韓国メディア『中央日報』（日本語版）に本日、「日本政府が来年の東京五輪で金正恩（きん・しょうおん）を招待する用意がある」、という報道が掲載されました。これは、先日来日した韓日議連の金振杓（きん・しんひょう）会長が中央日報の単独インタビューに答えたものだそうですが、上から下までナチュラルに虚言癖のある国の政治家をむやみに来日させることがいかに危険かという証拠でもあります。

ウソツキ外交にはご用心！

今月に入り、朴智元（ぼく・ちげん）韓国国家情報院長や金振杓（きん・しんひょう）韓日議連会長ら一行を含め、韓国側からやたらと要人の来日が相次いでいます。

これについては「外交で蚊帳の外に置かれた韓国が、東京五輪を人質に取るなどして、なりふり構わずに首脳会談の実現を狙ったものだ」という仮説については、今朝の『鈴置論考で読む、「東京五輪」人質に首脳会談迫る韓国』などでも触れたとおりです。

もっとも、鈴置高史氏が昨日の『蚊帳の外から文在寅が菅首相に揉み手　バイデン登場で“不実外交”のツケを払うはめに』でも触れたとおり、韓国も「バカな国」ではありません。「迷走する韓国外交を嘲笑する」という態度は若干危険です。

「ウソをつくこと」が悪いことだとされている日本などの先進国と異なり、自分の利益のためであればウソをつくことも許されるのが韓国という国です。とんでもないウソをついて、日本を擾乱して来る可能性は十分にあるでしょう。

さっそくですが、韓国メディア『中央日報』（日本語版）に、こんな記事が出ていました。

韓日議員連盟会長「日本政府、来年東京五輪に金正恩氏招待の意向」

韓日議員連盟会長である与党「共に民主党」の金振杓（キム・ジンピョ）議員が１７日、「日本政府が来年７月の東京オリンピック（五輪）期間に金正恩（キム・ジョンウン）北朝鮮国務委員長を東京に招待する意向を明らかにした」と話した。<<…続きを読む>>
―――2020.11.18 07:08付　中央日報日本語版より

中央日報によると、金振杓氏は同紙の単独インタビューに対し、「日本政府高位当局者」との面談内容を公開し、「金委員長」、つまり北朝鮮の独裁者である金正恩（きん・しょうおん）が「出席する意向があるなら、五輪組織員会を通じて正式に招待する場合もある」と述べた、というのです。

情報の真偽はよくわかりません。

もちろん、日本政府高官（外務省あたりでしょうか？）が本当に金正恩の招待を考えているという可能性はゼロではありませんし、現時点で「100％間違いなく誤報だ」と決めつけるのは不適切ですが、これを鵜呑みに信頼しろといわれても困惑します。

というよりも、『韓国メディア「韓日首脳が徴用被害者賠償で原則合意」』でも紹介したとおり、「菅義偉総理と文在寅（ぶん・ざいいん）大統領が（自称）元徴用工に対する補償で合意した」とする、極めて信憑性に乏しい情報が出て来るのが韓国という国です。

ついでにいえば、2018年12月に発生した「火器管制レーダー照射」事件の際、韓国政府が日本政府との協議内容を（ウソも交えつつ）勝手にどんどんと公表して行ったという出来事もありました。こうした「実績」を踏まえれば、金振杓氏の発言に信憑性は極めて低いと考えて良いでしょう。

余談ですが、もしその「金正恩」とやらが日本にノコノコやってくれば、日本人拉致事件やさまざまな国際的テロ事件などに関連し、日本の治安当局がその「金正恩」の身柄を拘束し、日本国内で刑事訴追するチャンスでもありますね。

（※そもそもその「金正恩」が、2018年６月にドナルド・Ｊ・トランプ米大統領と首脳会談を行ったのと同一人物なのかどうかという疑問もありますが、本稿ではとりあえず、この疑問点については無視します。）

「韓日協力に多くの人々が共感」

もっとも、このインタビュー記事に意義があるとしたら、韓国の韓日議連側の「東京五輪を政治利用したい」という魂胆が透けて見えることでしょう。１本目の記事からやや遅れて掲載された次の記事では、その具体例として、「日米朝韓４ヵ国構想」というものが出て来ます。

<韓日議員連盟会長単独インタビュー>（２）…「強制徴用賠償問題、韓日首脳の選択と決断だけが残った」

金振杓（キム・ジンピョ）議員 (韓日議員連盟会長)はこのインタビューで、東京五輪を契機に韓日間の関係正常化はもちろん、韓・日・米・朝の外交突破口を用意しようという構想は「党・政・青全体の意志」と明らかにした。<<…続きを読む>>
―――2020.11.18 09:43付　中央日報日本語版より

記事タイトルや本文に含まれる「強制徴用賠償問題」とは、自称元徴用工問題の間違いでしょう。

それはさておき、金振杓氏はインタビューで「東京五輪を契機に」、「韓日間の関係正常化」、「韓・日・米・朝の外交突破口を用意」する、という構想を示したのだそうです。これなどまさに鈴置氏の指摘する、「他人の褌で相撲を取る」という典型例ですね。

ただし、「韓日協力」とやらが実現するためには、「最大の懸案である強制徴用賠償問題が解決しなければならない」のは確かでしょう。そこで出て来るのが、ムシの良い提案です。金振杓氏は中央日報に対し、次のように語ったそうです。

「両国首脳が会って妥結できるなら『文在寅－菅義偉宣言』で決断をするものの、できないなら強制徴用賠償問題は東京五輪が終わる時まで７～８カ月凍結する方案を提案した」。

妥結するもなにも、自称元徴用工問題の落としどころは、「日韓関係の破綻を避けるために、韓国が国際法を守る方向に舵を切る」か、「韓国が国際法違反の状態を続けることで、日韓関係が破綻に追い込まれる」か、そのどちらかしかあり得ません。

（厳密には「日本が国際法違反の状態を受け入れて妥結を図る」、という選択肢もないではありませんが、もし日本政府がそんな妥結を図ろうとするならば、当ウェブサイトとしては全力で、次回国政選挙で与党議員に対する落選キャンペーンを開始するつもりです。）

また、この「７～８ヵ月凍結」とする提案も、意味がわかりません。

現在、日本に対して殴りかかって来ているのは韓国の側であり、その殴りかかって来ている側から「７～８ヵ月停戦しよう」と言われても、「困惑する」という日本国民の方が多いのではないでしょうか。

ちなみにこの金振杓氏のいう「凍結」とは、「強制徴用現金化」、つまり自称元徴用工判決にかかる資産の強制売却を一時的に「猶予」しようとする案なのだとか。正直、これもお話になりません。

ソウル大国際学研究所長「一段階進展」

ちなみに中央日報によれば、ソウル大学国際学研究所の朴喆熙（ぼく・てつき）所長はこの金振杓氏の提案について、「原則論を全面に出して対立していた韓日関係を考慮すれば、一段階進展したもの」と評価したのだそうです。その趣旨は、次のとおりです。

「ひとまず両国政府間の信頼を回復した後、賠償金を韓国政府が先に代位弁済し、後で韓日両国基金などで充当するなどさまざまな方法論の中から妥協案を導き出す時間も稼ぐことができるだろう」。

本件につき、妥協もなにもあったものではありませんが、そもそも「両国国民の信頼感」という表現が出て来ること自体、彼我の認識の大きな落差を感じずにはいられません。

※　※　※　※　※　※　※

さて、当ウェブサイトではこれまで一貫して、自称元徴用工判決問題を巡っては、「韓国側も本気で売却するつもりはない」という仮説を提示して来ました。

その理由は簡単で、差し押さえられている資産が非上場株式であったり、知的財産権であったりするなど、換金が著しく困難なものばかりだからです。

現に、自称元徴用工に対する大法院判決から２年が経過するにも関わらず、現在の進展は「資産を差し押さえた」、「審問書の送付に関する公示送達が行われた」、「売却命令の公示送達がなされた」、といった手続論ばかりに終始していて、待てど暮らせど現金化が実現する気配はありません。

だいいち、それらの資産を競売手続に付したとしても、自然に考えて、買う人がいるとも思えません。「ウルトラＣ」として、韓国の公的な投資家（社会保障基金や政府系金融機関など）や中国系の投資家（たとえばＡＩＩＢなど）が政治的な意図でそれを買うという可能性がかすかにあるくらいでしょう。

いずれにせよ、鈴置氏のいう「韓国が仕掛けた罠」という論点には、くれぐれもご注意いただきたいところです。