「友チョコ」と呼ばれる手作り品を交換したりしてます。「義理チョコ」は本当に減りましたね。もちろん本命の彼には心を込めて作ります(コレが1カ月後、何倍の価値を産む!)。

    小さいお子様はお母さんが手伝ってあげる。チョコは手作り専用の板チョコで、少し砕いたものを湯煎等で溶かし、ハート型や星型のカップにはめる。

    トッピングなどで可愛くして、別売のキラキラ包装袋やオーガニックの包装紙で包み、一言「愛」「感謝」を伝える。箱に入れて完成。そこの貴方!こんな時に付箋紙を使ってはいけませんヨ!(笑)

    ところで今年はコロナ禍で下火との事ですが、貰う方としては、義理チョコや付き合いの少ない方に貰っても、d( ̄  ̄)ーーーありがた迷惑な男性も多いでしょう(笑)。

    その為、女性も本命や二番手、三番手、旦那や息子さんにはチョコはほんの少しだけ、メインに財布、小銭入れ、ストール、マフラー、手袋、ペン、ハンカチ、靴下、ネクタイ(COOL BIZで殆ど死滅)を同時にプレゼントしてます。

    こんなの2、3個貰ったら、来月の小遣いぜんぶ注ぎ込んでも足りませんネ(爆笑)。現役時代、私は最高(最低)24個いただきました(悲)。3月、4月は泣いて暮しました。

    机の上は甘〜い臭い。誰かにお裾分けする訳にもいかず、分けて持ち帰りました。ちなみに今は2〜3個の義理チョコのみ。平穏ですわ(笑)。

  • > とくにわが国においては、野生のチョコレートの生息数が激減することでも知られており、畜産業者はこの日に備えて養殖物のチョコレートを育てているという話も聞いたことがないわけではないような気がするようなしないような感じです。
    【野生のチョコレート】笑【畜産業者】笑

  • >the White Day” ないしは “the Whites’ Day” と表現した場合、 “White” が形容詞(「白い」など)ではなく名詞(「白人」など)として認識され、「白人のための記念日」といったニュアンスで伝わってしまう、というのがこの知人の指摘です。

    ご指摘のように、白いセーター、青い空、赤い太陽等は存在しますが、「白い日(白い、いち日)」は存在する事は出来ず、言語学的には間違った表現ですね。
    「Whites’ Day」だと「白い物の日」又は「白い奴の日」になるのは必然です。
    ただ、Blue Man Gluep という有名なパフォーマンスグループもあるので(青い人間は存在しない)、絶対に理解して貰えない、ということもないかと私は推察します。

    私は流通小売業に従事しておりますので、恵方巻やハロウィン商法にも個人としては辟易する思いですが、大きな売上を生み出すイベント、もう、あとには戻れません。
    クリスマスもそうですが、「善」なるものは拒否しない日本人の特質とご理解して頂くしかないと思います。

    • 数年前から4月頃のスーパーのお惣菜に、さりげなく「イースター」のシールが貼られているのを見かけるようになりました。コロナが収まった頃には、またひとつイベントが増えているのでしょうか…

      • 実は⋅⋅⋅そうなんです。そういう動きはあります。
        ハロウィンもここまで大きなイベントになるとは思ってませんでした。
        ただ何を主力に売るのかは具体策は決まっておりません。イースターは宗教的意味合いが強く、イースターにはこれを食べる、というのも国によってかなり違うのでアピールしにくいというのはあります。
        謝肉祭というのも有りますが、これはどうかご自分でwiki等でお調べ下さいね。
        今が真っ最中のはずですが。

        • ウィッキーさん、もとい、Wikipediaを見てみました。イースターは卵と兎なのですね。前者は出汁巻き玉子にイクラ数の子として、兎肉は厳しいそう。鳥取銘菓の出番でしょうか。謝肉祭は藁にくるんだ納豆?
          …イベントの新規開発はなかなか難しいですね…

  • 特定義務的菓子贈与禁止法・・・よくできた法案です。www
    政府も抜け穴だらけの 無意味な法案ばかり作らず こうした法案を作るぐらいの度量のある政府になってもらいたいものです。どうも最近世界中で強権国家への歩みがとどまることを知りません。多分健全な声なき声の国民の減少が根本原因でしょうか。

  • ちょっと前までWhites Only のようなお店があった国です。ご友人の指摘は正しいと思います。
    Black, White,Yellow, Brown,Coloredは今でも普通に使われています。Black Lives Matterなんて。 
    イギリスだとWhite British,Other White なんて公式文書でも使われています。

  • いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。

    現状では三大奇祭ですが、近いうちに大の大人がコスプレして街を歩く祭がもう一つの奇祭として加わると思います。

    トリック・オア・トリート。

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、素人が舞い上がってしまうので)
     企業や教会かは別にして、収益のために新たな奇祭を作り出していくのではないでしょうか。それが奇祭のままで終わるのか、習慣として定着するのかは分かりませんが。
     蛇足ですが、そもそもキリストが生まれたのは12月でないという説があります。それが後に12月のクリスマスとして定着しました。(それが何日なのかは、ローマカトリックか、ロシア正教か、それとも別の宗派なのかで違いがあります)
     これこそ、奇祭が形を変えて、定着した一例ではないでしょうか、
    駄文にて失礼しました。

  • 「特定義務的菓子贈与禁止法」なんですけど、残念ながら実効性には乏しいと思うのです♪

    今年なんかは明日2月11日に贈答する訳だけど、そうじゃなくても特定日を避けて贈答するって抜け穴があるのです♪
    あと、罰則をつけてるけど、構成要件の「特定の者に対する恋愛感情その他の行為の感情を催させる目的」の立証が高いハードルとなって立ち塞がるのです♪

    「義理だから、勘違いしないでね」(〃∀〃 )テレッ
    って言って渡すとかして、なんとでも言い逃れができると思うのです♪

    手作りだったら外形的に目的が推定できるかも?って、そんなことはないのです♪
    渡した手作りチョコの温度管理を失敗してて、「恋愛感情その他の好意の感情」とは別の感情を催させる目的を疑われるってオチがついてきちゃうのです(T_T)

    ということで、奇祭も祭りのうちと受け入れる度量を、新宿会計士様はじめ、皆様には持って頂きたいのです♪

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