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日英連携の強化は歓迎も、英国の「勇み足」には要注意

最近になって、「日英連携」に関する話題を目にする機会が増えて来ました。日英両国は地理的に見て、「ユーラシア大陸から微妙に距離のある島国」であるという点に加え、立憲君主国家であり、自由・民主主義・法の支配・人権などを貴ぶ文明国であるという共通点を持っています。こうしたなか、日本は英国とどう付き合っていくべきなのか、最近の報道なども参考に、簡単に考察しておきましょう。

日英の共通点

先日の『FOIP国家に韓国でなく英国が参加することの合理性』や『日英同盟復活を眺める韓国メディア、そして対韓制裁論』などを含め、最近、当ウェブサイトでときどき取り上げている話題のひとつが、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想をもとにした日英連携です。

日本と英国は、いずれもユーラシア大陸から微妙に離れた島国であり、立憲君主国家であるとともに、自由・民主主義・法治(あるいは法の支配)、人権尊重などを尊ぶ文明国です。強いて日英両国に違いがあるとすれば、英国はドーバー海峡トンネルで大陸とつながってしまった、という点でしょうか。

それはさておき、基本的に島国というものは海洋国家として大陸国家からは距離を置くことが多く、また、偶然でしょうか、国が発展している時期は大陸と距離を置いていて、大陸との距離を詰めると国の発展が滞る、という関係にあるように思えてなりません。

(ただし、日本や英国が「大陸から離れたら発展する」、「大陸に近づいたら停滞する」というのは、科学的・学術的研究の結果、一般原則として申し上げたわけではありません。現時点においては、あくまでも当ウェブサイトなりの主観に基づく印象です。)

今から100年前はロシア、現代は中国という「共通の脅威」により結びつきを深めているというのも興味深い共通点であるように思えてなりません。

もっとも、日英両国が偶然、「島国である」、「立憲君主国である」などのさまざまな共通点を持っていることは事実だとしても、人種、宗教、言語、法制度などにおいて、両国には大きな違いもまたたくさん存在しています。

また、かつては日英両国は交戦状態に陥ったこともありますし、現代においても、日本には日本の、英国には英国の利害が存在しています。だからこそ、お互いがお互いの利害関係をちゃんと理解したうえで、お互いを尊重するという姿勢は欠かせません。

いずれにせよ、ユーラシア大陸を挟んだこの2つの島国が、まさに基本的価値と戦略的利益の合致により強く結びつこうとしているのだとしたら、まさに「歴史は繰り返す」、といえるのかもしれませんね。

「1~20の連携」

当ウェブサイトでときどき提唱し、近著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』でも隠れたテーマのひとつに設定しているのが、「1から20の連携」という考え方です。

図表 「1~20の連携」
国の数 同盟ないし連携 参加国
(日本単独)
日米同盟 日米
日米韓3ヵ国連携 日米韓
FOIPクアッド 日米豪印
クアッド+英国 日米豪印英
ファイブアイズ 米英加豪NZ
クアッド+英仏 日米豪印英仏
シックスアイズ 日米英加豪NZ
G7 日米英仏独伊加
11 TPP11 日豪NZなど
15 RCEP 日中韓ASEANなど
20 G20 G7+BRICSなど

(【出所】著者作成)

「クアッド」とはラテン語由来の「4」の表現ですが、同じ表現だと「5」はラテン語由来の「クインテット」またはギリシャ語由来の「ペンタ」、「6」はラテン語由来の「セクサ」またはギリシャ語由来の「ヘキサ」、といったところでしょうか

日本は「重層的な連携」を!

それはさておき、「1」は日本単独ということであり、下手をすると孤立主義にもつながる発想ですので、これは何としても避けねばなりません。

そこで「2」が登場するわけですが、現在の日本にとっての唯一にしてもっとも重要な同盟相手国は、米国です。ただ、日米同盟だけだと、どうしても米国に対する発言力が弱くなりがちですし、ときとして米国から理不尽な要求を突き付けられることもあります。

だからこそ、日本は日米同盟の重層化を図らねばなりませんし、そうすることは日本だけでなく米国にとっても利益があるものです。もちろん、「同盟相手を間違えなければ」、ですが。

そして、日米同盟の延長線で出てきたものが「日米韓3ヵ国連携」であり、東アジアの地域的な同盟が「日中韓3ヵ国連携」です。しかし、これらの枠組みも、結局は日本の国益を最大化するのにまったく役に立ちませんでした。

なぜなら、中国も韓国も、日本と基本的な価値をまったく共有していなかったからです。

ことに中国は経済を政治利用し、今から約11年前にはレアアース禁輸騒動などで日本を困らせて来ていますし、いまだに毎日のように、尖閣諸島周辺海域に公船の侵入を常態化させています。

そんな中国が、日本にとって「連携すべき相手」ではないことは明白でしょう(もちろん、好きこのんで中国との対決を欲すべきではありませんが)。

こうしたなかで出てきたのが、日米豪印クアッドであり、まさに日本にとっては「渡りに船」でもあります。中国や韓国との連携では達せられなかった、「米国以外の基本的価値を共有する国」との本格的な同盟に発展する可能性がるからです。

(※インドが日本と基本的価値を共有しているかどうかについては、若干、議論がのこるところではありますが…。)

英国はどこに出て来るのか?

さて、肝心の英国は、上記「1~20」のどこに出て来るのでしょうか。

この1~20のなかで、最初に出て来るのは、「5」です。

本来、クアッドに対応するのは「クインテット」、あるいは「ペンタ」ですが、ここでは「クアッド+1」と表記しているのが「日米豪印+英」です。また、日本は出て来ませんが、「ファイブアイズ」、つまり「英米豪加NZ」の英語圏5ヵ国の情報共有連携にも英国の姿が確認できます。

次に、「6」、つまり「クアッド+2」と「シックスアイズ」で英国が登場します。ここで「クアッド+2」は「日米豪印英仏」の6ヵ国、「シックスアイズ」はファイブアイズに日本を加えた「日米英豪加NZ」の6ヵ国のことです。

また、「11」(つまりTPP11)の部分で英国の名前は登場しませんが、最近では英国がTPPへの参加を申請したという報道もありましたので、この「11」が「12」に変化することで、日英連携がさらに増える可能性がある、というわけです。

そして、「7」では既存の「G7」、つまり「日米英仏独伊加+EU」のなかで、「20」でも同じく既存のG20という枠組みのなかで、英国が登場します。

つまり、日本にとってもともと英国はG7やG20などでも連携する相手でしたが、さらにはクアッド+1、シックスアイズ、TPPなど、さまざまな局面で連携する相手国のひとつとして急浮上している、というわけです。

とりわけ、クアッドに英国を加えた「ペンタ」、英仏両国を加えた「ヘキサ」などが、FOIPをさらに強固なものにしてくれるのだとしたら、日本にとっても、ほかのFOIP諸国にとっても非常に良い話です。いずれにせよ、重層的な連携は日本の立場を強くするため、歓迎すべきでしょう。

英国の「勇み足」

ただし、ここで英国の「勇み足」があるとすれば、既存のG7の枠組みを拡大しようとしたことかもしれません。これが「D10」と呼ばれるもので、既存のG7にインドと豪州とその他1ヵ国を加えて「民主主義国10ヵ国の同盟」にする、というものです。

昨年、米国のドナルド・J・トランプ米大統領が、G7にロシア、インド、豪州など4ヵ国を招くと表明した際には、日本などの各国は「議長国の権限としてG7以外の国を招待する分には構わない」としつつも、恒久的なメンバー追加には慎重姿勢を示しました。

今回の英国の構想は、まさにトランプ政権のそれにロシアを除外したものでもあります。これに関連し、昨日は当ウェブサイトの読者の方々から、コメント欄で、こんな報道記事を紹介してくださいました(阿野煮鱒様、愛知県東部在住様、大変ありがとうございました。御礼申し上げます)。

「G7拡大」先送りへ 欧州勢から懸念の声―豪メディア

―――2021年02月08日14時16分付 時事通信より

Bloombergの方の記事では、英国がG7に3ヵ国を招く提案を巡って、日本政府が強く反発。「今年のサミットはG7立て直しを目的とすべきであり、招待国との関係の『制度化』を目的とすべきではない」、などと述べた、としています。

興味深いことに、フランス、イタリア、ドイツという「欧州勢」も日本と似た見解を示しており、「複数の欧州の外交官」はG7が「反中国家連合と化し、冷戦時代のような対立構図を強めかねない」などと述べたのだとか。

また、時事通信は昨日付けで配信した記事で、豪メディア『オーストラリアン』を引用する形で、豪州、インドなど3ヵ国を参加させ、G7を事実上拡大させる構想が「先送りされることになった」と報じた、と述べています。

日本政府、G7の枠広げる英国の提案に反対-外交公電で懸念示す

―――2021年1月27日 22:49 JST付 Bloombergより

こちらの記事でも、「G7に参加する一部の欧州諸国が懸念を示しているため」としています。

この「先送り」という表現には多少引っかかります。条件が整えば、D10を推進する、と述べているようなものだからです。

しかし、国際社会における連携を巡っては、発想を柔軟にする価値はあります。

具体的には、英国が当初提唱した「D10」構想はともかくとして、G7に豪州やニュージーランドなど加えた「G8」や「G9」、あるいは英国が名前を具体的に挙げた国以外でも、事実上の民主主義国家である台湾などを連携相手に加えた「新D10」構想は、決して悪いものではないかもしれません。

  • G7…日米英仏独伊加
  • G8…日米英仏独伊加+豪
  • G9…日米英仏独伊加+豪・NZ
  • 新D10…日米英仏独伊加+豪・NZ・台湾

いずれにせよ、いまや、これらの連携の中心には日本がいます。

外交的な立場がここまで強くなったのも、ひとえに安倍晋三総理大臣の置き土産であり、こうした流れについては引き継いでいく価値があることは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • G7の枠組みはヨーロッパの国々にとっては既得権なので、これを動かすのは難しいでしょうね。
    イギリスがヨーロッパの枠組みから外れて、自分の仲間を増やそうというたくらみで、イギリス除くヨーロッパとの激しい対立になると思われます。

    で、例の国笑ですが、G7の枠組みに積極的に引き入れたい国はなく、すぐに立ち消えになるでしょう。
    イギリスにしたって仲間を増やすという自分の企みをぼかす目的であの国を入れただけでしょうね。日本が無視するあの国ですから、イギリスとしてもその枠組みを維持するのは不利と直ぐに気付くでしょう。

    あの国がいなくなった後のG7拡大構想ですけどこれは予想しにくいですね。イギリスの構想にアメリカも日本も異論なくなりますが、ヨーロッパが受けるかどうか、、、

    • フランスやドイツが難色を示したのは、印豪ともにイギリス連邦構成国であり、それに伴ってイギリスの発言権が強くなる(かもしれない)のを嫌ったという説もあるようです。その説に従えば、韓を入れたのは一種の目くらましであるとか。老獪にして狡猾なイギリスのことなので、底意は不明ながら、その位の思惑もあったとしても不思議ではありません。そして、確かに、地理的なバランスをというのであれば、ブラジルあたりを入れた方がまだ説得力があったでしょう。あるいは南アフリカ......は、さすがに無理か(苦笑)。
      いずれにしても、韓国の名前が挙げられたのは、何かのついで以上の理由はなさそうです。

  •  会計士氏は、ひさしぶりに良質の論点を提供してくれたね。以前、おらも「イギリスは仲間だけれど要注意の国」といったトーンで書いてきた。閲覧者諸氏がどのような投稿をするのか興味ぶかい。
     会計士氏は「勇み足」と表現したが、おらはイギリス独特の(19世紀後半に世界の半分を支配した残光)特権意識に起因するわがままだと思う。
     インド、オーストラリア、韓国。インド人は「24時間、イギリスの悪口を言い続ける」といわれるようにイギリスを嫌う。「韓国→日本の」比ではないのかも知れない。インド資本は目立たないようにイギリス企業を買っている。オーストラリアは旧英領だったが、いまはすっかりアメリカに添っている国。
     と、こう考えていくと、イギリスの狙いが「インドで儲けるチャンスがあるかどうか、まずパイプを再構築。オーストラリアと韓国には、もっとイギリスの商品やライセンスを売りつけたい」というあたりではないだろうか。

  • いつも知的好奇心を刺激する記事の配信ありがとうございます。

    皆様に質問です。

    仮に日韓トンネルが出来たとして、ケンチャナヨとポッケナイナイのヒトが作った区間が含まれたこのトンネルを、「皆様は毎日利用」できますか(笑)

    その答えが日本が考えるトンネルへの評価ですね(笑)。

    • すみません。日韓トンネルへの記事につけたつもりで別記事にコメントをしました(謝)

  • 更新ありがとうございます。

    今の日本に(というかだいぶん前から)日米韓同盟や日米韓中グループやら日中韓露グループもあり得ない。

    ことに中国は経済を政治利用し、経済規模や発展が遅れている時は散々『親善』『友好』で騙くらかしてましたが、GNPで日本を抜き、超大国になると南西アジア海域や尖閣諸島周辺海域に公船の侵入を常態化させ、日本の発言を遮ったり、貿易も中国にカネとノウハウが残るような騙しテクを使います。

    G7もクアッドもシックスアイズも、すべてアジアは日本だけなんですネ。やっぱりそれだけ他の国力が弱いか、東洋人なんぞは入れたくないのか(笑)。英国以外のG7特にフランス、ドイツ、イタリアが韓国を恒常的に参加させるのは、反対だという。そら、当然でしょッ!

    英国が韓国も入れようとするのは、日本とは異なる思惑があるんでしょうが、世界11位か12位だかの高い高〜いプライドをくすぐるのには十分ですが、アソコが入ったら、グジャグジャにされます。何を置いても反対です。

    『気をつけよう。シナの奪尖閣と韓国ワクチン』。

  • あろうことか、あの韓国をG7に加えようとしたことを、他のG7加盟国が止めてくれてよかった(笑)。トランプ政権のG7韓国追加の意図を読み間違えたのかしら?ジョークに決まっているでしょう(笑)。

    ちょい前、お話したと思うのですが、欧州は特に英仏というのは、歴史(経験値)がある分、それによる(ずる)賢さが有ります。彼の国を学ぶのは益があるとは思いますが、信じるにはリスクがある。と申し上げました。

    が警戒を怠らずにおればという前提付きなら、利用するメリットが高い相手でもあります。
    久しぶりのご紹介となりますが、日比野庵さんの記事でそこに思い至りましたの。

    インド太平洋地域に関与するグローバル・ブリテン
    https://kotobukibune.at.webry.info/202102/article_9.html

    参加を狙っているC国を撥ね付けるのに、アメリカがベストなのですが、その参加まで代行を務めるということであれば、適役です。イギリスは、EU離脱で新たな市場を求めています。かつてのイギリスを宗主国としていたTPP加盟国の賛同を得るにも有利かも知れません。甘い・・ですかしらね。

    また、香港の宗主国でもあったイギリスは、一国二制度の約を破ったC国にものを言う権利??があります。アメリカが共産化の悪夢から覚めるまでの代役としてC国包囲網(クワッド)に参加するに適役かも知れません。

    あら、有り体にいうところの、C国への虫よけですね(笑)。

    ただ、しつこいですが、警戒を怠ってはなりません。上品な顔で裏切りが出来る国です。C国包囲網(クワッド)はともかく、TPP参加には条件をつけるベキでしょう。

    思いつくのは、期間限定とか、新規加入国に対する発言権の制限とかです。ほら、試用期間とか言いますでしょう?

    最初の加盟国と権利が同じというのは、しっくり来ませんのよ。