昨日の『戦犯探しは後回し まずは「韓国人事務局長」阻止を』では、WTOの次期事務局長選挙を巡る観測記事などをもとに、WTOの事務局長選で日本の外交力が試されている、などとする議論を提示しました。しかし、本日は韓国メディアの方から、「日本が韓国候補の当選を阻止するための運動をしていた」との報道も出て来たようです。
WTO事務局長選びをどう見るか
昨日の『戦犯探しは後回し まずは「韓国人事務局長」阻止を』の「続報」です。
韓国政府は現在、同国の産業通商資源部の兪明希(ゆ・めいき)通商交渉本部長を世界貿易機関(WTO)の次期事務局長に強く推していますが、一部の観測報道では、米国などが兪明希氏を支持する姿勢を示していることから、同氏の事務局長就任の可能性が高まっているとの情報もあります。
たとえば、朝日新聞社の牧野愛博編集委員が執筆した『「冷や飯」危惧しハラハラ WTO事務局長選で日本政府の「読み違い」』によると、 “anything but Korea” の日本と異なり、 “anything but China” の米国が兪明希氏支持に回りそうだ、などと記載されています。
もちろん、これらはあくまでも現時点における観測ですので、最終的にどうなるのかについては、まだよくわからない部分もあります。過度に一喜一憂すべきではないのかもしれません。
ただ、昨日の議論では、当ウェブサイトとしては、「韓国人事務局長が実現する」という「最悪の事態」を恐れず、「米国が支持しているから」というだけの理由で日本政府が安易に兪明希氏の支持に回ったりすべきではない、と申し上げましたが、これについてはいくら強調しても強調し過ぎではないと思います。
改めて言うまでもありませんが、兪明希氏自身、日本の対韓輸出管理適正化措置のことを「輸出『規制』だ」、などと騙ってきた張本人の1人であり、安全保障の問題を自由貿易の世界に持ち込んだという意味で、自由貿易の守護者たるWTOの事務局長には最も相応しくない人物です。
もっとも、兪明希氏のWTO事務局長就任を無事に阻止することができたとしても、それで「一件落着」、というわけにはいきません。
現在のWTOが安全保障問題と自由貿易問題を混同した判決を連発するなど、さまざまな問題を抱えていることは確かでしょうし、兪明希氏の対抗馬たるナイジェリアのヌゴジ・オコンジョ・イウェアラ氏にしても、中国の影響力からの独立性という点からは疑問があるからです。
「EUがナイジェリア候補を支持」
しかしながら、少なくとも日本政府は「兪明希氏を支持しなかった結果、同氏がWTO事務局長に就任したあかつきには、日本人がWTOで人事上、冷遇される」という事態を恐れるべきではありませんし、今の段階で兪明希氏の支持に回る、といった選択を取るべきではないでしょう。
日本が国としての原理原則を自ら歪めることにつながりかねないからです。
こうしたなか、ロイターなどは日本時間の本日、欧州連合(EU)当局者が「EUはオコンジョ・イウェアラ氏を支持している」と報じました。
EU、WTO事務局長選でナイジェリア候補を支持=当局者
―――2020/10/27 08:03付 ロイターより
リンク先記事が事実かどうかもさることながら、WTO事務局長は慣例により、加盟国の一致により選出されるそうであり、EUがオコンジョ・イウェアラ氏の支持に回ったからといって、それで直ちに情勢が決まったと断言できるものではないでしょう。
また、これについては、もう少し詳しい議論が、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載されています。
組織票のEU27カ国…「WTO事務局長候補・兪明希氏に不支持を示すかも」
―――2020.10.27 06:49付 中央日報日本語版より
中央日報はブルームバーグの報道を引用する形で、「EUがオコンジョ・イウェアラ氏を支持する理由は、EUがアフリカとの関係を強化しようとしており、オコンジョ・イウェアラ氏が世銀などで幅広い経験を持っているため」だと指摘。
また、EU27ヵ国のうちオコンジョ・イウェアラ氏を支持している雰囲気を主導しているのは今年下半期のEU議長国であるドイツであるとしつつ、同候補の支持に反対している加盟国が5ヵ国あり、現在、この5ヵ国を説得するための内部議論が続いている、と述べています。
いずれにせよ、EUがどちらの候補を支持しているのかについては情報が錯綜していたのですが、複数のメディアが「EUはナイジェリア候補を支持する」と報じたという事実自体は、この事務局長選を読むうえでのひとつのポイントとなるのかもしれません。
朝鮮日報「日本が兪明希氏の落選運動を展開」
こうしたなか、「日本が兪明希氏の落選運動を密かに展開している」とする報道がありました。同じく韓国メディアの『朝鮮日報』(日本語版)に掲載された、次の記事です。
菅内閣「兪明希を阻め」WTO落選運動
―――2020/10/27 07:31付 中央日報日本語版より
(※朝鮮日報の記事については、公表からしばらく経過すると読めなくなってしまうようですので、リンク先記事の原文について気になるという方は、早めにご参照ください。)
朝鮮日報は、「兪明希氏の当選を阻もうとするネガティブ・キャンペーン(落選運動)を日本政府が密かに展開していることが26日にわかった」などと報じています。といっても、「本紙の取材を総合すると」とありますので、情報源はよくわかりません。
朝鮮日報は先月発足した菅政権が「兪明希氏が次期WTO事務局長になることは日本の世論と国益に良くないと判断したとみられる」としつつ、「昨年の与党関係者が行った反日運動が、1年後にブーメランとして帰ってきた」などと評しています。
「日本が兪明希氏の落選運動を繰り広げている」という表現に、日本に対する悪意を感じないではありません。
しかし、当ウェブサイトでもかなり以前から指摘してきたとおり、韓国政府自体、日本の輸出管理適正化措置を「輸出『規制』だ」、などと騙り、日本に対するネガティブ・キャンペーンを繰り広げてきたという経緯を踏まえるなら、兪明希氏を積極的に支持する理由はありません。
朝鮮日報も、次のように述べています。
「兪明希氏は、徴用賠償判決に対する報復措置として日本が昨年、輸出規制を実施すると、これをWTOに提訴する責任者となった。このため、同氏がWTOのトップになることを容認してはならない、という論理だ。」
朝鮮日報自身が自称元徴用工判決を「徴用賠償判決」、輸出管理適正化措置を「輸出規制」と誤記しているのはご愛嬌として、この記述自体は、非常に自然なものです。
ただし、朝鮮日報の報道で目を引くのは、日本の外務省が今回のWTO事務局長選で、「欧州や中南米、アジア諸国に対して」、兪明希氏を支持しないでほしいと要請していた、という部分です。
朝鮮日報はまた、「輸出規制(※朝鮮日報の原文ママ)問題で両国が対立するなか、韓国が事務局長を輩出すればWTOの公平性が疑われるという論理を日本が展開している」、「一部の発展途上国では、日本の要求を聞き入れる見返りとして経済支援に言及している」、などと述べています。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただし、最近の朝鮮日報がこの手の記事を掲載する際には、なにか「裏」があることが多いように思えてなりません。
というのも、朝鮮日報は文在寅(ぶん・ざいいん)政権に対しては批判的な立場を取っており、内外のさまざまな問題を政権批判につなげる傾向があるからで、朝鮮日報がこの手の記事を掲載したからといって、日本に対して批判的な見解を改めたとは限らない、という点には注意が必要でしょう。
しかし、もし朝鮮日報の報道が事実ならば、日本の外務省がちゃんと仕事をしているという証拠でもありますし、このこと自体は歓迎したいと思う次第です。
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独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(なにしろ、素人考えなので)
日本としては、WTO改革ができる候補を支持するので、韓国人候補では改革できないから支持できない、それだけではないでしょうか。もっとも、ナイジェリア人候補でも、改革できないかもしれませんが。
駄文にて失礼しました。
少なくとも、WTOに提訴している国からは候補者を出さない、と言うくらいの改革はしても良いと思います。
提訴しておいて「自国の為に頑張る」と言うような人間を候補にだす、ではあまりに節操がなさすぎですから。
更新ありがとうございます。
「日本が兪明希氏の落選運動を繰り広げている」。そうあって欲しいもんです。(笑)だいたい兪明希氏が事務局長になろうもんなら、日本は悪夢ですよ。日本の対韓輸出管理適正化措置を、輸出『規制』と吠えてたヒトです。あんな方が公平な、公正なコトをやるはずが無い。日本に「足枷」付けるでしょう。
しかし、昨日と違って、EUがオコンジョ・イウェアラ氏を支持に回るとか。アフリカ勢は「初のアフリカ人事務局長」で、かなりまとまるだろうし、この2大陸を抑えたら勝ちが見えてきます。
良かった〜韓国人事務局長でなくって!中韓は世界の表舞台から去れッ。タダの泡沫候補だろうが。
めがねのおやじ様
>「日本が兪明希氏の落選運動を繰り広げている」
残念ながら韓国・朝鮮に対して「察しろ」とか「空気を読め」と言うのはあまりにも高度な要求なので、宗主国たる中国が今も行使するような、直接的かつ具体的な「罰」が「躾」として必要なのだと思います。
つまり日本にちょっかいを掛けて来たら、時間をおかず、すぐ倍返しで殴る・蹴る、という行動に出ないと、彼らには分からないのです。
今回のWTOの件にしても、日本政府は初手から敵対的態度むき出しで韓国候補を叩き潰しておくべきでした。日本人的感覚では取りにくい行動ですが、そういう奥ゆかしいところは、韓国には全然理解できませんし、たぶん理解してくれる国の方が国際的に少ないでしょう。
犬をキチンと躾けるには、即時の信賞必罰が肝要だと聞きます。日本はそれを怠ってきました。結果として、韓国は野犬化し、このままいけば保健所へ送られる(禁治産者化する)ことになります。日本が「いいひと」であることを選んだために、関係国が皆不幸になっているのです。(韓国はどういう位置にいたところで常に不満で不幸でしょうから、それはどうでもいいのですが)
日本には「嫌われる勇気」が必要です。
自転車の修理ばかりしている様
明治フルーツのお話、楽しく読ませていただきました。
峠道を往復してまで明治フルーツを追い求める姿に男子やなぁ…と共感してした次第です。
さて、犬の躾の件ですが、飼い犬であったとしても宗主国のように棒で叩いて躾るのは動物虐待だと西側諸国から吊し上げを喰らう為日本はできなかったし、これからもできないのだと思います。甚だ遺憾ではあります。
そこで提案ですが、野犬化しているのなら日本が保健所になればよいと思うのですよ!薄汚くよく吠え見境なく噛みつく成犬ですので里親もみつからないでしょうから行く末は言わずもがな。本庁の手を煩わさずとも殺処分は日本でも出来ます!
すみません訂正です。
共感してした次第→共感した次第
この記事のコメントは、雑談部屋に書きました。
韓国人が取材して記事を書くという話は、聞いた事が有りません。
と思っていましたら、中央日報から
韓国の国際通商専門家「WTO事務局長選、米大統領選が変数…日本の影響力はわずか」
https://news.yahoo.co.jp/articles/09ed39e395cb3fc6b8b9be18779f19291c3f3132
韓国の国際通商専門家って何だ?とは思います。
以下最後だけ引用します。
「日本の妨害作戦、ロビー作戦があるにはあるが大きな影響を与えるほどではないということか」という質問に、「そうだ。どんな結果が出てもそれが日本のせいでなった、ならなかった、このように見ることではないと考える」
引用ここまで。
どんな結果が出ても、日本のせいでは無いそうですので、覚えておきます。
だんな様
錦の御旗を出してくれるはずのWTOが
日本の影響下にあることが分かって
ウワァ~~~~
なんて悪夢は見とうない、見とうない、見とうない・・・・
が募って、こんな記事を書くハメに(笑)
ちょっと遅めの昼御飯。
中国の影響力からの独立性に疑問がある候補と中国の属国の候補。属国はエラべないでしょう。
韓国の婿になったりすると後々面倒とわかってきたので、売春婦をあてがおうとしても見向きもされなくなったかな ?
どっちの候補が当選しても、WTOは解体の運命に
あるような気がします。
ホント、韓国は○○が小さいとしか。
9cmとかこのサイトの品格を落とすコメントは控えるニダ!!!
やめなさいってば、気になって仕事が手につかないじゃないですか。
せめてその倍とか、思ってしまいますので・・。
落選運動ってのは彼ら的表現を借りれば「矮小化」だなぁと。
全会一致を基本とするWTOで、一国の意思は普通の選挙の一票とは比べ物にならない力があります。
例えば全会一致の候補が出せなかったら投票になるそうですが、その投票を行うことに反対する国が出てきたらどうでしょう。全会一致の原則から投票を行うことは出来なくなります。もし、どちらの勢力も折れなければ事務総長は決まらないということになります。
多分WTOがパネル上級委員を任命できないというのは、アメリカが全会一致の原則を使って阻止しているからと思われます。別にWTOに対してアメリカは特別な権利を持っているということは無いはずですし。
a・日本が兪明希を拒否→兪明希落選→韓国は日本を恨む
b・日本が兪明希を一転支持→それでも兪明希落選→韓国は日本の支持表明が遅いせいだと日本を恨む
c・日本が兪明希を一転支持→兪明希当選→韓国は日本に恩を仇で返す
この場合、日本の態度は結果に変数として関与しません。期待値を計算するまでもなく、韓国人が国際機関のトップとして適格か否かを考えれば、a一択であることは明白です。兪明希を露骨に否定して、日本が何を失うというのですか?韓国の対日感情?連中は反日を勝手にたぎらせればよいのです。それが彼ら自身を衰退に導きます。
火病を抱えて焼死しろ。
WTO次期事務局長選挙で、韓国候補が負けそうなので、韓国が負けた時のために
口実を準備しているのでは?
①本来、世界から絶大に信頼されている韓国の候補者が負けるわけないのに
負けたのは、日本が妨害したからニダ!!
→ 韓国民の「反日」国民感情を掻き立てる
②韓国国民は、日本の妨害により韓国民の自尊心が傷ついたニダ!!
→ よって、日本に謝罪と賠償を求めるニダ!(いつもの被害者ビジネス)
③韓国のWTO提訴に負けそうだから、日本は事務局長選挙を妨害してきた。
→ 日本は、潔く、負けを認め「輸出管理」を撤回するニダ!
匿名希望の平民 さま
良い出来だと思います。
座布団2枚で。
だんな様
コメントありがとうございます。
韓国が旗色悪くなったら日本のせいと言い出すだろうというのは想定内ですね。
彼女(ユ・ミョンフイ)が当選でもしようものなら、WTOの恣意的運営や
国際機関の私的利用や
反日プロパガンダに利用するなど目に見えています。
現在、韓国候補支持を公にした国は、まだ無いのに対して、
ナイジェリア候補に対しては、アフリカ諸国とEUと日本が支持を
表明しました。
(米国は公に表明していないのに、韓国を支持したニダという
一部怪しいメディアはありますけど)
この事から、既に韓国は落選を織り込んだ状況に有ると認識している
のだと思います。
もし、韓国候補が落選したら、「日本が妨害したから落選したニダ!」
と言えばよいわけで、韓国にとって日本は本当に便利な存在なのですね。
匿名希望の平民さま
日本政府は、支持を明確にしていません。
加藤官房長官の話が全てです。
だんな様
日本は、まだ、どの候補を支持するか表明していないのですね。
失礼しました。
WTOを巡る「日本対韓国の対立」の陰に隠れていて、日本では殆ど報道されていない「米国対EUの対立」と言う視点から見ると一層興味深いです。
EUは米国政府の航空機メーカーのボーイング社に対する米国内での優遇措置を巡る論争においてWTOから米国からの輸入に対しての関税制裁の許可を受けました。このWTOの判断によりEUは米国からの輸入に合法的に数千億円規模の関税をかける事が出来ようになりました。
この経緯を鑑みると、WTOの事務局長の人選でEUと米国が同意する可能性は低いのではないかと私は見ています。