ここ数日、当ウェブサイトではNHK問題について触れることが増えています。ことに、『NHKの「隠れ人件費」600万円のケースもあるのか』などに対しては、多くの方々からNHKのありように対する疑問点などのコメントを頂戴しております。こうしたなか、時事通信などは昨日、NHKが今後3年間で700億円を視聴者に還元するなどと報じていますが、これはNHKを巡る国民の疑念に応えていないという意味で、きわめて不十分と言わざるを得ません。
目次
非常識な人件費
NHK職員に対する帰属家賃の議論
NHKといえば、当ウェブサイトではつい最近も、『NHK職員に対する住宅手当に潜む「隠れ人件費」問題』や『NHKの「隠れ人件費」600万円のケースもあるのか』などで、「隠れ人件費」疑惑をテーマに取り上げたところです
とくに、NHKの職員に対する厚遇ぶりの一例としては、「NHK職員は広尾など都内の一等地にある社宅に2~3万円という格安の家賃で住める」とする複数のメディアの報道が参考になるでしょう(該当する報道のリンクは前出記事に示しています)。
仮に――あくまでも「仮に」、ですが――、NHKでは職員に対し、たとえば東京・広尾にある80㎡の自社物件を月額2万円で貸しているとしましょう。そして、広さ・築年数・立地が類似する物件の月額家賃が52万円だったとします。
このとき、NHKはこの職員に対し、経済的に見ると、月間50万円(つまり年間600万円)多く給料を支払っているのと同じような効果が生じています。なぜなら、NHKは職員に貸さずに一般人に貸せば、月額52万円、年額624万円の家賃収入が得られるからです。
それなのに、NHKはこの職員から家賃を月額2万円(つまり年額24万円)しか徴収していません。ということは、差額の月額50万円(年額600万円)は、事実上、NHKが得べかりし収入を逸しているのと同じだからです。
そして、もしこの仮説が事実だとすれば、この月額50万円・年額600万円に相当する金額は、NHKの決算書のどこにも計上されていない、という可能性が濃厚です(敢えていえば社宅の減価償却費くらいでしょうか)。
NHKはこの「広尾の社宅」とやらの詳細(入居できる条件、物件の築年数、立地、広さ、間取り、具体的な経理処理方法、この社宅を利用している人数など)を一切明らかにしていないため、その実態についてはよくわかりません。
人件費、「1人あたり1550万円」よりも高額!?
しかし、仮にこの手の「超豪奢な社宅に格安の家賃で住んでいる者」が職員全体の1割もいたとすれば、先日も議論した「NHKの人件費は単純計算で1人あたり1550万円」という仮説(図表)は崩れ去ってしまいます。
図表1 NHKの人件費(2020年3月期・単体決算)
区分 | 金額 | 備考 |
---|---|---|
職員給与 | 1110億1592万円 | ① |
役員報酬 | 3億9282万円 | ② |
退職手当 | 287億2234万円 | ③ |
厚生保健費 | 208億9379万円 | ④ |
①~④合計 | 1610億2487万円 | |
①、③、④合計 | 1606億3205万円 | ⑤ |
職員数(2019年) | 10,333人 | ⑥ |
1人あたり人件費 | 1554万5539円 | ⑦=⑤÷⑥ |
(【出所】NHK個別財務諸表P64およびNHK『よくある質問集』を参考に著者作成)
なお、図表の⑤に示した金額(①、③、④の合計額)は、役員報酬を除く人件費を合算したものです。いちおうお断りをしておくと、どうやらこの退職手当と厚生保健費には役員への支払いが含まれているようであり、⑤の金額については全額が職員の人件費に対応するものではありません。
ただし、NHKがこれ以上の内訳を開示していないことに加え、役員に係る退職手当、厚生保健費の金額が占める割合は僅少であろうと判断するため、便宜上、⑦の1554万5539円を「NHKの職員1人あたりの人件費」として示している次第です。
しかし、仮にここで「広尾の社宅の年間600万円相当の実質的な補助」が決算書に計上されていないのだとして、この制度を全職員の1割が使用しているとすれば、単純計算すれば1人あたり人件費は1554万5539円ではなく、1614万5539円です(※もちろん、仮定の議論ですが…)。
NHK財務諸表の闇
金融資産だけで1.1兆円
ただし、上記の議論はあくまでもNHK問題のごく一部に過ぎません。
そもそもなぜ、NHKの人件費が1人あたり1550万円を超えているのかを考えていけば、それは「経営に余裕があるから」、という答えが出そうです。また、NHKは「国営放送」ではありませんし、NHK職員は国家公務員ではありません。だからこそ、異常な水準の人件費を計上しているのでしょう。
では、NHKの経営に余裕があるというのは、どこをみればわかるのでしょうか。
『NHKは日本に必要か~最新財務諸表分析から考察する』でも取り上げたとおり、NHKは莫大な資産を保有しています。客観的な時価ベースで見れば、2020年3月末時点において、年金資産を含め、金融資産だけで少なくとも1.1兆円を抱え込んでいるのです(図表2)。
図表2 NHKが保有する金融資産(2020年3月末時点、連結ベース)
項目 | 金額 | 開示箇所 |
---|---|---|
現金及び預金 | 1042億円 | 連結B/S・流動資産 |
有価証券 | 3370億円 | 連結B/S・流動資産 |
長期保有有価証券 | 1304億円 | 連結B/S・固定資産 |
建設積立資産 | 1695億円 | 連結B/S・特定資産 |
年金資産 | 3898億円 | 退職給付注記 |
合計 | 1兆1309億円 |
(【出所】NHK・2020年3月期連結財務諸表より著者作成)
もっと抱え込んでるでしょ!?
NHKが保有している資産は、おそらくはこれだけではありません。真っ先に思いつくのは不動産(土地・建物)です。
NHKは物件明細を開示していないため、NHKがどれほどの土地・建物を保有しているのか、実態はよくわかりませんが、少なくとも渋谷の一等地にあるNHK放送センターの敷地は82,645平米だそうです(※2016年8月30日付NHK『放送センター建替基本計画の概要』参照)。
一方で、NHKの連結貸借対照表に計上されている有形固定資産のうち、土地の帳簿価額は562億円とのことですが、これはおそらく取得原価に過ぎません。というよりも、あの莫大な渋谷の土地だけでも、下手をすれば数千億円の価値はありそうです。
また、先ほども出てきた社宅もおそらくは自社物件という可能性が高いでしょうし、NHKの子会社・関連会社などが本社を構えるビルなども、おそらくNHKの所有物か、土地はNHKが所有し、建物は子会社が所有しているなどの事例が多いのではないかと思います。
(たとえばNHKエンタープライズのケースでは、2020年3月期決算において有形固定資産の区分に「建物」が約4億円計上されていますが、これはNHKが所有する土地の上にNHKエンタープライズが建物を建てたという可能性が高いでしょう。)
つまり、巨額の資産を抱え込み、職員に対して1人あたりどんなに少なく見積もっても1550万円を超える人件費を負担していること自体、NHKが湯水のごとくカネを使うことができる組織であるという証拠でしょう。
年間224億円の利益、そして契約収納費という闇
一方で、NHKの決算書を眺めていてもうひとつ気づくのは、「契約収納費」と呼ばれる費目です。
NHKの2020年3月期単体決算上の経常事業収入(売上高)は7373億円ですが、このうち受信料は7232億円で全体の98%を占めています(図表3)。
図表3 NHKの単体損益計算書主要項目(2020年3月期)
損益計算書項目 | 金額 | ①に占める比率 |
---|---|---|
経常事業収入(①) | 7373億円 | 100.00% |
うち、受信料 | 7232億円 | 98.09% |
経常事業支出 | 7279億円 | 98.73% |
うち、国内放送費 | 3496億円 | 47.42% |
うち、給与 | 1115億円 | 15.12% |
うち、退職手当・厚生費 | 497億円 | 6.73% |
うち、契約収納費 | 628億円 | 8.51% |
経常事業収支差金 | 93億円 | 1.27% |
経常事業外収支差金 | 131億円 | 1.77% |
当期事業収支差金 | 224億円 | 3.04% |
(【出所】NHK・2020年3月期損益計算書。なお、給与、退職手当・厚生費などが図表1と整合していない理由は不明)
これに対し、「契約収納費」、つまりNHK受信料を取り立てるためのコストは628億円で、経常事業収入全体の8.5%がこれに費やされているのです。つまり、NHKがかき集めた受信料の約1割が、ほかの視聴者から受信料を取り立てるのに使われているのです。
さらには、NHKが過去に制作した番組のコンテンツ利用権なども無視できませんし、実際、NHKのキャラクターグッズなどは東京駅地下にあるNHKショップでも販売されているようです。
NHK受信料論争
改めて問う、NHKを巡る論点
さて、当ウェブサイトでNHK問題を取り上げる際、「NHKの受信料の水準や使途には何となく納得がいかないけれども、NHKの番組自体の質は高い」、「NHKは災害放送などを担っている」、「だからNHKは存続させるべき」、などの読者意見があることは事実でしょう。
ただ、少なくともNHKが桁外れな人件費を計上していること、あまりに莫大な資産を抱え込んでいることなどを踏まえるならば、やはり、NHKの在り方が現在のままで良いとは思えません。
こうしたなか、以前から当ウェブサイトではNHK問題については単純ではなく、いくつかの論点に分解して論じるべき、などと考えてきました。従来は5つほど論点を掲載していたのですが、今見直して人件費の論点が抜けていたようなので、これを加えた次の6つを「NHK論点集」にしたいと思います。
NHK論点集
- ①現代の日本社会に公共放送というものは必要なのか
- ②公共放送を担う組織として、NHKは適切なのか
- ③NHKの現在の受信料水準は妥当なのか
- ④そもそも受信料制度自体が妥当なのか
- ⑤1兆円超の金融資産などはNHKの経営に必要なのか
- ⑥職員1人あたり1550万円超という人件費水準は妥当なのか
(なお、この「NHK論点集」については、随時書き直し、更新する予定です。)
このうち①については、百歩譲って「公共的な放送」なるものがあっても良い、という説があることは認めます。しかし、それと同時にいまや「政府インターネットTV」というものもありますし、衆参両院がインターネット審議中継を行っています。
もちろん、世の中にはいまだにインターネットへのアクセスがない人もいるのですが、いまや社会的には少数派となりつつある「インターネットにアクセスできない人たち」のためのテレビ放送設備を維持するために、全国から莫大な受信料をかき集めることを正当化するのは難しくなりつつあります。
次に、②については、公共放送の必要性を認めるにしても、それを担う組織としてNHKが適切なのかというのはまったく別の論点でしょう。そして、③、④については、NHKが受信料制度を死守していること自体、現在のNHKが事実上の利権団体と化している証拠ではないかと思えてなりません。
視聴者を舐めた「35円値下げ」→今度は3年間で700億円を還元
さて、昨年の『「金融資産1兆円以上」のNHKが月額35円値下げ』では、NHKが10月以降、月額35円だけ受信料を引き下げた、とする話題を取り上げました。
正直、金融資産だけで1兆円を超える資産を抱え込んでいるNHKが、たかだか月額35円を値下げすることでNHK批判をかわそうとする狙い自体、視聴者、あるいは私たち国民を舐めた行動だと思わざるを得ません。
経営者が通常の神経をしていれば、こんなことをすれば却って視聴者からの反発を喰らうであろうことくらい、想像がつかないのでしょうか。この「35円値下げ」でお茶を濁そうとするセンスは、さすが「あの人物」を会長に迎える組織だけのことはあります。
ただ、菅義偉政権は現在、携帯電話料金と並んで、NHK受信料をターゲットにしているフシがあります。
当然、有権者の支持を獲得することが狙いなのだと思いますが、国民の多くが望んでいることを実現すれば支持が増えるのは当然でしょう。だからこそ、菅政権としてもNHK改革は譲れない論点なのかもしれません。
こうしたなか、昨日はこんな報道がありました。
NHK、23年度に受信料値下げ 700億円を還元―BS1、プレミアム統合
―――2021年01月13日20時22分付 時事通信より
これは、NHKが13日に発表した中期経営計画(2021~23年度)のなかで、剰余金を原資とする仕組みを創設し、受信料収入の1割に当たる700億円程度を原資とし、2023年度に値下げするとともに、4波ある衛星放送のうち「BS1」「BSプレミアム」を統合するというものです。
具体的には、2020年度末見込みで1450億円の剰余金のうち400億円程度を取り崩すのに加え、1700億円の放送センター建替え計画の規模縮小で200億円程度を捻出し、さらに2023年度に見込まれる約100億円の黒字も充当する、などとしています。
やはり、NHK自身、武田良太総務相などからの強い圧力により、受信料の引き下げ圧力をかなり感じているのでしょう。
まったくもって不十分
端的にいえば、まったくもって不十分でしょう。
そもそも論ですが、今回の値下げも、昨年の「月額35円」に対する批判を受けて、あくまでも一過性のものとして行った、という印象を抱かざるを得ません。人件費にも国内放送費にも手を付けずに、剰余金を取り崩してお茶を濁そうというのは、いかがなものでしょうか。
というよりも、菅政権としても、「まずはNHK受信料の値下げ」というテーマに取り組んでいるのだと思いますが、やはり「テレビを買ったらNHKを見なくても受信料を払わなければならない」という仕組みにメスを入れることを期待している国民は多いのではないでしょうか。
基本的に現在の法律では、消費者はテレビを設置すれば、自動的にNHKに対し、事実上、カネを払わなければならないとされています。その根拠法が放送法第64条第1項本文です。
放送法第64条第1項本文
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。
つまり、放送法第64条第1項本文では「テレビを設置したら(NHKを見る、見ないに関係なく)NHKと契約をしなければならない」と定めています(厳密にいえば、「契約をしろ」であって「カネを払え」ではないのですが、事実上、「NHKにカネを払え」、という根拠法のようなものです)。
この点、私たち消費者の側には、いったんテレビを設置してしまった場合、「NHKにカネを払わない」という選択を取る自由がありません。これは非常におかしな話です。極端な話、私たち消費者がNHKを1秒も視聴しなかったとしても、「NHKにカネを払わない」という自由を許されていないからです。
もっといえば、私たち国民が自由経済競争の原理に基づき、NHKを「倒産させる」というかたちで意思表示をすることができません。まさに市場原理に反した組織なのです(※この点はNHKが「公共性」を騙ることで市場原理から逃れている、という言い方もできると思います)。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いずれにせよ、NHK問題を巡っては菅義偉総理大臣、武田良太総務相がどこまで斬り込めるのかについては期待したいと思いますし、もしも政権がNHK問題に本腰を入れるならば、当ウェブサイトとしては、この論点については菅政権を応援したいと思う次第です。
View Comments (9)
罪務省もこういう団体にマルサ入れるべきなんでしょーけどねぇ
と思いましたが、ココ法人税払ってないわ(爆
本稿のケースだと、社宅入居者に対しては月額52万円の手当支給と2万円の家賃徴収を省略せずに計上しないと・・会社は社会に対しての背任行為。社員は受恵利益の対しての脱税行為なのかもですね。
公共組織の建前上、利潤追求を謳ってないのだとしても明細公表はあって然るべきなのかと・・。
「相殺しようそうしよう」で住ませてはいけないような気がするんですよね。
もはや「ネットに接続できる権利」が現代の日本で最低限の文化的生活を送るための必要条件になりつつあります。
ここで「ネットでNHKを視られる様になったのだからネット回線を持っている人から徴収」を絶対許さないのが肝要です。
娘が大学進学で一人暮らしを始めたときに、光回線は引いたのに固定電話はイラネと引かなかったのが象徴的でした。
同様にTVはイラナイという世代が普通になる時代になったらNHKも没落するでしょう。
3年後に値下げします。だから3年間静かにしててね。
3年後には反故にするかもしれませんけど。
あと、体質改善による値下げはしません。
としか読めないです。
NHKオンデマンドでも、利用料金を取る、受信料も徴収する。
これは、二重取りではないか。
受信料で制作した番組で、金を取る。
NHKが公共放送であるならば、収益が上がれば受信料の払い戻しをするべきではないか?
NHKの土地は明治政府が旗本などの屋敷を接収→陸軍練兵場→米軍→オリンピック村という国有地でしたから払い下げの金額でしょうか。
NHKエンタープライズは、共同ビルで以前は様々な会社が入ってましたが今はNHK関連ばかり。
正式には、第三共同ビル白洋舎ビルです。
1Fは白洋舎で看板も大きなのがビルに貼り付いていたかと思います。
一部がNHK所有になっている可能性はあるとは思います。
還元とか言って、余剰資産の利息・運用益で軽〜くまかなえちゃう金額ですよね……。シナエチ猛々しいとはまさにこのことです。
巨大利権といえども存在の根拠は悪法のみですから、国民が本気で廃止を決めれば消えるしかない。
現在進行形で人類史上最悪の電波詐欺(誇張でもレトリックでもなく)を続けるシナエチケー、事が露見した暁には、吹き荒れる民意の暴風でひと息に命脈を絶ちたいところです(衆愚でもなんでも瞬間風速を活かしていきたい勢)。
菅総理、武田総務相も追い風を欲していると思います。全力で背中を押していきたい!
NHKが一部借り上げしている賃貸マンションに住んでいたことがありますが、
あちらは車庫代も込みで借り上げと聞いて恵まれてるなぁと思った記憶があります。