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独政府が中国国有軍需企業による企業買収案件を阻止

時事通信や独シュピーゲルなどによると、ドイツ政府は3日までに、中国国有の軍需企業による独テクノロジー企業の買収案件を不許可にしたと報じられています。しかも、シュピーゲルによれば、今回の買収は「中間法人を使った」のだそうであり、見方によっては「特別目的会社(SPC)を使った偽装買収」にも思えます。これについてどう考えるべきでしょうか。

輸出管理の仕組み

2019年7月に日本政府が韓国に対して発表した、輸出管理の厳格化・適正化措置という話題については、当ウェブサイトでもこれまで何度か取り上げ続けて来ました。

もともと輸出管理の仕組みは、国際的に合意された「輸出管理レジーム」で、武器などに転用されかねない品目をリスト化して、無法国家などに戦略物資が流れることを防ぐための仕組みです。また、信頼度が劣る国に対しては「キャッチオール規制」も適用されています。

現在の日本の輸出管理は、輸出管理のレベルなどに応じて、相手国を大きく「グループA」から「グループD」の4つに分類したうえで、個別のさまざまな品目について輸出許可を必要とするかどうか、輸出の都度許可が必要なのか、包括的に許可するのか、など、きめ細かい管理が行われています。

ちなみに4つの国際的な輸出管理レジームのすべてに参加しているのは日本を含めて30ヵ国(日本を除いて29ヵ国)ですが、最も優遇される対処国である「グループA」にはこの29ヵ国のうち、ウクライナ、トルコ、韓国を除いた26ヵ国が含められています。

なお、輸出管理に関する根拠法令やリスト規制・キャッチオール規制の関係などに関する詳細については先月の『輸出管理の仕組みをまとめてみた』あたりでも触れたとおりですので、本稿では繰り返しません。

ジャパングループとは?

こうしたなか、個人的に最近注目している論点のひとつが、先端技術の管理です。

先端技術の輸出管理が実現なら「ジャパングループ」』でも取り上げましたが、日経新聞は9月、人工知能や量子コンピューターなどの先端技術が軍事転用される事態を防ぐため、日本が輸出「規制」のあらたな枠組みを米独などに提案する検討に入った、と報じました。

輸出規制枠組み、米などに提案へ/先端技術で政府検討

人工知能(AI)や量子コンピューターなどの先端技術が軍事転用される事態を防ぐため、日本政府が輸出規制の新たな枠組みを米国やドイツなどに提案する検討に入った。<<…続きを読む>>
―――2020年9月27日 2:00付 日本経済新聞電子版より

日経が報じた「輸出『規制』」は、「輸出『管理』」の誤報と思われますが、その点はさておき、記事本文では「民間技術を活用して国防力を強める中国」という記述が出て来ます。おそらく政府内には、中国の民間企業に技術が流れると、それが容易に軍事転用されかねない、という危機意識があるのでしょう。

ただし、自由貿易という大義名分があるため、国際的に合意されたレジームとは別に、勝手に品目を追加して「規制する」ということは難しいのが現状です。また、既存のレジームは参加国が数十ヵ国に達していて、意思決定にも非常に時間が掛かります。

そこで、日経によると①AI・機械学習、②量子コンピューター、③バイオ、④極超音速、という4つの分野にわたり、日本が米国、ドイツ、英国、オランダなどの「先端技術を持つ国に限って」輸出管理の品目を議論するグループの立ち上げの提案が検討されているのだとか。

当ウェブサイトではこれを、豪州が提案した「オーストラリアグループ(AG)」に倣い、「ジャパングループ(JG)」とでも称すべきではないかと考えています。

また、もしこのジャパングループ(JG)が実現したあかつきには、現在のわが国の輸出管理の仕組みについても、「グループA」のさらに上位に「グループS」などを設け、現在は26ヵ国が指定されている「グループA」に、さらに優遇対象国を加える、という変更がなされるかもしれません。

中国の偽装法人?による独企業買収

ところで、日経がこれを報じてから2ヵ月以上が経過していますが、今のところこれに続報は見当たらないようです。こうしたなか、「ジャパングループ」創設を急いだ方が良いのではないかと思えるような事例を昨日、発見しました。

中国軍需企業による買収阻止 衛星・5G関連会社―独

―――2020年12月03日22時40分付 時事通信より

時事通信によると、ドイツ政府が中国企業によるドイツ国内企業の買収を阻止したと報じました。

情報源は独DPA通信の3日の記事で、これによると人工衛星や次世代通信規格「5G」関連技術を手掛けるドイツのIMST社を中国国有の軍需企業である航天科工集団の子会社が買収しようとしたところ、独政府が「安全保障への重大な脅威」と判断したようです。

時事通信の記事は短いので、関連する報道を調べてみると、独「シュピーゲル」のオンライン版に関連する記事が掲載されているようです。

Regierung stoppt Übernahme deutscher Firma durch China

Der chinesische Staatskonzern Casic wollte den deutschen Mittelständler IMST übernehmen. Die Bundesregierung hat nun interveniert. Sie sagt, der Deal hätte die Sicherheit der Bundesrepublik gefährdet.<<…続きを読む>>
―――2020/12/03 19:03付 DER SPIEGELより

といっても、こちらの記事もさほど長くありません。

リード文は「中国国有企業であるCASICがドイツの中小企業であるIMST者を買収しようとしたが、独連邦政府が『連邦共和国の安全保障上の脅威である』としてこれに介入した」、というものです。

以下、当ウェブサイトの文責にて内容を条約し、箇条書きにしておきます。

  • 独政府は中国の軍需企業によるドイツ企業IMSTの買収を阻止した
  • 連邦経済省は内閣が外国貿易条例に基づく禁止を承認することを決定したと発表した
  • IMSTの買収は中間法人を経由して行われようとしていた
  • 外国貿易法により、連邦政府は、外国投資家による独企業の買収が連邦共和国の安全に脅威を与えるかどうかを確認することができるとされている
  • 本件の場合、内閣の調査の結果、買収は連邦共和国にとって「現実的かつ深刻な危険」であることが確認された

さりげなく、凄いことが書かれています。

シュピーゲルの記事はマイルドに書かれていますが、要するに、「買収者が中国企業の支配下にあることを隠してIMST社を買収しようとした」、ということではないでしょうか。

シュピーゲルの記事を読む限り、今回、独政府が中国企業による企業買収を阻止したというのは、ドイツがちゃんとチェックをした結果なのか、それとも単なる幸運なのかは判断がつかないところです。

遠く離れたドイツでさえ、このような案件が摘発されているわけですから、朝鮮半島を挟んで隣り合う日本に対しては、中国からはかなりの買収資金が入って来ていると疑うべきかもしれません。その際、とくに特別目的会社(SPC)を使った偽装買収には注意が必要でしょう。

ジャパングループの早期創設が待たれる

さて、先日の『NATO総長「中国は我々と価値を共有していない」』などでも触れましたが、近年、中国による軍事的台頭が強く意識され始めているなか、私たち自由主義国家としても、中国に対して警戒の目を向けるべきでしょう。

このように考えていくと、機微な技術については軍事転用のリスクに備え、さらに広範な網を掛けるべきではないかと思われます。「ジャパングループ」については続報を待ちたいところです。

新宿会計士:

View Comments (10)

  • 経営不振企業の事業分割&売却は産業構造新陳代謝のため奨励すべきものですが、宝石のような値打ちのある日本企業が敵対的な海外国家に掠め取られ簒奪される危険がなお一層高まっています。東京都大田区や川崎、大阪郊外尼崎東大阪あたりは、負債をちゃらにしてくれるなら会社を畳みたいと内心覚悟している経営者きっと多いはず。気を付けましょう。経営資源再配置という確固たる意志と実行力ある「起業精神あふれる優れた新社長世代」の登場を心から願ってやみません。

    • (リターンキー押し過ぎのふつつかもの投稿者は、はにわファクトリーでした)

    • 話を逸らしてしまって申し訳ありませんが、中小企業には株式会社の体裁を取りつつも実態は家業ということがよくあります。その理由は、大企業ほど経営環境に恵まれない中で、経営リスクを一身に背負う覚悟があるのは家族しかいないという、やむにやまれぬものだったりします。従業員に給与を払うために、自分の役員報酬を切り詰めるという話も珍しくありません。これは作り話ではなく、私の知り合いの中小企業経営者から直接聞きました。

      こういう状況においては、経営者の事業承継は現経営者の大きな悩みになっています。我が子が覚悟を決めて会社を継いでくれればいいのですが、芸術の道に進みたいと望んでいるとか、あいにくボンクラに育ってしまい会社を任せられないとか、不運にも子宝に恵まれなかったとか、現従業員の中から次の社長を選ぶには皆頼りないとか、様々な事情で次期社長が見つからないケースがあります。

      大企業なら有能な人材はいくらでもいます。むしろ皆が優秀過ぎて、能力を持て余している中間管理職をどう処遇するかが頭痛の種だったりします。

      後継者が見つからないから事業をたたむしかないと諦める中小企業と、人材を持て余す大企業との間でもっと交流が進めば、皆が幸せになるのではないでしょうか。

      結婚相談所ならぬ、事業承継相談所によるカップリングが広がらないかと希望しています。実際に私の知人の一人は、中堅企業を脱サラし、後継者が見つからない企業をM&Aする形で社長になりました。

      • なるほど大企業には優秀過ぎる有能な人材はダブついているかもしれませんが、“優秀過ぎる有能な人材”=“経営リスクを一身に負える人材”ではないでしょうから…
        後継者に悩む中小企業に大企業がケツモチして有能人材を送り込むのも、引いて観れば財閥強化や秀でた中小企業の独立性毀損に繋がるかもしれず…なかなか悩ましいトコロでしょうね
        求む!“経営リスクを一身に負える優秀過ぎる有能な人材”!!
        つうトコすかね

    • >結婚相談所ならぬ、事業承継相談所によるカップリングが広がらないかと希望

      こうゆうことこそ地方銀行の独断場のはずですが、金融処罰庁に睨まれないように通達順守のふりをし続ければ給料がもらえるようになっていた銀行マンはただの集金人に過ぎません。
      「大企業OBによるコンサルテーション」を新規に立ち上げるなどという提灯記事はもううんざりですよね。使えないロートルを押し付けられる以外に現実があり得ますかね? しかも賃金格差を政府が税金で補填するなどと?
      プライベートエクイティ(投資会社)のかたと知り合いました。ご自身が社長であると同時にアナリストを兼務されており、投資家さんたちへのニュースレターを執筆しているようです。「その視点、面白いですね。自分の記事に書いていいですか」そう以前言われたことがあります。ええ、もちろん。
      彼が怒って言ってました。とある日経記事の言っていることがご自身の判断と真逆に書かれていて、違うだろうそのデータはこう読むのだ、と。彼の投資会社で働ける若い人はうらやましいです。

  • 既にヤラレテいるトコロもあるのでは?
    ワカリヤスイ情報技術やガチガチの軍事技術分野ではなくもっと広範でベーシックな製造技術分野において…

    まあシレッと社会浸透×人海戦術にはカナリ喰い込まれている印象アリアル

    • 引っ掛かったオタクさま

      >既にヤラレテいるトコロもあるのでは

      やられてます。
      不肖はにわは自分自身を転職情報サイトに掲出しています。業界動向をレーダー探知するためにす。ホットな求人がレーダーに掛かります。非公開になっている会社名を山カンで当て、「現場の困りごと」を通じてその企業が何をやろうとしているのか推察するのです。役に立ってます。
      かなり以前のことですが、東京大田区から急ぎのロボット開発案件が出ました。Raspi という売価6千円の人気ホビーコンピュータを指名してました。調べてみると日本企業っぽいが最近買収されている。前のめり求人の正体は、買収した製造技術を6千円コンピュータでネットワーク時代にマッチするテクノロジーへ昇華させようとするものと、と当方は分析しています。ニッポンの技術資産はこうやって「抜かれている」のです。

  • ドイツ軍のグダり具合は有名ですが、諜報機関は今どうなっているのでしょうね。
    まあ日本がエラそーにどうこう言える立場じゃありませんが。

  • 更新ありがとうございます。

    首都圏なら都内大田区、川崎市南部、関西なら尼崎市、伊丹市、大阪市生野区、東大阪市、神戸市長田区にそういう類の実力の有る町工場は多いですね。

    更に突っ込んで言うと、経営者自体が韓国系朝鮮系の人が居ます(もちろん多数派は日本人)。帰化して日本人化している人も居ますが、先行き不安で相手に頭下げてカネ積まれたら、靡くでしょう(名義貸しとかも含む)。

    ところで、それを何かで判別出来ないかと思いましたら、彼らの多くは何処かに自分のルーツを残したがる。

    つまり社名の一部(例 金星工業)とか、氏名です。通名なら分かりませんが、それでも日本人があまり付けない苗字(慶、勲、烈、揚、容、珠、祥、健、浩等)、姓(金、白、大、高、石、李、伊、尹、木、池、浦、徐他)をどこかに使いたがる傾向にあります。

    エビデンスは無いです。この名前が全員そうだとも言いません。私の60余年身近に見てきた、接してきたカンです。再度お断りしますが、全員がそうじゃないけども、上記の地区には『極めて多い姓名』とだけ、申し上げておきます。

  • 話題が少しそれますが、同じ中国つながりという事で。
    中国ウォッチャーの福島香織さんの下記記事に気になる記述があります。https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63126
    「やっぱり」のCNN報道、中国の公式発表に真実なし
    コロナ感染者数を過少発表、この先も治らない中国政府の隠蔽体質

    “共産中国の発表は眉唾もの”は素直にうなずけますが、
    “中国は日本からの渡航者に対し二重の陰性証明(登場前2日以内のPCR検査陰性証明と血清特異性IgM抗体検査)を求めているが、日本は中国からの渡航者に対する検査は求めていない。これは、日本政府が「中国はほぼ完全にウイルスを制圧できている」と信じ切って安心しているからだろうが、本当に安心しきっていいのか?”
    のくだりは、事実であれば茂木外相に外交は任せられない。(全くの素人?)菅政権の外交は要注意の気がしてきました。厚生官僚は外交の素人なので其れを補佐してまともな合意にするのが外務省の仕事だろうに。外務官僚に”おてて繋いで仲良く”は百害あって一利なし。